「攻撃性」の版間の差分

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=== 視床下部の光遺伝学的行動賦活・抑制 ===
=== 視床下部の光遺伝学的行動賦活・抑制 ===
 アメリカのカリフォルニア工科大学のリン、アンダーソンらはマウスにおいて「光遺伝学Optogenetics」の手法を用い、VMHの腹外側部(VMHvl)、とくにエストロゲン受容体α(ERα)を発現するニューロン特異的な光遺伝学的刺激が、攻撃行動を起こすことを見出した(Lee et al., 2014; Lin et al., 2011)<ref><pubmed> 24739975</pubmed></ref><ref><pubmed>21307935</pubmed></ref>。オスマウスVMHのERα発現細胞を光遺伝学により活性化すると、普段なら攻撃が起こらない状況においても、攻撃行動が誘発される。例えば膨らませた手袋や、性行動をしている相手のメスマウスに対しても、光を照射するとただちに攻撃行動が誘発される。ERαとほぼ局在が同じプロゲステロンレセプターPR陽性VMHvlニューロンのDreadd-Gqを用いた薬理遺伝学的活性化でも、居住オスは本来行わないメスや手袋、自分の鏡像に対する攻撃を行った(Yang et al., 2017)<ref><pubmed>28757304</pubmed></ref>。オスを去勢したり、フェロモン受容体のノックアウトをしても、VMHvlを活性化すると攻撃は起こる。
 アメリカのカリフォルニア工科大学のリン、アンダーソンらはマウスにおいて「光遺伝学Optogenetics」の手法を用い、VMHの腹外側部(VMHvl)、とくに[[エストロゲン受容体α]](ERα)を発現するニューロン特異的な光遺伝学的刺激が、攻撃行動を起こすことを見出した(Lee et al., 2014; Lin et al., 2011)<ref><pubmed> 24739975</pubmed></ref><ref><pubmed>21307935</pubmed></ref>。オスマウスVMHのERα発現細胞を光遺伝学により活性化すると、普段なら攻撃が起こらない状況においても、攻撃行動が誘発される。例えば膨らませた手袋や、性行動をしている相手のメスマウスに対しても、光を照射するとただちに攻撃行動が誘発される。ERαとほぼ局在が同じプロゲステロンレセプターPR陽性VMHvlニューロンのDreadd-Gqを用いた薬理遺伝学的活性化でも、居住オスは本来行わないメスや手袋、自分の鏡像に対する攻撃を行った(Yang et al., 2017)<ref><pubmed>28757304</pubmed></ref>。オスを去勢したり、フェロモン受容体のノックアウトをしても、VMHvlを活性化すると攻撃は起こる。
 さらに、VMHvl ニューロンの光遺伝学的機能抑制によって攻撃行動が抑制され、また、ERα発現 “攻撃” ニューロンは侵入者オスに対する自発的な攻撃中に発火する。これらのことから、マウスVMHvlのERα発現ニューロンは、攻撃行動の発動に必要かつ十分であると考えられた。
 さらに、VMHvl ニューロンの光遺伝学的機能抑制によって攻撃行動が抑制され、また、ERα発現 “攻撃” ニューロンは侵入者オスに対する自発的な攻撃中に発火する。これらのことから、マウスVMHvlのERα発現ニューロンは、攻撃行動の発動に必要かつ十分であると考えられた。
 
 
=== 視床下部VMH以外の脳部位 ===
=== 視床下部VMH以外の脳部位 ===
 攻撃性に関与する脳部位はVMHvl以外にもある。前頭前野、中隔、扁桃体、側坐核、分界条庄核、視索前野、視床下部前核、前乳頭体核、室傍核、手綱核、中脳水道周囲灰白質、背側縫線核、青斑核などが攻撃行動に関与することが明らかになってきている(Newman et al., 1997) (Veening et al., 2005)<ref><pubmed> 9071355</pubmed></ref><ref><pubmed> 16263109 </pubmed></ref>。これらの領域は視床下部などの各領域と投射(結合)関係を持ち、情報をやりとりしながら、行動を解発する刺激(感覚)の情報処理や、実際の行動の際の計画・運動などに関与し、全体としてネットワークを形成していると考えられる(de Boer et al., 2015) (篠塚一貴 et al., 2017)<ref><pubmed> 26066717</pubmed></ref><ref>'''篠塚一貴, 矢野沙織, Menno, R.K., 黒田公美'''<br>攻撃性の脳内基盤II.<br>''臨床精神医学'' 46, 1067-1076.; 2017</ref>。
 攻撃性に関与する脳部位はVMHvl以外にもある。前頭前野、中隔、扁桃体、側坐核、分界条庄核、視索前野、視床下部前核、前乳頭体核、室傍核、手綱核、中脳水道周囲灰白質、背側縫線核、青斑核などが攻撃行動に関与することが明らかになってきている(Newman et al., 1997) (Veening et al., 2005)<ref><pubmed> 9071355</pubmed></ref><ref><pubmed> 16263109 </pubmed></ref>。これらの領域は視床下部などの各領域と投射(結合)関係を持ち、情報をやりとりしながら、行動を解発する刺激(感覚)の情報処理や、実際の行動の際の計画・運動などに関与し、全体としてネットワークを形成していると考えられる(de Boer et al., 2015) (篠塚一貴 et al., 2017)<ref><pubmed> 26066717</pubmed></ref><ref>'''篠塚一貴, 矢野沙織, Menno, R.K., 黒田公美'''<br>攻撃性の脳内基盤II.<br>''臨床精神医学'' 46, 1067-1076.; 2017</ref>。

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