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Keiichikitajo (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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=== 導出法 === | === 導出法 === | ||
脳波は、頭部に接地された二つの電極間の電位差を増幅器で増幅することによって記録される。脳波を記録する電極を探査電極とよび、これに対して基準となる電極を基準(リファレンス)電極と呼ぶ。脳波の導出方法は、共通の基準電極を用いて探査電極との電位差を記録する'''共通基準導出'''と、隣り合う電極間で電位差を記録する'''双極導出'''に大別される。そのため共通基準導出は比較的広範囲で生じる空間的変化をみるのに適しており、双極導出は局所的な変化をみるのに適している。<br> | 脳波は、頭部に接地された二つの電極間の電位差を増幅器で増幅することによって記録される。脳波を記録する電極を探査電極とよび、これに対して基準となる電極を基準(リファレンス)電極と呼ぶ。脳波の導出方法は、共通の基準電極を用いて探査電極との電位差を記録する'''共通基準導出'''と、隣り合う電極間で電位差を記録する'''双極導出'''に大別される。そのため共通基準導出は比較的広範囲で生じる空間的変化をみるのに適しており、双極導出は局所的な変化をみるのに適している。<br> | ||
近年のヒト脳イメージング研究では、共通基準導出が一般的に用いられている。共通基準導出では、基準電極を脳電位の影響をうけない場所に装着するべきであり、心電位や筋電位の混入を避けるためにも基準電極は耳朶や鼻尖に着けることが多い。しかしながら耳朶や鼻尖であっても僅かながらに測定信号が漏れこんでしまう'''活性化'''が生じる。差動増幅の原理から探査電極と基準電極の両方に共通して含まれる同相信号は打ち消されるため、基準電極に近い探査電極では電位が小さくなる。この問題はどこに基準電極を置いても生じてしまう。なお、近年主に用いられているデジタル脳波計では、電源によって駆動する機関部と生体信号が入力される被験者側が電気的に分離されており、増幅器のための基準点として接地(グラウンド)電極を設ける。グラウンド電極は頭皮上のどこにおいてもよいが,前頭部に置くことが多い。これは、基準電極が不良なときに基準電極の代わりに接地電極の電位が投射して入れ替わる現象から、アーティファクトを検出しやすくするためである<ref>'''柳沢 信夫、 柴崎 浩'''<br>臨床神経生理学<br>''医学書院'':2008</ref>。<br> | 近年のヒト脳イメージング研究では、共通基準導出が一般的に用いられている。共通基準導出では、基準電極を脳電位の影響をうけない場所に装着するべきであり、心電位や筋電位の混入を避けるためにも基準電極は耳朶や鼻尖に着けることが多い。しかしながら耳朶や鼻尖であっても僅かながらに測定信号が漏れこんでしまう'''活性化'''が生じる。差動増幅の原理から探査電極と基準電極の両方に共通して含まれる同相信号は打ち消されるため、基準電極に近い探査電極では電位が小さくなる。この問題はどこに基準電極を置いても生じてしまう。なお、近年主に用いられているデジタル脳波計では、電源によって駆動する機関部と生体信号が入力される被験者側が電気的に分離されており、増幅器のための基準点として接地(グラウンド)電極を設ける。グラウンド電極は頭皮上のどこにおいてもよいが,前頭部に置くことが多い。これは、基準電極が不良なときに基準電極の代わりに接地電極の電位が投射して入れ替わる現象から、アーティファクトを検出しやすくするためである<ref name=ref31>'''柳沢 信夫、 柴崎 浩'''<br>臨床神経生理学<br>''医学書院'':2008</ref>。<br> | ||
=== 再基準化 === | === 再基準化 === | ||
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=== 電極配置 === | === 電極配置 === | ||
頭皮上から脳波を計測する際に電極を置く位置は、国際脳波・臨床神経生理学会連合から推奨されている'''国際10-20法'''(International 10-20 system)に則り配置することが一般的である<ref>'''入戸野 宏'''<br>心理学のための事象関連電位ガイドブック<br>''北大路書房'':2005</ref>。国際10-20法では、眉間と外後頭隆起を結ぶ線と両側の耳介前点を結ぶ線の長さを基準としてその10%と20%の長さを組み合わせて電極位置を決める(図hoge左)。これにより、当該の大きさに関係なくほぼ一定部位に電極が配置でき、各電極間の距離をほぼ等しくできる。記録電極数の増加に対応するため、国際10-20法の各電極間の中点に電極を配置したものが拡張10-20法である(図hoge右)。近年では、脳波の電流減密度推定をより精度よくするため、2〜4センチメートル間隔で128〜256個の電極を配置した高密度脳波計測も行われるようになってきている。<br> | 頭皮上から脳波を計測する際に電極を置く位置は、国際脳波・臨床神経生理学会連合から推奨されている'''国際10-20法'''(International 10-20 system)に則り配置することが一般的である<ref name=ref51>'''入戸野 宏'''<br>心理学のための事象関連電位ガイドブック<br>''北大路書房'':2005</ref>。国際10-20法では、眉間と外後頭隆起を結ぶ線と両側の耳介前点を結ぶ線の長さを基準としてその10%と20%の長さを組み合わせて電極位置を決める(図hoge左)。これにより、当該の大きさに関係なくほぼ一定部位に電極が配置でき、各電極間の距離をほぼ等しくできる。記録電極数の増加に対応するため、国際10-20法の各電極間の中点に電極を配置したものが拡張10-20法である(図hoge右)。近年では、脳波の電流減密度推定をより精度よくするため、2〜4センチメートル間隔で128〜256個の電極を配置した高密度脳波計測も行われるようになってきている。<br> | ||
=== 入力抵抗と接触抵抗 === | === 入力抵抗と接触抵抗 === | ||
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== 脳波を用いた研究手法 == | == 脳波を用いた研究手法 == | ||
=== 事象関連電位 === | === 事象関連電位 === | ||
ヒトは特に何をしていなくても脳は常に自発的に活動しており、このときみられる脳波を'''背景脳波''' | ヒトは特に何をしていなくても脳は常に自発的に活動しており、このときみられる脳波を'''背景脳波'''と呼ぶ。一方、光や音といった刺激が入力されたときや自発的な運動準備・実行を行う際には、それに伴い脳波も変動する。たとえば何か注意を払っていた視覚情報を近くした際には、その視覚提示の約300ミリ秒後に陽性の振幅変動が生じる<ref name=ref71><pubmed>1464675</pubmed></ref>。この成分はP300と呼ばれ、注意の尺度やBrain machine interface (BMI)のスイッチとして利用されることがある。また、運動を実行する前には運動準備電位(Readiness potential: RP)という陰性の緩電位が生じることが報告されている<ref name=ref72><pubmed> 14341490 </pubmed></ref><ref name=ref73><pubmed> 27392465 </pubmed></ref>。Libetら(1983)の有名な実験では、この運動準備電位の発生タイミングと運動意図が意識されるタイミングを比較した<ref name=ref74><pubmed> 6640273 </pubmed></ref>。 | ||
実験参加者は時計を見ながら任意のタイミングでボタンを押したあとに、運動を意図したのはいつであったかを報告するよう求められた。その結果、運動準備電位は運動の約1秒から0.5秒前には生起していた一方で、参加者が報告した「今,動こう」という運動意図を意識した時刻はわずか0.2秒前であった。つまり、運動意図を意識する前の、無意識のうちからすでに運動準備の脳活動は開始していることが示された。 | |||
このように事象に関連して生じる電位変化を'''事象関連電位'''(Event-related potential: ERP)と呼び、特に外部刺激によって惹起する成分を[[誘発電位および誘発脳磁界|誘発電位]]と呼ぶことがある。このERPは数マイクロボルトと非常に小さい変動であり、この誘発電位は背景脳波に埋もれてしまう。背景脳波からERPを抽出するためには、複数回施行を繰り返し行い計測した脳波を特定の事象の開始時点を揃えて加算平均する必要がある。これにより、事象に対して一定の時間関係を持ったERP成分だけが残り、背景ノイズは互いに相殺し合うことになる。<br> | |||
=== 脳波リズム === | === 脳波リズム === |
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