713
回編集
Junko kurahashi (トーク | 投稿記録) |
Junko kurahashi (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
||
6行目: | 6行目: | ||
</div> | </div> | ||
英語名:primary somatosensory cortex | 英語名:primary somatosensory cortex | ||
同義語:体性感覚野、一次体性感覚野 | |||
== 第一次体性感覚野とは == | == 第一次体性感覚野とは == | ||
人を含む多くの[[哺乳類]]の[[大脳皮質]]でその存在が確認されているが、ここでは主に[[マカク属]][[サル]]、[[ヒト]]の研究から得られた知見を中心にして説明する。 | |||
人を含む多くの[[ | |||
第一次体性感覚野は大脳皮質[[頭頂葉]] | 第一次体性感覚野は大脳皮質[[頭頂葉]]に存在し、[[中心溝]]に沿って内外側に帯状に広がる。一般的には[[ブロードマン脳地図]]の[[3a]]、[[3b]]、[[1野|1]]、[[2野]]を含む領域を指す。前方は第[[一次運動野]]([[4野]])、後方は[[頭頂連合野]]([[ブロードマン5野|5]]、[[ブロードマン7野|7野]])と接する。 | ||
抹消からの体性感覚情報は[[視床中継核]]を経由して、[[深部感覚]]は[[3a野]]に[[皮膚感覚]]は[[3b野]]に主に入力する。これらの情報は1、2野に運ばれる。第一体性感覚野からはその外側に存在する[[第二体性感覚野]]を含む[[頭頂弁蓋部体性感覚野]]や[[頭頂連合野]]に運ばれる。 | 抹消からの体性感覚情報は[[視床中継核]]を経由して、[[深部感覚]]は[[3a野]]に[[皮膚感覚]]は[[3b野]]に主に入力する。これらの情報は1、2野に運ばれる。第一体性感覚野からはその外側に存在する[[第二体性感覚野]]を含む[[頭頂弁蓋部体性感覚野]]や[[頭頂連合野]]に運ばれる。 | ||
身体反対側の各体部位からの情報は、おおよその身体の配置に従って第一次体性感覚野に入力するため、反対側の[[体部位再現]] | 身体反対側の各体部位からの情報は、おおよその身体の配置に従って第一次体性感覚野に入力するため、反対側の[[体部位再現]]図が存在する。マカク属サルを用いた麻酔下で行われた多くの電気生理学的研究は、各領野にそれぞれ体部位再現図が存在することを明らかにした<ref name=Kaas2004><pubmed>15470673</pubmed></ref>( Kaas 2004)。 | ||
== | == 階層的情報処理 == | ||
無麻酔下のマカク属サルから単一神経活動を記録し、種々の体性感覚刺激に対する応答を詳細に解析する研究が多数行われた。岩村らのグループは、主に手指を再現する領域を調べた結果、3b野では、例えばある指の一つの指節の掌側などに限局した非常に狭い[[受容野]]を持つ[[皮膚]] | 無麻酔下のマカク属サルから単一神経活動を記録し、種々の体性感覚刺激に対する応答を詳細に解析する研究が多数行われた。岩村らのグループは、主に手指を再現する領域を調べた結果、3b野では、例えばある指の一つの指節の掌側などに限局した非常に狭い[[受容野]]を持つ[[皮膚]]刺激に応じるニューロンが記録されるが、1野、2野に行くに従い、複数の指にまたがる大きな受容野を持つの大きなニューロンが存在することを明らかにした<ref><pubmed>8454001</pubmed></ref>(Iwamura et al. 1993)。 | ||
また、2野では、受容野の大きさ拡大に加え、皮膚感覚と深部感覚の統合、物体のエッジや特殊な材質、皮膚上を動く刺激など複雑な刺激に特異的に応答するなど対象の特徴抽出に関連した性質を示すニューロンが存在することから、視床中継核からの体性感覚情報が第一体性感覚野の3b野から後方の1野や2野に運ばれる過程で徐々に統合されるという階層的情報処理が行われていることを明らかにした<ref name=Iwamura1998><pubmed>9751655</pubmed></ref><ref name=Iwamura2000><pubmed>10724460</pubmed></ref>(Iwamura 1998, 2000)。この結果、2野では対象物の特徴抽出に関連した応答を示すニューロンが観察されることになる。この階層的情報処理は、無麻酔マカク属サルを用いた他の体部位再現領域を対象にした研究でも確認された <ref name=Taoka1998><pubmed>9860270</pubmed></ref><ref name=Taoka2000><pubmed>11037280</pubmed></ref><ref><pubmed>12410339</pubmed></ref><ref><pubmed>15014923</pubmed></ref><ref><pubmed>16307237</pubmed></ref>(Taoka et al. 1998、2000、Toda and Taoka 2002, 2004,2006). | また、2野では、受容野の大きさ拡大に加え、皮膚感覚と深部感覚の統合、物体のエッジや特殊な材質、皮膚上を動く刺激など複雑な刺激に特異的に応答するなど対象の特徴抽出に関連した性質を示すニューロンが存在することから、視床中継核からの体性感覚情報が第一体性感覚野の3b野から後方の1野や2野に運ばれる過程で徐々に統合されるという階層的情報処理が行われていることを明らかにした<ref name=Iwamura1998><pubmed>9751655</pubmed></ref><ref name=Iwamura2000><pubmed>10724460</pubmed></ref>(Iwamura 1998, 2000)。この結果、2野では対象物の特徴抽出に関連した応答を示すニューロンが観察されることになる。この階層的情報処理は、無麻酔マカク属サルを用いた他の体部位再現領域を対象にした研究でも確認された <ref name=Taoka1998><pubmed>9860270</pubmed></ref><ref name=Taoka2000><pubmed>11037280</pubmed></ref><ref><pubmed>12410339</pubmed></ref><ref><pubmed>15014923</pubmed></ref><ref><pubmed>16307237</pubmed></ref>(Taoka et al. 1998、2000、Toda and Taoka 2002, 2004,2006). | ||
== | == 身体両側の統合 == | ||
体幹正中部や口腔等の特殊な部位を除けば、第一次体性感覚野で処理される情報は対側身体に限られると考えられてきた。 | |||
ところが、岩村らはマカク属サルを用いた実験で、2野を含む[[中心後回]]手指再現領域で左右の手に対称的な受容野を持つニューロンの存在を報告した<ref name=Iwamura1994><pubmed>8202155</pubmed></ref>(Iwamura et al. 1994)。このような身体両側に受容野を持つニューロンはその後、近位上肢体幹領域や下肢領域の2野でも見つかった<ref name=Taoka1998/><ref name=Taoka2000/>(Taoka et al. 1998、2000)。岩村らの実験では、同側身体からの情報は[[脳梁]]経由で対側半球から運ばれることが示唆された<ref name=Iwamura1994/>(Iwamura et al. 1994)。これらのことは、第一次体性感覚野における階層的情報処理は、対側半球からの情報の統合も含むことを示している<ref name=Iwamura1998/><ref name=Iwamura2000/>(Iwamura 1998, 2000)。 | |||
==Kaasらの第一次体性感覚野に対する考え方== | ==Kaasらの第一次体性感覚野に対する考え方== | ||
以上のように、第一次体性感覚野の各領野は、それぞれ独自の体部位再現図を持ち、相互に階層的な関係が存在することから、複数の領野から構成される複合的領域であると考える事も出来る<ref>'''岩村吉晃'''<br>タッチの階層仮説<br>''Brain Nerve'' 69 313-325 :2017</ref>(岩村 2017)。Kaasらは、[[霊長類]] | 以上のように、第一次体性感覚野の各領野は、それぞれ独自の体部位再現図を持ち、相互に階層的な関係が存在することから、複数の領野から構成される複合的領域であると考える事も出来る<ref>'''岩村吉晃'''<br>タッチの階層仮説<br>''Brain Nerve'' 69 313-325 :2017</ref>(岩村 2017)。Kaasらは、[[霊長類]]以外の哺乳類の体性感覚野と霊長類を比較し、第一体性感覚野の新しい考え方を提案した<ref name=Kaas2004/>(Kaas 2004)。霊長類で伝統的な第一体性感覚野と呼ばれる領域(3a,3b,1,2野)は複合的領域であり、細胞構築的特徴や視床中継核からの主な入力を受ける領域ということから、ブロードマン脳地図の3b野を第一次体性感覚野とすべきであると提唱した。 | ||
== 第一体性感覚野損傷による障害とマカクサル属を使った第一次体性感覚野の可逆的不活化の研究== | == 第一体性感覚野損傷による障害とマカクサル属を使った第一次体性感覚野の可逆的不活化の研究== | ||
39行目: | 39行目: | ||
== Tactile localizationにおける第一体性感覚野と他の高次領域との役割に関する研究== | == Tactile localizationにおける第一体性感覚野と他の高次領域との役割に関する研究== | ||
自己身体の接触刺激に対する刺激部位の同定([[tactile localization]])における第一体性感覚野の役割に関する研究が行われている。被験者の異なる指に接触刺激を加えた直後に第一体性感覚野後部に[[ | 自己身体の接触刺激に対する刺激部位の同定([[tactile localization]])における第一体性感覚野の役割に関する研究が行われている。被験者の異なる指に接触刺激を加えた直後に第一体性感覚野後部に[[経頭蓋磁気刺激]]([[TMS]])を加える | ||