16,040
回編集
細 (→ヘッジホッグ関連遺伝子と疾患) |
細編集の要約なし |
||
1行目: | 1行目: | ||
英語名:Sonic Hedgehog 英略称:Shh | 英語名:Sonic Hedgehog 英略称:Shh | ||
{{box|text= ソニック・ヘッジホッグは細胞外シグナル因子の1つで、胚発生において細胞の増殖や分化、四肢の発生、神経細胞の誘引に働くほか、成体期においては幹細胞性の維持や腫瘍形成などに関与する多機能タンパク質である<ref><pubmed>23719536</pubmed></ref><ref><pubmed>25183867</pubmed></ref><ref><pubmed>18794343</pubmed></ref> 。}} | {{box|text= ソニック・ヘッジホッグは細胞外シグナル因子の1つで、胚発生において細胞の増殖や分化、四肢の発生、神経細胞の誘引に働くほか、成体期においては幹細胞性の維持や腫瘍形成などに関与する多機能タンパク質である<ref name=ref1><pubmed>23719536</pubmed></ref><ref><pubmed>25183867</pubmed></ref><ref name=ref3><pubmed>18794343</pubmed></ref> 。}} | ||
== 発見の歴史 == | == 発見の歴史 == | ||
7行目: | 7行目: | ||
一方、1990年の前半に[[脊椎動物]]においても3つのヘッジホッグ相同遺伝子が単離され、そのうちdesert hedgehog(Dhh)とindian hedgehog(Ihh)は実在するハリネズミの亜種から、sonic hedgehog(Shh)はテレビゲームのキャラクターからそれぞれ命名された。Dhhは精子形成に<ref><pubmed>11090455</pubmed></ref> 、Ihhが軟骨細胞の形成・増殖にそれぞれ重要な役割を果たす<ref><pubmed>21364421</pubmed></ref><ref><pubmed>10631175</pubmed></ref> 一方で、Shh<ref><pubmed>8269518</pubmed></ref><ref><pubmed>8269519</pubmed></ref><ref><pubmed>7916661</pubmed></ref> は中枢神経系や四肢形成をはじめとする胚発生(器官発生)の多くに重要であることが示され、現在ヘッジホッグ関連遺伝子の中で最も解析が進んでいる。その後、[[ヒト]]でShhは全[[前脳胞]]症(全[[前脳]]症;holoprosencephaly)の原因遺伝子として同定され<ref><pubmed>8896572</pubmed></ref> 、実際に遺伝子欠損[[マウス]]から神経発生とパターン形成に必須の役割を果たすことが証明された<ref><pubmed>8837770</pubmed></ref> 。 | 一方、1990年の前半に[[脊椎動物]]においても3つのヘッジホッグ相同遺伝子が単離され、そのうちdesert hedgehog(Dhh)とindian hedgehog(Ihh)は実在するハリネズミの亜種から、sonic hedgehog(Shh)はテレビゲームのキャラクターからそれぞれ命名された。Dhhは精子形成に<ref><pubmed>11090455</pubmed></ref> 、Ihhが軟骨細胞の形成・増殖にそれぞれ重要な役割を果たす<ref><pubmed>21364421</pubmed></ref><ref><pubmed>10631175</pubmed></ref> 一方で、Shh<ref><pubmed>8269518</pubmed></ref><ref><pubmed>8269519</pubmed></ref><ref><pubmed>7916661</pubmed></ref> は中枢神経系や四肢形成をはじめとする胚発生(器官発生)の多くに重要であることが示され、現在ヘッジホッグ関連遺伝子の中で最も解析が進んでいる。その後、[[ヒト]]でShhは全[[前脳胞]]症(全[[前脳]]症;holoprosencephaly)の原因遺伝子として同定され<ref><pubmed>8896572</pubmed></ref> 、実際に遺伝子欠損[[マウス]]から神経発生とパターン形成に必須の役割を果たすことが証明された<ref><pubmed>8837770</pubmed></ref> 。 | ||
== | ==ファミリー== | ||
ソニック・ヘッジホッグ遺伝子からはまず45kDa程度のポリペプチドが前駆体として転写・[[翻訳]]される。このポリペプチドは小胞体に運ばれ、アミノ末端とカルボキシル末端の2つの部分に分解され、分泌されてその活性を発揮するのはアミノ末端側のポリペプチド(ShhN; 19kDa程度)である<ref><pubmed>21357747</pubmed></ref> 。一方カルボキシル末端側(ShhC)はこの分解を制御するほか、[[コレステロール]]転移酵素としてアミノ末端側フラグメントの修飾に寄与する<ref><pubmed>15189162</pubmed></ref> 。ShhNにはパルミチン酸(アミノ末端)とコレ[[ステロール]](カルボキシル末端)が付加されるが、これらの修飾はShhNの効率的な分泌と、組織内での適切な分布に重要である<ref><pubmed>16611729</pubmed></ref><ref><pubmed>11486055</pubmed></ref><ref><pubmed>15075292</pubmed></ref><ref><pubmed>8824192</pubmed></ref><ref><pubmed>11389830</pubmed></ref><ref><pubmed>23112049</pubmed></ref> 。たとえば細胞内コレステロール輸送に関与する遺伝子NPC1/2に変異が生じると[[リソソーム]]にコレステロールが蓄積するためにShhNに十分なコレステロールが供給されずに修飾不全となり、効率的な分泌が不可能になってしまう。C型Niemann-Pick syndrome(C型ニーマン・ピック病)はこのNPC1/2遺伝子の変異に起因する遺伝性疾患であり、[[小脳]]の不完全形成や肝不全、[[発達障害]]や運動障害、新生児黄疸などの重篤な小児障害を引き起こす<ref><pubmed>9211850</pubmed></ref><ref><pubmed>22902404</pubmed></ref> 。 | ==構造== | ||
[[|サムネイル|(図3)Gliタンパク質の構造(<ref name=ref31><pubmed></pubmed></ref><ref name=ref34><pubmed></pubmed></ref>を改変した)アミノ酸番号は、マウスのものである。*はPKAによるリン酸化サイト、ZnF:Znフィンガー、矢頭は分解されて転写抑制型を生じるサイト。<ref name=ref34><pubmed></pubmed></ref>]] | |||
==プロセシングと分泌 == | |||
ソニック・ヘッジホッグ遺伝子からはまず45kDa程度のポリペプチドが前駆体として転写・[[翻訳]]される。このポリペプチドは小胞体に運ばれ、アミノ末端とカルボキシル末端の2つの部分に分解され、分泌されてその活性を発揮するのはアミノ末端側のポリペプチド(ShhN; 19kDa程度)である<ref><pubmed>21357747</pubmed></ref> 。一方カルボキシル末端側(ShhC)はこの分解を制御するほか、[[コレステロール]]転移酵素としてアミノ末端側フラグメントの修飾に寄与する<ref><pubmed>15189162</pubmed></ref> 。ShhNにはパルミチン酸(アミノ末端)とコレ[[ステロール]](カルボキシル末端)が付加されるが、これらの修飾はShhNの効率的な分泌と、組織内での適切な分布に重要である<ref><pubmed>16611729</pubmed></ref><ref><pubmed>11486055</pubmed></ref><ref><pubmed>15075292</pubmed></ref><ref><pubmed>8824192</pubmed></ref><ref><pubmed>11389830</pubmed></ref><ref><pubmed>23112049</pubmed></ref> 。たとえば細胞内コレステロール輸送に関与する遺伝子NPC1/2に変異が生じると[[リソソーム]]にコレステロールが蓄積するためにShhNに十分なコレステロールが供給されずに修飾不全となり、効率的な分泌が不可能になってしまう。C型Niemann-Pick syndrome(C型ニーマン・ピック病)はこのNPC1/2遺伝子の変異に起因する遺伝性疾患であり、[[小脳]]の不完全形成や肝不全、[[発達障害]]や運動障害、新生児黄疸などの重篤な小児障害を引き起こす<ref><pubmed>9211850</pubmed></ref><ref name=ref24><pubmed>22902404</pubmed></ref> 。 | |||
分解と修飾によって成熟型となったShhNは細胞から分泌されるが、その分泌には[[膜タンパク質]]Dispatchedと、分泌因子Scubeの存在が必要である<ref | 分解と修飾によって成熟型となったShhNは細胞から分泌されるが、その分泌には[[膜タンパク質]]Dispatchedと、分泌因子Scubeの存在が必要である<ref name=ref24></ref> 。 | ||
この分泌経路のほかに最近、Shhタンパク質がサイトニーム(cytoneme)と呼ばれる突起上の[[細胞膜]]構造の先端まで運搬され、そこで小胞を形成して細胞外へ分泌されるという経路が提唱されている。サイトニームは糸状仮足(filopodia)が長く変形した形状をしており、内部には[[アクチン]]が含まれている。ショウジョウバエの翅原基(wing disc)ではヘッジホッグを産生する細胞がこのような構造を持っており<ref><pubmed>10367889</pubmed></ref> 、発現部位から遠い細胞までシグナルを届けている<ref | この分泌経路のほかに最近、Shhタンパク質がサイトニーム(cytoneme)と呼ばれる突起上の[[細胞膜]]構造の先端まで運搬され、そこで小胞を形成して細胞外へ分泌されるという経路が提唱されている。サイトニームは糸状仮足(filopodia)が長く変形した形状をしており、内部には[[アクチン]]が含まれている。ショウジョウバエの翅原基(wing disc)ではヘッジホッグを産生する細胞がこのような構造を持っており<ref><pubmed>10367889</pubmed></ref> 、発現部位から遠い細胞までシグナルを届けている<ref name=ref1></ref><ref><pubmed>23276604</pubmed></ref><ref><pubmed>25483805</pubmed></ref><ref><pubmed>25472772</pubmed></ref> ほか、近年脊椎[[動物]]でもその存在が知られるようになった<ref><pubmed>23624372</pubmed></ref> 。 | ||
== Ptc-Smo- | ==シグナル経路== | ||
=== Ptc-Smo-Gli経路 === | |||
ソニック・ヘッジホッグによる主要な細胞内シグナル経路は、2つの膜タンパク質 – 12回膜貫通型Patched(Ptc)と7回膜貫通型のGタンパク質共役受容体(G-protein coupled receptor; [[GPCR]])の1つSmoothened(Smo) − によって仲介されている。Patchedは細胞膜の中でも特に1次繊毛と呼ばれる細胞の突起部分に局在し、Shhと直接結合する。いったんShhがPtcに結合するとShh/Ptc複合体は繊毛から細胞膜へと移動する<ref><pubmed>17641202</pubmed></ref> 。一方、もう1つの膜タンパク質Smoは、細胞がShhに暴露されていないときには繊毛の周辺の細胞膜上に存在するが、細胞がShhによって刺激され、Shh/Ptc複合体が繊毛から退去すると、代わりに繊毛内へと進入する。 | ソニック・ヘッジホッグによる主要な細胞内シグナル経路は、2つの膜タンパク質 – 12回膜貫通型Patched(Ptc)と7回膜貫通型のGタンパク質共役受容体(G-protein coupled receptor; [[GPCR]])の1つSmoothened(Smo) − によって仲介されている。Patchedは細胞膜の中でも特に1次繊毛と呼ばれる細胞の突起部分に局在し、Shhと直接結合する。いったんShhがPtcに結合するとShh/Ptc複合体は繊毛から細胞膜へと移動する<ref><pubmed>17641202</pubmed></ref> 。一方、もう1つの膜タンパク質Smoは、細胞がShhに暴露されていないときには繊毛の周辺の細胞膜上に存在するが、細胞がShhによって刺激され、Shh/Ptc複合体が繊毛から退去すると、代わりに繊毛内へと進入する。 | ||
23行目: | 27行目: | ||
Gli1-3は多くの臓器に発現しているためにそれらの遺伝子変異マウスの表現型も多様であり<ref><pubmed>9731531</pubmed></ref> 、神経系で強い表現型が現れるものもある。Gli2変異マウスでは、Shhシグナルの影響を受ける[[底板]]とV3[[介在神経]]領域の[[分化]]が抑制され、パターン形成に異常が生じて出生直後に死亡する<ref><pubmed>9636069</pubmed></ref> 。一方、Gli3変異マウスでは、主に脳領域でShhシグナルがむしろ亢進した表現型になるため<ref><pubmed>8387379</pubmed></ref><ref><pubmed>11017169</pubmed></ref> 、Gli3が主に転写抑制型として働くことが示唆される。Gli1単独の変異マウスでは神経系では大きな表現型が見つかっていないが、Gli2変異による表現型をGli1のノックインによって相補することができるため、Gli2の転写活性型と同様の働きをしていると考えられる<ref><pubmed>10725236</pubmed></ref><ref><pubmed>11748151</pubmed></ref> 。 | Gli1-3は多くの臓器に発現しているためにそれらの遺伝子変異マウスの表現型も多様であり<ref><pubmed>9731531</pubmed></ref> 、神経系で強い表現型が現れるものもある。Gli2変異マウスでは、Shhシグナルの影響を受ける[[底板]]とV3[[介在神経]]領域の[[分化]]が抑制され、パターン形成に異常が生じて出生直後に死亡する<ref><pubmed>9636069</pubmed></ref> 。一方、Gli3変異マウスでは、主に脳領域でShhシグナルがむしろ亢進した表現型になるため<ref><pubmed>8387379</pubmed></ref><ref><pubmed>11017169</pubmed></ref> 、Gli3が主に転写抑制型として働くことが示唆される。Gli1単独の変異マウスでは神経系では大きな表現型が見つかっていないが、Gli2変異による表現型をGli1のノックインによって相補することができるため、Gli2の転写活性型と同様の働きをしていると考えられる<ref><pubmed>10725236</pubmed></ref><ref><pubmed>11748151</pubmed></ref> 。 | ||
Shhシグナルのターゲット遺伝子として代表的なものは、[[神経前駆細胞]]におけるOlig2やNkx2.2, FoxA2のように細胞の個性付けに関与する転写因子、またShhシグナルに直接関与するもの(Ptc, Gli1)などである<ref | Shhシグナルのターゲット遺伝子として代表的なものは、[[神経前駆細胞]]におけるOlig2やNkx2.2, FoxA2のように細胞の個性付けに関与する転写因子、またShhシグナルに直接関与するもの(Ptc, Gli1)などである<ref name=ref1></ref><ref name=ref3></ref> 。 | ||
先に述べたようにShhシグナルには細胞膜上に形成される1次繊毛の存在が必須である。1次繊毛に形成不全が生じるとShhシグナルが細胞に導入されず、結果として[[神経管]]はShh遺伝子変異マウスに類似した表現型になる<ref><pubmed>23799571</pubmed></ref> 。また、Gli3の不活性型を生じるプロセシングにはPKAが必要であり、PKA遺伝子のノックアウトはShhシグナルの異常亢進を反映した表現型となる<ref><pubmed>11886853</pubmed></ref> 。 | 先に述べたようにShhシグナルには細胞膜上に形成される1次繊毛の存在が必須である。1次繊毛に形成不全が生じるとShhシグナルが細胞に導入されず、結果として[[神経管]]はShh遺伝子変異マウスに類似した表現型になる<ref><pubmed>23799571</pubmed></ref> 。また、Gli3の不活性型を生じるプロセシングにはPKAが必要であり、PKA遺伝子のノックアウトはShhシグナルの異常亢進を反映した表現型となる<ref><pubmed>11886853</pubmed></ref> 。 | ||
29行目: | 33行目: | ||
Shh-Ptc-Smo-Gliを主軸とするShhシグナルを制御する調節因子の存在も知られている。SuFu(Suppressor of Fused)は[[cAMP]]依存的にGli2/3と結合して、タンパク質の安定化と抑制型を産出する<ref><pubmed>20360384</pubmed></ref> 。そのほかにGPR161(Gタンパク質共役受容体)のように繊毛に局在してそのcAMP濃度を上昇させ、Shhシグナルを負に制御する因子の存在も知られている<ref><pubmed>16459298</pubmed></ref><ref><pubmed>20956384</pubmed></ref><ref><pubmed>23332756</pubmed></ref> 。さらに最近、Shhが細胞に到達すると[[カルシウムイオン]]がTRPチャネルを介して繊毛内に流入し、アデニルシクラーゼ(AC5/6)の活性が阻害されることによって繊毛内のcAMP濃度が低下し、結果的にGliが活性化されるという現象が報告された<ref><pubmed>24336288</pubmed></ref><ref><pubmed>27799542</pubmed></ref> 。これらをはじめとして、20種類程度のタンパク質がShhシグナルの伝達を正または負に制御している<ref><pubmed>17662951</pubmed></ref> 。調節因子が多数存在する理由としては、Shhの活性が細胞依存的であることや、Shhは[[細胞増殖]]も制御するために細胞ががん化する危険があり、シグナル活性を厳密に制御する必要があることなどが考えられる<ref><pubmed>23799571</pubmed></ref> 。 | Shh-Ptc-Smo-Gliを主軸とするShhシグナルを制御する調節因子の存在も知られている。SuFu(Suppressor of Fused)は[[cAMP]]依存的にGli2/3と結合して、タンパク質の安定化と抑制型を産出する<ref><pubmed>20360384</pubmed></ref> 。そのほかにGPR161(Gタンパク質共役受容体)のように繊毛に局在してそのcAMP濃度を上昇させ、Shhシグナルを負に制御する因子の存在も知られている<ref><pubmed>16459298</pubmed></ref><ref><pubmed>20956384</pubmed></ref><ref><pubmed>23332756</pubmed></ref> 。さらに最近、Shhが細胞に到達すると[[カルシウムイオン]]がTRPチャネルを介して繊毛内に流入し、アデニルシクラーゼ(AC5/6)の活性が阻害されることによって繊毛内のcAMP濃度が低下し、結果的にGliが活性化されるという現象が報告された<ref><pubmed>24336288</pubmed></ref><ref><pubmed>27799542</pubmed></ref> 。これらをはじめとして、20種類程度のタンパク質がShhシグナルの伝達を正または負に制御している<ref><pubmed>17662951</pubmed></ref> 。調節因子が多数存在する理由としては、Shhの活性が細胞依存的であることや、Shhは[[細胞増殖]]も制御するために細胞ががん化する危険があり、シグナル活性を厳密に制御する必要があることなどが考えられる<ref><pubmed>23799571</pubmed></ref> 。 | ||
== | === ほかの経路 === | ||
Shhは交連神経細胞のガイダンスに必須である<ref><pubmed>15746914</pubmed></ref><ref><pubmed>19447091</pubmed></ref><ref><pubmed>12679031</pubmed></ref> 。Shhは神経のガイダンス因子として知られるNetrinと協調して働き、交連神経が脊髄正中(midline)を交差するのに必要である<ref><pubmed>12679031</pubmed></ref> 。このガイダンスにはPtc/SmoではなくHIP(hedgehog interacting protein)がShhの受容体になっており<ref><pubmed>15746914</pubmed></ref> 、さらに細胞内ではSFKというキナーゼが活性化されている<ref><pubmed>19447091</pubmed></ref> 。また、繊維芽細胞の化学遊走にもShhが関与しているという報告があり、さらにこの現象においてはSmoが繊毛に局在しなくても細胞内シグナルが惹起されるため、従来とは異なるメカニズムが示唆されている<ref><pubmed>22912493</pubmed></ref> 。 | Shhは交連神経細胞のガイダンスに必須である<ref><pubmed>15746914</pubmed></ref><ref><pubmed>19447091</pubmed></ref><ref><pubmed>12679031</pubmed></ref> 。Shhは神経のガイダンス因子として知られるNetrinと協調して働き、交連神経が脊髄正中(midline)を交差するのに必要である<ref><pubmed>12679031</pubmed></ref> 。このガイダンスにはPtc/SmoではなくHIP(hedgehog interacting protein)がShhの受容体になっており<ref><pubmed>15746914</pubmed></ref> 、さらに細胞内ではSFKというキナーゼが活性化されている<ref><pubmed>19447091</pubmed></ref> 。また、繊維芽細胞の化学遊走にもShhが関与しているという報告があり、さらにこの現象においてはSmoが繊毛に局在しなくても細胞内シグナルが惹起されるため、従来とは異なるメカニズムが示唆されている<ref><pubmed>22912493</pubmed></ref> 。 | ||
== | ==神経系での機能== | ||
Shhと神経系について最も研究が進んでいるのは神経分化における役割である。1991年、Thomas M Jessellと山田俊哉は、脊策(notochord)を神経管の別の場所に移植し、移植した周辺領域の細胞が底板(floor plate)や運動神経(motor neuron)に異所的に分化することを発見し、脊策と底板から分化誘導因子が分泌されていることを示した<ref><pubmed>1991324</pubmed></ref><ref><pubmed>8500163</pubmed></ref> 。その後、この分泌因子がShhであること<ref><pubmed>8124714</pubmed></ref> 、さらにShhが神経管内で濃度勾配を形成することが明らかとなった<ref><pubmed>7736596</pubmed></ref><ref><pubmed>20066087</pubmed></ref> 。Shhは中枢神経系の中でも底板(floor plate)やその下部に存在する中胚葉系の組織(脊索:notochord)の細胞で発現し、発現細胞の周辺で濃度勾配を形成、モルフォゲンとし働いて濃度依存的に運動神経や介在神経の前駆細胞を誘導する(詳細は別項で議論する)。 | Shhと神経系について最も研究が進んでいるのは神経分化における役割である。1991年、Thomas M Jessellと山田俊哉は、脊策(notochord)を神経管の別の場所に移植し、移植した周辺領域の細胞が底板(floor plate)や運動神経(motor neuron)に異所的に分化することを発見し、脊策と底板から分化誘導因子が分泌されていることを示した<ref><pubmed>1991324</pubmed></ref><ref><pubmed>8500163</pubmed></ref> 。その後、この分泌因子がShhであること<ref><pubmed>8124714</pubmed></ref> 、さらにShhが神経管内で濃度勾配を形成することが明らかとなった<ref><pubmed>7736596</pubmed></ref><ref><pubmed>20066087</pubmed></ref> 。Shhは中枢神経系の中でも底板(floor plate)やその下部に存在する中胚葉系の組織(脊索:notochord)の細胞で発現し、発現細胞の周辺で濃度勾配を形成、モルフォゲンとし働いて濃度依存的に運動神経や介在神経の前駆細胞を誘導する(詳細は別項で議論する)。 | ||