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[[Image:Hypothalamus.gif|thumb|right|300px|'''図1.脳内における視床下部の位置(赤)''']] | |||
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== 構造 == | == 構造 == | ||
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[[Image:2視床下部の神経核.jpg|thumb|right|300px|<b>図3.視床下部内の主な神経核</b>]] | [[Image:2視床下部の神経核.jpg|thumb|right|300px|<b>図3.視床下部内の主な神経核</b>]] | ||
視床下部を構成する[[灰白質]]は[[第三脳室]] | 視床下部を構成する[[灰白質]]は[[第三脳室]]と接している視床下部脳室周囲層、その外側の視床下部内側野、最も外側に位置する視床下部外側野の3垂体門脈]]と呼ばれる血管系を介して[[下垂体前葉]]とつながっている。下垂体前葉は[[wikipedia:ja:甲状腺|甲状腺]]、[[wikipedia:ja:副腎皮質|副腎皮質]]、[[wikipedia:ja:性腺|性腺]]といった下位の内分泌腺を刺激するホルモンを分泌する上位の内分泌器官であるが、視床下部で産生される視床下部ホルモンは下垂体門脈を経由してこの下垂体前葉からのホルモン分泌を調節している。下垂体後葉には、視床下部から軸索が投射しており、バソプレシンとオキシトシンを放出している。また、視床下部には[[血液脳関門]]が無い領域が存在し、視床下部に存在する神経細胞が血液、[[脳脊髄液]]に含まれる[[wikipedia:ja:生理活性分子|生理活性分子]]の濃度変化をモニタリングするのに役立っている。以下、視床下部に存在する多くの神経核のうち、主なものを記す。 | ||
=== 弓状核 === | === 弓状核 === | ||
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Arcuate nucleus: ARC | Arcuate nucleus: ARC | ||
ホメオスタシス(生体恒常性)は[[自律神経]]系と[[ホルモン]]系との協調作用によって保たれており、視床下部はこのホルモン系を制御している。視床下部と下垂体をつなげる[[漏斗]]と呼ばれる部位に存在する弓状核(別名を漏斗核)も下垂体前葉を介してホルモン調節を行っている。弓状核は[[下垂体前葉]]からのホルモン分泌を促進させる各種の放出ホルモン([[成長ホルモン放出ホルモン]]、[[甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン]]、[[性腺刺激ホルモン放出ホルモン]]、あるいは、分泌を抑制する各種の放出抑制ホルモン([[成長ホルモン抑制ホルモン]]、[[プロラクチン抑制ホルモン]])を分泌している。 | |||
また、弓状核は摂食行動とも関連が深い。弓状核には[[プロオピオメラノコルチン]](Pro-opiomelanocortin: POMC)を発現している神経(POMC神経)、および[[ | また、弓状核は摂食行動とも関連が深い。弓状核には[[プロオピオメラノコルチン]](Pro-opiomelanocortin: POMC)を発現している神経(POMC神経)、および[[ニューロペプチドY]](Neuropeptide Y: NPY)と[[アグーチ関連ペプチド]](Agouti-related peptide: AgRP)の両方を発現している神経(NPY/AgRP神経)がそれぞれ存在している。POMCから生じるメラノコルチンは食欲抑制ホルモンとして知られ、摂食亢進ホルモンとして知られるNPYやAgRPと互いに拮抗するように摂食行動を調節している。また、[[コカイン・アンフェタミン調節転写産物]](Cocaine and amphetamine related transcript: CART)と呼ばれる摂食抑制ペプチドも、弓状核においてはPOMCと共局在している。NPY/AgRP神経が活性化するとNPYの分泌によって直接的に摂食行動を誘導するだけではなく、[[メラノコルチン受容体]]に対するアンタゴニストであるAgRPの分泌を介して、間接的にも摂食行動を促進する。[[wikipedia:ja:脂肪組織|脂肪組織]]で産出される[[摂食抑制ホルモン]]である[[レプチン]]は、弓状核のPOMCニューロンを活性化することで[[食欲]]の抑制を行い<ref><pubmed> 11373681 </pubmed></ref>、[[wikipedia:ja:胃|胃]]で産出される[[摂食亢進ホルモン]]である[[グレリン]]は弓状核のNPY/AgRP神経を活性化することで食欲を亢進させる作用がある<ref><pubmed> 11196643 </pubmed></ref>。 | ||
=== 室傍核 === | === 室傍核 === | ||
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Paraventricular nucleus: PVN | Paraventricular nucleus: PVN | ||
視床下部前方の背側、第三脳室壁の近くにある明瞭な核。室傍核の小細胞性領域にはストレスホルモンとも呼ばれる副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(Corticotropin-releasing hormone: CRH)を分泌する神経細胞が存在する。視床下部からのCRHの放出は下垂体前葉における[[副腎皮質刺激ホルモン]](Adrenocorticotropic hormone: ACTH)産生細胞を刺激し、ACTHや[[β-リポトロピン]]の産生と放出とが促される。ACTHは血液循環によって運ばれたのち、[[wikipedia:ja:副腎皮質|副腎皮質]]を刺激し、[[副腎皮質ホルモン]]である[[糖質コルチコイド]](ヒトでは主に[[コルチゾール]])の産生と分泌とを高める。このコルチゾールが[[wikipedia:ja:循環器|循環器]]機能や[[wikipedia:ja:エネルギー代謝|エネルギー代謝]]を高め、ストレスに対する全身の防御にはたらく。[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]を含めた[[wikipedia:ja:哺乳動物|哺乳動物]]では[[ストレス]]に対する防御システムとして内分泌系および自律神経系が重要な役割を担っており、[[視床下部―下垂体―副腎皮質]](HPA軸)の一連のホルモン伝達系はストレス応答の重要な経路となっている<ref><pubmed> 21663538 </pubmed></ref>。 | |||
=== 視交叉上核 === | === 視交叉上核 === | ||
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Suprachiasmatic nucleus: SCN | Suprachiasmatic nucleus: SCN | ||
視床下部の底部、[[視交叉]] | 視床下部の底部、[[視交叉]]のすぐ上に位置する一対の神経核。視交叉上核は[[体内時計]]の中枢としてよく知られている<ref><pubmed> 20148688 </pubmed></ref>。視交叉上核を破壊された動物では、規則正しい睡眠・覚醒リズムが消失してしまう。視交叉上核の細胞は、体内から取り出され外界からの刺激がない状態で培養されても、自律的にリズムを刻み続けることができる<ref><pubmed> 7718233 </pubmed></ref>。同時に、視交叉上核は明暗の情報を目から受け取ることで体内時計を外界と同調させている。この場合、通常の視覚に関わる視細胞ではなく、[[光感受性物質]]である[[メラノプシン]]を発現する一部の[[網膜神経節細胞]]が視交叉上核へと情報を伝えている<ref><pubmed> 11834834 </pubmed></ref>。視交叉上核はこの受け取った情報を他の情報と統合して処理したのち、[[松果体]]へ伝えている<ref><pubmed> 16337005 </pubmed></ref>。松果体ではこの情報に応答して睡眠を調節するホルモンである[[メラトニン]]を分泌する。メラトニン分泌は光で抑制されるため、昼行性動物では夜間に高く昼間に低い。 | ||
=== | === 視索上核=== | ||
Supraoptic nucleus: SON | |||
視索上核には、神経ホルモンであるバソプレシンあるいはオキシトシンを含む神経分泌ニューロンの細胞体が存在し、そこから延びる軸索は下垂体後葉に投射して毛細血管に神経分泌している。この視索上核と視床下部後葉に局在するオキシトシン神経からのオキシトシン分泌は、分娩時の子宮収縮や授乳時の乳汁分泌に重要である。バソプレシンは、腎集合管に作用して水の再吸収を促進し、抗利尿ホルモンとしてはたらいている。 | |||
=== 乳頭体、結節乳頭体核 === | |||
Mammillary body: MB, Tuberomammillary nucleus: TMN | |||
視床下部の後部に位置する乳頭体、および結節乳頭体核は体温調節や摂食行動などの機能に関与している。乳頭体の外殻に位置する結節乳頭体核は[[ヒスタミン神経系]]の起始核であり、[[覚醒中枢]]の一つと考えられている。ここからヒスタミン神経は脳内のほぼ全域にわたる幅広い領域に投射しており、ヒスタミン神経細胞が活性化すると覚醒レベルが高まる<ref><pubmed> 12700104 </pubmed></ref>。風邪薬として用いられる第一世代の[[ヒスタミン]][[H1受容体|H<sub>1</sub>受容体]][[阻害薬]]の服用が眠気をもたらすのは、この経路が抑制されるからである。乳頭体は海馬から脳弓を介して入力を受け、視床前核と帯状回を介して海馬に出力を返している。 このユニークな回路は古典的にはパペッツ回路と呼ばれ、情動と記憶の形成に関与していることが提唱された。 | |||
=== 背内側核 === | === 背内側核 === | ||
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Ventromedial hypothalamic nucleus: VMN | Ventromedial hypothalamic nucleus: VMN | ||
腹内側核は視床下部の中で大きく明瞭な核であり、小型または中型の細胞から構成されている。[[満腹中枢]]としての機能は1940年代に行われた腹内側核の除去が動物に肥満をもたらすという様々な実験結果から提唱されたものであり、1970年代に肥満をもたらしているのは室傍核など腹内側核の周辺組織の受けた損傷であるというGoldらによる異論<ref><pubmed> 4795550 </pubmed></ref>があったものの、現在でも摂食行動と体重維持を制御しているものと考えられている<ref><pubmed> 16412483 </pubmed></ref>。また、最近では腹内側核の神経細胞を[[光遺伝学的]]手法により活性化させると、攻撃行動が引き起こされるという報告がなされている<ref><pubmed> 21307935 </pubmed></ref>。この攻撃行動の際に活性化している神経細胞群は生殖行動の際には抑制されており、二つの行動を切り替えるスイッチとしてはたらいている可能性がある。 | |||
=== 外側野=== | |||
Lateral hypothalamic area: LHA | |||
視床下部の外側野と呼ばれる領域には、特定の神経核が存在せず、オレキシンおよびメラニン凝集ホルモン(MCH)と呼ばれる神経ペプチドを産生する神経細胞群がそれぞれ存在している。LHAの局所破壊実験によって摂食行動が抑制されることから、摂食中枢として知られていた。オレキシン神経とMCH神経は全く異なる神経群であるが、いずれも脳全体に軸索を投射している。オレキシン神経は、睡眠・覚醒や摂食、代謝など多様な生理機能を調節している。睡眠覚醒障害のひとつであり、覚醒を維持できずにどのような状態でも眠りに落ちてしまう病気であるナルコレプシーは、オレキシン神経が特異的に脱落することによって生じることが明らかになっている。MCHは魚類、両生類ではその名の通り体色調節に関わっているが、哺乳類では主に摂食や睡眠への関与が報告されている。 | |||
== 機能 == | == 機能 == | ||
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=== 体温の調節 === | === 体温の調節 === | ||
動物は外的環境に左右されず内的環境を維持することができるが、[[鳥類]]や[[哺乳類]]では体温調節もそれに含まれる。外気温が変化しても体内温度を一定に保つことは行動上の制限を大きく広げ、生存に有利に働くものと思われる。視床下部の[[視索前野]] | 動物は外的環境に左右されず内的環境を維持することができるが、[[鳥類]]や[[哺乳類]]では体温調節もそれに含まれる。外気温が変化しても体内温度を一定に保つことは行動上の制限を大きく広げ、生存に有利に働くものと思われる。視床下部の[[視索前野]]には温度感受性の神経細胞が存在して体温調節の中枢を構成しており、視床下部背内側核もその調節に関与していることが知られている<ref><pubmed> 21900642 </pubmed></ref>。体温は概日リズムや性周期、摂食行動などによって変動する。 | ||
=== 体液恒常性の調節 === | === 体液恒常性の調節 === | ||
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多くの動物にとって生存にかかわる最も大きな問題は飢えである。エネルギーを適切に管理するため、視床下部は摂食行動と代謝レベルを調節している。エネルギーに余裕があるときには[[wikipedia:ja:糖質|糖質]]から[[wikipedia:ja:脂肪|脂肪]]への変換を行い、エネルギーが欠乏しているときには[[wikipedia:ja:タンパク質|タンパク質]]を分解するという一連の代謝システムは視床下部の自律神経と内分泌をコントロールする機能によって管理されている。この機能に関しては、弓状核が主にその役割を担っており、腹内側核、外側野<ref><pubmed> 12797956 </pubmed></ref>、背内側核、室傍核などが協調してはたらいている<ref><pubmed> 16988703 </pubmed></ref>。 | 多くの動物にとって生存にかかわる最も大きな問題は飢えである。エネルギーを適切に管理するため、視床下部は摂食行動と代謝レベルを調節している。エネルギーに余裕があるときには[[wikipedia:ja:糖質|糖質]]から[[wikipedia:ja:脂肪|脂肪]]への変換を行い、エネルギーが欠乏しているときには[[wikipedia:ja:タンパク質|タンパク質]]を分解するという一連の代謝システムは視床下部の自律神経と内分泌をコントロールする機能によって管理されている。この機能に関しては、弓状核が主にその役割を担っており、腹内側核、外側野<ref><pubmed> 12797956 </pubmed></ref>、背内側核、室傍核などが協調してはたらいている<ref><pubmed> 16988703 </pubmed></ref>。 | ||
=== | === 性周期・生殖行動の調節 === | ||
ほ乳動物の生殖は視床下部、下垂体、そして性腺の各組織が相互にシグナル伝達を行うことで調節されている。例えば、ヒトの女性において、[[wikipedia:ja:月経|月経]]を含む[[wikipedia:ja:性周期|性周期]]は下垂体前葉から放出される[[wikipedia:ja:卵胞刺激ホルモン|卵胞刺激ホルモン]](Follicle stimulating hormone: FSH)と[[wikipedia:ja:黄体形成ホルモン|黄体形成ホルモン]](Luteinizing hormone: LH)によって調節されているが、これらは視床下部から放出される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Gonadotropin releasing hormone: GnRH)によって制御されている<ref><pubmed> 19740674 </pubmed></ref> | ほ乳動物の生殖は視床下部、下垂体、そして性腺の各組織が相互にシグナル伝達を行うことで調節されている。例えば、ヒトの女性において、[[wikipedia:ja:月経|月経]]を含む[[wikipedia:ja:性周期|性周期]]は下垂体前葉から放出される[[wikipedia:ja:卵胞刺激ホルモン|卵胞刺激ホルモン]](Follicle stimulating hormone: FSH)と[[wikipedia:ja:黄体形成ホルモン|黄体形成ホルモン]](Luteinizing hormone: LH)によって調節されているが、これらは視床下部から放出される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Gonadotropin releasing hormone: GnRH)によって制御されている<ref><pubmed> 19740674 </pubmed></ref>。また、生殖行動は背内側核や視索前野といった領域にも管理されている<ref><pubmed> 12052919 </pubmed></ref>。生殖行動はエネルギー代謝、胎児への血液供給を含めた循環器系、体温調節などのシステムと協調している。 | ||
=== ストレス応答の調節 === | === ストレス応答の調節 === | ||
動物が攻撃を受けた時には覚醒水準や代謝を高め、闘争や逃走にリソースを集中する必要が生じる。こうしたストレス応答に際しては心理的ストレスも身体的ストレスも共に視床下部室傍核に伝えられる。この室傍核から下垂体、そして副腎へと伝えられるシグナル伝達はストレス応答にとって非常に重要であり、この回路は[[Hypothalamic-pituitary-adrenal axis]]([[HPA axis]])と呼ばれている。視床下部の室傍核からストレスホルモンとも呼ばれる副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が放出され、それによって刺激された下垂体前葉から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が産生・放出され、それによって刺激された副腎皮質は副腎皮質ホルモンとして知られる糖質コルチコイドの分泌を高める。このコルチゾールが循環器機能やエネルギー代謝を高め、ストレスに対して全身の防御反応を引き起こす<ref><pubmed> 21663538 </pubmed></ref>。ストレスは睡眠や性行動を抑制するはたらきをもつ。 | |||
=== 睡眠・覚醒の調節 === | === 睡眠・覚醒の調節 === | ||
視床下部が睡眠・覚醒を司っていることは古くから知られており、[[嗜眠性脳炎]]の研究などから視床下部の前方部には睡眠中枢が、後方部には覚醒中枢が存在することが提起された。視床下部前方部に存在する[[腹外側視索前野]](Ventrolateral preoptic nucleus: VLPO)における[[GABA]]作動性ニューロンが睡眠中枢として中心的な役割を果たしており、VLPOの神経細胞は睡眠時に活動を増加させることで睡眠の開始と維持を行っている<ref><pubmed> 12401341 </pubmed></ref>。一方、視床下部後方部に存在する結節乳頭体核(Tuberomammillary nucleus: TMN)はヒスタミン神経の起始核であり、覚醒中枢の一つと考えられている。ヒスタミン神経細胞はここから脳内のほとんどの領域に軸索を投射しており、ヒスタミン神経細胞の活動が高まると覚醒レベルが上昇する。VLPOとTMNは互いに[[軸索]]を投射してその活動を抑制し合っており、TMNからVLPOへの抑制が優位になると覚醒が、VLPOからTMNへの抑制が優位になると睡眠が開始されることで迅速な睡眠・覚醒の相転移が行われている(フリップ・フロップ説)<ref><pubmed> 16251950 </pubmed></ref> | 視床下部が睡眠・覚醒を司っていることは古くから知られており、[[嗜眠性脳炎]]の研究などから視床下部の前方部には睡眠中枢が、後方部には覚醒中枢が存在することが提起された。視床下部前方部に存在する[[腹外側視索前野]](Ventrolateral preoptic nucleus: VLPO)における[[GABA]]作動性ニューロンが睡眠中枢として中心的な役割を果たしており、VLPOの神経細胞は睡眠時に活動を増加させることで睡眠の開始と維持を行っている<ref><pubmed> 12401341 </pubmed></ref>。一方、視床下部後方部に存在する結節乳頭体核(Tuberomammillary nucleus: TMN)はヒスタミン神経の起始核であり、覚醒中枢の一つと考えられている。ヒスタミン神経細胞はここから脳内のほとんどの領域に軸索を投射しており、ヒスタミン神経細胞の活動が高まると覚醒レベルが上昇する。VLPOとTMNは互いに[[軸索]]を投射してその活動を抑制し合っており、TMNからVLPOへの抑制が優位になると覚醒が、VLPOからTMNへの抑制が優位になると睡眠が開始されることで迅速な睡眠・覚醒の相転移が行われている(フリップ・フロップ説)<ref><pubmed> 16251950 </pubmed></ref>。視床下部のオレキシン神経細胞は、TMNなどの覚醒中枢に密に投射し、これを活性化させることで覚醒を維持するのに寄与していると考えられている。 | ||
== 最近の知見について == | == 最近の知見について == |