「眼優位性」の版間の差分

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==背景==
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 2つの眼で捉えた視覚情報は脳において1つの統合された視覚イメージを作る。その仕組みは、古来、多くの科学者、哲学者の興味の対象であった。それぞれの眼球を出た視神経は視交叉で融合し、すぐ再び左右に分離して視索となる。この時、視神経軸索の一部は交叉して対側の脳に向かい、残りは同側に向かう。そして、左右の網膜の、視野上で対応する部分に由来する情報は、脳の同じ部位に収束する。このような部分交叉のアイデアはアイザック・ニュートンが最初に提唱したとされている<ref>'''P J SWEENEY'''<br>Isaac Newton and the optic chiasm.<br>''J. Neurol:'' 1984, 34;309<br></ref>
 2つの眼で捉えた視覚情報は脳において1つの統合された視覚イメージを作る。その仕組みは、古来、多くの科学者、哲学者の興味の対象であった。それぞれの眼球を出た視神経は視交叉で融合し、すぐ再び左右に分離して視索となる。この時、視神経軸索の一部は交叉して対側の脳に向かい、残りは同側に向かう。そして、左右の網膜の、視野上で対応する部分に由来する情報は、脳の同じ部位に収束する。このような部分交叉のアイデアはアイザック・ニュートンが最初に提唱したとされている<ref>'''P J SWEENEY'''<br>Isaac Newton and the optic chiasm.<br>''J. Neurol:'' 1984, 34;309<br></ref>。両眼からの入力が収束することで両眼に反応するニューロンが生まれるが、それは大脳皮質一次視覚野で初めて観察される。個々のニューロンの両眼反応性の程度は一様ではなく、両眼に等しく反応するものから、どちらかの眼にのみ反応するものまで様々であり、その程度を眼優位性と呼ぶ。
 
 両眼からの入力が収束することで両眼に反応するニューロンが生まれるが、それは大脳皮質一次視覚野で初めて観察される。<br>個々のニューロンの両眼反応性の程度は一様ではなく、両眼に等しく反応するものから、どちらかの眼にのみ反応するものまで様々であり、その程度を眼優位性と呼ぶ。


 眼優位性は「利き目」ではない。利き目は物を立体視するときに正面を捕らえる方の目であり、指さし法(両眼開放状態で目標物を指さし、次に片眼で見たときズレがない方が利き目)などで調べることができる。
 眼優位性は「利き目」ではない。利き目は物を立体視するときに正面を捕らえる方の目であり、指さし法(両眼開放状態で目標物を指さし、次に片眼で見たときズレがない方が利き目)などで調べることができる。
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 哺乳類では、網膜によって受容された視覚情報は、視床の外側膝状体(Lateral geniculate nucleus、LGN)を経て大脳皮質一次視覚野(以下,V1)に伝達される。この時、網膜の耳側領域由来の視神経軸索は同側のLGNへ、一方、鼻側網膜由来のものは対側のLGNへ投射するため、一側のLGNには対側視野の情報が両方の眼から伝達される。両眼からの入力はLGN内の別々の層に伝達されるため、LGNのニューロンは左右どちらかの眼に与えた光刺激にのみ反応する。次にLGNのニューロンはV1に軸索を投射するが、大脳皮質の6層構造のうち第Ⅳ層に主に入力する。霊長類ではそれぞれの眼からの入力軸索がⅣ層内で分離しているので(後述「眼優位コラム」参照)、Ⅳ層のニューロンの多くは一方の眼からの情報だけを受け取り、LGNと同じく単眼性の反応を示す。しかしⅣ層から先の情報伝達では両眼の入力が個々のV1ニューロンに収束するため、Ⅱ/Ⅲ層やⅤ、Ⅵ層のニューロンは両眼に反応する<ref><pubmed> 4966457 </pubmed></ref>。ただし左右どちらの眼にどの程度強く反応するかはニューロンによって異なり、両眼に等しく反応するものから、どちらかにだけ反応するものまで存在する。このどちらの眼により強く反応するかという性質を眼優位性と呼び、慣習的に、7段階にグループ分けして表すことが多い(対側の眼にのみ反応するものを1、同側にのみ反応するものを7、両眼に等しく反応するものを4とする)。
 哺乳類では、網膜によって受容された視覚情報は、視床の外側膝状体(Lateral geniculate nucleus、LGN)を経て大脳皮質一次視覚野(以下,V1)に伝達される。この時、網膜の耳側領域由来の視神経軸索は同側のLGNへ、一方、鼻側網膜由来のものは対側のLGNへ投射するため、一側のLGNには対側視野の情報が両方の眼から伝達される。両眼からの入力はLGN内の別々の層に伝達されるため、LGNのニューロンは左右どちらかの眼に与えた光刺激にのみ反応する。次にLGNのニューロンはV1に軸索を投射するが、大脳皮質の6層構造のうち第Ⅳ層に主に入力する。霊長類ではそれぞれの眼からの入力軸索がⅣ層内で分離しているので(後述「眼優位コラム」参照)、Ⅳ層のニューロンの多くは一方の眼からの情報だけを受け取り、LGNと同じく単眼性の反応を示す。しかしⅣ層から先の情報伝達では両眼の入力が個々のV1ニューロンに収束するため、Ⅱ/Ⅲ層やⅤ、Ⅵ層のニューロンは両眼に反応する<ref><pubmed> 4966457 </pubmed></ref>。ただし左右どちらの眼にどの程度強く反応するかはニューロンによって異なり、両眼に等しく反応するものから、どちらかにだけ反応するものまで存在する。このどちらの眼により強く反応するかという性質を眼優位性と呼び、慣習的に、7段階にグループ分けして表すことが多い(対側の眼にのみ反応するものを1、同側にのみ反応するものを7、両眼に等しく反応するものを4とする)。


 他の動物種でも両眼反応性はV1で初めて認められるが、ネコではⅣ層での両眼からの入力の分離が霊長類ほど明確ではなく、この段階で両眼反応性を持つニューロンがかなり見られる<ref><pubmed> 14449617 </pubmed></ref>。げっ歯類では両眼入力の分離は認められず、Ⅳ層の段階でさらに多くの両眼反応ニューロンが見られる。また、ネコや霊長類では眼優位性の分布は両眼について対称に近い。しかしげっ歯類では対側眼に反応するニューロンが多く、眼優位性の分布は対側眼側に大きく偏っている。V1から投射を受ける二次視覚野では、両眼入力の収束はさらに進み、両眼反応を示すニューロンの割合がより多くなる(Bi et al., 2011)。
 他の動物種でも両眼反応性はV1で初めて認められるが、ネコではⅣ層での両眼からの入力の分離が霊長類ほど明確ではなく、この段階で両眼反応性を持つニューロンがかなり見られる<ref><pubmed> 14449617 </pubmed></ref>。げっ歯類では両眼入力の分離は認められず、Ⅳ層の段階でさらに多くの両眼反応ニューロンが見られる。また、ネコや霊長類では眼優位性の分布は両眼について対称に近いのに対して、げっ歯類では対側眼に反応するニューロンが多く、眼優位性の分布は対側眼側に大きく偏っている<ref><pubmed> 1112925 </pubmed></ref> 。V1から投射を受ける二次視覚野では、両眼入力の収束はさらに進み、両眼反応を示すニューロンの割合がより多くなる<ref><pubmed> 21263036 </pubmed></ref>。
 
 視野の同一部位について両眼からの情報が収束することで、両眼視差を利用した奥行き知覚が可能になる。実際、霊長類のV1において、両眼視差に選択的な反応を示すニューロンが報告されている(Poggio et al., 1988)。ただしV1ニューロンは両眼視差を検出するものの、両眼立体視にはさらに高次の視覚野の活動が必要であることもわかっている。このようにV1では両眼入力の統合が行われるが、眼優位性と両眼入力の統合は必ずしも一致するものではない。たとえば単眼反応を示すニューロンにおいて、両眼を同時に刺激した場合には、単眼刺激では反応を示さない眼の影響が観察される例もある(Ohzawa & Freeman, 1986)。これは眼優位性は単眼性を示すが、両眼の入力に相互作用があるということを示している。
 視野の同一部位について両眼からの情報が収束することで、両眼視差を利用した奥行き知覚が可能になる。実際、霊長類のV1において、両眼視差に選択的な反応を示すニューロンが報告されている(Poggio et al., 1988)。ただしV1ニューロンは両眼視差を検出するものの、両眼立体視にはさらに高次の視覚野の活動が必要であることもわかっている。このようにV1では両眼入力の統合が行われるが、眼優位性と両眼入力の統合は必ずしも一致するものではない。たとえば単眼反応を示すニューロンにおいて、両眼を同時に刺激した場合には、単眼刺激では反応を示さない眼の影響が観察される例もある(Ohzawa & Freeman, 1986)。これは眼優位性は単眼性を示すが、両眼の入力に相互作用があるということを示している。


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