「電気けいれん療法」の版間の差分

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 臨床的には、適応となる診断とその症状特性や重症度などの状態像からECTの適応を判断することになる。
 臨床的には、適応となる診断とその症状特性や重症度などの状態像からECTの適応を判断することになる。


 たとえば、うつ病はECTの主要な適応となる疾患であるが、軽症であれば基本的にECTが選択されることはない。ECTの一次的適応が考慮される状態として、食事摂取困難や[[拒食]]による低栄養・脱水が進行し生命にかかわる可能性がある場合、[[自殺]]企図など患者に生命の危険の差し迫った重篤な症状が存在し迅速な症状改善を要する場合など、[[抗うつ薬]]が効いてくるまでの時間的余裕がない場合にはECTの優先順位は高くなりECTは切り札的な治療として一次的に実施されることがある。また、薬物療法のリスクや催奇形性が問題となる妊娠、薬物忍容性の乏しい高齢者、薬物療法の副作用や身体合併症などから他の治療よりECTのほうが高い安全性があると個別に判断される場合もECTが考慮される場合がある。
 たとえば、うつ病はECTの主要な適応となる疾患であるが、軽症であれば基本的にECTが選択されることはない。ECTの一次的適応が考慮される状態として、食事摂取困難や[[拒食]]による低栄養・脱水が進行し生命にかかわる可能性がある場合、[[自殺]]企図など患者に生命の危険の差し迫った重篤な症状が存在し迅速な症状改善を要する場合など、[[抗うつ薬]]が効いてくるまでの時間的余裕がない場合にはECTの優先順位は高くなりECTは切り札的な治療として一次的に実施されることがある。また、薬物療法のリスクや催奇形性が問題となる妊娠、薬物忍容性の乏しい高齢者、薬物療法の副作用や身体合併症などから他の治療よりECTのほうが高い安全性があると個別に判断される場合もECTが考慮されることがある。


 米国精神医学会によるECTの二次的な適応<ref name=ref8 />としては、薬物療法への強い治療抵抗性があり遷延している場合、薬物治療の忍容性が低く十分な薬物療法が行えずECTの忍容性が優れる場合、薬物治療中の精神症状や身体状態の悪化により迅速で確実な治療反応が必要な場合などが挙げられており、薬物治療抵抗性または不忍容のうつ病、躁病、統合失調症でもECTの適応が検討されることがある。
 米国精神医学会によるECTの二次的な適応<ref name=ref8 />としては、薬物療法への強い治療抵抗性があり遷延している場合、薬物治療の忍容性が低く十分な薬物療法が行えずECTの忍容性が優れる場合、薬物治療中の精神症状や身体状態の悪化により迅速で確実な治療反応が必要な場合などが挙げられており、薬物治療抵抗性または不忍容のうつ病、躁病、統合失調症でもECTの適応が検討されることがある。
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* 最近起きた[[脳梗塞]]
* 最近起きた[[脳梗塞]]
* 重度の[[wj:慢性閉塞性肺疾患|慢性閉塞性肺疾患]]、[[wj:喘息|喘息]]、[[wj:肺炎|肺炎]]のような呼吸器系疾患
* 重度の[[wj:慢性閉塞性肺疾患|慢性閉塞性肺疾患]]、[[wj:喘息|喘息]]、[[wj:肺炎|肺炎]]のような呼吸器系疾患
* 米国麻酔学会水準4または5と評価される状態(ECTにより脳出血後まもない患者では再出血の危険性がある、発作による[[交感神経系]]の活性化による血圧上昇、頻脈により最近起きた心筋梗塞患者では[[wj:心室性不整脈|心室性不整脈]]や[[wj:心破裂|心破裂]]の危険性がある、修正型ECTは麻酔下において治療が行われるため麻酔危険度を設定する必要がある)
* 米国麻酔学会水準4または5と評価される状態(ECTにより脳出血後まもない患者では再出血の危険性がある、発作による[[交感神経系]]の活性化に伴う血圧上昇、頻脈により最近起きた心筋梗塞患者では[[wj:心室性不整脈|心室性不整脈]]や[[wj:心破裂|心破裂]]の危険性がある、修正型ECTは麻酔下において治療が行われるため麻酔危険度を設定する必要がある)


が挙げられている。
が挙げられている。
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 このようにECTは気分障害のうつ状態に対し高い有効性を持つが、同時に双極性障害の躁状態への有効性も知られている。躁状態への比較対照研究は少ないものの、ECTの抗躁効果は確立しており、Mckherjeeらは過去50年間にECTを施行された約600例の急性躁病患者の転機を調査し、約80%が著明改善または完全寛解したことを報告しており<ref name=ref39><pubmed>8296883</pubmed></ref>、躁鬱混合状態への有効性も報告されている<ref name=ref40><pubmed>10735329</pubmed></ref>。ECTが抗躁効果を示すためにはうつ状態より時間がかかり両側性でうつ病より多い治療回数が必要とされている<ref name=ref43>'''Grunze H, Erfurth A, Schafer M et al'''<br>Elektrokonvulsiontherapie in der Behandlung der schweren Manie: Kasuistik und Wissensstand<br>''Nervenarzt'', 70 : 662-667, 1999</ref>。
 このようにECTは気分障害のうつ状態に対し高い有効性を持つが、同時に双極性障害の躁状態への有効性も知られている。躁状態への比較対照研究は少ないものの、ECTの抗躁効果は確立しており、Mckherjeeらは過去50年間にECTを施行された約600例の急性躁病患者の転機を調査し、約80%が著明改善または完全寛解したことを報告しており<ref name=ref39><pubmed>8296883</pubmed></ref>、躁鬱混合状態への有効性も報告されている<ref name=ref40><pubmed>10735329</pubmed></ref>。ECTが抗躁効果を示すためにはうつ状態より時間がかかり両側性でうつ病より多い治療回数が必要とされている<ref name=ref43>'''Grunze H, Erfurth A, Schafer M et al'''<br>Elektrokonvulsiontherapie in der Behandlung der schweren Manie: Kasuistik und Wissensstand<br>''Nervenarzt'', 70 : 662-667, 1999</ref>。


 重症躁病や薬物治療抵抗性の遷延性躁状態ではECTの適応がある<ref name=ref41><pubmed>23773266</pubmed></ref> <ref name=ref42><pubmed>22986995</pubmed></ref>が、躁状態では意識障害、頭部外傷、[[wj:HIV|HIV]]感染等の器質疾患のECT前の鑑別に十分な注意を要する。躁状態に対して施行する問題点としては、患者本人からの同意が得にくいこと<ref name=ref44><pubmed>7694934</pubmed></ref>、覚醒状態でECT施行室に搬送することが困難であることが挙げられる。
 重症躁病や薬物治療抵抗性の遷延性躁状態ではECTの適応がある<ref name=ref41><pubmed>23773266</pubmed></ref> <ref name=ref42><pubmed>22986995</pubmed></ref>が、躁状態では意識障害、頭部外傷、[[wj:HIV|HIV]]感染等の器質疾患のECT前の鑑別に十分な注意を要する。躁状態に対して施行する問題点としては、患者本人からの同意が得られにくいこと<ref name=ref44><pubmed>7694934</pubmed></ref>、覚醒状態でECT施行室に搬送することが困難であることが挙げられる。


 またECTはカタトニアへの高い効果も知られている。カタトニアを呈する疾患として、統合失調症の緊張病型がよく知られるが、カタトニアは様々な疾患で起きうる症候群であり、躁状態やうつ状態、[[抗NMDA受容体抗体脳炎]]などの器質性精神疾患<ref name=ref45><pubmed>19884605</pubmed></ref>、[[自閉症スペクトラム障害]]<ref name=ref48><pubmed>24643578 </pubmed></ref>などでも起こりうる。カタトニアの[[ロラゼパム]]での寛解率は80~100%と高いため<ref name=ref45 />、通常のカタトニアではロラゼパム等の[[ベンゾジアゼピン系]]薬剤が優先して使用され、治療抵抗性の場合にECTが検討されるが、生命に危険の強い悪性緊張病ではECTは一時的治療選択になりうる<ref name=ref46><pubmed>25538636</pubmed></ref>。5つの研究でのECTでのカタトニアの寛解率は82~96%と報告されており<ref name=ref45 />、統合失調症、気分障害、[[統合失調感情障害]]、[[器質性精神障害]]を含む28例のカタトニアにECT<ref name=ref47><pubmed>8126312</pubmed></ref>を行った研究では、93%が緊張病症状消失がみられ、特に気分障害におけるカタトニアの寛解率は96%と高かったと報告されている。自閉症スペクトラム障害に伴うカタトニア<ref name=ref48 />や抗NMDA受容体抗体脳炎に伴うカタトニアへのECTの有効性の知見の蓄積はまだ乏しい。
 またECTはカタトニアへの高い効果も知られている。カタトニアを呈する疾患として、統合失調症の緊張病型がよく知られるが、カタトニアは様々な疾患で起きうる症候群であり、躁状態やうつ状態、[[抗NMDA受容体抗体脳炎]]などの器質性精神疾患<ref name=ref45><pubmed>19884605</pubmed></ref>、[[自閉症スペクトラム障害]]<ref name=ref48><pubmed>24643578 </pubmed></ref>などでも起こりうる。カタトニアの[[ロラゼパム]]での寛解率は80~100%と高いため<ref name=ref45 />、通常のカタトニアではロラゼパム等の[[ベンゾジアゼピン系]]薬剤が優先して使用され、治療抵抗性の場合にECTが検討されるが、生命に危険の高い悪性緊張病ではECTは一時的治療選択になりうる<ref name=ref46><pubmed>25538636</pubmed></ref>。5つの研究でのECTにおけるカタトニアの寛解率は82~96%と報告されており<ref name=ref45 />、統合失調症、気分障害、[[統合失調感情障害]]、[[器質性精神障害]]を含む28例のカタトニアにECT<ref name=ref47><pubmed>8126312</pubmed></ref>を行った研究では、93%が緊張病症状消失がみられ、特に気分障害におけるカタトニアの寛解率は96%と高かったと報告されている。自閉症スペクトラム障害に伴うカタトニア<ref name=ref48 />や抗NMDA受容体抗体脳炎に伴うカタトニアへのECTの有効性の知見の蓄積はまだ乏しい。


 統合失調症では前述のように緊張病症状を伴うものには著効することが多く、また精神運動興奮や昏迷を伴う場合も興奮や意思発動性低下が改善・軽減することが多い。一部のアルゴリズムには薬物治療抵抗性統合失調症の治療として、ECTが位置づけられるようになっているが、慢性的な幻覚妄想や陰性症状および認知機能低下には効果が乏しいことが多い。
 統合失調症では前述のように緊張病症状を伴うものには著効することが多く、また精神運動興奮や昏迷を伴う場合も興奮や意思発動性低下が改善・軽減することが多い。一部のアルゴリズムには薬物治療抵抗性統合失調症の治療として、ECTが位置づけられるようになっているが、慢性的な幻覚妄想や陰性症状および認知機能低下には効果が乏しいことが多い。
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 一方、ECTについて、Folkertsらは、治療抵抗性うつ病患者でECTとparoxetineの効果発現の早さについて比較検討し、ECT群ではパロキセチン群と比較し、治療1週間後よりうつ状態の有意な改善を認めている<ref name=ref28 />。
 一方、ECTについて、Folkertsらは、治療抵抗性うつ病患者でECTとparoxetineの効果発現の早さについて比較検討し、ECT群ではパロキセチン群と比較し、治療1週間後よりうつ状態の有意な改善を認めている<ref name=ref28 />。


 またHusainらはうつ病の患者に対し週3回のECTを施行し反応や寛解のスピードを検討したところ、54%が1週目3回目のセッションまでに治療反応がみられ、2週間目6回目のセッションまでに34%が寛解し3-4週目の10回目のセッションまでに65%が寛解したことを示している<ref name=ref50><pubmed>15119910</pubmed></ref>。
 またHusainらはうつ病の患者に対し週3回のECTを施行し反応や寛解のスピードを検討したところ、54%が1週目3回目のセッションまでに治療反応がみられ、2週目6回目のセッションまでに34%が寛解し3-4週目10回目のセッションまでに65%が寛解したことを示している<ref name=ref50><pubmed>15119910</pubmed></ref>。


 国立精神神経センター病院うつストレスケア病棟に入院し、週2回の両側性修正型ECTを行った31名のうつ病患者での、うつ病評価尺度平均得点のECT回数による経時的な改善を('''図1''')に示す。
 国立精神神経センター病院うつストレスケア病棟に入院し、週2回の両側性修正型ECTを行った31名のうつ病患者での、うつ病評価尺度平均得点のECT回数による経時的な改善を('''図1''')に示す。
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 LauritzenらはECT後の維持療法としてプラセボと[[イミプラミン]] 、パロキセチンを比較し、6ヵ月以内の再燃はプラセボ群65%に対し、イミプラミン群30%、パロキセチン群10%で、維持療法の薬剤により差を認めたことを報告している<ref name=ref58><pubmed>8911559</pubmed></ref>。
 LauritzenらはECT後の維持療法としてプラセボと[[イミプラミン]] 、パロキセチンを比較し、6ヵ月以内の再燃はプラセボ群65%に対し、イミプラミン群30%、パロキセチン群10%で、維持療法の薬剤により差を認めたことを報告している<ref name=ref58><pubmed>8911559</pubmed></ref>。


 ECT施行前に効果を認めなかった薬剤は維持療法としての効果も乏しいという報告<ref name=ref56 />がある一方で、van den Broekらは、三環系抗うつ剤やリチウム、モノアミン酸化酵素阻害剤などの薬剤に治療抵抗性の患者に対しECT施行後の維持療法としてイミプラミンを使用したRCTを行ったところ、24週後にプラセボ群は80%が再発したのに対して、imipramine群は18%で有意に再発率が低かったと報告しており<ref name=ref59><pubmed>16566622</pubmed></ref>、ECTにより従前の治療抵抗性が改善する可能性も示されている。またSackeimらは、ECT施行後6ヶ月後にプラセボ群では84%が再発したのに対して、[[ノルトリプチリン]]群は60%、ノルトリプチリンとリチウム併用群が39%と有意に低く、抗うつ薬の単剤投与よりリチウムの併用が維持療法として有効であったことを報告している<ref name=ref57 />。
 ECT施行前に効果を認めなかった薬剤は維持療法としての効果も乏しいという報告<ref name=ref56 />がある一方で、van den Broekらは、三環系抗うつ剤やリチウム、モノアミン酸化酵素阻害剤などの薬剤に治療抵抗性のある患者に対しECT施行後の維持療法としてイミプラミンを使用したRCTを行ったところ、24週後にプラセボ群は80%が再発したのに対して、imipramine群は18%で有意に再発率が低かったと報告しており<ref name=ref59><pubmed>16566622</pubmed></ref>、ECTにより従前の治療抵抗性が改善する可能性も示されている。またSackeimらは、ECT施行後6ヶ月後にプラセボ群では84%が再発したのに対して、[[ノルトリプチリン]]群は60%、ノルトリプチリンとリチウム併用群が39%と有意に低く、抗うつ薬の単剤投与よりリチウムの併用が維持療法として有効であったことを報告している<ref name=ref57 />。


 また、ECTにより急性期症状が寛解した後の維持療法として、安全にECTを行うことができる環境がある場合に限って、薬物療法に加えて、もしくは単独で、間隔を空けつつ、継続してECTが行われることがある。
 また、ECTにより急性期症状が寛解した後の維持療法として、安全にECTを行うことができる環境がある場合に限って、薬物療法に加えて、もしくは単独で、間隔を空けつつ、継続してECTが行われることがある。
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 ECTの副作用として出現する認知機能障害には[[発作後錯乱]]、[[発作間せん妄]]、健忘がある<ref name=ref79>'''Beyer JL, Weiner RD, Glenn MD'''<br>Electroconvulsive therapy. A programmed test 2 nd, <br>''American Psychiatric Press'', Washington DC, 1998</ref>。
 ECTの副作用として出現する認知機能障害には[[発作後錯乱]]、[[発作間せん妄]]、健忘がある<ref name=ref79>'''Beyer JL, Weiner RD, Glenn MD'''<br>Electroconvulsive therapy. A programmed test 2 nd, <br>''American Psychiatric Press'', Washington DC, 1998</ref>。


 発作後錯乱([[発作後せん妄]])は、通常ECT麻酔覚醒後数分以内に簡単や従命や会話が可能となるところ、ECT麻酔覚醒時に数分から数時間の[[精神運動性興奮]]や[[失見当識]]を伴う[[錯乱]]状態を示すもので、安心できる声かけや静かな環境でのリカバリーが重要である。発作後錯乱ではリカバリー時の慎重な観察と安全管理を要すが、著しく興奮が強い場合は、静脈麻酔薬の再投与や[[ミダゾラム]]、[[ジアゼパム]]等の[[ベンゾジアゼピン]]の追加投与が必要となる場合がある。
 発作後錯乱([[発作後せん妄]])は、通常ECT麻酔覚醒後数分以内に簡単な従命や会話が可能となるところ、ECT麻酔覚醒時に数分から数時間の[[精神運動性興奮]]や[[失見当識]]を伴う[[錯乱]]状態を示すもので、安心できる声かけや静かな環境でのリカバリーが重要である。発作後錯乱ではリカバリー時の慎重な観察と安全管理を要すが、著しく興奮が強い場合は、静脈麻酔薬の再投与や[[ミダゾラム]]、[[ジアゼパム]]等の[[ベンゾジアゼピン]]の追加投与が必要となる場合がある。


 発作間せん妄は、各ECT治療の間の期間にせん妄状態を呈すものであるが、一般的には治療終了とともに速やかに消失する。ECTの継続が望ましい場合は、治療間隔をあける、刺激用量を下げる、右片側性に変更するなどの対策をとるか、やむを得ない場合は抗精神病薬などによるせん妄治療を行う必要がある。
 発作間せん妄は、各ECT治療の間の期間にせん妄状態を呈すものであるが、一般的には治療終了とともに速やかに消失する。ECTの継続が望ましい場合は、治療間隔をあける、刺激用量を下げる、右片側性に変更するなどの対策をとるか、やむを得ない場合は抗精神病薬などによるせん妄治療を行う必要がある。
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 記憶障害はECT中の低酸素とも関係があり、ECT刺激前の十分な酸素化が重要である<ref name=ref83><pubmed>8010381</pubmed></ref>。またケタミン麻酔は神経保護作用を持ち認知機能障害を低減する可能性が示唆されている<ref name=ref84><pubmed>16801824</pubmed></ref> <ref name=ref85><pubmed>18379336</pubmed></ref>。
 記憶障害はECT中の低酸素とも関係があり、ECT刺激前の十分な酸素化が重要である<ref name=ref83><pubmed>8010381</pubmed></ref>。またケタミン麻酔は神経保護作用を持ち認知機能障害を低減する可能性が示唆されている<ref name=ref84><pubmed>16801824</pubmed></ref> <ref name=ref85><pubmed>18379336</pubmed></ref>。


 認知機能障害はECT経過中に生じやすいが、一方でECTを終了して約2週間経過した時の認知機能は、治療前よりも改善している、という報告<ref name=ref86><pubmed>20673880 </pubmed></ref>もある。うつ病の精神運動抑制による認知機能障害は、ECTによるうつ症状の改善とともに回復するため、疾患の症状とECTの副作用を鑑別しなければならない。
 認知機能障害はECT経過中に生じやすいが、一方でECTを終了後約2週間経過した時の認知機能は、治療前よりも改善している、という報告<ref name=ref86><pubmed>20673880 </pubmed></ref>もある。うつ病の精神運動抑制による認知機能障害は、ECTによるうつ症状の改善とともに回復するため、疾患の症状とECTの副作用を鑑別しなければならない。


 副作用としての認知障害を正しく評価するためには、ECT前の認知症などの認知機能障害の合併を把握しておく必要があり、ECT施行前の脳画像評価と認知機能評価が重要である。
 副作用としての認知障害を正しく評価するためには、ECT前の認知症などの認知機能障害の合併を把握しておく必要があり、ECT施行前の脳画像評価と認知機能評価が重要である。
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 リチウムに関しては、APAガイドライン<ref name=ref8 />はリチウムとECTは併用しないように推奨している。安全にリチウムとECTを併用できるという報告も存在するため明確な禁忌ではないが、ECTとの併用でサクシニルコリンの作用延長による遷延性無呼吸の可能性が指摘され、ECT後の認知機能障害やせん妄の増加、遷延性発作や[[セロトニン症候群]]などの発生が報告されていることからECT前に中止し、ECTクール終了後必要であれば再開することが望ましい。[[抗てんかん薬]]やベンゾジアゼピン系薬剤は、ECTとの併用禁忌ではないが抗けいれん作用によりけいれんを生じにくくし発作不発や不適切な脳波上のけいれんを招きやすくするためECT前に漸減中止することが望ましい。
 リチウムに関しては、APAガイドライン<ref name=ref8 />はリチウムとECTは併用しないように推奨している。安全にリチウムとECTを併用できるという報告も存在するため明確な禁忌ではないが、ECTとの併用でサクシニルコリンの作用延長による遷延性無呼吸の可能性が指摘され、ECT後の認知機能障害やせん妄の増加、遷延性発作や[[セロトニン症候群]]などの発生が報告されていることからECT前に中止し、ECTクール終了後必要であれば再開することが望ましい。[[抗てんかん薬]]やベンゾジアゼピン系薬剤は、ECTとの併用禁忌ではないが抗けいれん作用によりけいれんを生じにくくし発作不発や不適切な脳波上のけいれんを招きやすくするためECT前に漸減中止することが望ましい。


 また嘔吐による誤嚥や窒息を予防するため、ECT治療開始の少なくとも6時間前からの固形物の中止、少量の水と必要な薬物以外の2時間前からの中止が推奨<ref name=ref22 />されており、例えば午前中施行する場合は前日夜から、午後に施行する場合は当日朝からの絶食とするなどの処置の徹底が必要がある。当日朝薬は[[wj:降圧剤|降圧剤]]など必要最小限に留め、必要に応じて施行前に胃酸の誤嚥を防止のため[[wj:H2ブロッカー|H2ブロッカー]]などの[[wj:制酸剤|制酸剤]]内服等を行う。
 また嘔吐による誤嚥や窒息を予防するため、ECT治療開始の少なくとも6時間前からの固形物の中止、少量の水と必要な薬物以外の2時間前からの中止が推奨<ref name=ref22 />されており、例えば午前中施行する場合は前日夜から、午後に施行する場合は当日朝からの絶食とするなどの処置の徹底が必要である。当日朝薬は[[wj:降圧剤|降圧剤]]など必要最小限に留め、必要に応じて施行前に胃酸の誤嚥防止のため[[wj:H2ブロッカー|H2ブロッカー]]などの[[wj:制酸剤|制酸剤]]内服等を行う。


===パスル波治療器での修正型ECTの手順===
===パスル波治療器での修正型ECTの手順===
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 運動性のけいれんと脳波上のけいれん('''写真3''')を確認し、けいれんの持続時間と波形の適切性を確認する。運動性のけいれんは、筋弛緩作用のため軽微かほぼ認めないこともあるが、片下肢にターニケットを巻いて実施することで筋電図上のけいれんを計測することができる。
 運動性のけいれんと脳波上のけいれん('''写真3''')を確認し、けいれんの持続時間と波形の適切性を確認する。運動性のけいれんは、筋弛緩作用のため軽微かほぼ認めないこともあるが、片下肢にターニケットを巻いて実施することで筋電図上のけいれんを計測することができる。


 通電後は、麻酔科医は十分なマスク換気での酸素投与の継続とともに、交感神経、副交感反応による脈拍や血圧変化等の全身反応に対し必要な処置を行う。
 通電後は、麻酔科医は十分なマスク換気での酸素投与の継続とともに、交感神経、副交感神経反応による脈拍や血圧変化等の全身反応に対し必要な処置を行う。


 筋弛緩薬と静脈麻酔薬の効果が消失し、自発呼吸再開後、十分な酸素投与を継続し、バイタルサインの正常化、簡単な会話など意識レベルの回復を確認したのち、ECT回復室にストレッチャーで移動する。意識レベルやバイタルサインが安定していることを確認した後に医師や看護師が付き添い酸素投与を継続しながら病棟に戻る。
 筋弛緩薬と静脈麻酔薬の効果が消失し、自発呼吸再開後、十分な酸素投与を継続し、バイタルサインの正常化、簡単な会話など意識レベルの回復を確認したのち、ECT回復室にストレッチャーで移動する。意識レベルやバイタルサインが安定していることを確認した後に医師や看護師が付き添い酸素投与を継続しながら病棟に戻る。
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