「コネクトーム」の版間の差分

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歴史的には、簡素な解剖用具などを用いて神経線維を観察することから、目と脳など神経組織同士を接続している構造が存在することは想像されていた。19世紀末になると、[[Santiago Rámon y Cajal]]が、個々の神経細胞の形態を明確に染め出すことを可能にしたGolgi染色を用いることで、光学顕微鏡を利用して、脳が多数の神経細胞とそれらの結合によって成り立っていることを提唱した。以後、神経細胞の間の結合を記述する研究は盛んに行われてきた。Golgi染色やNissl染色などを施した連続切片を観察する時代を経て、20世紀中頃になると脳損傷後の変性神経線維をNauta法などで染色することで、神経回路を理解する時代になった。1970年ごろになると、放射性アミノ酸や、酵素(HRP)などの軸索輸送を利用することで、神経回路の観察が簡便に行われるようになった。1980年代になると、脂溶性carbocyanine蛍光色素などの生体結合特性を持った蛍光色素(DiIなど)、植物レクチン(WGA、PHA-Lなど)、ビオチン誘導体(Biocytinなど)、コレラ毒素等の高感度トレーサーが開発され、多くの研究者により利用されるようになった。そして、1990年代になると、蛍光顕微鏡に加えて、共焦点レーザー顕微鏡が普及し始め、デジタル画像として大規模なデータの保存と解析が扱えるようになってきた。コネクトーム研究の観点から、このような組織学的解剖と染色によって得られた知見をまとめた重要な研究が、1991年、FellemanとDavid van Essenらによるマカクサルの視覚系の結合性マッピングの概念の提出であった[5]。
歴史的には、簡素な解剖用具などを用いて神経線維を観察することから、目と脳など神経組織同士を接続している構造が存在することは想像されていた。19世紀末になると、[[Santiago Rámon y Cajal]]が、個々の神経細胞の形態を明確に染め出すことを可能にしたGolgi染色を用いることで、光学顕微鏡を利用して、脳が多数の神経細胞とそれらの結合によって成り立っていることを提唱した。以後、神経細胞の間の結合を記述する研究は盛んに行われてきた。Golgi染色やNissl染色などを施した連続切片を観察する時代を経て、20世紀中頃になると脳損傷後の変性神経線維をNauta法などで染色することで、神経回路を理解する時代になった。1970年ごろになると、放射性アミノ酸や、酵素(HRP)などの軸索輸送を利用することで、神経回路の観察が簡便に行われるようになった。1980年代になると、脂溶性carbocyanine蛍光色素などの生体結合特性を持った蛍光色素(DiIなど)、植物レクチン(WGA、PHA-Lなど)、ビオチン誘導体(Biocytinなど)、コレラ毒素等の高感度トレーサーが開発され、多くの研究者により利用されるようになった。そして、1990年代になると、蛍光顕微鏡に加えて、共焦点レーザー顕微鏡が普及し始め、デジタル画像として大規模なデータの保存と解析が扱えるようになってきた。コネクトーム研究の観点から、このような組織学的解剖と染色によって得られた知見をまとめた重要な研究が、1991年、FellemanとDavid van Essenらによるマカクサルの視覚系の結合性マッピングの概念の提出であった[5]。
[[ファイル:Descartes3.jpg ‎|サムネイル|右|Descartes: "Vision and the Mechanism for Response to External Stimuli"]]


このような研究手法は、Allen Brain InstituteのAllen Mouse Brain Connectivity Atlas(http://connectivity.brain-map.org/)[6]、Mouse Connectome Project (南カリフォルニア大学、http://www.mouseconnectome.org/)[7]、マカクサルのCoCoMac(ドイツ、http://cocomac.g-node.org/)[8]などで、まとめられているようなコネクトーム収集プロジェクトにつながっている。これらは、神経系の解剖学的知見と組織学的研究を組み合わせたものであり、解像度的にはマイクロメーター からサブマイクロメーターレベルの「メソスケール Mesoscale」のコネクトームの情報となっている。また、コネクトーム構築のもう一つのアプローチとしては、このような形態学的なアプローチとともに、電気生理学的アプローチ、更に[[光遺伝学]]、神経活動を間接的あるいは直接的に観察する細胞、組織レベルのアプローチ([[カルシウム]]、活動電位、血流変化など)もある。しかし、現時点では、これらの方法論の多くは、大規模アプローチとしては適さず、局所的な回路に焦点を当てているか、あくまで予備的な解釈に用いられているのが現状である。
このような研究手法は、Allen Brain InstituteのAllen Mouse Brain Connectivity Atlas(http://connectivity.brain-map.org/)[6]、Mouse Connectome Project (南カリフォルニア大学、http://www.mouseconnectome.org/)[7]、マカクサルのCoCoMac(ドイツ、http://cocomac.g-node.org/)[8]などで、まとめられているようなコネクトーム収集プロジェクトにつながっている。これらは、神経系の解剖学的知見と組織学的研究を組み合わせたものであり、解像度的にはマイクロメーター からサブマイクロメーターレベルの「メソスケール Mesoscale」のコネクトームの情報となっている。また、コネクトーム構築のもう一つのアプローチとしては、このような形態学的なアプローチとともに、電気生理学的アプローチ、更に[[光遺伝学]]、神経活動を間接的あるいは直接的に観察する細胞、組織レベルのアプローチ([[カルシウム]]、活動電位、血流変化など)もある。しかし、現時点では、これらの方法論の多くは、大規模アプローチとしては適さず、局所的な回路に焦点を当てているか、あくまで予備的な解釈に用いられているのが現状である。
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'''3)遺伝学的標識法'''
'''3)遺伝学的標識法'''
神経細胞を遺伝学的なレポーター(例、蛍光タンパク質)で標識し、神経細胞の形態と結合性を理解する方法論である。この方法論の特徴は、光学顕微鏡レベルでの観察が可能であるので、長い神経線維でつながった細胞同士のコネクトームの構築にも利用できることである。また、遺伝学的に標識できるため様々な神経細胞で特異的に発現するような遺伝子をドライバー(例、Cre、GAL4システム)を利用して、特定の神経回路のコネクトームについての知見を深めることができる。当初は、個々の神経細胞を蛍光タンパク質などで標識する方法が用いられていたが、コネクトーム構築には、多数の神経細胞を同時に観察する必要がある。そのために開発された方法論の1つが、Brainbowと呼ばれる技術である。この技術は、確率論的、いくつかの蛍光団(XFPを)の組み合わせの発現に 依存しています。 各ニューロンは、100以上の異なる色の理論上のパレットを実現するために、異なる比率で最大4つの異なる各XFPのランダムなコレク ションを表現しています。 ランダム化は、タンパク質[[Creリコンビナーゼ]]は、lox部位と呼ばれる短い(34ヌクレオチド)配列の対の間の反転または [[DNA]]の切除を触媒するのCre-lox組換えの巧妙なアプリケーション、によって達成されます。
神経細胞を遺伝学的なレポーター(例、蛍光タンパク質)で標識し、神経細胞の形態と結合性を理解する方法論である。この方法論の特徴は、光学顕微鏡レベルでの観察が可能であるので、長い神経線維でつながった細胞同士のコネクトームの構築にも利用できることである。また、遺伝学的に標識できるため様々な神経細胞で特異的に発現するような遺伝子をドライバー(例、Cre、GAL4システム)を利用して、特定の神経回路のコネクトームについての知見を深めることができる。当初は、個々の神経細胞を蛍光タンパク質などで標識する方法が用いられていたが、コネクトーム構築には、多数の神経細胞を同時に観察する必要がある。そのために開発された方法論の1つが、Brainbowと呼ばれる技術である。この技術は、確率論的、いくつかの蛍光団(XFPを)の組み合わせの発現に 依存しています。 各ニューロンは、100以上の異なる色の理論上のパレットを実現するために、異なる比率で最大4つの異なる各XFPのランダムなコレク ションを表現しています。 ランダム化は、タンパク質[[Creリコンビナーゼ]]は、lox部位と呼ばれる短い(34ヌクレオチド)配列の対の間の反転または [[DNA]]の切除を触媒するのCre-lox組換えの巧妙なアプリケーション、によって達成されます。
[[ファイル:Brainbow.jpg|サムネイル|右|Brainbow]]


これらの遺伝学的なツールの利用には、[[トランスジェニック動物]]、ノックイン動物、そして各種ウイルスベクターを用いることができる。中でも、神経細胞に効率的に遺伝子導入が可能であるアデノ随伴ウイルス(AAV)は、広く用いられている。一方、CRISPR・CAS9によるゲノム編集技術の発達とともに、このような遺伝学的ツールは広汎に用いられるようになると予想される。
これらの遺伝学的なツールの利用には、[[トランスジェニック動物]]、ノックイン動物、そして各種ウイルスベクターを用いることができる。中でも、神経細胞に効率的に遺伝子導入が可能であるアデノ随伴ウイルス(AAV)は、広く用いられている。一方、CRISPR・CAS9によるゲノム編集技術の発達とともに、このような遺伝学的ツールは広汎に用いられるようになると予想される。

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