「電気けいれん療法」の版間の差分

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===従来型ECTの誕生===
===従来型ECTの誕生===
 電気けいれん療法(ElectroConvulsive Therapy ;ECT)は経皮的に頭部に通電を行うことで脳に人工的なけいれんを誘発し、治療効果を得ようとする治療法であり、精神神経疾患に古くから広く用いられてきた。<br>
 電気けいれん療法(ElectroConvulsive Therapy ;ECT)は経皮的に頭部に通電を行うことで脳に人工的なけいれんを誘発し、治療効果を得ようとする治療法であり、精神神経疾患に古くから広く用いられてきた。<br>
 1952年に世界初の抗精神病薬であるChlorpromazineが発見される前、精神疾患に有効な薬物がまだ発見されていなかった時代から、てんかんによるけいれん発作があった後に統合失調症患者の精神症状が改善することがあることが知られていた。
 1952年に世界初の抗精神病薬であるChlorpromazineが発見される前の精神疾患に有効な薬物がまだ発見されていなかった時代から、てんかんによるけいれん発作があった後に統合失調症患者の精神症状が改善することがあることが知られていた。
このため人工的にけいれんを誘発して精神疾患を治療しようとする試みが行われるようになり、1934年にハンガリーの精神科医Medunaは、統合失調症とてんかんの拮抗仮説に基づき、早発性痴呆(旧精神分裂病)の患者にCardiazolで誘発したけいれんによる治療を実施し、その有効性が確認された(1)。
このため人工的にけいれんを誘発して精神疾患を治療しようとする試みが行われるようになり、1934年にハンガリーの精神科医Medunaは、統合失調症とてんかんの拮抗仮説に基づき、早発性痴呆(現在の統合失調症)の患者にCardiazolで誘発したけいれんによる治療を実施し、その有効性が確認された(1)。
その後も、統合失調症患者への薬剤誘発けいれんによる治療が試みられ、最初はけいれん誘発物質としてCamphor(樟脳)やCardiazolがよく用いられた。なお、当時の統合失調症概念は幅広く、近年Baranらは、これらの統合失調症の薬剤誘発によるけいれん療法が行われた23症例の報告について、現在の診断基準から診断の見直しを行ったところ、統合失調感情障害、精神病性の特徴を持つ気分障害などが含まれ、統合失調症よりもそれらの症例に有効性が高かった可能性を推察している(2)。<br>
その後、統合失調症患者への薬剤誘発けいれんによる治療が試みられ、けいれん誘発物質としてCamphor(樟脳)やCardiazolがよく用いられた。なお、当時の統合失調症概念は幅広く、近年Baranらは、これらの統合失調症の薬剤誘発によるけいれん療法が行われた23症例の報告について、現在の診断基準から診断の見直しを行ったところ、統合失調感情障害、精神病性の特徴を持つ気分障害などが含まれており、統合失調症よりもそれらの疾患に有効性が高かった可能性を推察している(2)。<br>
 精神症状に対し治療効果のある確実なけいれんを誘発するために、けいれんを惹起する薬剤ではなく電気刺激による脳への通電を用いる方法は、1938年にイタリアのCerlettiらによりはじめて報告された。彼らは屠殺場で通電することによりけいれんが誘発されることからアイデアを得てヒトに応用し、身元不明の統合失調症患者に対して電気による脳への通電を行うことでけいれんを誘発した。10-20回の治療の後で精神症状に有効であることが確認されECTが見出された(3)。<br>
 精神症状に対し治療効果のある確実なけいれんを誘発するために、けいれんを惹起する薬剤ではなく電気刺激による脳への通電を用いる方法は、1938年にイタリアのCerlettiらによりはじめて報告された。彼らは通電することにより動物にけいれんが誘発されることからアイデアを得て、統合失調症患者に対して電気による脳への通電を行うことでけいれんを誘発したところ、10-20回の通電治療の後で精神症状に有効であることを確認し、これにより精神疾患治療としてのECTが見出された(3)。<br>
このように統合失調症患者に対して、経皮的な脳への電気通電によるけいれん誘発が施行され治療効果を認めたことから、欧米では精神科治療として1940~60年代にかけてECTが広く行われるようになり、同時にうつ病への治療効果も多く報告されるようになった。
このように統合失調症患者に対して、経皮的な脳への電気通電によるけいれん誘発が施行され治療効果を認めたことから、欧米では精神科治療として1940~60年代にかけてECTが広く行われるようになり、同時にうつ病への治療効果も多く報告されるようになった。
 本邦では、1939年に九州大学の安河内と向笠により統合失調症に対するECTが報告(4)されると、薬物療法などの精神疾患への確実な治療法がない時代だったこともあり、本邦でも急速にECTが普及していった。<br>
 本邦では、1939年に九州大学の安河内と向笠により統合失調症に対するECTが報告(4)されると、薬物療法など精神疾患への確実な治療法がない時代だったこともあり、本邦でも急速にECTが普及していった。<br>
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===従来型ECTから修正型電気けいれん療法へ===
===従来型ECTから修正型電気けいれん療法へ===
 麻酔や筋弛緩薬を使用せず施行する従来型ECTでは、施行前に患者に恐怖感を与えることや全身の強直間代けいれんに伴う骨折、呼吸器系・循環器系の副作用が少なからず起こることが問題であった。<br>
 麻酔や筋弛緩薬を使用せず施行する従来型ECTでは、施行前に患者に恐怖感を与えることや全身の強直間代けいれんに伴う骨折、呼吸器系・循環器系の副作用が少なからず起こることが問題であった。<br>
 施行前の患者の恐怖感に対しては、静脈麻酔薬であるチオペンタールやアモバルビタール等のバルビツール系の静脈麻酔薬が用いられるようになり、けいれん発作時の骨折事故を減らす工夫として、通電後の脳のけいれん波出現時に体の全身けいれんが起こらないようにする筋弛緩薬が用いられるようになったことで、静脈麻酔薬と筋弛緩薬を併用する修正型ECT(Modified ElectroConvulsive Therapy;mECT)の基盤が完成した。<br>
 施行前の患者の恐怖感に対しては、徐々に静脈麻酔薬であるThiopentalやAmobarbital等のバルビツール系の静脈麻酔薬が用いられるようになり、またけいれん発作時の骨折事故を減らす工夫として、通電後の脳のけいれん波と同期した体の全身けいれんが起こらないようにするために筋弛緩薬が用いられるようになったことで、静脈麻酔薬と筋弛緩薬を併用する修正型ECT(Modified ElectroConvulsive Therapy; mECT)の基盤が完成した。<br>
筋弛緩薬については、1940年、Bennetらは南米の原住民が狩猟に用いていた筋弛緩作用を持つ毒物Curare(クラーレ)を使用したが(5)、作用時間が長いことが問題であったため、1952年、HolmbergとThesleffzらが、より安全性の高いSuccinylcholineの使用を提唱し(6)、以後Succinylcholineが現在まで修正型ECTの標準的な筋弛緩薬として用いられている。<br>
筋弛緩薬については、1940年代には南米の原住民が狩猟に用いていた筋弛緩作用を持つ毒物Curare(クラーレ)が使用されていたが(5)、作用時間が長いことが問題であったため、1952年HolmbergとThesleffzらが、より安全性の高いSuccinylcholineの使用を提唱し(6)、以後Succinylcholineが現在まで修正型ECTの代表的な筋弛緩薬として用いられている。<br>
 本邦でも1958年、島薗らにより筋弛緩薬を使用したECTの報告がなされた(7)が、その後の安全面を含めた評価、改良、一般化が不十分であり、またECT自体が反精神医学の潮流のなかで患者に強制的に行う負のイメージが強いこともあり、薬物療法の発展に伴い1970年代には次第に第一線の治療から後退した。<br>
 本邦でも1958年、島薗らにより筋弛緩薬を使用したECTの報告がなされた(7)が、その後の安全面を含めた評価や一般化が不十分で、またECT自体が患者に強制的に行う負のイメージが強かったため、この時代の反精神医学の潮流や薬物療法の発展に伴い1970年代には本邦では次第に第一線の治療から後退していった。<br>
 米国では、1975年に米国精神医学会(APA)がECTに関する専門委員会を設置し、1990年、2001年(8)に全体を網羅するガイドラインが刊行され、英国でもECTに関するガイドラインが刊行された(9)。<br> 
しかし、1980年代になると、リエゾン精神医学の進展に伴い、本邦でも精神科が総合病院の一つの科として位置づけられるようになり、麻酔科医と連携して行うmECTが総合病院や大学病院を中心に普及し、同時に手術に準じた患者や家族へのインフォームドコンセントを行うことが一般的になったことで、ECTの安全性が高まり、従来の負のイメージは徐々に払拭されていった。<br>
1980年代になると、リエゾン精神医学の進展に伴い、日本でも精神科が総合病院の一つの科として位置づけられるようになった。麻酔科医と連携して行うmECTが総合病院や大学病院を中心に拡がり、同時に手術に準じて患者や家族にインフォームドコンセントが行われることが一般的になったことで、ECTの安全性が高まり、従来の負のイメージは徐々に払拭されていった。<br>
米国では、1975年に米国精神医学会(American Psychiatric Association ; APA)がECTに関する専門委員会を設置し、1990年、2001年にECT全体を網羅するガイドライン「APAタスクフォースレポートECT実践ガイド」(8)が刊行され、英国でもECTに関するガイドラインが刊行された(9)。<br> 
本邦では日本総合病院精神医学会から精神科電気けいれん療法の実践指針が示され、同学会に電気けいれん療法の手技や適応基準の検討を行う小委員会が設置された。<br>
本邦では、2000年、本橋により本邦で初めてのECTマニュアルが出版され(10)、2002年、日本精神神経学会の「電気けいれん療法の手技と適応基準検討小委員会」により、「APAタスクフォースレポートECT実践ガイド」 (8)が翻訳され、本邦の現状を考慮した「ECT推奨事項」も報告された。同時期、全国自治体病院協議会はECTの使用に関する提言を行い、修正型での運用とインフォームドコンセントの取得を強く推奨することとなった。<br>
2000年、本橋によりわが国初めてのECTマニュアルが出版され(10)、手技や適応などの標準化が進められた。2002年には、日本精神神経学会の「電気けいれん療法の手技と適応基準検討小委員会」により、「米国精神医学会タスクフォースレポートECT実践ガイド」(8)が翻訳され刊行され、全国自治体病院協議会は電気けいれん療法の使用に関する提言を行い、修正型での運用、インフォームドコンセントの取得が強く推奨することとなった。<br>
現在は、このような流れを汲んで、インフォームドコンセントを取得し、麻酔科医による呼吸循環管理のもとで、十分な酸素化と筋弛緩薬と静脈麻酔薬を用いて行うmECTが推奨される標準的治療となっている。<br>
現在は、インフォームドコンセントを取得し、麻酔科医による呼吸循環管理のもとで、十分な酸素化と筋弛緩薬と静脈麻酔薬を用いて行うmECTが標準的となっている。<br>
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===サイン波治療器からパルス波治療器へ===
===サイン波治療器からパルス波治療器へ===
 通電のためのECT機器としては、従来、交流正弦波(サイン波)治療器が用いられてきた。サイン波治療器は電源から交流正弦波の電圧変換を行う機器で、2本の電気通電用の棒の先についている布部分を生理食塩水で湿らせ、医療者が両手で2本の電気通電用の棒を持ち、棒の先の布部分を患者の両側の前頭部に当てながら通電ボタンを押し、正弦波(サイン波)を105V程度で5秒間程度通電することで脳のけいれんを誘発する機器であった。<br>
 通電のためのECT機器として、従来は交流正弦波(サイン波)治療器が用いられてきた。サイン波治療器は通常電源から交流正弦波の電圧変換を行う機器で、2本の電気通電用の棒の先についている布部分を生理食塩水で湿らせ、医療者が両手で2本の電気通電用の棒を持ち、棒の先の布部分を患者の両側の前頭部に当てながら通電ボタンを押し、正弦波(サイン波)を105V程度で5秒間程度通電することで脳のけいれんを誘発する機器(写真1)であった。<br>
 1976年、定電流短パルス矩形波治療器(パルス波治療器)が開発されると、欧米では1980年代より、サイン波治療器より少ない電気量での発作誘発が可能(11)なパルス波治療器が用いられるようになり、2002年に日本でもパルス波治療器が医療機器として承認された。<br>
【写真1】従来使用されていたサイン波治療器 
現在医療機器として使用されているパルス波治療器はサイマトロン(Thymatron®)と呼ばれるものである。短パルス矩形波(パルス波)を通電に用いることで、従来の刺激装置であるサイン波治療器の約1/3程度のエネルギー量で神経細胞の脱分極を起こし効率的に発作の誘発ができ、また個人の電気抵抗値によらずに定電流を通電できるため、通電後の認知機能障害が低減(12)し、更にECTの安全性が向上した。<br>
 またECTの手順の標準化や安全性のさらなる向上のためパルス波治療器の使用にあたり、近年はECT施行者に対して精神科関連学会を中心に運営するECTトレーニングセミナーの受講が義務付けられ、使用法についても標準化されたことで、強い高齢者や身体合併症のある精神疾患患者にもECTがより安全に行われるようになっている。<br>
 
1976年、定電流短パルス矩形波治療器(パルス波治療器)が開発されると、欧米では1980年代より、サイン波治療器より少ない電気量での発作誘発が可能(11)なパルス波治療器が用いられるようになり、本邦でも2002年にパルス波治療器が医療機器として承認された。<br>
パルス波治療器は短パルス矩形波(パルス波)を通電に用いることで、従来の刺激装置であるサイン波治療器の約1/3程度のエネルギー量で神経細胞の脱分極を起こすことができるため、効率的にけいれん閾値に達して発作誘発ができることに加え、個人の電気抵抗値によらずに定電流を通電できる特徴がある。このため、サイン波治療器よりも通電後の認知機能障害が少なく(12)、パルス波治療器を用いることで更にECTの安全性が向上するとされる。<br>
加えて、パルス幅の選択、刺激プログラムの設定、静的インピーダンスと通電時の動的インピーダンスの測定、脳波・心電図・筋電図のモニター、測定データの解析などが可能で、臨床的な利便性もサイン波治療器よりも向上している。
現在医療機器として使用されているパルス波治療器は米国ソマティックス社のサイマトロン(Thymatron®)と呼ばれるものである(写真2)。<br>
【写真2】パルス波治療器の米国ソマティックス社サイマトロン
近年は、ECTの手順の標準化や安全性のさらなる向上のため、サイマトロンの使用にあたっては、日本精神神経学会、日本生物学的精神医学会、日本総合病院精神医学会で行われる ECT トレーニングセミナーの受講が義務付けられ、使用法についても標準化されたことで、高齢者や身体合併症のある精神疾患患者にもECTがより安全に行われるようになっている。<br>
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==ECTの作用機序==
==ECTの作用機序==
脳画像研究では、単一光子放射型断層撮影法(single photon emission tomography)、ポジトロン放射形断層撮影(positron emission tomography)、磁気共鳴映像法(magnetic resonance imaging)、磁気共鳴分光学(magnetic resonance spectroscopy)、定量的脳波(quantitative electroencephalography)などによる多くの研究が行われ、通電によるけいれん発作時は脳血流や脳代謝が増加し、発作後の数日間はむしろ抑制されるなどのけいれん発作による脳の血流や脳代謝の変化が起きることが知られていた。<br>
ECTの作用機序はまだ未解明である。<br>
臨床的には、ECT治療では回数を重ねるごとに、多くの患者にけいれん持続時間の減少やけいれん閾値の上昇(刺激用量の増大)がみられるが、これはECTの抗けいれん作用による抑制性の特徴と考えられている。磁気共鳴分光学を用いた研究ではECT後にgamma-aminobutyric acid(GABA)の増加が示されており(13)、これらの抗けいれん作用には、脳内GABAの増加が関係している可能性がある。<br>
ECTに関する脳画像研究では、単一光子放射断層撮影法(single photon emission tomography)、ポジトロン断層法(positron emission tomography)、磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging)、磁気共鳴分光法(magnetic resonance spectroscopy)、定量脳波(quantitative electroencephalography)などによる多くの研究が行われている。 
また、従来は抗うつ効果との関連から、ECTの効果発現にかかわる可能性のある生体内の化学物質として、神経伝達物質やその受容体への直接的影響や細胞内情報伝達系に与える影響が注目され、コルチゾール、副腎皮質刺激ホルモン、コルチコトロピン放出因子、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン、オキシトシン、バソプレッシン、dehycroepiandrosterone sulfate、tumor necrosis factor α等のECTによる変化が報告されてきた。<br>
脳画像研究の知見からは、従来通電によるけいれん発作時は脳血流や脳代謝が増加し、発作後の数日間は逆にそれらが抑制されるなど、ECTによるけいれん発作の前後に脳血流や脳代謝の変化が起きることが知られていた。<br>
近年では、ECT後の血液中brain-derived neurotrophic factor(BDNF)の増加が報告され(14)、ECTが神経細胞の可塑性、再生、維持に関わる神経栄養因子を強化する働きと海馬扁桃体を主体とする内側側頭葉を中心とした神経栄養効果が注目(15)されるようになった。うつ病患者ではメタ解析でもECT治療後のBDNFの増加が確認され(16)、BDNF増加とHAM-D総得点減少が相関するという報告も存在する。また霊長類を用いた研究では、ECTにより海馬での神経新生が促進されたことが報告されている(17)。<br>
また臨床的には、ECT治療の回数を重ねるごとに、多くの患者にけいれん持続時間の減少やけいれん閾値の上昇(必要刺激用量の増大)を認める。これらの事象からはECTが抗けいれん作用による抑制性の特徴を持つと考えられる。近年の磁気共鳴分光法を用いた研究ではECT後にgamma-aminobutyric acid(GABA)の増加が示されており(13)、ECTの持つ抑制性の特徴の背景として、脳内GABA輸送の増加と受容体刺激の増加が関係している可能性が指摘されている。<br>
これらを踏まえた近年の仮説としては、ECTが異常な脳の機能的連結をリセットして、うつ病の病態に関連する脳領域で新しい健康的な機能的連結の生成を促進することで治療の有効性を発揮している(18)という仮説が提示されており、その機序としてはECTの前頭葉を主体とする抗けいれん効果による抑制性の影響(19,21)、内側側頭葉・海馬を主体とした神経栄養効果を介した細胞新生や神経回路成長促進への影響、及びその複合的要因(18,19,20)が示唆されている。<br>
また、従来は抗うつ効果との関連から、ECTが神経伝達物質やその受容体へ与える影響や細胞内情報伝達系に与える影響が注目され、モノアミン、コルチゾール、副腎皮質刺激ホルモン、コルチコトロピン放出因子、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン、オキシトシン、バソプレッシン、dehycroepiandrosterone sulfate、tumor necrosis factor α等の生体内物質のECTによる変化が報告されてきた。<br>
しかし、ECTの有効性における作用機序についての検討は多く行われいくつかの有力な仮説は提示されているものの、現在までECTの明確な作用機序は明らかにされておらず、さらなる研究が待たれる。<br>
近年では、ECT後の血液中brain-derived neurotrophic factor(BDNF)の増加が報告され(14)、ECTが神経細胞の可塑性、再生、維持に関わる神経栄養因子を強化し、海馬扁桃体を主体とする内側側頭葉を中心とした神経栄養効果を持つ可能性が指摘されるようになった(15)。うつ病患者ではメタ解析でもECT治療後のBDNFの増加が確認されており(16)、BDNF増加とHAM-D総得点減少が相関するという報告も存在する。また霊長類を対象にした動物実験では、ECTにより海馬での神経新生が促進されたことが報告されている(17)。<br>
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これらを踏まえた仮説としては、ECTが脳の異常な機能的結合を一度リセットして、病態に関連する脳領域で新しい健康的な機能的結合の生成を促進することで治療の有効性を発揮している(18)という仮説が提示されており、その機序としてはECTの前頭葉を主体とする抗けいれん作用による抑制性の影響(19,21)、内側側頭葉・海馬を主体とした神経栄養効果を介した細胞新生や神経回路成長促進への影響、及びその複合的要因(18,19,20)が示唆されている。<br>
このようにECTの有効性における作用機序について、いくつかの仮説は提示されているものの、現在までECTの明確な作用機序は明らかにされていない。<br>
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==ECTの適応と禁忌==
==ECTの適応と禁忌==
===ECTの適応===  
===ECTの適応===  
 2015年米国精神医学会は「ECTは、安全かつ有効なエビデンスに基づく医療であり、適切に適応を選択された患者のために、適切な資格のある精神科医によって行われるとき、ECTはAPAによって支持される」という声明を発表している。<br>
 2015年米国APAは「ECTは、安全かつ有効なエビデンスに基づく医療であり、適切に適応を選択された患者のために、適切な資格のある精神科医によって行われるとき、ECTはAPAによって支持される」という声明を発表している。<br>
 米国APAによるECTの適応(8)は広く、わが国においても本橋らが報告する日本精神神経学会ECT検討委員会適応および日本総合病院精神医学会ECT委員会によるECTの推奨事項に関する報告(22)においても比較的幅広い適応となる診断と状況が記載されているが、英国NICE(The National Institute of Health and Clinical Excellenc)ガイドラインでは、ECTは重症うつ病、薬物治療抵抗性ないし重症躁病、またはカタトニア(緊張病)のみに用いられるべきであり、うつ病の予防のための長期治療や統合失調症の一般管理には使用されるべきでないとしている(23)。<br>
 APAによるECTの適応(8)は比較的幅広く、本邦においても2013年に日本精神神経学会ECT検討委員会および日本総合病院精神医学会ECT委員会によりまとめられ本橋らにより報告された「ECTの推奨事項改定版」(22)においても比較的幅広い適応となる診断と状況が記載されているが、英国NICE(The National Institute of Health and Clinical Excellenc)ガイドラインでは、ECTは重症うつ病、薬物治療抵抗性ないし重症躁病、またはカタトニア(緊張病)のみに用いられるべきであり、うつ病の予防のための長期治療や統合失調症の一般管理には用いられるべきではないとしている(23)。<br>
まだ十分なエビデンスは確立しておらず研究的な要素が存在するものの、難治性強迫性障害、治療抵抗性で緊急性を要すパーキンソン病、身体疾患による精神障害、治療抵抗性悪性症候群、慢性疼痛(APAガイドラインには含まれていないが本邦での有効性の報告が増加)の治療にも臨床的に用いられることがありその有効性を認めることがあるものの、ECTが臨床的治療で主に適応となる疾患として世界的にコンセンサスのあるものはうつ病や躁うつ病の重症うつ状態、治療抵抗性ないし重症躁状態、カタトニアである。
まだ十分なエビデンスは確立しておらず研究的な要素が存在するものの、難治性強迫性障害、治療抵抗性で緊急性を要すパーキンソン病、身体疾患による精神障害、治療抵抗性悪性症候群、慢性疼痛(APAガイドラインには含まれていないが本邦での有効性の報告が増加)の治療にも臨床的に用いられることがありその有効性を認めることがあるものの、ECTが臨床的治療で主に適応となる疾患として世界的コンセンサスのあるものはうつ病や躁うつ病の重症うつ状態、治療抵抗性ないし重症躁状態、カタトニア、統合失調症である。
臨床的には、適応となる診断とその症状特性や重症度などの状態像からECTの適応を判断することになる。<br>
臨床的には、適応となる診断とその症状特性や重症度などの状態像からECTの適応を判断することになる。<br>
たとえば、うつ病はECTの主要な適応となる疾患であるが、軽症であれば基本的にECTが選択されることはない。ECTの一次的適応が考慮される状態として、食事摂取困難や拒食による低栄養・脱水が進行し生命にかかわる可能性がある場合、自殺企図など患者に生命の危険の差し迫った重篤な症状が存在し迅速な症状改善を要する場合など、抗うつ薬が効いてくるまでの時間的余裕がない場合にはECTの優先順位は高くなりECTは切り札的な治療として実施されることがある。また、薬物療法のリスクや催奇形性が問題となる妊娠、薬物忍容性の乏しい高齢者、薬物療法の副作用や身体合併症などから他の治療よりECTのほうが高い安全性があると個別に判断される場合もECTが考慮される。
たとえば、うつ病はECTの主要な適応となる疾患であるが、軽症であれば基本的にECTが選択されることはない。ECTの一次的適応が考慮される状態として、食事摂取困難や拒食による低栄養・脱水が進行し生命にかかわる可能性がある場合、自殺企図など患者に生命の危険の差し迫った重篤な症状が存在し迅速な症状改善を要する場合など、抗うつ薬が効いてくるまでの時間的余裕がない場合にはECTの優先順位は高くなりECTは切り札的な治療として一次的に実施されることがある。また、薬物療法のリスクや催奇形性が問題となる妊娠、薬物忍容性の乏しい高齢者、薬物療法の副作用や身体合併症などから他の治療よりECTのほうが高い安全性があると個別に判断される場合もECTが考慮される場合がある。<br>
APAによるECTの二次的な適応(8)としては、薬物療法への強い治療抵抗性があり遷延している場合、薬物治療の忍容性が低く十分な薬物療法が行えずECTの忍容性が優れる場合、薬物治療中の精神症状や身体状態の悪化により迅速で確実な治療反応が必要な場合などが挙げられており、薬物治療抵抗性のうつ病や統合失調症でもECTの適応が検討されることがある。<br>
APAによるECTの二次的な適応(8)としては、薬物療法への強い治療抵抗性があり遷延している場合、薬物治療の忍容性が低く十分な薬物療法が行えずECTの忍容性が優れる場合、薬物治療中の精神症状や身体状態の悪化により迅速で確実な治療反応が必要な場合などが挙げられており、薬物治療抵抗性または不忍容のうつ病、躁病、統合失調症でもECTの適応が検討されることがある。<br>
 統合失調症では、同様に治療抵抗性で生命にかかわるような緊張病や昏迷状態、精神症状による著しい焦燥感・興奮・錯乱がある場合、強い希死念慮がある場合等に適応が検討されることがある。また、いずれの疾患でも過去のECTが効果的であった治療歴、患者本人の希望は治療方針の決定において重要となる。<br>
 統合失調症では、同様に治療抵抗性で生命にかかわるような緊張病や昏迷状態、精神症状による著しい焦燥感・興奮・錯乱がある場合、強い希死念慮がある場合等に適応が検討されることがある。<br>
また、いずれの疾患でもECTが効果的であった過去の治療歴、患者本人のECTの希望は治療方針の決定において重要となる。<br>
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===ECTの禁忌===
===ECTの禁忌===
 アメリカ精神医学会(American Psychiatric Association; APA)は、ECT導入に際しての絶対的禁忌はないとしながらも、ECTのリスクが増す状態として相対的禁忌を定義している(8)。<br>
 アメリカ精神医学会(American Psychiatric Association; APA)は、ECT導入に際しての絶対的禁忌はないとしながらも、ECTのリスクが増す状態として相対的禁忌を定義している(8)。<br>
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==ECTの有効性とその特徴==
==ECTの有効性とその特徴==
===ECTの各疾患への有効性===
===ECTの各疾患への有効性===
  近年は精神科領域でもevidence-based medicine; EBMが重要視され、各国で精神科治療アルゴリズムが作成され、治療抵抗性うつ病や重症うつ病へのECTの治療的位置付けは明確化されてきている。<br>
  近年は精神科領域でもevidence-based medicineの観点から、各国で精神科治療アルゴリズムが作成されつつあり、治療抵抗性うつ病や重症うつ病へのECTの治療的位置付けが明確化されてきている。<br>
うつ病に対するECTの効果のメタ解析では、プラセボ、模擬ECT、経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation: TMS)、抗うつ薬のいずれにもECTの有効性が勝っていることが示されている(24,25,26,27)。<br>
うつ病に対するECTの効果のメタ解析では、プラセボ、模擬ECT、経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation: TMS)、抗うつ薬のいずれにもECTの有効性が勝っていることが示されている(24,25,26,27)。<br>
各抗うつ薬との比較では、ECTと三環形抗うつ薬(tricyclic antidepressants : TCA)やmonoamine oxidase inhibitors(MAOI)を比較した研究でTCAやMAOIよりECTの有効性が高いことが示されている。新規抗うつ薬とECTを比較した研究はまだ少ないが、Folkertsらによる治療抵抗性うつ病患者を対象としたECTと新規抗うつ薬のparoxetineを比較した研究では、ECT群で59%、paroxetine群で29% のうつ状態の改善を認め、ECT群でより高い反応率(71%でHAM-D総得点の50%減少)を認めている(28)。<br>
各抗うつ薬との比較では、ECTと三環形抗うつ薬(tricyclic antidepressants : TCA)やmonoamine oxidase inhibitors(MAOI)を比較した研究でTCAやMAOIよりECTの有効性が高いことが示されている。新規抗うつ薬とECTを比較した研究はまだ少ないが、Folkertsらによる治療抵抗性うつ病患者を対象としたECTと新規抗うつ薬のparoxetineを比較した研究では、ECT群で59%、paroxetine群で29% のうつ状態の改善を認め、ECT群でより高い反応率(71%でHAM-D総得点の50%減少)を認めている(28)。<br>
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このようにECTは気分障害のうつ状態に対し高い有効性を持つが、同時に双極性障害の躁状態への効果も知られている。躁状態への比較対照研究は少ないものの、ECTの抗躁効果は確立しており、Mckherjeeらは過去50年間にECTを施行された約600例の急性躁病患者の転機を調査し、約80%が著明改善または完全寛解したことと報告しており(39)、躁鬱混合状態への有効性も報告されている(40)。<br>
このようにECTは気分障害のうつ状態に対し高い有効性を持つが、同時に双極性障害の躁状態への効果も知られている。躁状態への比較対照研究は少ないものの、ECTの抗躁効果は確立しており、Mckherjeeらは過去50年間にECTを施行された約600例の急性躁病患者の転機を調査し、約80%が著明改善または完全寛解したことと報告しており(39)、躁鬱混合状態への有効性も報告されている(40)。<br>
生命が脅かされるような状態を伴う重症躁病や薬物治療抵抗性の遷延性躁状態ではECTの適応があるとされる(41,42) が、躁状態では意識障害、頭部外傷、HIV感染等の器質疾患の術前の鑑別に十分な注意を要する。一般的にECTが抗躁効果を示すためにはうつ状態より時間がかかり両側性でうつ病より多い治療回数が必要とされる(43)。躁状態に対して施行する問題点としては、患者本人からの同意が得にくいこと(44)、覚醒状態でECT施行室に搬送することが困難であることが挙げられる。<br>
生命が脅かされるような状態を伴う重症躁病や薬物治療抵抗性の遷延性躁状態ではECTの適応があるとされる(41,42) が、躁状態では意識障害、頭部外傷、HIV感染等の器質疾患の術前の鑑別に十分な注意を要する。一般的にECTが抗躁効果を示すためにはうつ状態より時間がかかり両側性でうつ病より多い治療回数が必要とされる(43)。躁状態に対して施行する問題点としては、患者本人からの同意が得にくいこと(44)、覚醒状態でECT施行室に搬送することが困難であることが挙げられる。<br>
またカタトニア(緊張病)への高い効果も知られている。カタトニアを呈する疾患として、統合失調症の緊張病型がよく知られるが、カタトニアは様々な疾患で起きうる症候群で躁状態やうつ状態、抗NMDA関連脳炎などの器質性精神疾患(45)、自閉症スペクトラム障害などでも起こる。4つの研究によるカタトニアのロラゼパムでの寛解率は80-100%と高く(45)、通常のカタトニアではロラゼパム等のベンゾジアゼピン系薬剤が優先して使用され反応しない場合にECTが検討されるが、生命に危険の強い悪性緊張病ではECTは一時的治療選択になりうるとされる(46)。5つの研究でのECTでのカタトニアの寛解率は82-96%とされる(45)。統合失調症、気分障害、統合失調感情障害、器質性精神障害を含む28例のカタトニアにECT(47)を行った研究では、93%が緊張病症候群の症状消失がみられ、特に気分障害におけるカタトニアの寛解率は96%と高かったと報告されている。自閉症スペクトラム障害に伴うカタトニア(48)や抗NMDA関連脳炎に伴うカタトニアへのECTの有効性の知見の蓄積はまだ乏しい。<br>
またカタトニア(緊張病)への高い効果も知られている。カタトニアを呈する疾患として、統合失調症の緊張病型がよく知られるが、カタトニアは様々な疾患で起きうる症候群で躁状態やうつ状態、抗NMDA関連脳炎などの器質性精神疾患(45)、自閉症スペクトラム障害(48)などでも起こる。4つの研究によるカタトニアのロラゼパムでの寛解率は80-100%と高く(45)、通常のカタトニアではロラゼパム等のベンゾジアゼピン系薬剤が優先して使用され反応しない場合にECTが検討されるが、生命に危険の強い悪性緊張病ではECTは一時的治療選択になりうるとされる(46)。5つの研究でのECTでのカタトニアの寛解率は82-96%とされる(45)。統合失調症、気分障害、統合失調感情障害、器質性精神障害を含む28例のカタトニアにECT(47)を行った研究では、93%が緊張病症候群の症状消失がみられ、特に気分障害におけるカタトニアの寛解率は96%と高かったと報告されている。自閉症スペクトラム障害に伴うカタトニア(48)や抗NMDA関連脳炎に伴うカタトニアへのECTの有効性の知見の蓄積はまだ乏しい。<br>
統合失調症では前述のように緊張病症状を伴うものには著効することが多く、また精神運動興奮や昏迷を伴う場合も興奮や意思発動性低下が改善・軽減する。一部のアルゴリズムには薬物治療抵抗性統合失調症の治療として、ECTが位置づけられているが、慢性的な幻覚妄想や陰性症状および認知機能低下には効果が乏しいことが多い。<br>
統合失調症では前述のように緊張病症状を伴うものには著効することが多く、また精神運動興奮や昏迷を伴う場合も興奮や意思発動性低下が改善・軽減する。一部のアルゴリズムには薬物治療抵抗性統合失調症の治療として、ECTが位置づけられているが、慢性的な幻覚妄想や陰性症状および認知機能低下には効果が乏しいことが多い。<br>
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一方、ECTについて、Folkertsらは、治療抵抗性うつ病患者でECTとparoxetineの効果発現の早さについても比較検討し、ECT群ではparoxetine群と比較し、治療1週間後よりうつ状態の有意な改善を認めた(28)。
一方、ECTについて、Folkertsらは、治療抵抗性うつ病患者でECTとparoxetineの効果発現の早さについても比較検討し、ECT群ではparoxetine群と比較し、治療1週間後よりうつ状態の有意な改善を認めた(28)。
またHusainらはうつ病の患者に対し週3回のECTを施行し反応や寛解のスピードを検討したところ、54%が1週目3回目のセッションまでに治療反応がみられ、2週間目6回目のセッションまでに34%が寛解し3-4週目の10回目のセッションまでに65%が寛解したことを示した(50)。<br>
またHusainらはうつ病の患者に対し週3回のECTを施行し反応や寛解のスピードを検討したところ、54%が1週目3回目のセッションまでに治療反応がみられ、2週間目6回目のセッションまでに34%が寛解し3-4週目の10回目のセッションまでに65%が寛解したことを示した(50)。<br>
われわれが国立精神神経センターうつストレスケア病棟に入院しECTを行った31名の両側性修正型電気けいれん療法での治療成績を示す。週に2回のECTを行うことで、重症度を示すうつ病評価尺度の平均得点が回を重ねるごとに改善し、ECT8回施行後(1ヶ月後)には平均得点が寛解を示す7点以下になっていることがわかる。<br>
われわれが国立精神神経センターうつストレスケア病棟に入院しECTを行った31名の両側性修正型電気けいれん療法での治療成績を(図1)に示す。週に2回のECTを行うことで、重症度を示すうつ病評価尺度の平均得点が回を重ねるごとに改善し、ECT8回施行後(1ヶ月後)には平均得点が寛解を示す7点以下になっていることがわかる。<br>
 
【図1】
 
 
 
このようにECTは早期の症状改善効果を持ち、早急な抗うつ効果が必要とされる症例に有用で、特に深刻な自殺念慮があり自殺が切迫している状態の早期改善(51)や食事摂取が困難で栄養の維持が困難な症例・カタトニアで全身状態が悪化しつつある場合の早期改善には、薬物療法より効果発現や寛解に至るまでが早いECTがより有効な治療であると考えられる。ECTの迅速で高い治療効果は、医療経済の観点からも費用対効果比が高いことも示されている(52) <br>
このようにECTは早期の症状改善効果を持ち、早急な抗うつ効果が必要とされる症例に有用で、特に深刻な自殺念慮があり自殺が切迫している状態の早期改善(51)や食事摂取が困難で栄養の維持が困難な症例・カタトニアで全身状態が悪化しつつある場合の早期改善には、薬物療法より効果発現や寛解に至るまでが早いECTがより有効な治療であると考えられる。ECTの迅速で高い治療効果は、医療経済の観点からも費用対効果比が高いことも示されている(52) <br>
近年はECT麻酔としてケタミン麻酔を用い、ECTの効果発現をさらに加速させる試みも行われている(53)。<br>
近年はECT麻酔としてKetamine麻酔を用い、ECTの効果発現をさらに加速させる試みも行われている(53)。<br>
(図1)
 
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Gagneらは、急性期にECTを使用し寛解に至った治療抵抗性うつ病患者に対して、維持ECTと薬物療法の併用群と薬物療法単独群とを比較する後ろ向き症例対照研究(63)を行い、抗うつ薬と維持ECTの併用群での寛解維持率は2年後、5年後それぞれ93%、73%と良好であったが、抗うつ薬単独群では52%、18%と低かったことを示した。この研究においては、維持ECT群の方が過去の薬物療法抵抗性レベルが高かったが、維持ECT群のほうが抗うつ薬単独群よりも高い寛解維持率を示していた。<br>
Gagneらは、急性期にECTを使用し寛解に至った治療抵抗性うつ病患者に対して、維持ECTと薬物療法の併用群と薬物療法単独群とを比較する後ろ向き症例対照研究(63)を行い、抗うつ薬と維持ECTの併用群での寛解維持率は2年後、5年後それぞれ93%、73%と良好であったが、抗うつ薬単独群では52%、18%と低かったことを示した。この研究においては、維持ECT群の方が過去の薬物療法抵抗性レベルが高かったが、維持ECT群のほうが抗うつ薬単独群よりも高い寛解維持率を示していた。<br>
Navarro らは、急性期にECTが有効であった高齢者の精神病像を伴う治療抵抗性うつ病患者に対し、維持ECTとnortriptylineの併用群とnortriptyline単独群を比較し、2年目の時点で、併用群では65%が、nortriptyline群では29%が寛解を維持し、60歳以上の高齢者に対しても併用群が薬物療法単独群より有効で有害な副作用は認めなかったことを示した(62)。これらの結果からは維持ECTを行う場合でも薬物療法を併用する方が寛解を維持する可能性が高いことが示唆された。<br>
Navarro らは、急性期にECTが有効であった高齢者の精神病像を伴う治療抵抗性うつ病患者に対し、維持ECTとnortriptylineの併用群とnortriptyline単独群を比較し、2年目の時点で、併用群では65%が、nortriptyline群では29%が寛解を維持し、60歳以上の高齢者に対しても併用群が薬物療法単独群より有効で有害な副作用は認めなかったことを示した(62)。これらの結果からは維持ECTを行う場合でも薬物療法を併用する方が寛解を維持する可能性が高いことが示唆された。<br>
Frederikseらは、維持ECTの有効性についてまとめて、抗うつ薬の効果が不十分な場合などではECT維持継続を行うことを推奨している(64)。APAガイドラインやわが国でも継続・維持ECTに関する適応基準(8,22,65)が示されているが、一度継続・維持ECTに導入すると、定期的なECTのための入院加療を要し、ECT治療からの離脱が困難となるため、安易な維持ECT導入は避け、症例ごとに適応を判断し十分なインフォームドコンセントを行い慎重に適応を検討することが望ましい。<br>
Frederikseらは、維持ECTの有効性についてまとめて、抗うつ薬の効果が不十分な場合などではECT維持継続を行うことを推奨している(64)。APAガイドラインや本邦でも継続・維持ECTに関する適応基準(8,22,65)が示されているが、一度継続・維持ECTに導入すると、定期的なECTのための入院加療を要し、ECT治療からの離脱が困難となるため、安易な維持ECT導入は避け、症例ごとに適応を判断し十分なインフォームドコンセントを行い慎重に適応を検討することが望ましい。<br>
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===発作とECTの効果に影響を与える実施方法===
===脳波上の発作とECTの効果に影響を与える実施方法===
ECTの効果は電流通電そのものの効果ではなく、脳波上の発作を誘発することに起因している。パルス波治療器でのECTは標準的施行方法では約8秒間の通電を行い、通電により脳神経細胞の脱分極を生じさせ、全般発作が誘発される。脳波上の発作はてんかんの強直間代けいれんの脳波に類似し、発作初期は、多棘波と低電位速波が出現し、徐々に全体に高電位多棘徐波が律動的に出現する。発作が終了すると脳波は一時的に平坦化し発作後抑制期に移行する。ECTクール終了後4-6週間程度の全般性の徐波化を認めることがあるが通常は徐々に正常化する。<br>
ECTの効果は電流通電そのものの効果ではなく、脳波上の発作を誘発することに起因している。パルス波治療器でのECTは標準的施行方法では約8秒間の通電を行い、通電により脳神経細胞の脱分極を生じさせ、全般発作が誘発される。脳波上の発作はてんかんの強直間代けいれんの脳波に類似し、発作初期は、多棘波と低電位速波が出現し、徐々に全体に高電位多棘徐波が律動的に出現する。発作が終了すると脳波は一時的に平坦化し発作後抑制期に移行する。ECTクール終了後4-6週間程度の全般性の徐波化を認めることがあるが通常は徐々に正常化する。<br>
ECTの治療効果につながる有効な脳波上の発作の性質は、規則的で対称性の高振幅棘徐波、良好な発作後抑制(脳波平坦化)、一定以上の発作時間(運動発作20秒または脳波上の発作25秒以上、65歳以上ではそれぞれ15秒と20秒)があり、参考事項として交感神経系の興奮(心拍、血圧の急上昇)があげられている(22)。発作時間に関しては25秒以上のけいれん誘発は必須とされる一方で、けいれん時間と効果は比例しないことが分かっており、むしろ十分な効果のあるエネルギー量ではけいれん時間は減少することが多いため、より長ければ効果的というわけではない。<br>
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ECTの治療効果につながる有効な脳波上の発作の性質は、規則的で対称性の高振幅棘徐波、良好な発作後抑制(脳波平坦化)、一定以上の発作時間(運動発作20秒または脳波上の発作25秒以上、65歳以上ではそれぞれ15秒と20秒)があり、参考事項として心拍、血圧の急上昇など交感神経系の興奮があげられている(22)。発作時間に関しては25秒以上のけいれん誘発は必須とされる一方で、けいれん時間と効果は比例しないことが分かっており、むしろ十分な効果のあるエネルギー量ではけいれん時間は減少することが多いため、より長ければ効果的というわけではない。<br>
発作誘発の実施方法によりECTの効果は影響を受ける。<br>
発作誘発の実施方法によりECTの効果は影響を受ける。<br>
ECTの効果に影響を与える主要な実施方法での因子としては、刺激強度(最大刺激の何%で刺激するか)、電極配置部位(両側性か左右片側性か)、治療波の波形(サイン波かパルス波か)がある。<br>
ECTの効果に影響を与える主要な実施方法での因子としては、刺激強度(最大刺激の何%で刺激するか)、電極配置部位(両側性か左右片側性か)、治療波の波形(サイン波かパルス波か)がある。<br>
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本邦では、通常は発作閾値の滴定は行わず半年齢法による刺激強度で開始し、発作波の質や治療効果、治療継続に伴うけいれん閾値の上昇を鑑みて漸次調整していくことが多い。その回の治療のけいれんが不適切であった場合は、次の治療では前回治療の1.5倍の刺激用量で刺激を行う(22)。脳波上のけいれんが15秒以内で中断した場合や発作が不発であった場合は、中断した場合は45秒、不発の場合は20秒の間隔をあけて同じ治療内で2倍の刺激用量で再通電を行う(22)。<br>
本邦では、通常は発作閾値の滴定は行わず半年齢法による刺激強度で開始し、発作波の質や治療効果、治療継続に伴うけいれん閾値の上昇を鑑みて漸次調整していくことが多い。その回の治療のけいれんが不適切であった場合は、次の治療では前回治療の1.5倍の刺激用量で刺激を行う(22)。脳波上のけいれんが15秒以内で中断した場合や発作が不発であった場合は、中断した場合は45秒、不発の場合は20秒の間隔をあけて同じ治療内で2倍の刺激用量で再通電を行う(22)。<br>
電極配置は、両側性と片側性があり、両側性の場合は左右半球に通電され、片側性の場合は通常右半球に行われ右半球だけに通電されるが、共に通電による脳全体の発作誘発が可能である。両側性の方が片側性よりも効果が高いとする報告が多く、現在は世界的に両側性ECTが主流を占める。しかし十分な刺激用量での右片側性ECTは両側性と比較し効果に差がなく、認知機能への影響が少ないのでより望ましいという報告もある(67)。
電極配置は、両側性と片側性があり、両側性の場合は左右半球に通電され、片側性の場合は通常右半球に行われ右半球だけに通電されるが、共に通電による脳全体の発作誘発が可能である。両側性の方が片側性よりも効果が高いとする報告が多く、現在は世界的に両側性ECTが主流を占める。しかし十分な刺激用量での右片側性ECTは両側性と比較し効果に差がなく、認知機能への影響が少ないのでより望ましいという報告もある(67)。
 波形については、パルス波刺激とサイン波刺激の両者で効果に有意な差を認めなかったとするメタ解析があるが(66)、ECT麻酔薬として良く用いられているチオペンタールなどのバルビツレート系麻酔薬はもちろん、プロポフォールなどの非バルビツレート系麻酔薬も少なからず抗けいれん作用を持ち、パルス波治療器の普及とともに、パルス波治療器の最大刺激電流量を用いても脳波上のけいれん波が誘発されない症例が少なからず存在することが分かってきた。バルビツレート系麻酔薬であるメトヘキシタールでECTを受けた患者の15%は最大刺激強度を必要とし、最大刺激強度でもその中の33%は発作持続時間が足りないか、不発であったという報告がある(68)。本邦ではこれらの発作誘発困難例にサイン波治療器を使用している施設も未だあるが、内服している抗けいれん作用のあるベンゾジアゼピンや抗けいれん薬の見直し、フルマゼニルのECT通電前の使用、ECT通電前の過換気、ケタミン麻酔などへの変更(69)などを考慮する必要がある。<br>
 波形については、パルス波刺激とサイン波刺激の両者で効果に有意な差を認めなかったとするメタ解析があるが(66)、ECT麻酔薬として良く用いられているチオペンタールなどのバルビツレート系麻酔薬はもちろん、プロポフォールなどの非バルビツレート系麻酔薬も少なからず抗けいれん作用を持ち、パルス波治療器の普及とともに、パルス波治療器の最大刺激電流量を用いても脳波上のけいれん波が誘発されない症例が少なからず存在することが分かってきた。バルビツレート系麻酔薬であるメトヘキシタールでECTを受けた患者の15%は最大刺激強度を必要とし、最大刺激強度でもその中の33%は発作持続時間が足りないか、不発であったという報告がある(68)。本邦ではこれらの発作誘発困難例にサイン波治療器を使用している施設も未だあるが、内服している抗けいれん作用のあるベンゾジアゼピンや抗けいれん薬の見直し、フルマゼニルのECT通電前の使用、ECT通電前の過換気、Ketamine麻酔などへの変更(69)などを考慮する必要がある。<br>
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主な死因はけいれん直後や回復期の心血管系合併症(75,76)や嘔吐に伴う窒息(77)によると考えられ、ECT前のリスク評価や絶食などのECT前管理の徹底が重要となる。
主な死因はけいれん直後や回復期の心血管系合併症(75,76)や嘔吐に伴う窒息(77)によると考えられ、ECT前のリスク評価や絶食などのECT前管理の徹底が重要となる。
またmECTにて通電1分後よりwide QRS頻拍が出現し、Lidocainの投与で頻拍が停止せず直流通電により停止させた症例(78)も報告されており、緊急時の対応を想定しておき、ECT処置室には除細動器などの準備が必要である。
またmECTにて通電1分後よりwide QRS頻拍が出現し、Lidocainの投与で頻拍が停止せず直流通電により停止させた症例(78)も報告されており、緊急時の対応を想定しておき、ECT処置室には除細動器などの準備が必要である。
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===心血管系合併症===
===心血管系合併症===
 通電中と通電直後には、通電による迷走神経の直接刺激から副交感神経が優位なり、発作中は交感神経が、発作終了後には再び副交感神経優位となる。通電直後の副交感神経優位状態では徐脈、洞停止、血圧低下が、発作中の交感神経優位状態では頻脈・高血圧が、発作終了後には再び徐脈や不整脈が一過性に出現しやすい。このような短時間の内に急激に生じる生理学的変化に対して、ECT中は麻酔科医による呼吸循環モニターと全身管理が必要になる。また、ECT中の徐脈性不整脈、血圧低下、口腔内分泌の増大などの副交感神経反応を抑制するためには、抗コリン薬であるAtropine sulface(0.1mg/kg)の麻酔導入直前の静脈内投与が有用なことがある。高血圧症合併症のある患者では朝の降圧剤を服用し、必要に応じてDiltiazem, Nicardipine等のカルシウム拮抗薬をECT直前か直後に静注し管理する。特に従来からの心血管系合併症を持つ患者では死亡例も報告されおり、十分な管理が必要である。<br>
 通電中と通電直後には、通電による迷走神経の直接刺激から副交感神経が優位なり、発作中は交感神経が、発作終了後には再び副交感神経優位となる。通電直後の副交感神経優位状態では徐脈、洞停止、血圧低下が、発作中の交感神経優位状態では頻脈・高血圧が、発作終了後には再び徐脈や不整脈が一過性に出現しやすい。このような短時間の内に急激に生じる生理学的変化に対して、ECT中は麻酔科医による呼吸循環モニターと全身管理が必要になる。また、ECT中の徐脈性不整脈、血圧低下、口腔内分泌の増大などの副交感神経反応を抑制するためには、抗コリン薬であるAtropine sulfaceの麻酔導入直前の静脈内投与が有用なことがある。高血圧症合併症のある患者では朝の降圧剤を服用し、必要に応じてDiltiazem, Nicardipine等のカルシウム拮抗薬をECT直前か直後に静注し管理する。特に従来からの心血管系合併症を持つ患者では死亡例も報告されおり、十分な管理が必要である。<br>


===認知機能障害===
===認知機能障害===
135行目: 159行目:
認知機能障害が出現した時は、治療の中断、両側性から右片側性への電極配置の変更、治療頻度の引き下げ、治療有効性を損ねない程度の刺激強度の引き下げ、認知障害に関与している併用薬剤の見直し等の対策(8.10,60)が行われることが望ましい。<br>
認知機能障害が出現した時は、治療の中断、両側性から右片側性への電極配置の変更、治療頻度の引き下げ、治療有効性を損ねない程度の刺激強度の引き下げ、認知障害に関与している併用薬剤の見直し等の対策(8.10,60)が行われることが望ましい。<br>
記憶障害はECT中の低酸素と関係があり、ECT刺激前の十分な酸素化が重要である(83
記憶障害はECT中の低酸素と関係があり、ECT刺激前の十分な酸素化が重要である(83
)。またケタミン麻酔が神経保護作用を持ち認知機能障害を低減する可能性が示唆されている(84,85)。<br>
)。またKetamine麻酔が神経保護作用を持ち認知機能障害を低減する可能性が示唆されている(84,85)。<br>
認知機能障害はECTコース中に生じやすいが、一方でECT終了して約2週間経過すると治療前の水準以上となるという報告(86)があり、うつ病の精神運動抑制による認知機能障害はECTによるうつ症状の改善とともに回復するため、鑑別しなければならない。<br>
認知機能障害はECTコース中に生じやすいが、一方でECT終了して約2週間経過すると治療前の水準以上となるという報告(86)があり、うつ病の精神運動抑制による認知機能障害はECTによるうつ症状の改善とともに回復するため、鑑別しなければならない。<br>
副作用としての認知障害を正しく評価するためには、ECT前の認知症などの認知機能障害の合併を把握しておく必要があり、ECT施行前の脳画像評価と認知機能評価が重要である。<br>
副作用としての認知障害を正しく評価するためには、ECT前の認知症などの認知機能障害の合併を把握しておく必要があり、ECT施行前の脳画像評価と認知機能評価が重要である。<br>
147行目: 171行目:
遷延性無呼吸は、Succinylcholineの代謝障害などに関連するまれな副作用である。患者の自発呼吸が回復し安定するまでの間のマスク換気や気管内挿管が必要となる。<br>
遷延性無呼吸は、Succinylcholineの代謝障害などに関連するまれな副作用である。患者の自発呼吸が回復し安定するまでの間のマスク換気や気管内挿管が必要となる。<br>
頭痛は、ECT後約半数弱が自覚する最も頻度の多い副作用で、側頭筋や咬筋の通電による収縮や脳循環動態変化による疼痛と考えられ、非ステロイド系消炎鎮痛剤を用いる。<br>
頭痛は、ECT後約半数弱が自覚する最も頻度の多い副作用で、側頭筋や咬筋の通電による収縮や脳循環動態変化による疼痛と考えられ、非ステロイド系消炎鎮痛剤を用いる。<br>
筋肉痛は通電による筋肉の収縮やSuccinylcholineによる筋線維束攣縮によると考えられる。ほとんどが一過性であるが、持続性のものではSuccinylcholineの量を減量するか、筋弛緩薬を臭化ベクロニウムなどに変更する。<br>
筋肉痛は通電による筋肉の収縮やSuccinylcholineによる筋線維束攣縮によると考えられる。ほとんどが一過性であるが、持続性のものではSuccinylcholineの量を減量するか、筋弛緩薬をVecuroniumなどに変更する。<br>
嘔気は、麻酔薬、けいれん発作、手動換気時に胃内に流入した空気による胃内圧上昇などの影響によると考えられ、嘔気が強い場合はMetoclopramide、Domperidoneや制吐作用のあるフェノチアジン系抗精神病薬を使用する。<br>
嘔気は、麻酔薬、けいれん発作、手動換気時に胃内に流入した空気による胃内圧上昇などの影響によると考えられ、嘔気が強い場合はMetoclopramide、Domperidoneや制吐作用のあるフェノチアジン系抗精神病薬を使用する。<br>
歯科的損傷は、咬筋の収縮、人工換気、バイトブロックの挿入により起こりうる。ECTの術前検査として口腔内診察を行い、ぐらつきの強い歯や孤立した尖った歯がある場合は麻酔科医や歯科にコンサルトする必要がある。また咬傷の予防にバイトブロックを使用することが重要である。<br>
歯科的損傷は、咬筋の収縮、人工換気、バイトブロックの挿入により起こりうる。ECTの術前検査として口腔内診察を行い、ぐらつきの強い歯や孤立した尖った歯がある場合は麻酔科医や歯科にコンサルトする必要がある。また咬傷の予防にバイトブロックを使用することが重要である。<br>
168行目: 192行目:
===パスル波治療器での修正型ECTの手順===
===パスル波治療器での修正型ECTの手順===
 ECTを施行するためには、精神科関連学会の推奨事項(22)を参照し、ECT施行施設ごとにマニュアルを作成し各施設内でのECT手順が標準化されている必要がある。<br>
 ECTを施行するためには、精神科関連学会の推奨事項(22)を参照し、ECT施行施設ごとにマニュアルを作成し各施設内でのECT手順が標準化されている必要がある。<br>
施行場所は修正型電気けいれん療法の普及とともに、手術室やECT専用ユニットで実施されている施設が標準的となっている。国立精神神経医療研究センター病院のECT専用ユニット(図1)では、ECTを安全かつ効率よく実施するためにECT前室、ECT処置室、ECTリカバリー室が設置されている。ECT処置室には、100%酸素で陽圧換気が行うことのできる麻酔器、バイタサイン、心電図、酸素飽和度の自動モニター、ECT治療器、気管内挿管や万一の急変時に備える除細動器などが配置されている。<br>
ECT施行場所はmECTの普及とともに、手術室やECT専用ユニット(写真3)で実施される施設が一般的となっており、ECT専用ユニットでは、ECT前室、ECT処置室、ECTリカバリー室などが設置されることがある。ECT処置室には、100%酸素で陽圧換気が行うことのできる麻酔器、バイタサイン、心電図、酸素飽和度の自動モニター、ECT治療器、気管内挿管や万一の急変時に備える除細動器などが配置されている。<br>
【写真3】ECTユニットの例
当日は、手術に準じた本人確認、ECT同意書の確認、前処置が適切に行われたかの確認を行い、病棟で排尿とバイタルサインの測定、バイトブロックや換気で危険を伴うと予測される口腔内異物や歯の再確認、義歯・コンタクトレンズ・貴金属装飾品などを装着していないかの確認を行ってから、ストレッチャーでECT処置室へ移動する。<br>
当日は、手術に準じた本人確認、ECT同意書の確認、前処置が適切に行われたかの確認を行い、病棟で排尿とバイタルサインの測定、バイトブロックや換気で危険を伴うと予測される口腔内異物や歯の再確認、義歯・コンタクトレンズ・貴金属装飾品などを装着していないかの確認を行ってから、ストレッチャーでECT処置室へ移動する。<br>
ECT処置室では、精神科医師、麻酔科医師、看護師が協働しそれぞれの処置を行う。<br>
ECT処置室では、精神科医師、麻酔科医師、看護師が協働しそれぞれの処置を行う。<br>
乳酸リンゲル液などを用いて静脈ルートを確保し、呼吸循環モニターのため血圧計、心電図電極、パルスオキシメーターを装着しバイタルサインや酸素飽和度を確認し、通電後の発作を確認するためパルス波治療器の脳波電極、筋電図電極を装着する。<br>
乳酸リンゲル液などを用いて静脈ルートを確保し、呼吸循環モニターのため血圧計、心電図電極、パルスオキシメーターを装着しバイタルサインや酸素飽和度を確認し、通電後の発作を確認するためパルス波治療器の脳波電極、筋電図電極を装着する。<br>
通電刺激電極シール(サイマパッド)を装着する電極配置予定部位の皮膚は生理食塩水で湿らせたガーゼで良く拭いて乾かし、同部に通電を行うためのサイマパッドを付着させる。サイマトロン(図2)のセルフテストで静的インピーダンスの適切性(3000Ω以上では熱傷の可能性があり通電ができない)を確認し、脳波、筋電図が適切に記録されるか確認する。刺激強度であるサイマトロンの%を症例にあわせて設定しておく。サイマトロンでは、パルス幅、周波数の刺激変数の設定も可能だが、通常はプリセットされている刺激プログラムで行なわれている。<br>
通電刺激電極シール(サイマパッド)を装着する電極配置予定部位の皮膚は生理食塩水で湿らせたガーゼで良く拭いて乾かし、同部に通電を行うためのサイマパッドを付着させる。サイマトロンのセルフテストで静的インピーダンスの適切性(3000Ω以上では熱傷の可能性があり通電ができない)を確認し、脳波、筋電図が適切に記録されるか確認する。刺激強度であるサイマトロンの%を症例にあわせて設定しておく。サイマトロンでは、パルス幅、周波数の刺激変数の設定も可能だが、通常はプリセットされている刺激プログラムで行なわれている。<br>
麻酔科医は、100%酸素による十分な酸素投与を行いながら、麻酔導入を開始し、短時間作用型のthiopental(2-5㎎/kg)またはpropofol(0.75-1.5mg/kg) 等の静脈麻酔薬を投与して麻酔導入を行い、必要に応じて副交感神経反応抑制のための硫酸アトロピン(0.1mg/kg)の投与を行う。麻酔効果出現後、マスク換気などの人工換気に切り替え、Succinylcholine(0.5-1.5mg/kg) または臭化ベクロニウム(0.08-0.1mgkg)等の筋弛緩薬を投与し、Succinylcholineを用いた場合では筋線維束攣縮の出現を確認する。筋弛緩と十分な酸素化が確認された後、咬傷の予防のためマウスガード(バイトブロック)を口内に挿入し、口腔内での安全な固定を確認する。<br>
麻酔科医は、100%酸素による十分な酸素投与を行いながら、麻酔導入を開始し、短時間作用型のthiopentalやpropofol等の静脈麻酔薬を投与して麻酔導入を行い、必要に応じて副交感神経反応抑制のためのAtropine sulfaceの静脈投与を行う。麻酔効果出現後、マスク換気などの人工換気に切り替え、SuccinylcholineまたはVecuronium等の筋弛緩薬を投与し、Succinylcholineを用いた場合では筋線維束攣縮の出現を確認する。筋弛緩と十分な酸素化が確認された後、咬傷の予防のためマウスガード(バイトブロック)を口内に挿入し、口腔内での安全な固定を確認する。<br>
再度インピーダンスが3000Ω以下であることを確認してから、一時的に人工換気を中断し、精神科医が通電ボタンを押し通電を開始する。通電終了後、サイマトロンによる自動的な脳波記録が開始され、麻酔科医は人工換気を再開する。<br>
再度インピーダンスが3000Ω以下であることを確認してから、一時的に人工換気を中断し、精神科医が通電ボタンを押し通電を開始する。通電終了後、サイマトロンによる自動的な脳波記録が開始され、麻酔科医は人工換気を再開する。<br>
運動性のけいれんと脳波上のけいれん(図2)を確認し、けいれんの持続時間と波形の適切性を確認する。運動性のけいれんは、筋弛緩作用のため軽微かほぼ認めないこともあるが、片下肢にターニケットを巻いて実施することで筋電図上のけいれんを計測することができる。<br>
運動性のけいれんと脳波上のけいれん(写真4)を確認し、けいれんの持続時間と波形の適切性を確認する。運動性のけいれんは、筋弛緩作用のため軽微かほぼ認めないこともあるが、片下肢にターニケットを巻いて実施することで筋電図上のけいれんを計測することができる。<br>
通電後は、麻酔科医は十分なマスク換気での酸素投与の継続とともに、交感神経、副交感反応による脈拍や血圧変化等の全身反応に対し必要な処置を行う。<br>
通電後は、麻酔科医は十分なマスク換気での酸素投与の継続とともに、交感神経、副交感反応による脈拍や血圧変化等の全身反応に対し必要な処置を行う。<br>
筋弛緩薬と静脈麻酔薬の効果が消失し、自発呼吸再開後、十分な酸素投与を継続し、バイタルサインの正常化、簡単な会話など意識レベルの回復を確認したのち、ECT回復室にストレッチャーで移動する。意識レベルやバイタルサインが安定していることを確認した後に医師や看護師が付き添い酸素投与を継続しながら病棟に戻る。<br>
筋弛緩薬と静脈麻酔薬の効果が消失し、自発呼吸再開後、十分な酸素投与を継続し、バイタルサインの正常化、簡単な会話など意識レベルの回復を確認したのち、ECT回復室にストレッチャーで移動する。意識レベルやバイタルサインが安定していることを確認した後に医師や看護師が付き添い酸素投与を継続しながら病棟に戻る。<br>
病棟に帰棟後も慎重なバイタルサインと意識状態の観察を要すが、通常1時間程度で、酸素投与は終了し静脈留置針を抜去する。嚥下状態や歩行状態を確認し、問題がなければ、服薬や食事を再開し、ベッド上安静を解除する。<br>
病棟に帰棟後も慎重なバイタルサインと意識状態の観察を要すが、通常1時間程度で、酸素投与は終了し静脈留置針を抜去する。嚥下状態や歩行状態を確認し、問題がなければ、服薬や食事を再開し、ベッド上安静を解除する。<br>
通常ECTは週に2回ないし3回の頻度で行い、一連の治療セッション(1クール)は6~10回、最大12回行われる。完全な寛解が得られるか、過去数回の治療で効果が頭打ちになったところでECTを中止する。<br>
通常ECTは週に2回ないし3回の頻度で行い、一連の治療セッション(1クール)は6~10回、最大12回行われる。完全な寛解が得られるか、過去数回の治療で効果が頭打ちになったところでECTを中止する。<br>
(写真3)
(写真4)


==ECTを取り巻く課題と今後==
==ECTを取り巻く課題と今後==
従来型ECTは過去には電気ショック療法と呼ばれ、社会的な負のイメージが強かった。その背景には、過去の時代に、精神科医による適応を選ばないECTの乱用が少なからずあったと考えられることや、インフォームドコンンセントを得ずに精神科医の独断でECTが行われていたことが多かったことがある。<br>
従来型ECTは過去には電気ショック療法と呼ばれ、社会的な負のイメージが強かった。その背景には、薬物療法が開発される以前の時代から薬物療法の黎明期にかけて、適応を選ばないECTの乱用が少なからずあったと考えられることや、十分なインフォームドコンセントを得ずにECTが行われていた経緯がある。<br>
1975年に米国で公開された映画「カッコーの巣の上で」( One Flew Over the Cuckoo's Nest)には、精神病院入院中の患者に従来型ECTが行われ強直間代けいれんする懲罰的な様子が描写されている。この時代のECTはインフォームドコンセントが行われておらず、ECTを病院が患者の管理手段として乱用していた傾向があったことは否めない。<br>
1975年に米国で公開された映画「カッコーの巣の上で」( One Flew Over the Cuckoo's Nest)には、精神病院入院中の患者に従来型ECTが行われ強直間代けいれんする様子や患者側の恐怖が描かれており、この時代のECTはインフォームドコンセントが十分でなく、ECTを病院が患者の管理手段として乱用していた傾向があったことは否めない。<br>
また、わが国でも松本昭夫の手記「精神病棟の二十年」に、1960年代の精神病院の無麻酔でのサイン波治療器でのECTの様子が描写されており、大熊一夫「ルポ・精神病棟」には、1970年代の精神病院でECTが懲罰的に用いられ患者が強い恐怖を抱いていた様子が記載されている。更に近年では、特定の宗教団体が、ECTを非医療的に悪用した悪質な事件が起きている。<br>
また、本邦でも松本昭夫の手記「精神病棟の二十年」に、1960年代の精神病院の無麻酔でのサイン波治療器でのECTの様子が描写されている。<br>
現在は、APA等の各国の精神科学会や多くの精神科医が、「適切な適応の患者に十分なインフォームドコンセントを行い、適切な方法でトレーニングされた精神科医が行うECTはエビデンスに基づく治療である」と考えているが、未だ様々な領域でECTへの反対意見を持つ人は少なからずおり、現在でも一部の精神科医はECTを勧めない場合がある。
現在は、米国APAをはじめ各国の精神科学会や多くの精神科医が、「適切な適応の患者に十分なインフォームドコンセントを行い、トレーニングされた精神科医が適切な方法で行うECTはエビデンスに基づく治療である」と考えているが、未だ様々な領域でECTへの反対意見を持つ人は少なからずおり、一部の精神科医はECTに反対する立場をとる場合がある。<br>
ECTは従来型ECTからmECTへ、そしてパルス波治療器を用いたECTへと発展してきており、現在のECTは、静脈麻酔薬の使用、筋弛緩薬の使用、ECT中の十分な酸素化と呼吸循環モニターの使用が標準的になっている。<br>
ECTは従来型ECTからmECTへ、そしてパルス波治療器を用いたECTへと発展してきており、現在のECTは、静脈麻酔薬の使用、筋弛緩薬の使用、ECT中の十分な酸素化と呼吸循環モニターの使用が標準的になってきている。しかし、本邦での課題として、修正型ECTおよびパルス波治療器の普及がまだ不十分であることがあげられる。<br>
しかし、本邦での課題として未だに、修正型でない従来型のECTが行われうること、パルス波治療器の普及が不十分でサイン波治療器を用いたECTが行われうることの問題点がある。<br>
1991年に中島らにより行われたECTに関する精神神経学会に所属する精神科医への全国アンケート調査(90)では、約4割の精神科医が現在ECTを実施していたが、修正型ECTを施行している精神科医は15%程度で、インフォームドコンセントの取得も不十分であった。<br>
1991年に中島らにより行われたECTに関する精神神経学会に所属する精神科医への全国アンケート調査(90)では、約4割の精神科医が現在ECTを実施していたが、修正型ECTを施行している精神科医は15%程度で、インフォームドコンセントの取得も不十分であった。<br>
1997年~1999年に本橋らが行った、大学病院・国立病院を対象にしたアンケート調査(91)では、65%の施設でECTが行われ、mECTを行っている施設は80%であったが、mECTのみを行っている施設は33%で、約3分の2の施設で従来型ECTが用いられることがあった。民間精神病院の実態は不明で更に非修正型の割合が増えることが予測された。<br>
1997年~1999年に本橋らが行った、大学病院・国立病院を対象にしたアンケート調査(91)では、65%の施設でECTが行われ、mECTを行っている施設は80%であったが、mECTのみを行っている施設は33%で、約3分の2の施設で従来型ECTが用いられていた。また本調査では大学病院・国立病院へのアンケート調査で調査対象が本邦の精神科医療機関を網羅しておらず、従来型ECTの正確な使用割合は不明であった。<br>
2009年に日本精神神経学会精神科専門医制度研修施設を対象に行われた一瀬らの調査(92)では、ECTを行っている施設は40%で、mECTのみを実施している施設は37.9%、静脈麻酔薬は使用するが筋弛緩薬は使用しないECTを行っている施設は44.9%で、静脈麻酔薬も使用しないECTを行っている施設も3.7%存在していた。<br>
2009年に日本精神神経学会精神科専門医制度研修施設を対象に行われた一瀬らの調査(92)では、ECTを行っている施設は40%で、mECTのみを実施している施設は37.9%、静脈麻酔薬は使用するが筋弛緩薬は使用しないECTを行っている施設は44.9%で、静脈麻酔薬も使用しないECTを行っている施設も3.7%存在していた。<br>
治療器に関しては、パルス波治療器のみを使用している施設は24%で、パルス波とサイン波治療器の双方を使用している施設は20.8%、サイン波治療器のみを使用している施設は51%だった。<br>
治療器に関しては、パルス波治療器のみを使用している施設は24%で、パルス波とサイン波治療器の双方を使用している施設は20.8%、サイン波治療器のみを使用している施設は51%だった。<br>
このように年々mECTが行われる割合やパルス波治療器が用いられる割合は増加しているものの、本邦では未だに従来型ECTやサイン波治療器でのECTが行われている。
mECTは麻酔科医の配置や手術室に準じた施設が必要となるために限られた医療機関でしか行えない治療であり、地域の精神病院と麻酔科医の配置が可能な総合病院との医療連携の強化の必要性が指摘されている(92)。<br>
安全性の高いパルス波治療器でのmECTをさらに普及させていく必要があるが、mECTは麻酔科医の配置や手術室に準じた施設が必要となるために限られた医療機関でしか行えない治療であり、地域の精神病院と麻酔科医の配置が可能な総合病院との医療連携の強化の必要性が指摘されている(92)。<br>
このような調査からは、mECTが行われる割合やパルス波治療器が用いられる割合は年々増加しているものの、本邦での普及はまだ不十分で、ECTの標準化は以前からの大きな課題であったことから関連学会がECT講習会を定期的に開催し均てん化を行っている。<br>
研究面におけるECTにおける最大の課題は先述したECTの作用機序である。ECT前後での脳画像研究、生体内物質の変化、遺伝子発現の変化など、作用機序について世界中で研究がされているが、未だ作用機序は未解明のままである。ECTの作用機序を解明することは、うつ病の本質的な病態の解明につながる可能性もあり非常に重要な課題である。
臨床的な課題としては、先述した100%での刺激強度でも発作が不発または発作不十分な患者が存在することが指摘されていることがある。現在は、手技的な工夫や麻酔薬の変更などの個々の施設の工夫で対処されているが、ECTを必要とし希望している患者に対し臨床的効果のあるECTを提供場合があり解決が求められている。<br>
 臨床的な課題は、これも先述したECTの急性期効果後の効果の長期的維持に関する限界と最適な維持療法の模索である。またECT治療は現在のところ入院治療による管理が必要でありアクセスビリティがよくないため外来で行う維持ECTが可能であるかの検討も行われる必要がある。<br>
また、これも先述したECTでは急性期効果後の効果の長期的維持に関する限界があるが、ECTによる急性期症状改善後の再燃・再発を予防する最適な維持療法についての模索も大きな課題となっている。<br>
ECTの発展形として直接的に電気を用いないけいれん療法が提案されてきている。磁気によってけいれんを誘発し認知機能障害がより少ないとされる磁気けいれん療法(Magnetic seizure therapy: MST)や焦点を絞った通電が可能となるFocal electrically administered seizure therapy(FEAST)などが開発され研究段階にある。<br>
研究面におけるECTにおける最大の課題は先述したECTの作用機序である。ECT前後での脳画像研究、生体内物質の変化、遺伝子発現の変化など、作用機序について世界各国で研究がされているが、未だ作用機序は未解明のままである。ECTの作用機序を解明することは、うつ病の本質的な病態の解明につながる可能性もあり非常に重要な課題である。<br>
 ECTのアクセシビリティの課題としては、ECT治療は現在のところ入院治療による管理が必要であり、継続・維持ECT施行の際もその都度入院管理が必要となるため、アクセスビリティが良いとは言えず、今後外来ECTを行うことが特に安全性において可能であるかという検討が求められる。<br>
ECTの発展形として直接的に電気を用いないけいれん療法も提案されてきている。磁気によってけいれんを誘発し認知機能障害がより少ないとされる磁気けいれん療法(Magnetic seizure therapy: MST)や焦点を絞った通電が可能となるFocal electrically administered seizure therapy(FEAST)などが開発され研究段階にある。<br>


【参考文献】<br>
【参考文献】<br>
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