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通常、ナノボディは、目的別に発現ベクターにクローニングした後、哺乳類細胞だけなく、[[wj:細菌|細菌]]、[[wj:酵母|酵母]]、[[wj:植物|植物]]でも産生させることができる。哺乳類細胞では、抗体が本来機能する細胞外だけでなく、細胞内部でも発現させることが可能である([[wj:イントラボディ|イントラボディ]]、下記参考)。ただし、ナノボディの配列はそれぞれ異なり、[[wj:ジスルフィド結合|ジスルフィド結合]]の生成が抗原との結合力あるコンフォメーションを取るために必要な場合、細胞外とは還元環境の異なる細胞内や細菌などでは活性のあるものが産生できないものもある。ナノボディの中には90℃という高温でも失活しないものもあるように<ref><pubmed>10209277</pubmed></ref><ref><pubmed>24739391</pubmed></ref>、一般に安定性は高いが、これも各ナノボディのアミノ酸配列から生じる特性による。<u>(編集部コメント:この段落はむしろ応用の方に移してはと思います)</u> | 通常、ナノボディは、目的別に発現ベクターにクローニングした後、哺乳類細胞だけなく、[[wj:細菌|細菌]]、[[wj:酵母|酵母]]、[[wj:植物|植物]]でも産生させることができる。哺乳類細胞では、抗体が本来機能する細胞外だけでなく、細胞内部でも発現させることが可能である([[wj:イントラボディ|イントラボディ]]、下記参考)。ただし、ナノボディの配列はそれぞれ異なり、[[wj:ジスルフィド結合|ジスルフィド結合]]の生成が抗原との結合力あるコンフォメーションを取るために必要な場合、細胞外とは還元環境の異なる細胞内や細菌などでは活性のあるものが産生できないものもある。ナノボディの中には90℃という高温でも失活しないものもあるように<ref><pubmed>10209277</pubmed></ref><ref><pubmed>24739391</pubmed></ref>、一般に安定性は高いが、これも各ナノボディのアミノ酸配列から生じる特性による。<u>(編集部コメント:この段落はむしろ応用の方に移してはと思います)</u> | ||
=== | ===修飾=== | ||
ナノボディだけでは 通常の抗体と違い定常領域を欠いているため、何らかの修飾が必要である。このことはナノボディが抗体のように簡便に利用できないという不便さになっているが、修飾を実験に合わせて自在に工夫できるという利点にもなっている。また、余分な構造を持たないので、バックグラウンドを低下させ、感度や精度の高い解析が可能になるという長所もある。 | |||
====化学的カップリング==== | ====化学的カップリング==== | ||
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また、化学的なカップリングなので、カップリングする分子を変化させ工夫することで、目的に合わせて様々な標識ナノボディ(薬剤を結合した[[wj:武装抗体|武装抗体]]など)を作製できる可能性がある<ref><pubmed>28883823 </pubmed></ref> 。しかし、カップリングによるアミノ酸残基を修飾する反応により抗原結合能を失うことも想定される。しかし、修飾するアミノ酸残基の位置を制御することは可能である<ref><pubmed>26633879</pubmed></ref> 。<u>(編集部コメント:「しかし」がダブっています。)</u> | また、化学的なカップリングなので、カップリングする分子を変化させ工夫することで、目的に合わせて様々な標識ナノボディ(薬剤を結合した[[wj:武装抗体|武装抗体]]など)を作製できる可能性がある<ref><pubmed>28883823 </pubmed></ref> 。しかし、カップリングによるアミノ酸残基を修飾する反応により抗原結合能を失うことも想定される。しかし、修飾するアミノ酸残基の位置を制御することは可能である<ref><pubmed>26633879</pubmed></ref> 。<u>(編集部コメント:「しかし」がダブっています。)</u> | ||
====RANbody==== | ====RANbody==== | ||
化学的カップリング反応は、しばしばナノボディの活性を消失させるが、実験的にも条件決定など必ずしも容易ではない。この問題を克服するために開発されたプラットフォームがRANbody(Receptor-and-Nanobody)である<ref name=yamagata2018><pubmed>29440485</pubmed></ref>。 | 化学的カップリング反応は、しばしばナノボディの活性を消失させるが、実験的にも条件決定など必ずしも容易ではない。この問題を克服するために開発されたプラットフォームがRANbody(Receptor-and-Nanobody)である<ref name=yamagata2018><pubmed>29440485</pubmed></ref>。 | ||
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基本的には通常の「抗体」のように生化学的解析([[ウェスタンブロッティング]]、[[免疫沈降法]]、[[ELISA]]など)、[[免疫組織化学]]([[組織染色]]、[[蛍光抗体法]]など)、細胞分離技術([[wj:FACS|FACS]]など)に利用できる(図4)。 | 基本的には通常の「抗体」のように生化学的解析([[ウェスタンブロッティング]]、[[免疫沈降法]]、[[ELISA]]など)、[[免疫組織化学]]([[組織染色]]、[[蛍光抗体法]]など)、細胞分離技術([[wj:FACS|FACS]]など)に利用できる(図4)。 | ||
===免疫沈降法=== | ===免疫沈降法=== | ||
免疫沈降法(プルダウン pulldown)では、GFPナノボディなどを[[wj:アガロース|アガロース]]や[[wj:磁気ビーズ|磁気ビーズ]]などの担体にカップリングすることで得られた担体が市販されているので利用できる。また、多くのナノボディは大量に自家精製できるので、通常の抗体などの[[wj:アフィニティクロマトグラフィ|アフィニティクロマトグラフィ]]担体を作製するのと同じように利用可能である。例えば、[[wj:グルタチオンS-転移酵素|グルタチオンS-転移酵素]] (GST)などとの融合タンパク質は、グルタチン結合ゲルに容易に結合するので、免疫沈降法に有用である<ref><pubmed>18936248</pubmed></ref> <ref><pubmed>17951627</pubmed></ref> <ref><pubmed>25964651</pubmed></ref> 。 | |||
=== 免疫組織化学 === | |||
ナノボディは小さく、通常の抗体では入り込めない箇所に結合することで、[[STORM]]や[[PALM]]などの[[高解像度顕微鏡]]においても、アーチファクトが減少し、有用なツールになると考えられている<ref><pubmed>23845946</pubmed></ref> 。<u>(編集部コメント:上の方から持ってきました)</u> | |||
===イントラボディ、クロモボディ=== | ===イントラボディ、クロモボディ=== | ||
ナノボディの特徴は、組み換えタンパク質として、細胞に強制発現させることで、細胞内で機能的に発現することができることである。この方法は、一般に[[イントラボディ]] (intrabody)(細胞内ボディ、細胞内抗体、細胞内発現抗体)と呼ばれる。 | ナノボディの特徴は、組み換えタンパク質として、細胞に強制発現させることで、細胞内で機能的に発現することができることである。この方法は、一般に[[イントラボディ]] (intrabody)(細胞内ボディ、細胞内抗体、細胞内発現抗体)と呼ばれる。 | ||
クロモボディ (chromobody) | クロモボディ (chromobody)は、ナノボディを[[GFP]]などの[[蛍光タンパク質]]と結合することで、標的分子に結合し、標的分子の染色や追跡を可能にする方法である。例えば、[[アクチン]]に対するナノボディをGFPと融合させ、それを細胞内で発現させれば、アクチンがナノボディを介してGFPで標識される(アクチンーナノボディーGFP)。この融合させる蛍光タンパク質をSTORM, PALMなどの高解像度顕微鏡に利用できる分子種とすれば、高解像度のバイオイメージングも可能である<ref><pubmed>22543348</pubmed></ref><ref><pubmed>17060912</pubmed></ref><ref><pubmed>28883823</pubmed></ref>。 | ||
更に、特殊な構造を認識できるナノボディを利用すれば、分子の変化を追跡することが可能になる。例えば、活性型と非活性型の[[β2アドレナリン受容体]]の[[wj:コンフォメーション]] を識別できるナノボディ<ref><pubmed>23515162</pubmed></ref> を使って、同分子の特殊なコンフォメーションを細胞内で観察ができる。 | 更に、特殊な構造を認識できるナノボディを利用すれば、分子の変化を追跡することが可能になる。例えば、活性型と非活性型の[[β2アドレナリン受容体]]の[[wj:コンフォメーション]] を識別できるナノボディ<ref><pubmed>23515162</pubmed></ref> を使って、同分子の特殊なコンフォメーションを細胞内で観察ができる。 | ||
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免疫グロブリンに由来するナノボディ以外に、免疫グロブリン以外に見られるタンパク質のドメインを用いて、新たな'''組み換え結合体'''を作製する方法もあり、原理的にはこのような組み換え結合体はナノボディと同じ利用法が可能である<ref name=Helma2015><pubmed>26056137</pubmed></ref><ref><pubmed>28249355</pubmed></ref> 。 | 免疫グロブリンに由来するナノボディ以外に、免疫グロブリン以外に見られるタンパク質のドメインを用いて、新たな'''組み換え結合体'''を作製する方法もあり、原理的にはこのような組み換え結合体はナノボディと同じ利用法が可能である<ref name=Helma2015><pubmed>26056137</pubmed></ref><ref><pubmed>28249355</pubmed></ref> 。 | ||
細胞接着分子[[wj:フィブロネクチン]中の代表的なモチーフであるtype IIIリピートは、免疫グロブリンドメインと構造が類似しており、これを他の分子に結合する免疫グロブリンのように改変することが可能である。この方法は、'''モノボディ'''(monobody)と名付けられている<ref><pubmed>22198408</pubmed></ref>。この方法は、ナノボディと違って、ジスルフィド結合によって構造が左右されないので、細胞内での還元状態の環境でも利用できる可能性が広がる。例えば、Arnoldのグループによって開発された'''FingR'''は、[[PSD-95]]や[[ゲフィリン]]といったシナプスタンパク質を認識することができる<ref><pubmed>23791193</pubmed></ref> 。 | 細胞接着分子[[wj:フィブロネクチン|フィブロネクチン]]中の代表的なモチーフであるtype IIIリピートは、免疫グロブリンドメインと構造が類似しており、これを他の分子に結合する免疫グロブリンのように改変することが可能である。この方法は、'''モノボディ'''(monobody)と名付けられている<ref><pubmed>22198408</pubmed></ref>。この方法は、ナノボディと違って、ジスルフィド結合によって構造が左右されないので、細胞内での還元状態の環境でも利用できる可能性が広がる。例えば、Arnoldのグループによって開発された'''FingR'''は、[[PSD-95]]や[[ゲフィリン]]といったシナプスタンパク質を認識することができる<ref><pubmed>23791193</pubmed></ref> 。 | ||
免疫グロブリンを利用しない組み換え結合体には、このほかにも、アンキリンリピートを利用した'''DARPin'''(Designed ankyrin repeat proteins)などの方法がある<ref name=Helma2015/>。DARPinは認識に関わる構造が凹型になりやすく、パラトープが凸型でタンパク質中に埋もれた構造を認識しやすいナノボディとは対照的である。一般にナノボディは小分子を認識するものは作製が困難であるとされており<ref name=Arbabi2017/>、ナノボディー以外の組み換え結合体はこのようなナノボディの弱点を克服するのに有用であろう。 | 免疫グロブリンを利用しない組み換え結合体には、このほかにも、アンキリンリピートを利用した'''DARPin'''(Designed ankyrin repeat proteins)などの方法がある<ref name=Helma2015/>。DARPinは認識に関わる構造が凹型になりやすく、パラトープが凸型でタンパク質中に埋もれた構造を認識しやすいナノボディとは対照的である。一般にナノボディは小分子を認識するものは作製が困難であるとされており<ref name=Arbabi2017/>、ナノボディー以外の組み換え結合体はこのようなナノボディの弱点を克服するのに有用であろう。 |