「反応時間」の版間の差分

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===神経伝達速度の測定===
===神経伝達速度の測定===


反応時間測定は19世紀末の実験心理学成立当初から行われている。現在では反応時間は研究の手段として用いられることが多いが、当時は反応時間自体が研究対象だった。生理学者や心理学者が、心的処理の速さはどれくらいかを測ろうとしたのである。19世紀末は心的時間測定(mental chronometry)の時代であった
反応時間測定は19世紀末の実験心理学成立当初から行われている。
<ref>'''Boring E G'''<br>A history of experimental psychology (2nd ed.)<br>''New York: Appleton-Century-Crofts'': 1950</ref>
現在では反応時間は研究の手段として用いられることが多いが、当時は反応時間自体が研究対象だった。
生理学者や心理学者が、心的処理の速さはどれくらいかを測ろうとしたのである。
19世紀末は心的時間測定(mental chronometry)の時代であった
<ref>
'''Boring E G'''<br>
A history of experimental psychology (2nd ed.)<br>
''New York: Appleton-Century-Crofts'': 1950, p. 147
</ref>


直接の契機は、1849~1850年にヘルムホルツがカエル運動神経伝達速度のを毎秒24.6~35.4mと測定したことだった
<ref>
'''Olesko K M, Holmes F L'''<br>
Experiment, quantification, and discovery: Helmholtz's early physiological researches, 1843-50.<br>
In Cahan D (ed), Herman von Helmholtz and the foundations of nineteenth-century science.<br>
''Berkeley: University of California Press'': 1993, pp. 50-108.
</ref>
<ref>
実際には、活動電位の伝達速度は髄鞘の有無や神経線維の太さによって大きく異なる。
ヒトの場合、遅いものでは毎秒0.5~2m、速いものでは最大毎秒75mに達する。
</ref>
。これは1mの伝達に約33msを要するという、意外に遅いものだった。
私たちは日常的には、自分が意図した瞬間に体が動き、心的処理は「瞬時に」完了すると思っている。
しかし、神経の働きは十分測定可能な程度の速さでしかなかったのである。
===ドンデルスの減算法===
では、知覚や判断はどれくらいの速さなのだろうか。
ヒトでの心理学的RT研究の嚆矢はオランダのドンデルスらによる実験(de Jaager, 1865/1970; Donders, 1868/1969)とされる。
彼らは、RTのうち本当に心的処理(mental process)に要した時間を測ろうとした。
例えば、赤光が現れたら右、緑光が現れたら左のボタンを押す課題で、反応時間が仮に300msだとしても、色弁別の心的処理に300msかかるとは言えない。
神経伝達に一定の時間がかかるなら、反応時間のうち相応の部分は、網膜から脳への伝達時間や脳から手の筋肉への伝達時間のはずだからである。
ドンデルスらは、減算法(subtraction method)と呼ばれる方法でこの問題に取り組んだ。
音声を聞いたらできるだけ速く発声して反応するという課題を使い、以下の反応時間を測定した。
*単純反応時間。音声刺激''ki''に対して、できるだけ速く''ki''と発声して反応する。
*選択反応時間。''ka, ke, ki, ko, ke''のいずれかが提示され、できるだけ速く刺激と同じ音声を発して反応する。
*弁別反応時間。''ka, ke, ki, ko, ke''のいずれかが提示され、''ki''の場合のみ''ki''と発声して反応する。
それぞれ順に平均201ms、284ms、237msだった(Donders, 1868/1969)。
選択反応時間から単純反応時間を引いた差83msは、刺激の弁別と反応の選択の心的処理に要した時間と考えられる。
選択反応時間から弁別反応時間を引いた差36msは、反応の選択の心的処理に要した時間と考えられる
(弁別課題では反応の選択は必要ないが、刺激の弁別は必要である)。
このように条件間の減算で心的処理に要する時間を推定するのが減算法である。
しかし、この試みはうまくいかなかった。
反応時間に影響を与える要因が多すぎるのである。個人差も大きい。
何より、知覚や認知といった心的処理を構成要素の単純な加算で考えることに限界があった。
今日よく知られているように神経系の情報処理は高度に並列的である。
また、用いた課題がどんな心的処理を含むのかについては解釈に幅がある。
例えば弁別反応時間には、刺激の弁別だけでなく、反応するかしないか(Go/No-Go)という反応選択処理が含まれているとも考えられる。
このため、反応時間の差の絶対的な値に意味を見出すのは難しい。
とは言え、反応図鑑を心的処理の組合せで説明しようという試みは続いている。[註]
減算法のアイデアの拡張・修正も提案されてきた
<ref>
'''Sternberg S'''<br>
The discovery of processing stages: Extentions of Donders' method.<br>
In Koster W G (ed), Attention and Perfprmance II.<br>
''Amsterdam: North-Holland'': 1969, pp. 276-315.
</ref>
<ref name=TeichnerKrebs1974><pubmed>4812881</pubmed></ref>
現在では、反応時間のモデルは多くの変数を考慮に入れた複雑なものとなっている(e.g., Miller & Ulrich, 2003; Ratcliff & Smith,
<ref name=MillerUlrich2003><pubmed>12643892</pubmed></ref>
<ref name=RatcliffSmith2004><pubmed>15065913</pubmed></ref>
==反応時間の性質==
===分布の非対称性===
===速さと正確さのトレード・オフ===
===Hick-Hymanの法則===
===先行期間(foreperiod, FP)===
===反応時間と神経活動===




<references/>
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