「コネクトーム」の版間の差分

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==巨視的なコネクトーム==
==巨視的なコネクトーム==
特にこのプロジェクトで最もよく利⽤されているのが、⾮侵襲脳計測法として、現在、ヒトの脳活動解析の主役となっている「fMRI」(functional MRI)だ。これは、1992年、Bell研究所にいた物理学者である⼩川誠⼆博⼠が磁気共鳴画像法(MRI)を応⽤して開発したものである。ニューロンが活動するとき、その近辺の⽑細⾎管を流れる⾚⾎球のヘモグロビンが運搬している酸素が消費され、脱酸素化ヘモグロビンが⽣じる。fMRIでは、MRIにより、⾎流の流れと、脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化をみている(BOLD効果: Blood Oxygenation Level Dependent)。つまり、ニューロンの活動を直接観察しているわけではないので、実際のニューロンの活動とは、秒単位の時間的なズレがある。fMRIができるのはリアルタイムより少し遅れた時点での活動場所を推定するということである。 ⼀⽅、休⽌状態の⼤脳のある領域と別の領域が同調して⾃発的に変動するということが、結合状態にあるということを意味していると仮定すれば、fMRIを使って、領域間のつながりも推定することもできる(休⽌状態fMRI、図3)。この⽅法は、領域間の結合関係、つまりコネクトーム推定の有⼒な⼿段になっている。MRIは、⼀般に、⾼磁場を⽤いる装置ほど、⾼い空間分解能を持っているとされる。磁場は、テスラ(Tesla)という単位(1テスラは1万ガウスで,地球の磁場が約0.5ガウス)で表わされる。研究機関では、より⾼解像度を得るために、より⾼磁場のMRI装置を導⼊しようという努⼒している。 以下に紹介するような脳科学の先端研究では、現在は⼀般に3テスラから7テスラのものが使われており、1mm程度の空間的解像度があると⾔われている。しかし、原理的には、ニューロンの活動を観察しているわけではないので、解像度が上がっても、ある同じ領域でのシグナルが、全く同じニューロンの活動であるのか、というのは不明である。これは、脳研究や臨床診断でよく使われる脳電計(EEG)や脳磁計(MEG)についても当てはまる。EEGとMEGは、原理的には、ニューロンの神経活動の結果として⽣じる脳での電流や、その電流が⾮常に弱い磁場を引き起こすことを利⽤しているので、この場合は神経活動を直接計測している。しかし、多数のニューロンから⽣じる極めて弱い電流や磁気を検出するものなので、空間的解像度が低く、現状では脳マップやコネクトームを解析するというような⽬的には適さない。 実際に⼤規模なデータを集めてきているのは、世界で初めてサル脳の神経回路をコネクトーム様に描き出したDavid Van Essen博⼠(コネクトームへの挑戦(2)参照)をリーダーとする⽶Washington University(ミズーリ州セントルイス)と⽶University ofMinnesota、そして英Oxford Universityを中⼼とするコンソーシアムである。このプロジェクトでは、双⽣児ペアと300家族の家系を含む1200⼈の健康な成⼈を⽬標に、さまざまな⼿法のMRI、EEG、MEGを使うことで、それぞれの脳についてのデータ収集を続けている。また、同時にさまざまな⾏動関係のテストを実施している。被験者は、ボランティアで400ドルの⾦銭が⽀払われて、1⼈あたり2⽇間以上にわたるデータ取得が⾏われ、遺伝⼦検査のために⾎液も採集された。これは、遺伝⼦データと得られたコネクトーム情報を⽐較することで、脳回路形成に関わる遺伝⼦と環境の寄与を解明し、さらには、関連した遺伝⼦を特定するためという。 ⼀⽅、Harvard Universityの関連病院であるMassachusetts General HospitalのMartinos Centerと⽶University of California, Los Angels(現在はUniversity ofSouthern California)では、MRIの新しい⼿法、特に拡散MRIを⽤いたヒトコネクトームの解析に有⽤な⼿法を開発している。拡散MRIは、脳内にある軸索の束となった⻑距離の接続の様⼦をマッピングするものだ。⽔分⼦は脳の⼤部分ではランダムに運動している。ところが、軸索の束となった神経線維の中では、その線維の形に沿って⽔分⼦が流れるように動いている。拡散MRIでは、神経線維上で⽔分⼦が⽅向性を持って動いている部域とランダムに動いている部域の違いを⾒ることでシグナルを得ることになる。この⽅法を使うと、⽣きた脳の中で、そのまま神経の⾛⾏を観察することができるので、極めて便利である。もちろん、神経線維の⾛⾏をみているだけで、実際の結合性を⾒ているものではない。 このプロジェクトは、分解能、質、スピードを向上させることを⽬的とした技術開発である。 特に、Martinos CenterのVan Wedeen医師のグループは、拡散スペクトラムイメージング(diffusion spectrum imaging ;DSI)という⼿法を開発し、2012年のScience誌に掲載された美しい画像は、ヒトコネクトームプロジェクトの代表的成果として、先端脳科学の現状に関する紹介記事で頻繁に⾒かけるものになっている。
Olaf Spornsによるヒト・コネクトームの提唱以来、脳の機能と病態を理解するためにヒトの脳で研究されているのは、メソレベルのコネクトームより更に大きく、脳全体を視野にいれた「マクロスケール Macroscale」の巨視的なコネクトームである。これは、しばしば、様々なタスクに伴う脳の活動領域を観察する[[脳マッピング]]と同等のものとみなされる。米国の脳科学プロジェクトであるBRAINイニシアティブの一部として実施されている国際プロジェクトであるHuman Connectome Projectでは、fMRIによる活動領域の検出など機能的な側面に重点を置く国際プロジェクトThe WU-Minn Projectと、非侵襲なテンソルMRIなどを中心に用い神経線維の走行を重視するThe Harvard/MGH-UCLA Projectが実施されてきた。いずれも、解像度が上がれば、メソスケールのコネクトームにも近づくが、非侵襲で得られる解像度は、最大でもミリメートル程度であり、侵襲的な方法で得られる解像度とは違いがある。
 
⾮侵襲脳計測法として、現在、ヒトの脳活動解析技術の主役となっているのは、fMRI(functional MRI)である。fMRIでは、MRIにより、⾎流の流れと、脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化をみている(BOLD効果)。つまり、ニューロンの活動を直接観察しているわけではないので、実際のニューロンの活動とは、秒単位の時間的なズレがある。そして、休⽌状態の⼤脳のある領域と別の領域が同調して⾃発的に変動するということが、結合状態にあるということを意味していると仮定すれば、fMRIを使って、領域間のつながりも推定することもできる(休⽌状態fMRI)。この⽅法は、領域間の結合関係、つまりコネクトーム推定の有⼒な⼿段になっている。実際に⼤規模なデータを集めてきているのは、⽶Washington University(ミズーリ州セントルイス)と⽶University ofMinnesota、そして英Oxford Universityを中⼼とするコンソーシアムである。このプロジェクトでは、健常な成⼈を⽬標に、fMRI、PET、EEG、MEGを使うことで、それぞれの脳や⾏動関係の情報を収集してきている。また、同様な方法論は、脳機能の理解に利用されている。例えば、2016年、California大学Berkeley校のグループは、自然言語のそれぞれの単語と大脳皮質活動領域を関連づけるマップを作製した<ref><pubmed>27121839</pubmed></ref>。
 
⼀⽅、拡散MRI、テンソルMRI、そしてより新しい方法であるDSI(拡散スペクトラムイメージング, diffusion spectrum imaging, DSI)とHARDI (拡散強調イメージング、High angular resolution diffusion imaging)は、脳内にある軸索の束となった⻑距離の接続の様⼦をマッピングする。この⽅法を使うと、⽣きた脳の中で、そのまま神経の⾛⾏を観察することができる。しかし、神経線維の⾛⾏をみているだけで、実際の結合性を⾒ているものではないが、今後のコネクトーム理解の方法論として期待ができる<ref>http://www.the-scientist.com/?articles.view/articleNo/41266/title/White-s-the-Matter/</ref>。


==機能的コネクトーム==
==機能的コネクトーム==

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