「ゲノム編集」の版間の差分

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 ゲノム編集ツールとしてのCRISPR/Cas9システムの大きな問題点は、「オフターゲット」と「PAM配列の制約」である。オフターゲットとは、標的でないゲノム部位のDNA配列を変えてしまうことである。オフターゲットの起こる頻度は、細胞種・標的遺伝子座・guide RNAなどにより大きく変化する。オフターゲットを回避する方法として、ダブルニッキング法が考案されている。天然型のCas9は2つのヌクレアーゼドメインを持っているが、その一方をアミノ酸置換により不活性化した一本鎖切断型Cas9(Cas9 nickase)を用いる方法が考案されている<ref><pubmed>23992846</pubmed></ref><ref><pubmed>27208701</pubmed></ref>。標的部位に近接したセンス鎖、アンチセンス鎖に1対のCRISPR/Cas9 nickaseが結合した際にのみDNA二本鎖切断が誘導されるので、オフターゲットの起こる頻度は少なくなる。最近、Cas9 nickaseを用いた標的部位でのゲノム編集効率は、天然型のCas9編集効率と同等かそれ以上であることが報告されている<ref><pubmed> 29584876</pubmed></ref>。また、CRISPR/Cas9を用いて作製された遺伝子改変マウスにおけるオフターゲットの頻度は、全ゲノムレベルで解析した例が少なく確定的ではないが、当初報告されたよりは少ないと考えられている<ref>CRISPR off-targets: a reassessment.<br>
 ゲノム編集ツールとしてのCRISPR/Cas9システムの大きな問題点は、「オフターゲット」と「PAM配列の制約」である。オフターゲットとは、標的でないゲノム部位のDNA配列を変えてしまうことである。オフターゲットの起こる頻度は、細胞種・標的遺伝子座・guide RNAなどにより大きく変化する。オフターゲットを回避する方法として、ダブルニッキング法が考案されている。天然型のCas9は2つのヌクレアーゼドメインを持っているが、その一方をアミノ酸置換により不活性化した一本鎖切断型Cas9(Cas9 nickase)を用いる方法が考案されている<ref><pubmed>23992846</pubmed></ref><ref><pubmed>27208701</pubmed></ref>。標的部位に近接したセンス鎖、アンチセンス鎖に1対のCRISPR/Cas9 nickaseが結合した際にのみDNA二本鎖切断が誘導されるので、オフターゲットの起こる頻度は少なくなる。最近、Cas9 nickaseを用いた標的部位でのゲノム編集効率は、天然型のCas9編集効率と同等かそれ以上であることが報告されている<ref><pubmed> 29584876</pubmed></ref>。また、CRISPR/Cas9を用いて作製された遺伝子改変マウスにおけるオフターゲットの頻度は、全ゲノムレベルで解析した例が少なく確定的ではないが、当初報告されたよりは少ないと考えられている<ref>CRISPR off-targets: a reassessment.<br>
Nature Methods. 2018, 15(4):229-30. doi:10.1038/nmeth.4664</ref> <ref>'''Schaefer KA, Darbo BW, Colgan DF, Tsang SH, Bassuk AG, Mahajan VB.'''<br>Corrigendum and follow-up: Whole genome sequencing of multiple CRISPR-edited mouse lines suggests no excess mutations.<br>bioRxiv. 2017, Posted Jun. 23. Doi: http://dx.org/10.1101/154450</ref>。
Nature Methods. 2018, 15(4):229-30. doi:10.1038/nmeth.4664</ref><ref>'''Schaefer KA, Darbo BW, Colgan DF, Tsang SH, Bassuk AG, Mahajan VB.'''<br>Corrigendum and follow-up: Whole genome sequencing of multiple CRISPR-edited mouse lines suggests no excess mutations.<br>bioRxiv. 2017, Posted Jun. 23. Doi: http://dx.org/10.1101/154450</ref>。


 在ゲノム編集で最もよく使われているSpCas9は''Streptococcus pyogenes''由来であり、DNA二本鎖切断の部位を決めるには標的DNA配列の下流に隣接するNGGというPAM配列が必要である。このPAM配列の制約により、ゲノムの全ての場所を編集できないという制限があった。David Liuのグループは、[[phage-assisted continuous evolution]] ([[PACE]])を利用して、NG、GAAおよびGATをPAMとするSpCas9変異体 (xCas9)の作成に成功した<ref><pubmed>29512652</pubmed></ref>。xCas9は哺乳類細胞において、最も広範なPAM配列を認識する制約の少ないCasである。さらに機序は不明であるが、xCas9はオフターゲットの頻度も抑制し、Cas9の主要な欠点であるオフターゲットとPAM配列の制約の2つを回避できる理想的なゲノム編集ツールである。
 在ゲノム編集で最もよく使われているSpCas9は''Streptococcus pyogenes''由来であり、DNA二本鎖切断の部位を決めるには標的DNA配列の下流に隣接するNGGというPAM配列が必要である。このPAM配列の制約により、ゲノムの全ての場所を編集できないという制限があった。David Liuのグループは、[[phage-assisted continuous evolution]] ([[PACE]])を利用して、NG、GAAおよびGATをPAMとするSpCas9変異体 (xCas9)の作成に成功した<ref><pubmed>29512652</pubmed></ref>。xCas9は哺乳類細胞において、最も広範なPAM配列を認識する制約の少ないCasである。さらに機序は不明であるが、xCas9はオフターゲットの頻度も抑制し、Cas9の主要な欠点であるオフターゲットとPAM配列の制約の2つを回避できる理想的なゲノム編集ツールである。
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 CRISPR/Casシステムは、RNA誘導型ヌクレアーゼであり、ガイドRNAが標的ゲノム部位にCasを誘導する。Casに点変異を入れ、ガイドRNAとは複合体を形成できるがヌクレアーゼ活性を持たないCas を作成することができる。この不活性型Cas(dCas9やdCpf1)に、様々な活性を持つ蛋白質を融合することにより、融合蛋白質を標的ゲノム部位に誘導することができる。
 CRISPR/Casシステムは、RNA誘導型ヌクレアーゼであり、ガイドRNAが標的ゲノム部位にCasを誘導する。Casに点変異を入れ、ガイドRNAとは複合体を形成できるがヌクレアーゼ活性を持たないCas を作成することができる。この不活性型Cas(dCas9やdCpf1)に、様々な活性を持つ蛋白質を融合することにより、融合蛋白質を標的ゲノム部位に誘導することができる。


 [[転写活性化因子]]Vp64あるいは[[転写抑制因子]]KRABをdCas9やdCpf1と融合し、標的ゲノム部位と相補的配列を持つガイドRNAと伴に細胞に導入すると、標的遺伝子の転写を活性化あるいは抑制することができ、遺伝子の機能を解析することができる<ref><pubmed>23849981</pubmed></ref> <ref><pubmed>29235474</pubmed></ref>。しかし、一つのdCasに対し一つの転写調節因子を結合させても遺伝子転写制御は不十分であり、通常は、dCasまたはガイドRNAに複数の転写調節因子を付加する系が使われている<ref><pubmed>27248712</pubmed></ref>。この系は、一つの細胞内の複数の遺伝子の転写を同時に制御することができる。
 [[転写活性化因子]]Vp64あるいは[[転写抑制因子]]KRABをdCas9やdCpf1と融合し、標的ゲノム部位と相補的配列を持つガイドRNAと伴に細胞に導入すると、標的遺伝子の転写を活性化あるいは抑制することができ、遺伝子の機能を解析することができる<ref><pubmed>23849981</pubmed></ref><ref><pubmed>29235474</pubmed></ref>。しかし、一つのdCasに対し一つの転写調節因子を結合させても遺伝子転写制御は不十分であり、通常は、dCasまたはガイドRNAに複数の転写調節因子を付加する系が使われている<ref><pubmed>27248712</pubmed></ref>。この系は、一つの細胞内の複数の遺伝子の転写を同時に制御することができる。


==== エピゲノム制御 ====
==== エピゲノム制御 ====
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===== 遺伝子改変非ヒト霊長類の作製 =====
===== 遺伝子改変非ヒト霊長類の作製 =====
 ヒトの疾患、特に精神神経疾患のモデル動物としてマウスよりヒトと解剖学的、生理学的、遺伝学的に類似している[[非ヒト霊長類]]の疾患モデルが重要である。ゲノム編集技術を用いた標的遺伝子改変非ヒト霊長類の作成には、2014年に3つのグループが成功した<ref><pubmed>24486104</pubmed></ref> <ref><pubmed>24529597</pubmed></ref> <ref><pubmed>24838303</pubmed></ref>。TALENを用いた[[wj:アカゲザル|アカゲザル]]と[[wj:カニクイザル|カニクイザル]]の[[MECP2]]遺伝子の破壊とCRISPR/Cas9システムを用いたカニクイザルの3つの遺伝子([[Nr0b1]], [[Ppar-γ]] [[Rag1]])の破壊が報告された。2015年には、CRISPR/Cas9システムを用い一本鎖のオリゴDNAによる[[p53]]遺伝子への塩基置換が報告された<ref><pubmed>25430965</pubmed></ref>[37]。2018年には、[[mCherry]]やGFPなどの標的部位へのノックインカニクイザルの作成が報告された<ref><pubmed> 29327726</pubmed></ref><ref><pubmed>29327727</pubmed></ref>。現在までに作成された精神疾患の非ヒト霊長類モデルは、[[レット症候群]]のモデルであるMecP2欠損カニクイザルと[[自閉症スペクトラム障害]]のモデルである[[SHANK3]]欠損カニクイザルがあり、いずれも疾患の症状を再現している<ref><pubmed>28741620</pubmed></ref><ref><pubmed>28525759</pubmed></ref>。
 ヒトの疾患、特に精神神経疾患のモデル動物としてマウスよりヒトと解剖学的、生理学的、遺伝学的に類似している[[非ヒト霊長類]]の疾患モデルが重要である。ゲノム編集技術を用いた標的遺伝子改変非ヒト霊長類の作成には、2014年に3つのグループが成功した<ref><pubmed>24486104</pubmed></ref><ref><pubmed>24529597</pubmed></ref><ref><pubmed>24838303</pubmed></ref>。TALENを用いた[[wj:アカゲザル|アカゲザル]]と[[wj:カニクイザル|カニクイザル]]の[[MECP2]]遺伝子の破壊とCRISPR/Cas9システムを用いたカニクイザルの3つの遺伝子([[Nr0b1]], [[Ppar-γ]] [[Rag1]])の破壊が報告された。2015年には、CRISPR/Cas9システムを用い一本鎖のオリゴDNAによる[[p53]]遺伝子への塩基置換が報告された<ref><pubmed>25430965</pubmed></ref>[37]。2018年には、[[mCherry]]やGFPなどの標的部位へのノックインカニクイザルの作成が報告された<ref><pubmed> 29327726</pubmed></ref><ref><pubmed>29327727</pubmed></ref>。現在までに作成された精神疾患の非ヒト霊長類モデルは、[[レット症候群]]のモデルであるMecP2欠損カニクイザルと[[自閉症スペクトラム障害]]のモデルである[[SHANK3]]欠損カニクイザルがあり、いずれも疾患の症状を再現している<ref><pubmed>28741620</pubmed></ref><ref><pubmed>28525759</pubmed></ref>。


 CRISPR/Cas9システムを用いることにより、忠実に疾患病態を再現した非ヒト霊長類の作製が可能になった。しかし、ゲノム編集の効率化、モザイクの抑制、オフターゲットの抑制など、まだ技術の改良が必要である。また、非ヒト霊長類をモデル動物として用いる場合、個体間のゲノム多様性も重要な問題になる。最近、カニクイザルで体細胞からのクローン作成が報告されたので<ref><pubmed>29395327</pubmed></ref>、クローン技術とCRISPR/Casシステムを組み合わせることにより、より優れた精神神経疾患モデルを作出できると期待される。
 CRISPR/Cas9システムを用いることにより、忠実に疾患病態を再現した非ヒト霊長類の作製が可能になった。しかし、ゲノム編集の効率化、モザイクの抑制、オフターゲットの抑制など、まだ技術の改良が必要である。また、非ヒト霊長類をモデル動物として用いる場合、個体間のゲノム多様性も重要な問題になる。最近、カニクイザルで体細胞からのクローン作成が報告されたので<ref><pubmed>29395327</pubmed></ref>、クローン技術とCRISPR/Casシステムを組み合わせることにより、より優れた精神神経疾患モデルを作出できると期待される。
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 生体における遺伝子ノックアウトは、標的遺伝子に対するガイドRNAとCas9のcDNAを、様々な臓器に導入し、非相同末端結合(NHEJ)を利用した修復により可能である。しかし、標的部位への遺伝子ノックインには、相同組換えを利用した修復が必要である。神経細胞などの非分裂細胞は、相同組換え活性が低く、従来の遺伝子ノックイン技術を適用することは難しい。最近、非分裂細胞に効率よく遺伝子をノックインできる技術が開発されたので、以下に2つの新技術を概説する。ゲノム編集に必要な核酸を生体に導入する方法として、[[アデノ随伴ウイルスベクター]]を用いる方法、電気穿孔法、[[ハイドロダイナッミク法]]などがある。ハイドロダイナッミク法は肝臓でのゲノム編集に用いられるが<ref>'''Ibraheim E, Song CQ, Mir A, Amrani N, Xue W, Sontheimer EJ.'''<br>All-in-One adeno-associated virus delivery and genome editing. <br>bioRxiv Posted April 4, 2018</ref>、脳でのゲノム編集は主にアデノ随伴ウイルスベクターを用いる方法と電気穿孔法が用いられる。
 生体における遺伝子ノックアウトは、標的遺伝子に対するガイドRNAとCas9のcDNAを、様々な臓器に導入し、非相同末端結合(NHEJ)を利用した修復により可能である。しかし、標的部位への遺伝子ノックインには、相同組換えを利用した修復が必要である。神経細胞などの非分裂細胞は、相同組換え活性が低く、従来の遺伝子ノックイン技術を適用することは難しい。最近、非分裂細胞に効率よく遺伝子をノックインできる技術が開発されたので、以下に2つの新技術を概説する。ゲノム編集に必要な核酸を生体に導入する方法として、[[アデノ随伴ウイルスベクター]]を用いる方法、電気穿孔法、[[ハイドロダイナッミク法]]などがある。ハイドロダイナッミク法は肝臓でのゲノム編集に用いられるが<ref>'''Ibraheim E, Song CQ, Mir A, Amrani N, Xue W, Sontheimer EJ.'''<br>All-in-One adeno-associated virus delivery and genome editing. <br>bioRxiv Posted April 4, 2018</ref>、脳でのゲノム編集は主にアデノ随伴ウイルスベクターを用いる方法と電気穿孔法が用いられる。


 生体におけるゲノム編集は、疾患の悪化に関与する遺伝子の破壊あるいは変異遺伝子の修復により、いままで治療法のなかった精神神経疾患に新しい治療法を提供する可能性を持っている。筋ジストロフィーの新しい治療法として、[[アンチセンスオリゴヌクレオチド]]を用いた[[exon skipping]](変異のあるエクソンを飛ばして、多少短くなるがある程度機能のある原因遺伝子ジストロフィンを産生させる方法)が注目されている。しかし、exon skippingの効率や副作用など、多くの克服すべき課題が多い。そこで、アンチセンスオリゴヌクレオチドの代わりにCRISPR/Cas9を用いてexon skippingを起こさせる試みが[[デュシャンヌ型筋ジストロフィー]](DMD)のモデルマウスを用いて行われた。米国の3つの研究グループは、ほぼ同時に、CRISPR/Cas9を使ってDMDモデルマウスのジストロフィン遺伝子の変異部分のみを切除し、機能的なジストロフィンを生成させ、筋力を回復させることに成功した<ref><pubmed>26721683</pubmed></ref> <ref><pubmed>26721684</pubmed></ref> <ref><pubmed>26721686</pubmed></ref>。患者を対象とした臨床治験を始めるには、CRISPR/Cas9の効率向上、骨格筋へのデリバリー法の開発、免疫原性など克服すべき課題も多いが、''in vivo''でのゲノム編集が有効なことを示した成果である。
 生体におけるゲノム編集は、疾患の悪化に関与する遺伝子の破壊あるいは変異遺伝子の修復により、いままで治療法のなかった精神神経疾患に新しい治療法を提供する可能性を持っている。筋ジストロフィーの新しい治療法として、[[アンチセンスオリゴヌクレオチド]]を用いた[[exon skipping]](変異のあるエクソンを飛ばして、多少短くなるがある程度機能のある原因遺伝子ジストロフィンを産生させる方法)が注目されている。しかし、exon skippingの効率や副作用など、多くの克服すべき課題が多い。そこで、アンチセンスオリゴヌクレオチドの代わりにCRISPR/Cas9を用いてexon skippingを起こさせる試みが[[デュシャンヌ型筋ジストロフィー]](DMD)のモデルマウスを用いて行われた。米国の3つの研究グループは、ほぼ同時に、CRISPR/Cas9を使ってDMDモデルマウスのジストロフィン遺伝子の変異部分のみを切除し、機能的なジストロフィンを生成させ、筋力を回復させることに成功した<ref><pubmed>26721683</pubmed></ref><ref><pubmed>26721684</pubmed></ref><ref><pubmed>26721686</pubmed></ref>。患者を対象とした臨床治験を始めるには、CRISPR/Cas9の効率向上、骨格筋へのデリバリー法の開発、免疫原性など克服すべき課題も多いが、''in vivo''でのゲノム編集が有効なことを示した成果である。




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== ゲノム編集研究の今後 ==
== ゲノム編集研究の今後 ==
 CRISPR/Casシステムによるゲノム編集技術は、急速に進歩しており、従来困難であった変異遺伝子の修復や外来遺伝子の標的部位へのノックインが可能になりつつある。遺伝子異常が原因で起こる疾患の根本治療は、異常な遺伝子を正常に戻すことであり、ゲノム編集技術はそれを可能にする技術である。最近、CRISPR/Casシステムを用い、ヒト受精卵の遺伝子改変を行った論文が報告され、世界的に大きな問題となっている<ref><pubmed>25894090</pubmed></ref> <ref><pubmed> 28251317</pubmed></ref> <ref><pubmed>27052831</pubmed></ref> <ref><pubmed>28783728</pubmed></ref> <ref><pubmed>28875305</pubmed></ref> <ref><pubmed>28942539</pubmed></ref>。CRISPR/Casシステムの技術開発および応用に関しては、環境(生物多様性)、安全性、倫理などの面からの議論が必要である。しかし、重要なことは、この技術が人類にもたらすリスクとメリットを客観的に分析し、感情に流されることなく、社会的コンセンサスを得ながら、応用の方向性を決めることである。さらに、この技術の開発スピードは早いので、社会的コンセンサス自体の不断な改変が必要不可欠である。
 CRISPR/Casシステムによるゲノム編集技術は、急速に進歩しており、従来困難であった変異遺伝子の修復や外来遺伝子の標的部位へのノックインが可能になりつつある。遺伝子異常が原因で起こる疾患の根本治療は、異常な遺伝子を正常に戻すことであり、ゲノム編集技術はそれを可能にする技術である。最近、CRISPR/Casシステムを用い、ヒト受精卵の遺伝子改変を行った論文が報告され、世界的に大きな問題となっている<ref><pubmed>25894090</pubmed></ref><ref><pubmed> 28251317</pubmed></ref><ref><pubmed>27052831</pubmed></ref><ref><pubmed>28783728</pubmed></ref><ref><pubmed>28875305</pubmed></ref><ref><pubmed>28942539</pubmed></ref>。CRISPR/Casシステムの技術開発および応用に関しては、環境(生物多様性)、安全性、倫理などの面からの議論が必要である。しかし、重要なことは、この技術が人類にもたらすリスクとメリットを客観的に分析し、感情に流されることなく、社会的コンセンサスを得ながら、応用の方向性を決めることである。さらに、この技術の開発スピードは早いので、社会的コンセンサス自体の不断な改変が必要不可欠である。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references/>
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