「間脳の発生」の版間の差分

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2、前脳分節(プロソメア:prosomeres)
2、前脳分節(プロソメア:prosomeres)
間脳では発生の進行につれ前後軸に沿った形態学的、組織学的な領域化が起こりプロソメア(p1, p2, p3)と呼ばれる分節構造(神経分節:neuromeres)が生じ、その中から様々な神経核が発生していく<ref name=ref1 /><ref name=ref2 /><ref name=ref3 /><ref name=ref4 />。プロソメアを同定するには、これまでの発生学的研究から、いくつかの指標が提示されている。脊椎動物の発生初期に現れる軸索路として知られる基本的神経回路(後交連:p1;手綱交連:p2)や、転写因子の発現(''Lhx1/5''と''Pax3/7''が共発現していればp1;''Ebf1''が発現していればp1;''Lhx2/9''や''Dlx2''が発現していればp2;''Lhx1/5''と''Dlx1/6''が共発現していればp3;''Gbx2''が発現していればp2;''Tcf4''の発現の前端がp2とp3の境界)などがそれにあたる<ref name=ref1 /><ref6><pubmed> 8510755 </pubmed></ref><ref7><pubmed> 7687285 </pubmed></ref><ref8><pubmed> 17912743 </pubmed></ref>。また重要な点として、神経管腹側の''Shh''の発現が背側に伸びてきて峡部オーガナイザー(Zona limitans intrathalamica: Zli)を形成し、ZliからのShhシグナルがプロソメア2とプロソメア3の分化に関わり、Zliがp2とp3の境界となる<ref><pubmed> 16026780 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15494730 </pubmed></ref>。また、Zliの背側で発現するFgf8も間脳のパターニングに関与している<ref><pubmed> 18653561 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19846726 </pubmed></ref>。同様にWntシグナルも重要な役割を担う<ref><pubmed> 14522868 </pubmed></ref>。Shhのシグナルは間脳の神経前駆細胞の配置様式にも大きな影響を及ぼす<ref><pubmed> 19357274 </pubmed></ref>。
間脳では発生の進行につれ前後軸に沿った形態学的、組織学的な領域化が起こりプロソメア(p1, p2, p3)と呼ばれる分節構造(神経分節:neuromeres)が生じ、その中から様々な神経核が発生していく<ref name=ref1 /><ref name=ref2 /><ref name=ref3 /><ref name=ref4 />。これまでの発生学的研究から、各々のプロソメアを規定するいくつかの指標が提示されている。脊椎動物の発生初期に現れる軸索路として知られる基本的神経回路(後交連:p1;手綱交連:p2)や、転写因子の発現(''Lhx1/5''と''Pax3/7''が共発現していればp1;''Ebf1''が発現していればp1;''Lhx2/9''や''Dlx2''が発現していればp2;''Lhx1/5''と''Dlx1/6''が共発現していればp3;''Gbx2''が発現していればp2;''Tcf4''の発現の前端がp2とp3の境界)などがそれにあたる<ref name=ref1 /><ref6><pubmed> 8510755 </pubmed></ref><ref7><pubmed> 7687285 </pubmed></ref><ref8><pubmed> 17912743 </pubmed></ref>。また重要な点として、神経管腹側の''Shh''の発現が背側に伸びてきて峡部オーガナイザー(Zona limitans intrathalamica: Zli)を形成し、ZliからのShhシグナルがプロソメア2とプロソメア3の分化に関わり、Zliがp2とp3の境界となる(図1)<ref><pubmed> 16026780 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15494730 </pubmed></ref>。また、Zliの背側で発現するFgf8も間脳のパターニングに関与している<ref><pubmed> 18653561 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19846726 </pubmed></ref>。同様にWntシグナルも重要な役割を担う<ref><pubmed> 14522868 </pubmed></ref>。Shhのシグナルは間脳の神経前駆細胞の配置様式にも大きな影響を及ぼす<ref><pubmed> 19357274 </pubmed></ref>。


3、脊椎動物の成体の間脳形態
3、脊椎動物の成体の間脳形態
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6、視床下部と終脳に関する発生基盤
6、視床下部と終脳に関する発生基盤
視床下部は、前脳の前方腹側で発生するが、他の間脳領域(プロソメア1〜3)とは発現する遺伝子の種類が異なる例が多い。視床下部は少なくともその一部は神経管の腹側の要素(基板)であると考えられており、基板を特徴づける''Shh''の発現が見られる。ただし''Shh''は視床下部の全域に発現するわけではない。また、転写因子である''Nkx2.1''が発現していることも視床下部の特徴である<ref><pubmed> 1811929 </pubmed></ref>。この遺伝子は実際に前脳腹側の形成に関わっている<ref><pubmed> 8557195 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10393115 </pubmed></ref>。そして、視床下部領域と終脳とを合わせたものをひとつのコンパートメントと捉える考えが、プロソメアモデルを提唱したPuellesらの研究グループから出されている<ref name=ref2 /><ref31><pubmed> 25852489 </pubmed></ref>(図)。この視床下部−終脳コンパートメントはsecondary procencephalonと名付けられている。このモデルでは発生期の前脳は間脳(プロソメア1〜3)とsecondary procencephalonに分化するとされる。つまり、従来のモデルでは視床下部は間脳に含まれるが、このモデルでは視床下部はsecondary procencephalonに含まれる。前脳が後方の「間脳」と前方の「secondary procencephalon」にわかれるとする形態発生学的な根拠として、「間脳」領域の発生は腹側にある脊索の影響を受け、「secondary procencephalon」は脊索前板(prechordal plate)の影響を受けることが挙げられる。このモデルに従うなら、secondary procencephalonの背側部分が柊脳で、その腹側部分が視床下部となり、同時に視床下部が神経管の最も前方の領域となる<ref name=ref31 />。secondary procencephalonはさらにhypotyalamo-telencephalic prosomere 1と2(HP1とHP2)に細分されている。HP1が後方でHP2が前方である。視床下部はHP1に含まれる部分がpeduncular hypothalamus(PHy)、HP2に含まれる部分がterminal hypothalamus(THy)と名付けられている(図)。終脳ではHP1が外套(Pallium)と外套下部(subpallium)の多くの領域を占め、HP2は視索前野と前交連を含む領域を占める。さらに真骨魚類では終脳と視床下部の間にあるoptic recess region(視交叉陥凹部;目の網膜も含む)を一つのユニットとして認め、secondary procencephalonを三つのパートに分ける考えも出されている<ref><pubmed> 25736911 </pubmed></ref>。
視床下部は、前脳の前方腹側で発生するが、他の間脳領域(プロソメア1〜3)とは発現する遺伝子の種類が異なる例が多い。視床下部は少なくともその一部は神経管の腹側の要素(基板)であると考えられており、基板を特徴づける''Shh''の発現が見られる。ただし''Shh''は視床下部の全域に発現するわけではない。また、転写因子である''Nkx2.1''が発現していることも視床下部の特徴である<ref><pubmed> 1811929 </pubmed></ref>。この遺伝子は実際に前脳腹側の形成に関わっている<ref><pubmed> 8557195 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10393115 </pubmed></ref>。そして、視床下部領域と終脳とを合わせたものをひとつのコンパートメントと捉える考えが、プロソメアモデルを提唱したPuellesらの研究グループから出されている<ref name=ref2 /><ref31><pubmed> 25852489 </pubmed></ref>(図1)。この視床下部−終脳コンパートメントはsecondary procencephalonと名付けられている。このモデルでは発生期の前脳は間脳(プロソメア1〜3)とsecondary procencephalonに分化するとされる。つまり、従来のモデルでは視床下部は間脳に含まれるが、このモデルでは視床下部はsecondary procencephalonに含まれる。前脳が後方の「間脳」と前方の「secondary procencephalon」にわかれるとする形態発生学的な根拠として、「間脳」領域の発生は腹側にある脊索の影響を受け、「secondary procencephalon」は脊索前板(prechordal plate)の影響を受けることが挙げられる。このモデルに従うなら、secondary procencephalonの背側部分が柊脳で、その腹側部分が視床下部となり、同時に視床下部が神経管の最も前方の領域となる<ref name=ref31 />。secondary procencephalonはさらにhypotyalamo-telencephalic prosomere 1と2(HP1とHP2)に細分されている。HP1が後方でHP2が前方である。視床下部はHP1に含まれる部分がpeduncular hypothalamus(PHy)、HP2に含まれる部分がterminal hypothalamus(THy)と名付けられている(図1)。終脳ではHP1が外套(Pallium)と外套下部(subpallium)の多くの領域を占め、HP2は視索前野と前交連を含む領域を占める。さらに真骨魚類では終脳と視床下部の間にあるoptic recess region(視交叉陥凹部;目の網膜も含む)を一つのユニットとして認め、secondary procencephalonを三つのパートに分ける考えも出されている<ref><pubmed> 25736911 </pubmed></ref>。


7、間脳発生機構の起源
7、間脳発生機構の起源
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8、神経回路形成
8、神経回路形成
8.1 基本的神経路
8.1 基本的神経路
間脳の発生の進行に伴い、その内部には様々な神経回路が生じる。発生初期には基本的神経路(The early axon scaffold)として、脊椎動物で高度に保存された神経路が形成され、発生後期に作られる多くの神経路の足場としても重要な役割を担う<ref><pubmed> 2351059 </pubmed></ref><ref><pubmed> 18158094 </pubmed></ref>。これらのうち、間脳では後交連や手綱交連、tract of postoptic commissure(TPOC)などが発生する。後交連は、間脳の後方背側、中脳と接するところに生じ、視蓋前域(プロソメア1)を特徴づける構造となる。手綱交連は間脳の背側で後交連の前方に生じ、視床(プロソメア2)の特徴の一つとなる。これらの交連は円口類の段階から見られるため、脊椎動物の共通祖先の段階ですでに獲得されていた可能性がある。後交連と手綱交連はクジラ類では融合して交連複合体を形成する[40]。後交連やTPOCの形成にはPax6が関わるとされる<ref><pubmed> 9169845 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15514979 </pubmed></ref>。
間脳の発生の進行に伴い、その内部には様々な神経回路が生じる。発生初期には基本的神経路(The early axon scaffold)として、脊椎動物で高度に保存された神経路が形成され、発生後期に作られる多くの神経路の足場としても重要な役割を担う<ref><pubmed> 2351059 </pubmed></ref><ref><pubmed> 18158094 </pubmed></ref>。これらのうち、間脳では後交連や手綱交連、tract of postoptic commissure(TPOC)などが発生する(図2)。後交連は、間脳の後方背側、中脳と接するところに生じ、視蓋前域(プロソメア1)を特徴づける構造となる。手綱交連は間脳の背側で後交連の前方に生じ、視床(プロソメア2)の特徴の一つとなる。これらの交連は円口類の段階から見られるため、脊椎動物の共通祖先の段階ですでに獲得されていた可能性がある。後交連と手綱交連はクジラ類では融合して交連複合体を形成する[40]。後交連やTPOCの形成にはPax6が関わるとされる<ref><pubmed> 9169845 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15514979 </pubmed></ref>。
8.2視床ー終脳軸索投射
8.2視床ー終脳軸索投射
間脳からは終脳に向けて数多くの神経が伸びていく.特に羊膜類では視床に嗅覚以外の全ての感覚が集められ、そこから終脳に多くの軸索が入力する。これらの線維は一般的に「視床-終脳路」と呼ばれている.これらの神経がどのような仕組みで終脳に入力するのかについてはこれまでに主にマウスを用いて多くの研究がなされている。視床-終脳路の道筋には軸索をガイドするタンパク質群があり,視床の神経核から伸びる軸索は、それらのシグナルを受け取り応答することによって迷うことなく正確に目的地にたどり着く。例えば,視床下部に発現する''Nkx2.1'' は,神経ガイド分子の一種''Slit''の発現を調節しており,この分子の反発作用によって視床から終脳に伸びていく軸索は終脳の方向に向きを変える<ref><pubmed> 11830575 </pubmed></ref>。その他にも,視床の神経核では、神経ガイド因子の''Eph''(''EphA3'', ''EphA4'', ''EphA7'')が勾配をもって発現している。そのため、そこから伸びる軸索にはEphを多く発現しているものから少なく発現しているものがあり、それらの軸索は終脳側にあるエフリンA5の勾配に応答し、反発性相互作用により、Ephの濃度に応じて振り分けられることで特異的な投射が形成される<ref><pubmed> 15219737 </pubmed></ref>。また、誘因性のガイド因子であるNetrin1が視床の軸索を終脳へ誘引していくことにより多くの軸索が終脳へ入力できるようになるという報告がある<ref><pubmed> 18479186 </pubmed></ref>。ただし、Netrin1は視床前部のニューロンには誘因性に作用するが、視床後部のニューロンに対しては反発性に作用する。
間脳からは終脳に向けて数多くの神経が伸びていく.特に羊膜類では視床に嗅覚以外の全ての感覚が集められ、そこから終脳に多くの軸索が入力する。これらの線維は一般的に「視床-終脳路」と呼ばれている.これらの神経がどのような仕組みで終脳に入力するのかについてはこれまでに主にマウスを用いて多くの研究がなされている。視床-終脳路の道筋には軸索をガイドするタンパク質群があり,視床の神経核から伸びる軸索は、それらのシグナルを受け取り応答することによって迷うことなく正確に目的地にたどり着く。例えば,視床下部に発現する''Nkx2.1'' は,神経ガイド分子の一種''Slit''の発現を調節しており,この分子の反発作用によって視床から終脳に伸びていく軸索は終脳の方向に向きを変える<ref><pubmed> 11830575 </pubmed></ref>。その他にも,視床の神経核では、神経ガイド因子の''Eph''(''EphA3'', ''EphA4'', ''EphA7'')が勾配をもって発現している。そのため、そこから伸びる軸索にはEphを多く発現しているものから少なく発現しているものがあり、それらの軸索は終脳側にあるエフリンA5の勾配に応答し、反発性相互作用により、Ephの濃度に応じて振り分けられることで特異的な投射が形成される<ref><pubmed> 15219737 </pubmed></ref>。また、誘因性のガイド因子であるNetrin1が視床の軸索を終脳へ誘引していくことにより多くの軸索が終脳へ入力できるようになるという報告がある<ref><pubmed> 18479186 </pubmed></ref>。ただし、Netrin1は視床前部のニューロンには誘因性に作用するが、視床後部のニューロンに対しては反発性に作用する。
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