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パーソナリティ障害

2,991 バイト追加, 2016年8月3日 (水) 08:46
編集の要約なし
<font size="+1">[http://researchmap.jp/N-Hayashi55 林 直樹]</font><br>
''帝京大学医学部精神神経科学教室''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年6月20日 原稿完成日:2016年月日 原稿受付日:2016年6月20日 原稿完成日:2016年8月3日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
</div>
英語名:personality disorder 独:Persönlichkeitsstörung 仏:trouble de la personnalité
{{box|text= パーソナリティ障害は、一過性の疾患とは異なって長期的に持続し、特定の要素的精神機能に限られず広い範囲の行動特性に及ぶ、社会適応に困難を来すような認知・行動パターンを示す精神障害である。一般人口との間に連続性があり、他の精神障害との診断合併が多く、比較的持続的ではあるが改善可能性は十分あることなどが特徴である。遺伝研究、脳画像研究などによりその生物学的基盤が明らかにされつつある。また、治療でも認知行動療法を中心として多くの治療法が開発されている。今後、パーソナリティ障害についての研究や治療の活動をわが国で定着させる努力が必要である。 パーソナリティ障害は、広い範囲の(特定の要素に限定されない)精神機能の障害であり、社会適応の困難や主観的苦痛を伴う認知・行動のパターンを示す精神障害である。基本特性としては、その認知・行動の特徴に一般人口との間に連続性があること、他の精神障害との診断合併が多いこと、比較的持続的であるけれども、変化(改善)可能性が十分あることなどが挙げられる。この精神障害については近年、生物学的研究が広い範囲で行われており、多くの新しい知見がもたらされている。また、治療でも認知行動療法を中心として多くの治療法が開発されている。今後、パーソナリティ障害についての研究や治療の活動をわが国で定着させる努力が必要である。}}
==はじめに==
 パーソナリティ障害概念の起源は、19世紀初頭から提唱されてきた、明らかな[[幻覚]][[妄想]]や[[気分障害]]の症状がないにもかかわらず、顕著な[[認知]]・[[行動障害|行動]]の障害を示す一群の人々を捉える[[精神医学]]的概念に求めることができる。
(<u>編集部コメント:イントロは、初学者がパーソナリティ障害が何か容易に理解できる解説から開始してください。</u>) 現在でも、それは、[[非行]]や[[自傷行為]]・[[自殺未遂]]などの問題行動やひきこもりを理解する上で欠かすことができない概念であり、さらに[[物質使用障害|物質関連障害]]や気分障害などの他の精神障害の成因・病態や治療を考える際にも考慮に加えられるべきものである。
 パーソナリティ障害の概念は、時代と共に大きく変化しており、現在も変化の途上であるため、現在の概念を、歴史の中に位置づけて理解する必要がある。 しかし他の主要な[[精神障害]]に比較すると、特異的な症状に乏しく、治療反応性が高くないと考えられていたために、急ピッチで病態論や治療法の研究が進められるようになったのは、ようやく近年になってからであった。最近では、診断、病態についての新知見が続々と明らかにされており、その概念を巡る議論も活発になっている。この流れの中でパーソナリティ障害の概念は、ここ数年で、大きく変化してきており、今後も変貌することが見込まれている。  それゆえ、本項目では、まず、その概念の歴史を概説した後に、その概念の現状を示し、次いでパーソナリティ障害の定義や診断、基本的特徴、病因論や病態論、治療の現状について記すこととする。
==概念についての歴史的概観==
===DSM-III以前===
 Millon, T.<ref name=ref02>M'''林 直樹illon T.'''<br>パーソナリティ障害概念の歴史 Disorders of Personality: Introducing a DSM-III以前/ICD Spectrum from Normal to Abnormal. 3rd ed. <br>InNew York: 神庭重信、池田学、ed. DSM-5を読み解く<br>''東京: 中山書店Wiley & Sons''; 2014:138-1502011.</ref>の著作によると、現代的なパーソナリティ障害に該当すると考えられる精神医学的概念が提唱されるようになったのは19世紀初頭であった。もっとも初期のものの代表は、Pinel、 P.による激しい怒りの発作などの病的行動の背後に幻覚・妄想や気分症状がないことを特徴とする症例の記述であった。その後も、伝統的な精神障害が背景にないにもかかわらず、顕著な認知・行動の異常を示すさまざまなタイプの症例の記述が蓄積されていった。
 現代に通じるパーソナリティ障害概念を最初に規定したのはSchneider パーソナリティ障害の病態を初めて独自の精神病理として積極的に(~ではないという否定文によってでなく)定義したのは[[wj:クルト・シュナイダー|Schneider, K.であった]]<ref name=ref2>'''Schneider K.'''<br>Die Psychopathischen Persönlichkeiten.<br>''Wien: Franz Deuticke''; 1923<br>'''懸田克躬他訳'''<br>精神病質人格<br>''みすず書房''、 東京、 1954</ref>。Schneider, K.は、異常パーソナリティであった。彼はまず、その上位概念となる異常パーソナリティ(abnorme Persönlichkeit)を平均的なパーソナリティからの偏位として規定し、さらにその一部として、「そのパーソナリティの異常さのゆえに自らが悩むを平均的なパーソナリティからの変異として規定し、さらに精神病質パーソナリティを異常パーソナリティの一部として「そのパーソナリティの異常さのゆえに自らが悩む(leiden)か、または、社会が苦しむ(を苦しませる(stören))異常」を精神病質パーソナリティと定義した。異常」であると定義した。
 パーソナリティ障害はその後、[[wj:世界保健機構|世界保健機構]](World Health Organization (WHO))の国際疾病分類第6版(The international classification of diseases, 6th revision (ICD-6))(1948)や、APAのDSM-I (1952)以降、当時広く使われていたパーソナリティ障害のタイプを包括する診断として取り上げられるようになった。
===DSM-IIIの変革とその後===
 パーソナリティ障害の概念や診断の枠組みが現在の形となる重要な契機となったのは、1980年に刊行された米国精神医学会の診断基準、DSM-III(Diagnostic and statistical manual of mental disorders, 3rd edition)<ref name=ref1 />である。そこで行われた改革の中で特に重要なのは、Millonである。そこで行われた改革の中で特に重要なのは、[[wj:セオドア・ミロン|Millon, Tの理論に基づくタイプ分類の採用と、その診断におけるT]]の理論に基づくタイプ分類の採用と、その診断における[[多神論的記述的症候論モデル]](Polythetic descriptive syndromal model)の導入である。
====Millonの理論に基づくタイプ分類====
====ディメンショナルモデルの提唱====
 元々パーソナリティ心理学では、[[因子分析]]などの統計学的方法を使って信頼性の高いパーソナリティ傾向のディメンショナルな評価が確立されていた。他方、パーソナリティ障害の診断では、DSM-IIIの多神論的記述的症候論モデルが導入されても、まだ信頼性が他の精神障害のレベルに達しないなどの問題点が残されていた。それは、当時[[ICD-10]] (1992)<ref name=ref4>'''World Health Organization (WHO)'''<br>The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders. Clinical Descriptions and Diagnostical Guidlines.<br>''Geneva: WHO''; 1992<br>'''融道男、中根允文、小見山実、他''' 監訳 <br>ICD-10 精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン、新訂版<br>''医学書院''、2005</ref>やDSM-III-R (1987)で採用されていたカテゴリカルモデルによる診断が原因だと主張されていた。そこで、[[DSM-IV]]<ref name=ref5>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and statistical manual of mental disorders, Fourth Edition (DSM-IV)<br>''Washington DC: American Psychiatric Association''; 1994<br>'''髙橋三郎、大野裕、染矢俊幸'''監訳<br>DSM-IV精神疾患の診断・統計マニュアル<br>''医学書院、東京''、1996</ref>では、これへの対策として、Widigerら(1996)の見解に基づいて、DSMの新版でのディメンショナルモデルの導入が提唱された。では、これへの対策として、DSMの新版でのディメンショナルモデルの導入が提唱された。
 その後、Costa, P.T. & McCrae, R.R.の主要5因子モデル(Five Factor Model(1990))から発展した5次元モデルや、Trull, から発展した5次元モデル<ref>'''Costa PT、 McCrae RR. '''<br>Personality Disorders and The Five-Factor Model of Personality. <br>''Journal of Personality Disorders'' 1990;4(4):362-371.</ref>や、Trull T.J.ら(2007)による4次元モデルなどの診断モデルの検討が進められた。による4次元モデル<ref><pubmed>17143083</pubmed></ref>などの診断モデルの検討が進められた。
==現在のパーソナリティ障害の概念・定義現在の概念・定義==
===従来の考え方を踏襲する立場===
 DSM-5<ref name=ref07>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and statistical manual of mental disorders, fifth edition, DSM-5. <br>''Washington, DC: American Psychiatric Association''; 2013<br>髙橋三郎 大野裕監訳<br>精神疾患の診断・統計マニュアル DSM-5.<br>''医学書院,東京'',2014</ref>におけるパーソナリティ障害は、「社会的状況に対する個人の柔軟性を欠く広範な反応パターンであり、…個々の文化における平均的な個人の感じ方、考え方、他者との関わり方から、極端に相違し偏っており、… しばしばさまざまな程度の主観的苦痛や社会的機能の障害を伴っている」ものと定義されている。これは、従来のICD-10,DSM-IVの定義を踏襲するものである。さらに、ICD-10 の研究用診断基準(DCR) (1993)や[[DSM-5]]の第二部「診断基準とコード」では、全般的診断基準などとして、パーソナリティ障害の基本的特徴の記述が加えられている。その要点は、
|+表1. DSM-5代替診断基準で規定されているパーソナリティ機能の4領域
|-
|colspan="2" style="text-align:center" |'''パーソナリティ機能の領域'''||style="text-align:center" |'''説明'''
|-
|rowspan="2" |'''自己機能 ''' |'''同一性<br>(Identity)'''
|自己と他者との明瞭な境界をもって唯一の存在としての自己を体験すること;<br>自尊心の安定性と自己評価の正確さ;幅広い感情を体験し制御する能力
|-
|'''自己志向性<br>(Self-direction)'''
|一貫した有意義な短期および人生の目標の追求;建設的で向社会的な行動規範を利用すること;<br>生産的に内省する能力
|-
|rowspan="2" |'''対人関係機能'''|'''共感性<br>(Empathy)'''
|他者の体験と動機の理解と尊重;異なる見方の容認;自分自身の行動が他者に与える影響の理解
|-
|'''親密さ<br>(Intimacy)'''
|他者との関係の深さと持続;親密さに対する欲求および適応力;対人行動に反映される配慮の相互性
|-
|-
|
|style="text-align:center" |'''説明'''||style="text-align:center" |'''特性側面'''
|-
|'''否定的感情 (vs 感情安定)'''
|[[不安]]、[[抑うつ]]、[[罪悪感]]、[[羞恥心]]、[[怒り]]といった否定的感情が広範囲で高度である。さらにそれに基づく自傷行為などの行動や依存などの対人関係が見られる。
|[[不安傾向]]、[[分離不安]]、従順さ、敵意、[[固執]]、[[抑うつ傾向]]、[[猜疑心]]、[[感情不安定]](制限された感情の欠如)
|-
|'''離脱 (vs 外向性)'''
|社会的感情的関わりの忌避。引きこもる、楽しみなどの感情体験を避ける。
|親密さ回避、[[アンヘドニア]]、抑うつ傾向、制限された感情、猜疑心
|-
|'''対立 (vs 協調)'''
|自己イメージが尊大で、自分に特別な取り計らいを求める、他者に嫌悪感・反感を抱く、他者に配慮せず他者を自分のために利用する。
|[[虚偽性]]、[[誇大性]]、[[注意喚起]]、[[冷淡]]、[[敵意]]
|-
|'''[[脱抑制]] (vs 誠実性)'''
|直接的に欲求の充足を求めて、その場の考えや感情、状況からの刺激に反応して衝動的な行動に走る。
|衝動性、[[転導性]]、無謀さ、硬直した完璧主義(の欠如)
|-
|'''精神病性 (vs 明晰性)'''
|文化にそぐわない奇妙な、普通でない行動や認知を示す。
|奇妙さ、認知と知覚の統制障害
 DSM-5第3部の代替診断基準でも、パーソナリティ障害タイプごとに設定された診断基準に従って操作的に診断手続きが行われる。次に境界性パーソナリティ障害の例を示す。
 診断の過程は2つの段階から構成されている。まず、パーソナリティ機能(表1参照'''表1'''参照)の2項目以上における中等度またはそれ以上の障害があることが条件になる。次いで、3つの病的パーソナリティ特性(否定的感情、脱抑制、対立 (表2参照'''表2'''参照))に属する7つの特性側面:
#情動不安定(否定的感情の一側面)
#不安傾向(否定的感情の一側面)
#敵意(対立の一側面)
のうち4つ以上があり、そのうちの少なくとも1つは 5、6、7のいずれか5.、6.、7.のいずれか(脱抑制と敵対のどちらか)である必要があるとされる。
 他のタイプの診断でも、この例のようにパーソナリティ機能の評価と病的パーソナリティ特性側面の評価の両方が実施される。
 この代替モデルの全般的診断基準では、従来の診断基準と同様に、その障害が広い機能領域および生活場面に及ぶものであること、長期的に持続するものであることが記述されているが、その記述には新たに「比較的」という形容が加えられている。それは、研究の蓄積によって、その特徴が状況によって、また経過の中で相当に変化することが明らかになってきたからである。ここではまた、タイプの間の診断合併を減らすためにタイプが6種に減じられている。
==パーソナリティ障害のタイプタイプ==
 ここでは、パーソナリティ障害のタイプの特徴について概説する。
 DSM- 5第2部のパーソナリティ障害では、10のタイプが措定されている。それらの特徴を表3に示す。ICD5第2部のパーソナリティ障害では、10のタイプが措定されている。それらの特徴を'''表3'''に示す。ICD-10のパーソナリティ障害タイプは、DSM-5第2部のものとほぼ同じであるが、名称が異なるものはICD-10の名称を括弧に入れて示す。
{|class="wikitable"
|+表3.DSM-5 第2部におけるパーソナリティ障害のタイプ
|-
|style="text-align:center" ||style="text-align:center" |'''類型'''|style="text-align:center" |'''中心的特徴'''|style="text-align:center" |'''臨床特徴'''
|-
| rowspan="3" |A群・奇妙で風変わり'''A群'''・奇妙で風変わり
|[[妄想性パーソナリティ障害]]
|他者への疑念や不信から、危害が加えられることや裏切りを恐れること。
|統合失調症に発展しやすい。
|-
| rowspan="4" |B群・'''B群'''・[[演技的感情的]]で移り気
|境界性パーソナリティ障害
|感情や対人関係の不安定さ、衝動をうまく制御することができないこと。
|女性に多い。
|-
| rowspan="3" |C群・不安で内向的'''C群'''・不安で内向的
|[[依存性パーソナリティ障害]]
|他者への過度の依存。自らの行動や決断に他者の助言や指示を求めること。
|}
 DSM-5第3部の代替診断基準では、表2の5つの病的パーソナリティ特性の強弱によって、特定のパーソナリティ障害タイプが記述されている。それを表4に示す。5第3部の代替診断基準では、'''表2'''の5つの病的パーソナリティ特性の強弱によって、特定のパーソナリティ障害タイプが記述されている。それを'''表4'''に示す。
{|class="wikitable"
|+表4. DSM-5第3部の代替診断モデルの6種のパーソナリティ障害と病的パーソナリティ特性との関連
|-
|'''病的パーソナリティ特性'''|'''反社会性パーソナリティ障害'''|'''回避性パーソナリティ障害'''|'''境界性パーソナリティ障害'''|'''自己愛性パーソナリティ障害'''|'''強迫性パーソナリティ障害'''|'''統合失調型パーソナリティ障害'''
|-
|'''否定的感情'''
|
|style="text-align:center" |高
|
|-
|'''離脱'''
|
|style="text-align:center" |高
|style="text-align:center" |高
|-
|'''対立'''
|style="text-align:center" |高
|
|
|-
|'''脱抑制'''
|style="text-align:center" |高
|
|
|-
|'''精神病性'''
|
|
|}
 この表4に見られるように、例えば、反社会性パーソナリティ障害は対立と脱抑制というように、パーソナリティ障害タイプのそれぞれは、5種の病的パーソナリティ特性の高低によって特徴づけられる。 この'''表4'''に見られるように、例えば、反社会性パーソナリティ障害は対立と脱抑制というように、パーソナリティ障害タイプのそれぞれは、5種の病的パーソナリティ特性の高低によって特徴づけられる。
==疫学==
 パーソナリティ障害は、一般の人々に高い比率で見出される。Coid. J. (2003)の総説によると、構造化面接を用いた研究において一般人口の10の総説<ref><pubmed> 12509301</pubmed></ref>によると、構造化面接を用いた研究において一般人口の10-15%に何らかのパーソナリティ障害が見いだされており、個々のタイプでは、それぞれが一般人口の1-2 %に認められるとされる。プライマリーケアの場や精神科臨床では、有病率が25%程度に上昇する。
 ただし、疫学研究の所見は、研究ごとに大きなばらつきがあることに注意が必要である。その理由の一つは、先に指摘したように、パーソナリティ障害が一般人口との間に連続性があり、比較的の軽症の精神疾患なので、診断域値や評価の変化が大きな有病率の違いを引き起こすことであろう。
==パーソナリティ障害の病態・病因の理解病態・病因の理解==
 パーソナリティ障害の病態・病因については、近年、急速に研究が進められている。それは、遺伝因などの生物学的要因と、生育環境などの社会文化的要因とに分けることができる。
===生物学的要因===
 精神障害の生物学的要因の基底には、遺伝的要因がある。パーソナリティ障害の遺伝的要因は、その特性が同じ家系の人に見出されることが多い、[[一卵性双生児]]で[[二卵性双生児]]よりも一致しやすい、といった臨床遺伝学的研究によって確認されている。Torgersen, S.らの[[双生児研究]](2000)<ref><pubmed> 11086146 </pubmed></ref>では、パーソナリティ障害の遺伝性が0.5~0.6であると算出されている。Silverman, J.M.らの家族研究(1991)<ref><pubmed>1897620 </pubmed></ref>では、境界性パーソナリティ障害の感情不安定と衝動性とに家族集積性のあることが認められている<ref name=ref8><pubmed>18638645</pubmed></ref>。
 神経生理学的研究でもパーソナリティ障害と生物学的特性との間の様々な関連が見いだされている<ref name=ref8 />。例えば、反社会性、境界性パーソナリティ障害では、その衝動性が[[セロトニン]]系の機能低下と関連しているという知見の報告がある。中枢神経系の画像研究でも多くの知見がもたらされている。例えば、境界性パーソナリティ障害では、[[帯状束]]のセロトニン系の反応低下といった[[辺縁系]]と[[前頭葉]]の回路の機能低下の報告が多くなされている。また、虐待を受けてきた境界性パーソナリティ障害患者において[[脳下垂体]]、[[海馬]]が小さいという所見も注目されている。
===生育環境・社会文化的要因===
 パーソナリティ障害の成り立ちにおいては、発達過程や生育環境も重視されなければならない。例えば、境界性、反社会性パーソナリティ障害では、劣悪な養育環境(発達期の虐待、貧困や施設での生育など)が発生要因として関与していると考えられている。1990年代には、境界性パーソナリティ障害の生育史(虐待、親子関係)についての[[後方視的研究]]が行われ、養育環境要因の確認が進められた<ref name=ref10>'''林 直樹Gunderson JG.'''<br>境界性パーソナリティ障害の生活歴・現病歴・家族関係Borderline personality disorder: A clinical guide. <br>''精神科治療学Washington、 D. C.: American Psychiatric Publishing''. 2010;25(11):1459-14632001.<br>黒田章史訳 <br>境界性パーソナリティ障害 クリニカル・ガイド<br>''金剛出版、東京''、2006</ref>。
 パーソナリティ障害は、特に社会文化的要因の影響を受けやすいと考えられている。例えば、境界性パーソナリティ障害の増加は繰り返し指摘されてきたが、その原因は社会文化的な影響によるものと考えられている。
 次に効果が実証されたのは、英国のBateman, A. & Fonagy, P.が開発した[[メンタライゼーション療法]] (Mentalisation-based treatment (MBT))<ref name=ref12>'''Bateman A、 Fonagy P.''' <br>Psychotherapy for borderline personality disorder: Mentalization-based treatment. <br>''New York: Oxford University Press USA''; 2004. <br>狩野力八郎、白波瀬丈一郎訳 <br>メンタライゼーションと境界パーソナリティ障害―MBTが拓く精神分析的精神療法の新たな展開<br>''岩崎学術出版社、東京''、2008</ref>である。その治療の目標は、メンタライゼーション(自分やまわりの人の行動がその考えや気持ちといった心理的過程から起こることを理解する能力)を高めることである。MBTでは、さまざまな対人関係や出来事の体験から自分自身の心理状態を理解し、自分や他者の行動についての学びを深める訓練が行われる。
 その後、2000年代には、Young, J.の[[スキーマ療法]]、Clarkin, J.らの[[転移]]に焦点づけられた精神分析的治療などのプログラムの効果研究が実施され、十分な効果があることが実証されている。これらの治療では、自傷行為や自殺未遂といった境界性パーソナリティ障害の症状を大幅に軽減させることが確認されている。に焦点づけられた精神分析的治療などのプログラムの効果研究が実施され、十分な効果があることが実証されている<ref>'''Paris J.'''<br>Treatment of borderline personality disorder: A guide to evidence-based practice. <br>''New York: The Guilford Press''; 2008. <br>黒田章史訳 <br>境界性パーソナリティ障害の治療-エピデンスに基づく治療方針<br>''金剛出版、東京''、2014</ref>。これらの治療では、自傷行為や自殺未遂といった境界性パーソナリティ障害の症状を大幅に軽減させることが確認されている。
====地域における対応、治療====
 近年、パーソナリティ障害の特徴は、従来考えられていたほど持続的でないことが指摘されている。従来から多くの経過研究が行われていたのは、境界性パーソナリティ障害においてであるが、近年の研究では、相当部分が改善するが、再発も多いという結果になっている。
 Zanarini, M. et al. (2012)<ref><pubmed>22737693</pubmed></ref>は、患者の退院後16年の経過報告(2012)では、2年以上の寛解、回復(全般的機能評価尺度(GAS) > 60となること)をそれぞれ99%、60%が経験するけれども、2年以上の寛解の後に36%が再発する、2年以上の回復の後に44%が回復の状態を失うと報告されている。パーソナリティ障害診断が経過中に変化することは、他のタイプでも報告されている。
 神経症のパーソナリティ障害患者の12年間の変化を調査したSievewright 神経症のパーソナリティ障害患者の12年間の変化を調査したSeivewright, H.らの研究(2002)<ref><pubmed>12103293</pubmed></ref>では、その期間の中で同じタイプにとどまっている率が低いことが報告されている(境界性パーソナリティ障害患者が、それが含まれる演技的・感情的で移り気なB群クラスターにとどまっている率でさえわずか30%であった)。これらの所見は、パーソナリティ障害が経過の中で改善しうる精神障害であることを示唆している。
==おわりに==

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