429
回編集
Akinorinishi (トーク | 投稿記録) 細 (→統合失調症) |
細 (The LinkTitles extension automatically added links to existing pages (https://github.com/bovender/LinkTitles).) |
||
1行目: | 1行目: | ||
<div align="right"> | <div align="right"> | ||
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0096096 首藤 隆秀]、[http://researchmap.jp/Akinori_Nishi 西 昭徳*]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0096096 首藤 隆秀]、[http://researchmap.jp/Akinori_Nishi 西 昭徳*]</font><[[br]]> | ||
''久留米大学医学部薬理学講座''<br> | ''久留米大学医学部薬理学講座''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年3月30日 原稿完成日:2016年7月27日<br> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年3月30日 原稿完成日:2016年7月27日<br> | ||
18行目: | 18行目: | ||
{{PBB|geneid=84152}} | {{PBB|geneid=84152}} | ||
== イントロダクション == | == イントロダクション == | ||
DARPP-32は、[[ドーパミン]]神経の投射を受ける[[線条体]]組織において、cAMP依存性タンパク質リン酸化酵素(PKA)によりリン酸化されるタンパク質として、1983年に[[wikipedia:ポール・グリーンガード|Paul Greengard]]博士らにより発見された<ref><pubmed> 6296685 </pubmed></ref>。[[電気泳動]]([[SDS-PAGE]])において32 kDaの分子量であったため、“ドーパミンおよび[[cyclic AMP]]によりリン酸化が制御される32 kDaのタンパク質”としてDARAPP-32と名付けられた。Greengard博士は、DARPP-32を中心とするドーパミン情報伝達の解明により、2000年の[[wikipedia:ja:ノーベル生理・医学賞|ノーベル生理・医学賞]]を受賞している。 | DARPP-32は、[[ドーパミン]]神経の投射を受ける[[線条体]]組織において、cAMP依存性タンパク質リン酸化酵素(PKA)によりリン酸化されるタンパク質として、1983年に[[wikipedia:ポール・グリーンガード|Paul Greengard]]博士らにより発見された<ref><[[pubmed]]> 6296685 </pubmed></ref>。[[電気泳動]]([[SDS-PAGE]])において32 kDaの分子量であったため、“ドーパミンおよび[[cyclic AMP]]によりリン酸化が制御される32 kDaのタンパク質”としてDARAPP-32と名付けられた。Greengard博士は、DARPP-32を中心とするドーパミン情報伝達の解明により、2000年の[[wikipedia:ja:ノーベル生理・医学賞|ノーベル生理・医学賞]]を受賞している。 | ||
== 構造 == | == 構造 == | ||
[[ファイル:Fig1 DARPP-32 構造.jpg|thumb|350px|'''図1.DARPP-32の構造とリン酸化サイト'''<br>マウスのDARPP-32アミノ酸配列とリン酸化サイトを上段に示す。Thr34がリン酸化されるとPP1活性を抑制し、Thr75がリン酸化されるとPKA活性を抑制する。また、P-Ser97は核外移行シグナル(NES)として機能する。下段には、ヒトのDARPP-32アミノ酸配列とt-DARPPアミノ酸配列を示す。<br>[[PKA]]: [[cAMP依存性タンパク質リン酸化酵素]]、[[CK2]]: [[カゼインキナーゼ2]]、[[CK1]]: [[カゼインキナーゼ1]]、[[PP1]]: [[タンパク質脱リン酸化酵素1]]、[[PP2B]]: [[タンパク質脱リン酸化酵素2B]]/[[カルシニューリン]]]] | [[ファイル:Fig1 DARPP-32 構造.jpg|thumb|350px|'''図1.DARPP-32の構造とリン酸化サイト'''<br>マウスのDARPP-32アミノ酸配列とリン酸化サイトを上段に示す。Thr34がリン酸化されるとPP1活性を抑制し、Thr75がリン酸化されるとPKA活性を抑制する。また、P-Ser97は核外移行シグナル(NES)として機能する。下段には、ヒトのDARPP-32アミノ酸配列とt-DARPPアミノ酸配列を示す。<br>[[PKA]]: [[cAMP依存性タンパク質リン酸化酵素]]、[[CK2]]: [[カゼインキナーゼ2]]、[[CK1]]: [[カゼインキナーゼ1]]、[[PP1]]: [[タンパク質脱リン酸化酵素1]]、[[PP2B]]: [[タンパク質脱リン酸化酵素2B]]/[[カルシニューリン]]]] | ||
194-205アミノ酸([[マウス]] 194; [[ラット]] 205; [[ヒト]] 204)より構成される酸性タンパク質である。[[リン酸化]]により機能が制御されるタンパク質であり、4つのリン酸化サイトThr34 ([[cAMP依存性タンパク質リン酸化酵素]])、Thr75 ([[Cdk5]])、Ser97 ([[カゼインキナーゼ2]])、Ser130 ([[カゼインキナーゼ1]])(マウスアミノ酸配列による)]の機能的意義が明らかにされている<ref name=ref2 />(図1)。N末端の7-11アミノ酸配列(KKIQF)は[[PP1触媒サブユニット]]([[PP1c]] | 194-205アミノ酸([[マウス]] 194; [[ラット]] 205; [[ヒト]] 204)より構成される酸性タンパク質である。[[リン酸化]]により機能が制御されるタンパク質であり、4つのリン酸化サイトThr34 ([[cAMP依存性タンパク質リン酸化酵素]])、Thr75 ([[Cdk5]])、Ser97 ([[カゼインキナーゼ2]])、Ser130 ([[カゼインキナーゼ1]])(マウスアミノ酸配列による)]の機能的意義が明らかにされている<ref name=ref2 />(図1)。N末端の7-11アミノ酸配列(KKIQF)は[[PP1触媒サブユニット]]([[PP1c]])と結合する。さらに、[[スレオニン]]34(Thr34)を含む領域は、Thr34がリン酸化されるとPP1c活性部位と結合してPP1c活性を抑制する<ref><pubmed> 9651542 </pubmed></ref>。セリン(Ser)97近傍の103-111アミノ酸配列は[[核外移行シグナル]](nuclear export signal, NES)となっており、Ser97がリン酸化されたDARPP-32は[[chromosome region maintenance 1 protein]]([[CRM1]])と結合して核外に移行する<ref name=ref3><pubmed> 18496528 </pubmed></ref>。 | ||
== サブファミリー == | == サブファミリー == | ||
41行目: | 41行目: | ||
PP1により機能が制御されるタンパク質として、[[NMDA型グルタミン酸受容体]]、[[AMPA型グルタミン酸受容体]]、[[Na+チャネル|Na<sup>+</sup>チャネル]]、[[Ca2+チャネル|Ca<sup>2+</sup>チャネル]]、[[Na+,K+-ATPase|Na<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPase]]、[[ヒストンH3]]などが知られている<ref name=ref1 /> <ref name=ref2 /> <ref><pubmed> 21779236 </pubmed></ref>。 | PP1により機能が制御されるタンパク質として、[[NMDA型グルタミン酸受容体]]、[[AMPA型グルタミン酸受容体]]、[[Na+チャネル|Na<sup>+</sup>チャネル]]、[[Ca2+チャネル|Ca<sup>2+</sup>チャネル]]、[[Na+,K+-ATPase|Na<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPase]]、[[ヒストンH3]]などが知られている<ref name=ref1 /> <ref name=ref2 /> <ref><pubmed> 21779236 </pubmed></ref>。 | ||
NMDA型[[グルタミン酸受容体]][[GluN1]] (NR1) サブユニット(Ser897)、AMPA型グルタミン酸受容体[[GluA1]] (GluR1) サブユニット(Ser845)はPKAによりリン酸化されるが、同時にP-Thr34 DARPP-32がPP-1による脱リン酸化を抑制するため、これらのPKA/PP-1基質のリン酸化が効率良く促進される。 | |||
DARPP- | DARPP-32はPKAの他に、[[Cdk]]5(Thr75)、CK2(Ser97)、CK1(Ser130)によりリン酸化される。Cdk5によってリン酸化されたP-Thr75 DARPP-32はPKAを抑制する。つまり、DARPP-32はThr34あるいはThr75のリン酸化により、PP-1抑制タンパク質としてもPKA抑制タンパク質としても機能する<ref><pubmed> 10604473 </pubmed></ref>。 | ||
Ser97、Ser130のリン酸化は、DARPP-32分子内メカニズムによりThr34リン酸化・脱リン酸化のキネティクスを調節している。CK2によるSer97のリン酸化はThr34のPKAによるリン酸化を促進し<ref><pubmed> 2557337 </pubmed></ref>、CK1によるSer130のリン酸化はThr34の[[タンパク質脱リン酸化酵素2B]] ([[PP2B]], [[カルシニューリン]])による脱リン酸化を抑制する<ref><pubmed> 9461512 </pubmed></ref>(図1)。その結果、Ser97、Ser130のリン酸化により、ドーパミンD<sub>1</sub>受容体/PKA/DARPP-32シグナルは促進される。 | Ser97、Ser130のリン酸化は、DARPP-32分子内メカニズムによりThr34リン酸化・脱リン酸化のキネティクスを調節している。CK2によるSer97のリン酸化はThr34のPKAによるリン酸化を促進し<ref><pubmed> 2557337 </pubmed></ref>、CK1によるSer130のリン酸化はThr34の[[タンパク質脱リン酸化酵素2B]] ([[PP2B]], [[カルシニューリン]])による脱リン酸化を抑制する<ref><pubmed> 9461512 </pubmed></ref>(図1)。その結果、Ser97、Ser130のリン酸化により、ドーパミンD<sub>1</sub>受容体/PKA/DARPP-32シグナルは促進される。 |