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Akihiromuramatsu (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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== 病態生理 == | == 病態生理 == | ||
認知症の原因疾患は非常に多岐にわたるため、個々の疾患の病態生理について本項目に記すことは困難である。認知症の診断基準・定義は先述の通り種々あるが、概ね意識清明下で後天的に認知機能が過去の水準より低下した状態を包含する。必ずしも認知機能障害イコール認知症ではないが、認知機能障害は認知症の構成要素であるとはいえる。認知機能は「情報を脳内に取り入れ、各種処理過程を経て表出するまでに関わる脳の全機能」と考えられ、各認知機能はそれぞれ大脳の特定の部位に局在し、脳の障害部位により特徴的な認知機能障害を呈する。また、脳疾患における認知機能障害は局在の他に疾患に特有のメカニズムが関与する場合もある。そこで、認知機能障害の病態生理について解剖学的見地と各種脳疾患ごとの見地から以下にそれぞれ記載する(''' | 認知症の原因疾患は非常に多岐にわたるため、個々の疾患の病態生理について本項目に記すことは困難である。認知症の診断基準・定義は先述の通り種々あるが、概ね意識清明下で後天的に認知機能が過去の水準より低下した状態を包含する。必ずしも認知機能障害イコール認知症ではないが、認知機能障害は認知症の構成要素であるとはいえる。認知機能は「情報を脳内に取り入れ、各種処理過程を経て表出するまでに関わる脳の全機能」と考えられ、各認知機能はそれぞれ大脳の特定の部位に局在し、脳の障害部位により特徴的な認知機能障害を呈する。また、脳疾患における認知機能障害は局在の他に疾患に特有のメカニズムが関与する場合もある。そこで、認知機能障害の病態生理について解剖学的見地と各種脳疾患ごとの見地から以下にそれぞれ記載する('''表2、3''')。 | ||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
|+ | |+ 表2.解剖学的見地からの病態生理 | ||
!障害部位!!症状 | !障害部位!!症状 | ||
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{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
|+ | |+ 表3.各種脳疾患ごとの見地から病態生理 | ||
!疾患!!病態 | !疾患!!病態 | ||
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認知症の50%を占めるアルツハイマー病に対し本邦で承認されているのは[[コリンエステラーゼ]](cholinesterase:ChE)[[阻害薬]]と[[NMDA型グルタミン酸受容体|N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体]][[拮抗薬]]である。ChE阻害薬は「アルツハイマー病において[[Meynert核]]の[[アセチルコリン]]([[acetylcholine]]:[[ACh]])作動性神経細胞の脱落とACh合成系の活性低下が病態に関連する」という[[コリン]]仮説を基に開発され、[[シナプス]]間隙のACh量を増加させる。 | 認知症の50%を占めるアルツハイマー病に対し本邦で承認されているのは[[コリンエステラーゼ]](cholinesterase:ChE)[[阻害薬]]と[[NMDA型グルタミン酸受容体|N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体]][[拮抗薬]]である。ChE阻害薬は「アルツハイマー病において[[Meynert核]]の[[アセチルコリン]]([[acetylcholine]]:[[ACh]])作動性神経細胞の脱落とACh合成系の活性低下が病態に関連する」という[[コリン]]仮説を基に開発され、[[シナプス]]間隙のACh量を増加させる。 | ||
一方、NMDA型[[グルタミン酸受容体]]拮抗薬は「アルツハイマー病において、脳内[[グルタミン酸]]濃度の持続的上昇やNMDA型グルタミン酸受容体への[[アミロイド]]βの結合によりCa<sup>2+</sup>が細胞内に過剰流入し、[[シナプス後膜電位]]変化が増大して(シナプティックノイズ)記憶・学習の形成を阻害したり、[[酸化ストレス]]増大や[[神経細胞死]]を招く」という[[グルタミン酸仮説]]に基づき開発されている。本剤は持続性の病的な低濃度グルタミン酸刺激に対してはNMDA型グルタミン酸受容体に結合して過剰Ca<sup>2+</sup>流入による神経毒性を防ぐが、生理的な神経興奮による一過性の高濃度グルタミン酸刺激に対しては電位依存性にNMDA型グルタミン酸受容体から解離するため、正常な神経伝達や記憶形成には影響しない。''' | 一方、NMDA型[[グルタミン酸受容体]]拮抗薬は「アルツハイマー病において、脳内[[グルタミン酸]]濃度の持続的上昇やNMDA型グルタミン酸受容体への[[アミロイド]]βの結合によりCa<sup>2+</sup>が細胞内に過剰流入し、[[シナプス後膜電位]]変化が増大して(シナプティックノイズ)記憶・学習の形成を阻害したり、[[酸化ストレス]]増大や[[神経細胞死]]を招く」という[[グルタミン酸仮説]]に基づき開発されている。本剤は持続性の病的な低濃度グルタミン酸刺激に対してはNMDA型グルタミン酸受容体に結合して過剰Ca<sup>2+</sup>流入による神経毒性を防ぐが、生理的な神経興奮による一過性の高濃度グルタミン酸刺激に対しては電位依存性にNMDA型グルタミン酸受容体から解離するため、正常な神経伝達や記憶形成には影響しない。'''表4'''に各薬剤の特徴を示す。<br> | ||
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="850" height="20"" | {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="850" height="20"" | ||
|+ ''' | |+ '''表4.アルツハイマー病治療薬の特徴''' | ||
! style="width:14%" | 一般名 !! style="width:12%" | 作用機序 !! style="width:14%" | 適応 !! style="width:23%" | 副次的効果 !! style="width:13%" | 剤型 !! style="width:12%" | 用法(回/日) !! style="width:12%" | 代謝・排泄 | ! style="width:14%" | 一般名 !! style="width:12%" | 作用機序 !! style="width:14%" | 適応 !! style="width:23%" | 副次的効果 !! style="width:13%" | 剤型 !! style="width:12%" | 用法(回/日) !! style="width:12%" | 代謝・排泄 | ||
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190行目: | 188行目: | ||
=== 周辺症状=== | === 周辺症状=== | ||
かつて認知症の問題行動や異常行動とよばれた概念で行動症状と心理症状に二分される。前者は[[不穏]]、[[多動]]、[[徘徊]]、[[攻撃性]]、興奮、[[拒絶]]、[[拒食]]・[[異食]]、[[不潔行為]]、[[つきまとい]]、[[概日リズム障害]]、[[社会的逸脱行動|社会的]]・[[性的逸脱行動]]が、後者は抑うつや[[不安]]、[[アパシー]]、[[幻覚]]、[[妄想]] | かつて認知症の問題行動や異常行動とよばれた概念で行動症状と心理症状に二分される。前者は[[不穏]]、[[多動]]、[[徘徊]]、[[攻撃性]]、興奮、[[拒絶]]、[[拒食]]・[[異食]]、[[不潔行為]]、[[つきまとい]]、[[概日リズム障害]]、[[社会的逸脱行動|社会的]]・[[性的逸脱行動]]が、後者は抑うつや[[不安]]、[[アパシー]]、[[幻覚]]、[[妄想]]などがあげられる。認知症患者の約60〜90%が少なくとも1つ以上の周辺症状を呈し、特に無関心、興奮、[[易刺激性]]、抑うつなどの頻度が高いとされる。 | ||
==== ケアと環境整備による対応 ==== | ==== ケアと環境整備による対応 ==== | ||
200行目: | 197行目: | ||
ChE阻害剤など中核症状を改善する薬剤により周辺症状も軽減されることが多く、認知症疾患治療ガイドライン2010コンパクト版2012でも焦燥性興奮、攻撃性、脱抑制、体重減少、レビー小体型認知症における幻覚・妄想や[[REM睡眠期行動異常]](RBD)などに記載が見られる。また抑肝散など漢方療法も示唆される(詳細は後述)。 | ChE阻害剤など中核症状を改善する薬剤により周辺症状も軽減されることが多く、認知症疾患治療ガイドライン2010コンパクト版2012でも焦燥性興奮、攻撃性、脱抑制、体重減少、レビー小体型認知症における幻覚・妄想や[[REM睡眠期行動異常]](RBD)などに記載が見られる。また抑肝散など漢方療法も示唆される(詳細は後述)。 | ||
[[抗精神病薬]]では[[非定型抗精神病薬]]が使われやすいが、米国食品衛生局(FDA)より「認知症高齢者の臨床治験において非定型抗精神病薬投与群はプラセボ投与群に比べ死亡率が増加する」という警告が出ており要注意である。2013年7月には「かかりつけ医のための周辺症状に対する[[向精神薬]]使用ガイドライン」が厚生労働省により公表されている(''' | [[抗精神病薬]]では[[非定型抗精神病薬]]が使われやすいが、米国食品衛生局(FDA)より「認知症高齢者の臨床治験において非定型抗精神病薬投与群はプラセボ投与群に比べ死亡率が増加する」という警告が出ており要注意である。2013年7月には「かかりつけ医のための周辺症状に対する[[向精神薬]]使用ガイドライン」が厚生労働省により公表されている('''表5''')。<br> | ||
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="965" height="20"" | {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="965" height="20"" | ||
|+ ''' | |+ '''表5.周辺症状に対する向精神薬治療''' | ||
! style="width:9%" | 分類 !! style="width:12%" | 作用機序など !! style="width:13%" | 薬物名 !! style="width:21%" | 想定される<br>認知症への使用 !! style="width:43%" | 特徴・注意点 !! style="width:2%" | 用量 | ! style="width:9%" | 分類 !! style="width:12%" | 作用機序など !! style="width:13%" | 薬物名 !! style="width:21%" | 想定される<br>認知症への使用 !! style="width:43%" | 特徴・注意点 !! style="width:2%" | 用量 | ||
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==== 非薬物療法 ==== | ==== 非薬物療法 ==== | ||
認知機能、周辺症状、ADLの改善を目指して行う。米国精神医学会の治療ガイドラインによると、標的とされるのは「認知」「刺激」「行動」「感情」の4つで、「認知」に関しては、見当識について他者とコミュニケーションをとりながら繰り返し学習する[[リアリティオリエンテーション療法]]、「刺激」については[[音楽療法]]などの各種[[芸術療法]]、「行動」に関しては行動異常を観察・評価して介入法を導き出すアプローチが、「感情」については過去の思い出について聞き手が受容・[[共感]]的に傾聴する[[回想法]]などが試みられる。また他にも[[認知刺激療法]]、[[運動療法]]などが試みられる。 | |||
== 疫学 == | == 疫学 == |
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