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| 認知症の診断基準のうち、過去には[[wikipedia:ja:世界保健機関|世界保健機関]]による[[ICD-10]]や、[[wikipedia:ja:米国精神学会|米国精神学会]]による[[DSM-Ⅲ]]、[[DSM-Ⅳ]]-TRが国際的に広く用いられてきた。これらの診断基準を踏まえ、本邦の認知症疾患治療ガイドライン2010では認知症を「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を言い、それが意識障害のないときに見られる。」と定義している。<br> | | 認知症の診断基準のうち、過去には[[wikipedia:ja:世界保健機関|世界保健機関]]による[[ICD-10]]や、[[wikipedia:ja:米国精神学会|米国精神学会]]による[[DSM-Ⅲ]]、[[DSM-Ⅳ]]-TRが国際的に広く用いられてきた。これらの診断基準を踏まえ、本邦の認知症疾患治療ガイドライン2010では認知症を「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を言い、それが意識障害のないときに見られる。」と定義している。<br> |
| その後、2013年5月に[[DSM-5]]が公開された。DSM-5ではdementiaという用語は消失し、代わりに「[[神経認知障害]]:neurocognitive disorders(ND)」と総称することを提唱している。dementiaという用語が廃止されたのは語源的に「de (without) + mentia (mind)」と構成されており、「mad」「crazy」「insane」「lunatic」など「狂」を意味する語と類義で差別的・侮蔑的なためとされる。認知症に該当するMajor NDの診断基準を'''表1'''に示す。<br> | | その後、2013年5月に[[DSM-5]]が公開された。DSM-5ではdementiaという用語は消失し、代わりに「[[神経認知障害]]:neurocognitive disorders(ND)」と総称することを提唱している。dementiaという用語が廃止されたのは語源的に「de (without) + mentia (mind)」と構成されており、「mad」「crazy」「insane」「lunatic」など「狂」を意味する語と類義で差別的・侮蔑的なためとされる。認知症に該当するMajor NDの診断基準を'''表1'''に示す。<br> |
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| ICD-10は1990年の第43回世界保健総会において採択された「疾病および関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)」第10版であり、dementiaを「脳疾患により慢性(6ヶ月以上)あるいは進行性に[[記憶]]、[[思考]]、[[見当識]]、[[理解]]、[[計算]]、[[学習能力]]、[[言語]]、[[判断]]を含む高次皮質機能障害を示す症候群で、意識は清明である」としている。ICD-10における認知症の具体的な診断基準の要約を'''表1'''に示す。2017年にはICD-11が制定・公表される予定である。<br>
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| |+ '''表1.ICD-10による認知症の診断基準の要約'''
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| | G1.以下の各項目を示す証拠が存在する。
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| 1) 記憶力の低下<br>
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| 新規情報についての記憶力が低下し、重症例では過去に学習した情報の[[想起]]も障害される。可能であれば客観的に確認する。<br>
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| 2) 記憶以外の認知機能の低下<br>
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| 計画・整理といった判断や思考に関する能力、および情報処理全般の悪化があり、従来の能力水準からの悪化を可能であれば客観的に確認する。
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| | G2.周囲の環境に対する認識がG1の症状を明確に証明するのに十分な期間、保たれている(すなわち[[意識混濁]]は存在しない)。[[せん妄]]のエピソードが重なっている場合は認知症の診断は保留する。
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| | G3.[[情動]]コントロールや意欲の低下、社会行動の変化など以下の1項目以上を認める。<br>
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| 1) [[情動不安定]]<br>
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| 2) [[易怒性]]<br>
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| 3) [[無気力]]<br>
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| 4) [[社会行動の粗雑化]]<br>
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| | G4.診断確定にはG1症状が6ヶ月以上存在していることが必要。それより短い期間の場合は暫定診断とする。
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| <u>(編集部コメント:DSM各版の比較は、概念の歴史的変遷を俯瞰するのには良いかもしれませんが、記事の長さも限られているのでDSM−5を除いて省いてはと思います。)</u>
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| DSM-Ⅲは1980年出版の「[[精神障害]]の診断統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」第3版であり、1987年にはその改訂版であるDSM-Ⅲ-Rが出版されている。DSM-Ⅲ-Rにおける認知症の診断基準の要約を'''表2'''に示す。また1994年には第4版にあたるDSM-Ⅳが出版され、2000年にDSM-Ⅳ-TRとして改訂されている。DSM-Ⅳ-TRにおける認知症の診断基準の要約を'''表3'''に示す。<br>
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| {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="550" height="20""
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| |+ '''表2.DSM-Ⅲ-Rによる認知症の診断基準の要約'''
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| | A.短期・[[長期記憶]]障害の明らかな証拠が存在する。
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| | B.以下のうち少なくとも1項目以上を認める。<br>
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| 1) 抽象的思考の障害<br>
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| 2) 判断の障害<br>
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| 3) 高次皮質機能の障害(失語、失行、失認、構成障害)<br>
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| 4) 性格変化
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| | C.上記A、Bにより仕事、社会生活、人間関係が損なわれる。
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| | D.意識変容やせん妄が存在する場合には起こらない(除外項目)。
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| | E.以下のどちらかの状況にある。<br>
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| 1) 病歴、身体所見、検査などの証拠から器質的疾患が病因であると判断される。<br>
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| 2) このような証拠がなくとも器質的疾患以外の状況が合理的に除外されている場合。
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| |}
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| {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="602" height="20""
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| |+ '''表3.DSM-Ⅳ-TRによる認知症の診断基準の要約'''
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| | A.多彩な認知機能障害の発現として以下の2項目がある。<br>
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| 1) 記憶障害(新規情報の学習や、過去に学習した情報の想起の障害)<br>
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| (a)[[即時記憶]]は数字の順唱、逆唱により、近時記憶は言葉や物品の遅延再生により評価する。<br>
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| (b)[[遠隔記憶]]は随伴者に確認可能な個人情報(誕生日や卒業年、結婚記念日など)もしくは被
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| 験者の教育レベル・文化背景に合った一般知識の質問により評価する。<br>
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| 2) 以下の認知機能障害のうち1項目以上を認める。<br>
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| (a)失語(言語の障害)<br>
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| (b)失行(運動機能は障害されていないのに運動の遂行が障害される)<br>
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| (c)失認(感覚機能は障害されていないのに対象を認識もしくは同定できない)<br>
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| (d)[[遂行機能]](計画を立てる、組織化する、順序立てる、抽象化すること)の障害
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| | B.上記A-1)、A-2)の認知機能障害各々が社会的もしくは職業的機能の著しい障害を引き起こし、病前の機能水準からの著しい低下を示す。
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| | C.この障害はせん妄の経過中にのみ現れるものではない。
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| |}
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| これらの診断基準を踏まえ、本邦の認知症疾患治療ガイドライン2010では認知症を「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を言い、それが意識障害のないときに見られる。」と定義している。<br>
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| 他方、2013年に公表されたDSM-5ではdementiaという用語は消失し、代わりに「[[神経認知障害]]:neurocognitive disorders(ND)」と総称することを提唱している。dementiaという用語が廃止されたのは語源的に「de (without) + mentia (mind)」と構成されており、「mad」「crazy」「insane」「lunatic」など「狂」を意味する語と類義で差別的・侮蔑的なためとされる。認知症に該当するMajor NDの診断基準を'''表4'''に示す。<br>
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| {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="680" height="20"" | | {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="680" height="20"" |
| |+ '''表4.DSM-5による認知症(major neurocognitive disorder)の診断基準の要約''' | | |+ '''表1.DSM-5による認知症(major neurocognitive disorder)の診断基準の要約''' |
| | A.1つ以上の認知領域(複雑性注意、遂行機能、学習と記憶、言語、[[知覚]]-運動、社会的認知)において過去の水準から明らかな認知の低下を来しているという以下に基づく証拠がある。<br> | | | A.1つ以上の認知領域(複雑性注意、遂行機能、学習と記憶、言語、[[知覚]]-運動、社会的認知)において過去の水準から明らかな認知の低下を来しているという以下に基づく証拠がある。<br> |
| 1) 本人、本人を良く知る情報提供者、もしくは臨床医による認知機能の明らかな低下があるという懸念。<br> | | 1) 本人、本人を良く知る情報提供者、もしくは臨床医による認知機能の明らかな低下があるという懸念。<br> |