「マーの小脳理論」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
 
(同じ利用者による、間の2版が非表示)
24行目: 24行目:
=== 登上線維による教師あり学習 ===
=== 登上線維による教師あり学習 ===


 最近の計算論的神経科学では、学習を教師あり学習、[[強化学習]]、教[[師無し学習]]に分類する<ref><pubmed> 12662639 </pubmed></ref>。
 最近の計算論的神経科学では、学習を教師あり学習、[[強化学習]][[教師無し学習]]に分類する<ref><pubmed> 12662639 </pubmed></ref>。


 ニューロンが教師無し学習を実現しようとすれば、[[ヘッブ則]]に基づいてシナプス荷重を変更する必要がある。つまり、シナプスに入力があり、後シナプスニューロンが発火したとき、そのシナプスが選択的に増強される。これが成立するためには、ニューロンが発火したという情報をシナプスまで伝達する必要がある。[[大脳皮質]]と[[海馬]]の[[錐体細胞]]では、[[軸索初節]]から[[樹状突起]]の末端部に向けて逆伝搬する[[活動電位]]がこの情報伝搬を実現している。
 ニューロンが教師無し学習を実現しようとすれば、[[ヘッブ則]]に基づいてシナプス荷重を変更する必要がある。つまり、シナプスに入力があり、後シナプスニューロンが発火したとき、そのシナプスが選択的に増強される。これが成立するためには、ニューロンが発火したという情報をシナプスまで伝達する必要がある。[[大脳皮質]]と[[海馬]]の[[錐体細胞]]では、[[軸索初節]]から[[樹状突起]]の末端部に向けて逆伝搬する[[活動電位]]がこの情報伝搬を実現している。
43行目: 43行目:
 Marrは、小脳では、プルキンエ細胞の平行線維入力に唯一のシナプス可塑性があると提案したが、プルキンエ細胞上の[[抑制性シナプス]]、小脳皮質の[[分子層]]の[[介在ニューロン]]、顆粒細胞、[[小脳核]]細胞にもシナプス可塑性があることが明らかになった<ref><pubmed> 23666089 </pubmed></ref>。しかし、異なるニューロン種での学習の能力を比較するためには、可塑性を有するシナプスの数を比較する必要がある。
 Marrは、小脳では、プルキンエ細胞の平行線維入力に唯一のシナプス可塑性があると提案したが、プルキンエ細胞上の[[抑制性シナプス]]、小脳皮質の[[分子層]]の[[介在ニューロン]]、顆粒細胞、[[小脳核]]細胞にもシナプス可塑性があることが明らかになった<ref><pubmed> 23666089 </pubmed></ref>。しかし、異なるニューロン種での学習の能力を比較するためには、可塑性を有するシナプスの数を比較する必要がある。


 プルキンエ細胞の総数は1千5百万で、一細胞あたり平行線維シナプスが80万個あるから、シナプス総数は十兆である。顆粒細胞は5百億個あるが、シナプス数は4.5であるから、シナプス総数は2千億で、プルキンエ細胞のシナプス総数より、二桁少ない。[[ゴルジ細胞]]、[[バスケット細胞]]はプルキンエ細胞より数が少なく、しかも細胞が小さいのでシナプス総数は三桁以上少ない。[[星状細胞]]の数はプルキンエ細胞の10倍程度あるが、著しく小さいのでシナプス数も少ない。小脳核細胞は数十万個程度しかない。従って、プルキンエ細胞は小脳の他の種類のニューロンを全て集めても、2桁シナプス数が多いことになる。
 プルキンエ細胞の総数は1千5百万で、一細胞あたり平行線維シナプスが80万個あるから、シナプス総数は十兆である。顆粒細胞は5百億個あるが、シナプス数は4.5であるから、シナプス総数は2千億で、プルキンエ細胞のシナプス総数より、二桁少ない。[[ゴルジ細胞]]、[[バスケット細胞]]はプルキンエ細胞より数が少なく、しかも細胞が小さいのでシナプス総数は三桁以上少ない。[[星状細胞]]の数はプルキンエ細胞の10倍程度あるが、著しく小さいのでシナプス数も少ない。小脳核細胞は数百万個程度しかない。従って、プルキンエ細胞は小脳の他の種類のニューロンを全て集めても、2桁シナプス数が多いことになる。


 学習機械の自由度は、パラメータの数で決まり、数が多いとそれだけ複雑な問題を解けることになる。定量的には、小脳の学習能力の殆どがプルキンエ細胞に由来すると考えられる。
 学習機械の自由度は、パラメータの数で決まり、数が多いとそれだけ複雑な問題を解けることになる。定量的には、小脳の学習能力の殆どがプルキンエ細胞に由来すると考えられる。
86行目: 86行目:
*[[小脳]]
*[[小脳]]
*[[瞬目反射の条件づけ|瞬膜反射の条件づけ]]
*[[瞬目反射の条件づけ|瞬膜反射の条件づけ]]
* [[マーの視覚計算理論]]


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
<references />