「脳波」の版間の差分

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== 脳波を用いた研究手法 ==
== 脳波を用いた研究手法 ==
=== 事象関連電位 ===
=== 事象関連電位 ===
ヒトは特に何をしていなくても脳は常に自発的に活動しており、このときみられる脳波を'''背景脳波'''と呼ぶ。一方、光や音といった刺激が入力されたときや自発的な運動準備・実行を行う際には、それに伴い脳波も変動する。このようにある事象に関連して生じる電位変化を'''事象関連電位'''(Event-related potential: ERP)と呼び、特に外部刺激によって惹起する成分を[[誘発電位および誘発脳磁界|'''誘発電位''']]と呼ぶことがある。この事象関連電位は数マイクロボルトと非常に小さい変動であり、計測データとしては背景脳波に埋もれてしまう。背景脳波から事象関連電位を抽出するためには、複数回施行を繰り返して計測し、脳波を特定の事象の開始時点を揃えて加算平均する必要がある。これにより、事象に対して一定の時間関係を持った事象関連電位成分だけが残り、背景ノイズは互いに相殺し合うことになる。加算平均回数は注目する事象関連電位の大きさにも依ルため、数十回でも観測できるものもあるが100回を超える回数を計測すると安定した事象関連電位が記録できる。しかし、心理的要因によって変動するような事象関連電位を計測する際には、試行回数を増やすと被験者の疲労や学習効果によって、計測序盤と終盤で成分が変化してしまう可能性があるため注意が必要である。<br>
ヒトは特に何をしていなくても脳は常に自発的に活動しており、このときみられる脳波を'''背景脳波'''と呼ぶ。一方、光や音といった刺激が入力されたときや自発的な運動準備・実行を行う際には、それに伴い脳波も変動する。このようにある事象に関連して生じる電位変化を'''事象関連電位'''(Event-related potential: ERP)と呼び、特に外部刺激によって惹起する成分を[[誘発電位および誘発脳磁界|'''誘発電位''']]と呼ぶことがある。この事象関連電位は数マイクロボルトと非常に小さい変動であり、計測データとしては背景脳波に埋もれてしまう。背景脳波から事象関連電位を抽出するためには、複数回施行を繰り返して計測し、脳波を特定の事象の開始時点を揃えて加算平均する必要がある。これにより、事象に対して一定の時間関係を持った事象関連電位成分だけが残り、背景ノイズは互いに相殺し合うことになる。加算平均回数は注目する事象関連電位の大きさにも依ルため、数十回でも観測できるものもあるが100回を超える回数を平均することで安定した結果を得られる。しかし、心理的要因によって変動するような事象関連電位を計測する際には、試行回数を増やすと被験者の疲労や学習効果などによって、計測序盤と終盤で成分が変化してしまう可能性があるため注意が必要である。<br>
 代表的な事象関連電位の1つにP300がある。これは、何か注意を払っていた視覚情報が提示された際に、約300ミリ秒後に生じる陽性の振幅変動である<ref name=ref71><pubmed>5852977</pubmed></ref>。この成分は注意の度合いによって振幅が変動するすることが知られており<ref name=ref72><pubmed> 15598514 </pubmed></ref>、注意の尺度として用いられることがある。また、脳から直接機械を操作しようというブレイン・マシン・インターフェース(Brain machine interface)への応用の1つとして、P300スペラーのスイッチとしての利用が有名である<ref name=ref73><pubmed> 2461285 </pubmed></ref>。誘発電位の他に代表的な事象関連電位としては、運動準備電位(readiness potential)がある。これは、運動を実行する前から生じる陰性の緩電位である<ref name=ref74><pubmed> 14341490 </pubmed></ref><ref name=ref75><pubmed> 27392465 </pubmed></ref>。Libetら(1983)の有名な実験では、この運動準備電位の発生タイミングと運動意図が意識されるタイミングを比較した<ref name=ref76><pubmed> 6640273 </pubmed></ref>。実験参加者は時計を見ながら任意のタイミングでボタンを押したあとに、運動を意図したのはいつであったかを報告するよう求められた。その結果、運動準備電位は運動の約1秒から0.5秒前には生起していた一方で、参加者が報告した「今、動こう」という運動意図を意識した時刻はわずか0.2秒前であった。つまり、運動意図を意識する前の、無意識のうちからすでに運動準備の脳活動は開始していることが示された。上述のように、事象関連電位と行動を比較したり,内的・外的要因によってどのように事象関連電位が変化するかを調査することで、認知機能がどのように実現されているか研究することができる。
 代表的な事象関連電位の1つにP300がある。これは、何か注意を払っていた視覚情報が提示された際に、約300ミリ秒後に生じる陽性の振幅変動である<ref name=ref71><pubmed>5852977</pubmed></ref>。この成分は注意の度合いによって振幅が変動するすることが知られており<ref name=ref72><pubmed> 15598514 </pubmed></ref>、注意の尺度として用いられることがある。また、脳から直接機械を操作しようというブレイン・マシン・インターフェース(Brain machine interface)への応用の1つとして、P300スペラーのスイッチとしての利用が有名である<ref name=ref73><pubmed> 2461285 </pubmed></ref>。誘発電位の他に代表的な事象関連電位としては、運動準備電位(readiness potential)がある。これは、運動を実行する前から生じる陰性の緩電位である<ref name=ref74><pubmed> 14341490 </pubmed></ref><ref name=ref75><pubmed> 27392465 </pubmed></ref>。Libetら(1983)の有名な実験では、この運動準備電位の発生タイミングと運動意図が意識されるタイミングを比較した<ref name=ref76><pubmed> 6640273 </pubmed></ref>。実験参加者は時計を見ながら任意のタイミングでボタンを押したあとに、運動を意図したのはいつであったかを報告するよう求められた。その結果、運動準備電位は運動の約1秒から0.5秒前には生起していた一方で、参加者が報告した「今、動こう」という運動意図を意識した時刻はわずか0.2秒前であった。つまり、運動意図を意識する前の、無意識のうちからすでに運動準備の脳活動は開始していることが示された。
 事象関連電位の歴史は古く、再現性が確認されていることから、ある認知機能の指標として用いられることが一般的である。外的または内的要因によって事象関連電位がどのように変化するかを調査することで認知機能のメカニズム解明を図ったり、特定の反応が生じているかを脳活動から判断したりするために事象関連電位は利用されている。


=== 脳波リズム ===
=== 脳波リズム ===
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