16,039
回編集
細 (→依存症とは) |
細編集の要約なし |
||
15行目: | 15行目: | ||
==依存症とは== | ==依存症とは== | ||
精神に作用する[[ | 精神に作用する[[wj:化学物質|化学物質]]の摂取や、ある種の快感や高揚感を伴う行為を繰り返し行った結果、それらの刺激を求める耐えがたい欲求が生じ、その刺激を追い求める行為が優勢となり、その刺激がないと不快な精神的・身体的症状を生じる、精神的・身体的・行動的状態のことである。 | ||
次のように分類される。 | 次のように分類される。 | ||
53行目: | 53行目: | ||
== 疫学 == | == 疫学 == | ||
平成20年の[[ | 平成20年の[[wj:厚生労働省|厚生労働省]]の患者調査によると[[アルコール依存症]]の推計患者数は13100人(総患者数44000人)とされているが、一方で日本の一般人口1億2000万人における調査では約80万人がアルコール依存症であるとされており<ref>'''尾崎米厚、松下幸生、白坂知信、廣 尚典、樋口 進'''<br>わが国の成人飲酒行動およびアルコール症に関する全国調査<br>''日本アルコール・薬物医学会雑'':2005, 40(5), 455–70</ref>、治療を受けていないアルコール依存症罹患者が多く存在するという点においても大きな問題があると言える。平成19年の[[wj:警察庁|警察庁]]、厚生労働省、[[wj:海上保安庁|海上保安庁]]の調査によると、国内の薬物事犯検挙人数は、覚せい剤12211名、[[麻薬]]・向精神薬が542名、[[アヘン]]が47名、大麻が2375名と報告されている。 | ||
== 依存症の脳内メカニズム == | == 依存症の脳内メカニズム == | ||
71行目: | 71行目: | ||
[[GIRK]]チャネルは依存性物質のシグナル伝達において重要な役割を果たしている。様々な[[Gタンパク質共役型受容体|G<sub>i/o</sub>タンパク質共役型受容体]]に[[神経伝達物質]]が作用することによって[[GTP結合タンパク質|G<sub>i/o</sub>タンパク質]]が活性化され、Gタンパク質αサブユニットから遊離したGタンパク質βγサブユニットがGIRKチャネルを直接開口する<ref><pubmed>10997585</pubmed></ref><ref><pubmed>17168757</pubmed></ref>。また、エタノールはGIRKチャネルを直接開口することも見出されている<ref name="ref8"><pubmed>10570486</pubmed></ref><ref><pubmed>10570485</pubmed></ref>。GIRKチャネルの開口によって[[細胞膜]]は[[過分極]]化し、神経細胞の興奮性を調節する。 | [[GIRK]]チャネルは依存性物質のシグナル伝達において重要な役割を果たしている。様々な[[Gタンパク質共役型受容体|G<sub>i/o</sub>タンパク質共役型受容体]]に[[神経伝達物質]]が作用することによって[[GTP結合タンパク質|G<sub>i/o</sub>タンパク質]]が活性化され、Gタンパク質αサブユニットから遊離したGタンパク質βγサブユニットがGIRKチャネルを直接開口する<ref><pubmed>10997585</pubmed></ref><ref><pubmed>17168757</pubmed></ref>。また、エタノールはGIRKチャネルを直接開口することも見出されている<ref name="ref8"><pubmed>10570486</pubmed></ref><ref><pubmed>10570485</pubmed></ref>。GIRKチャネルの開口によって[[細胞膜]]は[[過分極]]化し、神経細胞の興奮性を調節する。 | ||
[[ | [[wj:哺乳類|哺乳類]]において4つのGIRKチャネルサブユニットが知られている<ref><pubmed>8355805</pubmed></ref><ref><pubmed>7877685</pubmed></ref><ref><pubmed>7499385</pubmed></ref>。[[GIRK2]]サブユニットに1つのアミノ酸変異([[wj:カリウム|カリウム]]イオンだけでなく[[wj:ナトリウム|ナトリウム]]イオンも透過させ、Gタンパク質制御も消失している)を持つウィーバーミュータントマウスでは、[[小脳顆粒細胞]]や[[黒質]]ドーパミン神経細胞、[[橋核]]神経細胞における[[神経細胞死]]が生じており、モルヒネおよびエタノールによる鎮痛が減弱している<ref name="ref8" /><ref><pubmed>12354627</pubmed></ref>。したがって、GIRKチャネルがモルヒネやエタノールの鎮痛効果において決定的な役割を果たすと考えられる。さらに、GIRKチャネル欠損マウスでは、コカインの自己投与が消失することも示されている<ref><pubmed>12637950</pubmed></ref>。また、開腹手術の患者を対象にした研究では、GIRK2サブユニットのA1032G多型がA/Aタイプの場合、脳内のGIRK2サブユニットの[[wj:mRNA|mRNA]]量が減少することによって、GIRKサブユニットタンパク質量も減少して、オピオイド感受性が低下するために、術後の疼痛に対して必要なオピオイド投与回数が増加している可能性が示唆されている<ref><pubmed>19756153</pubmed></ref>。 | ||
=== 各依存性物質の脳神経画像研究 === | === 各依存性物質の脳神経画像研究 === | ||
115行目: | 115行目: | ||
=== 薬物療法 === | === 薬物療法 === | ||
依存症の主症状である精神依存の治療において、患者―治療者間の信頼関係の構築、個人あるいは集団による精神療法、地域での支援(自助グループ等)が中心であり、薬物療法は補助療法としてこれらの治療法と組み合わせることが効果的である。依存性物質誘発症状の治療は依存性物質ごとに、急性期[[ | 依存症の主症状である精神依存の治療において、患者―治療者間の信頼関係の構築、個人あるいは集団による精神療法、地域での支援(自助グループ等)が中心であり、薬物療法は補助療法としてこれらの治療法と組み合わせることが効果的である。依存性物質誘発症状の治療は依存性物質ごとに、急性期[[wj:解毒|解毒]]、離脱期の治療、精神依存の治療、関連精神障害の治療の段階がある<ref>''' 池田和隆(著)、福居顯二(編)'''<br>VIII章 予防と治療 薬物療法(脳とこころのプライマリケア(8)依存)<br>''株式会社シナジー''、2011</ref>。 | ||
==== アルコール ==== | ==== アルコール ==== | ||
急性期解毒にはアルコール排泄の促進のために[[ | 急性期解毒にはアルコール排泄の促進のために[[wj:利尿薬|利尿薬]]が用いられる。アルコール依存では身体依存が強いため、離脱期には[[wj:ベンゾジアゼピン|ベンゾジアゼピン]]系薬物なども有効である。精神依存については[[wj:抗酒薬|抗酒薬]]によって飲酒による不快感を惹起させる方法が用いられる。また、[[wj:ビタミン|ビタミン]]欠乏による器質性脳障害に対してビタミン製剤の補給も重要となる。 | ||
==== ベンゾジアゼピン系薬物 ==== | ==== ベンゾジアゼピン系薬物 ==== | ||
139行目: | 139行目: | ||
==== ニコチン ==== | ==== ニコチン ==== | ||
離脱期と精神依存の治療では、[[ | 離脱期と精神依存の治療では、[[wj:ニコチンガム|ニコチンガム]]、[[wj:ニコチンパッチ|ニコチンパッチ]]などのニコチン製剤や[[wj:バレニクリン|バレニクリン]]が用いられる。 | ||
==== 大麻 ==== | ==== 大麻 ==== | ||
特異的な薬物療法はなく、急性期の精神病症状は薬物治療なしで経過観察が基本であるが、強い[[恐怖感]]、[[ | 特異的な薬物療法はなく、急性期の精神病症状は薬物治療なしで経過観察が基本であるが、強い[[恐怖感]]、[[wj:発汗|発汗]]、[[wj:動悸|動悸]]などの顕著な[[自律神経症状]]が認められる場合は、[[ジアゼパム]]などの穏和精神安定薬を投与する。[[誇大妄想]]などの[[幻覚]]・[[妄想]]や[[躁性]]の興奮を伴うときはハロペリドールなどの抗精神病薬を投与する。精神病症状が遷延化する場合は抗精神病薬の少量長期(1年以上)投与が有効である。 | ||
==== ギャンブル ==== | ==== ギャンブル ==== |