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Junko kurahashi (トーク | 投稿記録) 細 (→ツール) |
Junko kurahashi (トーク | 投稿記録) 細 (→CRISPR/Casシステム) |
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== CRISPR/Casシステム == | == CRISPR/Casシステム == | ||
CRISPR/ | CRISPR/Casシステムは、[[wj:真正細菌|真正細菌]]や[[wj:古細菌|古細菌]]の[[wj:獲得免疫系|獲得免疫系]]として発見された。この獲得免疫システムの標的は、[[wj:細菌|細菌]]に感染する[[wj:ファージ|ファージ]]のDNAやRNAであり、異物として認識されたファージ由来のDNAやRNAは分解され除去される。CRISPR/Casシステムによる異物除去の過程は3つのステップ(adaptation, expression, interference)により行われる。侵入した外来DNAは、細菌内で断片化され、その一部が細菌のゲノム中のCRISPR領域に挿入される(adaptation)。次に外来DNAが侵入した際に、CRISPR領域が転写されてpre-CRISPR RNAが生じ、プロセシングを受けCRISPR RNA (crRNA:外来DNA断片と相補的配列を持つ)が生成される(expression)。プロセシングを受けたcrRNAはCasタンパク質と複合体を形成し、外来DNAやRNAと相補的に結合し、それらを切断する(interference)。 | ||
CRISPR/Casシステムは、システムを構成しているCasタンパク質群の違いにより2つのクラスに分類される。クラス1のCRISPR/Casシステムには複数のCasが、クラス2のCRISPR/Casシステムには単一のCasが関与する。さらに作用機序の違いにより、クラス1はⅠ型、Ⅲ型、Ⅳ型に分類され、クラス2はⅡ型、Ⅴ型、Ⅵ型に分類される。Casタンパク質—crRNA複合体は、DNAだけではなくRNAも標的にし、DNAおよびRNAの編集が可能である。 | CRISPR/Casシステムは、システムを構成しているCasタンパク質群の違いにより2つのクラスに分類される。クラス1のCRISPR/Casシステムには複数のCasが、クラス2のCRISPR/Casシステムには単一のCasが関与する。さらに作用機序の違いにより、クラス1はⅠ型、Ⅲ型、Ⅳ型に分類され、クラス2はⅡ型、Ⅴ型、Ⅵ型に分類される。Casタンパク質—crRNA複合体は、DNAだけではなくRNAも標的にし、DNAおよびRNAの編集が可能である。 | ||
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=== DNAの編集 === | === DNAの編集 === | ||
==== CRISPR/Cas9システム ==== | ==== CRISPR/Cas9システム ==== | ||
CRISPR/Cas9システムは、クラス2のⅡ型に分類されるCRISPR/Casシステムであり、CRISPR RNA (crRNA:外来DNA断片と相補的配列を持つ)、trans-activating crRNA (tracrRNA:crRNAの外来DNAと相補的配列以外の部分に結合し、Cas9とcrRNAの複合体形成に必要である)、Cas9タンパク質の3種類の要素から成っている('''図2c''' | CRISPR/Cas9システムは、クラス2のⅡ型に分類されるCRISPR/Casシステムであり、CRISPR RNA (crRNA:外来DNA断片と相補的配列を持つ)、trans-activating crRNA (tracrRNA:crRNAの外来DNAと相補的配列以外の部分に結合し、Cas9とcrRNAの複合体形成に必要である)、Cas9タンパク質の3種類の要素から成っている('''図2c''')。[[wj:Streptococcus pyogenes|''Streptococcus pyogenes'']]株由来のCas9タンパク質は、標的ゲノム配列の下流にある3つの塩基;N(G, A, T, or C)GGをPMA配列(Proto-spacer Adjacent Motif)として認識し、その3塩期上流を切断する。現在普及しているシステムは、標的DNAに対して相補的配列を持つcrRNAの3’末端にtracrRNAを連結させたsingle guide RNA (sgRNA)とCas9を発現させることにより、ゲノムDNA上の狙った部位にDNA二本鎖切断を導入する。 | ||
ゲノム編集ツールとしてのCRISPR/ | 約100塩基のsgRNAのうち、DNA二本鎖切断の標的部位を規定するのは標的部位と相補的配列を持つ20塩基のみである。従って、CRISPR/Cas9システムをゲノム編集ツールとして利用する場合、標的ごとに変える必要があるのはわずか20塩基のみであり、それ以外の塩基配列およびCas9はすべて共通である。CRISPR/Cas9システムは、guide RNAの作製の簡便さ、guide RNAを増やすことにより複数遺伝子の同時編集が可能なことから、誰もが使うことのできるゲノム編集ツールとして急速に普及した。2012年の最初の発表以来、大腸菌、ヒト細胞からゼブラフィッシュに至る多くの細胞・生物種への応用が報告されている<ref><pubmed> 25430774</pubmed></ref>[3]。いまやヒトやサルを含むあらゆる動物個体、植物、微生物への利用が急速に広がっている。 | ||
ゲノム編集ツールとしてのCRISPR/Cas9システムの大きな問題点は、「オフターゲット」と「PAM配列の制約」である。オフターゲットとは、標的でないゲノム部位のDNA配列を変えてしまうことである。オフターゲットの起こる頻度は、細胞種・標的遺伝子座・guide RNAなどにより大きく変化する。オフターゲットを回避する方法として、ダブルニッキング法が考案されている。天然型のCas9は2つのヌクレアーゼドメインを持っているが、その一方をアミノ酸置換により不活性化した一本鎖切断型Cas9(Cas9 nickase)を用いる方法が考案されている<ref><pubmed>23992846</pubmed></ref> <ref><pubmed>27208701</pubmed></ref>[4][5]。標的部位に近接したセンス鎖、アンチセンス鎖に1対のCRISPR/Cas9 nickaseが結合した際にのみDNA二本鎖切断が誘導されるので、オフターゲットの起こる頻度は少なくなる。最近、Cas9 nickaseを用いた標的部位でのゲノム編集効率は、天然型のCas9編集効率と同等かそれ以上であることが報告されている<ref><pubmed> 29584876</pubmed></ref>[6]。また、CRISPR/Cas9を用いて作製された遺伝子改変マウスにおけるオフターゲットの頻度は、全ゲノムレベルで解析した例が少なく確定的ではないが、当初報告されたよりは少ないと考えられている<ref>CRISPR off-targets: a reassessment.<br> | |||
Nature Methods. 2018, 15(4):229-30. doi:10.1038/nmeth.4664</ref> <ref>'''Schaefer KA, Darbo BW, Colgan DF, Tsang SH, Bassuk AG, Mahajan VB.'''<br>Corrigendum and follow-up: Whole genome sequencing of multiple CRISPR-edited mouse lines suggests no excess mutations.<br>bioRxiv. 2017, Posted Jun. 23. Doi: http://dx.org/10.1101/154450</ref> [7][8]。 | Nature Methods. 2018, 15(4):229-30. doi:10.1038/nmeth.4664</ref> <ref>'''Schaefer KA, Darbo BW, Colgan DF, Tsang SH, Bassuk AG, Mahajan VB.'''<br>Corrigendum and follow-up: Whole genome sequencing of multiple CRISPR-edited mouse lines suggests no excess mutations.<br>bioRxiv. 2017, Posted Jun. 23. Doi: http://dx.org/10.1101/154450</ref> [7][8]。 | ||
在ゲノム編集で最もよく使われているSpCas9は[[化膿レンサ球菌]]由来であり、DNA二本鎖切断の部位を決めるには標的DNA配列の下流に隣接するNGGというPAM配列が必要である。このPAM配列の制約により、ゲノムの全ての場所を編集できないという制限があった。David Liuのグループは、[[phage-assisted continuous evolution]] ([[PACE]])を利用して、NG、GAAおよびGATをPAMとするSpCas9変異体 (xCas9)の作成に成功した<ref><pubmed>29512652</pubmed></ref>[9]。xCas9は哺乳類細胞において、最も広範なPAM配列を認識する制約の少ないCasである。さらに機序は不明であるが、xCas9はオフターゲットの頻度も抑制し、Cas9の主要な欠点であるオフターゲットとPAM配列の制約の2つを回避できる理想的なゲノム編集ツールである。 | |||
==== CRISPR/Cpf1システム ==== | ==== CRISPR/Cpf1システム ==== | ||
[[w:Cpf1|Cpf1]] ([[w:Cas12a|Cas12a]])は、クラス2Ⅴ型のCRISPR/Casシステムに関わるDNA[[wj:エンドヌクレアーゼ|エンドヌクレアーゼ]]であり、新たなゲノム編集ツールとして注目されている<ref><pubmed>26422227</pubmed></ref>[10]。Cpf1はCas9とは異なる以下のような特徴を持っている。#Cpf1はgRNAとしてcrRNAのみを必要とし、tracrRNAは必要ない。#Cpf1はCas9と異なり、PAM配列としてTTTV (VはA, C, G)、TTCV, TCTV, CTTVを認識する。#Cas9はDNA二本鎖を切断し平滑末端を形成するが、Cpf1は突出末端を形成する。 | |||
CRISPR/Cpf1システムは、ヒト細胞株やマウス受精卵のゲノム編集に応用され、CRISPR/Cas9システムよりオフターゲットの頻度が少ないことが報告されている<ref><pubmed>27347757</pubmed></ref><ref><pubmed>27272387</pubmed></ref>[11][12]。 | |||
==== CRISPR/dCAS9-BEシステム ==== | ==== CRISPR/dCAS9-BEシステム ==== | ||
従来のゲノム編集は、標的のゲノム部位にDNAの二本鎖切断を起こし、その後に誘導されるDNAの修復機構を利用し、標的DNAを編集する。 | |||
一方CRISPR/dCAS9-BEシステムは、DNAを切断することなく標的DNAの塩基を編集する方法である。ヌクレアーゼ活性を失活させたCas9(dCas9)に、脱アミノ化酵素である[[シチジンデアミナーゼ]]を融合させた塩基エディター(BE)を作成し、guide RNAにより狙ったゲノム部位に塩基エディターを働かせ、標的部位の[[wj:シトシン|シトシン]](C)を[[wj:チミン|チミン]](T)(あるいは[[wj:グアニン|グアニン]](G)を[[wj:アデニン|アデニン]](A))に置換する<ref><pubmed>27096365</pubmed></ref> <ref><pubmed>27492474</pubmed></ref>[13][14]。さらにDavid Liuのグループは、PACEを利用してDNAのAをG(あるいはTをC)に置換できる転移RNAのアデノシンデアミナーゼ変異体(アデニン塩基エディター(ABE))の作成に成功した<ref><pubmed>29160308</pubmed></ref>[15]。dCas9と融合したBEあるいはABEを用いることにより、DNAの二本鎖切断を起こさずにDNAの4塩基全てを個別に置き換えられる。既知の遺伝性疾患の原因となる一塩基変異の約50%は、G-C塩基対からA-T塩基対への転移なので、CRISPR/dCas-ABEシステムは遺伝性疾患を根本的に治す可能性を持っている。 | |||
===RNAの編集=== | ===RNAの編集=== | ||
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==== CRISPR/Cas13(C2c2)システム ==== | ==== CRISPR/Cas13(C2c2)システム ==== | ||
[[w:Feng Zhang|Feng Zhang]]のグループは微生物ゲノムデータベースを探索し、クラス2タイプⅥ型CRISPR/Casシステムの[[Cas13]]([[C2c2]])が、標的RNAに相補的なRNA依存性に一本鎖RNAを切断する酵素であることを見つけた<ref><pubmed>27256883</pubmed></ref>[16]。''Leptotrichia wadei''由来の[[Cas13a]] ([[LwaCas13a]])をCRISPRシステムに組み込んだ系は、標的RNAを高効率かつ高い特異性でノックダウンすることができる<ref name=Abudayyeh2017><pubmed>28976959</pubmed></ref>[17]。 | |||
CRISPR/Cas13aを用いた標的RNAのノックダウンはRNA干渉法(RNAi)に比べ、#オフターゲットが少ない、#長鎖ノンコーディングRNAの発現を抑制できる、などの利点がある。 | |||
さらに、失活させたCas13a (dCas13a)に蛍光タンパク質を融合させることにより、目的のRNAを可視化することができる<ref name=Abudayyeh2017/>[17]。 | |||
最近、Cas13aより高効率かつ高い特異性で標的RNAをノックダウンすることができるCas13bが同定された<ref name=Cox2017><pubmed>29070703</pubmed></ref>[18]。Cas13は、pre-CRISPR RNAをプロセッシングしcrRNAを生成できる活性を持っており、多数の標的RNAを含んだpre-CRISPR RNAをguide RNAとして用いることにより、一度に多くのRNAをノックダウンできる<ref name=Abudayyeh2017/>[17]。 | |||
==== CRISPR/dCas13-ADARシステム ==== | ==== CRISPR/dCas13-ADARシステム ==== | ||
[[Image:ゲノム図3.png|thumb|right|400px|'''図3. CRISPR/dCas13-ADARシステム''']] | [[Image:ゲノム図3.png|thumb|right|400px|'''図3. CRISPR/dCas13-ADARシステム''']] | ||
Feng Zhangのグループは、失活させたCas13b(dCas13b) | Feng Zhangのグループは、失活させたCas13b (dCas13b)にRNAデアミナーゼ(RNAのアデニン(A)を[[wj:イノシンイノシン|イノシンイノシン]](I)に変化させる酵素,ADAR)を融合させ、標的RNAを編集できる系を確立した(REPAIR, RNA Editing for Programmable A to I Replacement、'''図3''')<ref name=Cox2017/>[18]。この系は、RNAの変異を正常に戻すことができる。さらに、RNAを標的にした編集はオフターゲットが起きてもその影響は一過性であり、遺伝子治療としては安全性が高い。 | ||
== CRISPR/Casシステムの神経科学への応用 == | == CRISPR/Casシステムの神経科学への応用 == |