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DEXA: 二重エネルギーX線吸収法(dual energy X-ray absorptiometry) | DEXA: 二重エネルギーX線吸収法(dual energy X-ray absorptiometry) | ||
*'''精神障害のcomorbidity''':[[comorbidity]] | *'''精神障害のcomorbidity''':[[comorbidity]]とはある疾患をもつ患者が、その疾患の経過中またはその前後に罹患した別の疾患または病態を指し、必ずしも合併症(原疾患より二次的に生じた病態)を意味しない。摂食障害患者においてうつ病、強迫性障害、[[wikipedia:JA:社会恐怖|社会恐怖]]、[[wikipedia:JA:恐慌性障害|恐慌性障害]]などの[[wikipedia:JA:不安障害|不安障害]]、[[wikipedia:JA:境界性|境界性]]、演技性、強迫性、回避性、依存性などの[[人格障害]]、さらに[[wikipedia:JA:アルコ-ル|アルコ-ル]]や薬物依存などのcomorbidityを高率に認める。 | ||
=== 成因・発症機序 === | === 成因・発症機序 === | ||
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==== 家族への対応の仕方==== | ==== 家族への対応の仕方==== | ||
親は万策尽き、切羽詰まって挙句の果てに相談することが多い。したがってまず両親の苦悩に十分耳を傾け、これを軽減する。この際、両親の「しつけ」や「育て方」が悪かったという罪の意識や後ろめたさをできる限り取り除くよう配慮する。「この病気がただ単に養育の失敗だけで生じることはない」、「子どもをこの病気になるように育てるなどとうていできない」などと説明し、親の罪の意識や後ろめたさを軽減することにより、親に子どもをより客観的にみさせ、冷静に対応させるようにする。さらに家族が患者の看護に疲れないために、適切なアドバイスを与える<ref name="cit5">'''切池信夫'''<br>摂食障害の子供を抱える家族に対して、みんなで学ぶ過食と拒食とダイエット<br> ''星和書店''、東京、pp251-291、2001</ref> 。 | |||
=== 経過と予後 === | === 経過と予後 === | ||
1950年から2000年までに英語圏とドイツ語圏で行なわれた主な研究結果(119研究、5590人)をまとめたものでは、追跡期間4年以下では回復32.6%、部分回復が32.7%、不良34.4%、死亡0.9%となっている。そして10年以上の追跡期間になると回復が73.2%と増加し、部分回復8.5%、不良13.7%となり、死亡9. | 1950年から2000年までに英語圏とドイツ語圏で行なわれた主な研究結果(119研究、5590人)をまとめたものでは、追跡期間4年以下では回復32.6%、部分回復が32.7%、不良34.4%、死亡0.9%となっている。そして10年以上の追跡期間になると回復が73.2%と増加し、部分回復8.5%、不良13.7%となり、死亡9.4%となり、回復例も増加しているが、死亡例も増加している<ref name="cit6"><pubmed>12153817</pubmed></ref>。 | ||
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*'''排出行動''':過食による体重増加を防いだり、減量するために自ら嘔吐を誘発したり、下剤や利尿剤を乱用する。自己誘発性嘔吐は過食後に気分が悪くて嘔吐したのがきっかけで、その後常習化したり、最初から過食による体重増加を防ぐために行なわれる。長期にわたり人差し指や中指を使って嘔吐していると、これらの指の背部のつけ根部にいわゆる「吐きダコ」ができる。 下剤乱用は、過食後に食物を体内から排出して、体重増加を防ぐために行われる。下剤で一日に5~10錠位から200錠を超える場合や、漢方薬では常用量をはるかに超えた量を用いる。毎日浣腸剤が用いられる場合もある。 利尿剤乱用について、入手が困難のため極めて少ない。しかし、医師から処方された利尿剤を密かに乱用される場合もある。 その他、サウナや風呂に長時間入り、発汗を促進して体重増加をふせぐ患者もいる。 | *'''排出行動''':過食による体重増加を防いだり、減量するために自ら嘔吐を誘発したり、下剤や利尿剤を乱用する。自己誘発性嘔吐は過食後に気分が悪くて嘔吐したのがきっかけで、その後常習化したり、最初から過食による体重増加を防ぐために行なわれる。長期にわたり人差し指や中指を使って嘔吐していると、これらの指の背部のつけ根部にいわゆる「吐きダコ」ができる。 下剤乱用は、過食後に食物を体内から排出して、体重増加を防ぐために行われる。下剤で一日に5~10錠位から200錠を超える場合や、漢方薬では常用量をはるかに超えた量を用いる。毎日浣腸剤が用いられる場合もある。 利尿剤乱用について、入手が困難のため極めて少ない。しかし、医師から処方された利尿剤を密かに乱用される場合もある。 その他、サウナや風呂に長時間入り、発汗を促進して体重増加をふせぐ患者もいる。 | ||
*'''活動性''':BN患者では無気力、抑うつ状態で活動性は低下する場合が多い。 | *'''活動性''':BN患者では無気力、抑うつ状態で活動性は低下する場合が多い。 | ||
*'''問題行動''' | *'''問題行動''':自傷行為や自殺企図、アルコ-ルや薬物乱用などの自己破壊的行為や万引きなどの社会的逸脱行為をしばしば認める。自傷行為として、手首自傷症候群が多い。患者は、鋭利なもので切りつけた時に、イライラや緊張感が一時的に緩和する、などと述べることが多い。自殺企図として、薬物によるものが最も多く、向精神薬の投与は注意を要する。欧米の研究ではBN患者の約3割弱にアルコ-ルや薬物依存を合併すると云われているが、我が国ではそれ程多くない。万引きについて、約1/3の患者にみられ、食品類を盗む場合が多い。 | ||
==== 身体症状(表3)==== | ==== 身体症状(表3)==== | ||
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==== 合併症 ==== | ==== 合併症 ==== | ||
過食や嘔吐、下剤乱用による身体合併症の症状と徴候および検査デ-タを表6<ref name="cit3"/>に示した。 この中で最も注意を要するのは電解質異常で、低K血症により心機能異常を呈し致死性頻拍性[[wikipedia:JA:心室性不整脈|心室性不整脈]]を生じることである。 | 過食や嘔吐、下剤乱用による身体合併症の症状と徴候および検査デ-タを表6<ref name="cit3"/>に示した。 この中で最も注意を要するのは電解質異常で、低K血症により心機能異常を呈し致死性頻拍性[[wikipedia:JA:心室性不整脈|心室性不整脈]]を生じることである。 精神障害のcomorbidityとして、うつ病、強迫性障害、社会不安障害、恐慌性障害(パニック障害)などの不安障害、境界性、演技性、強迫性、回避性、依存性などの人格障害(パーソナリティー障害)、さらにアルコ-ルや薬物依存などを高率に認める。 | ||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
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| 電解質 ||動悸、不整脈、痙攣 || 低K血症、低Cl血症、低Na血症 || 電解質検査 | | 電解質 ||動悸、不整脈、痙攣 || 低K血症、低Cl血症、低Na血症 || 電解質検査 | ||
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| [[wikipedia:JA:膵臓|膵臓]] || 腹痛 || 血清[[wikipedia:JA:アミラーゼ|アミラーゼ]]の高値(P型優位) || | | [[wikipedia:JA:膵臓|膵臓]] || 腹痛 || 血清[[wikipedia:JA:アミラーゼ|アミラーゼ]]の高値(P型優位) || 膵機能検査 | ||
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| 消化器 || [[wikipedia:JA:唾液腺|唾液腺]]の腫脹、腹痛、血性下痢 || 血清アミラーゼの高値(S型優位)、腹部圧痛、便潜血反応陽性 || 血液生化学、消化管検査 | | 消化器 || [[wikipedia:JA:唾液腺|唾液腺]]の腫脹、腹痛、血性下痢 || 血清アミラーゼの高値(S型優位)、腹部圧痛、便潜血反応陽性 || 血液生化学、消化管検査 | ||
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=== 成因と発症機序 === | === 成因と発症機序 === | ||
ANと同様に生物学的、心理的、社会的要因の複雑な相互作用により生ずるものと考えられている。図1に示すように種々の要因により摂食量が低下した時、摂食障害に対する身体的素因を有する人の中枢性摂食調節機構に異常を生じ、ANの項で説明したような悪循環に陥る場合や、種々のストレスが直接的に中枢性摂食調節機構に影響を及ぼし過食を生じ、「食べたら止まらない→食べない(排出行動も含む)→食べたら止まらない」の悪循環に陥る場合などが考えられる。 | |||
=== 診断 === | === 診断 === | ||
271行目: | 271行目: | ||
##一定の時間内(例えば 2時間以内)に、大部分の人が食べるより明らかに大量の食物を摂取する | ##一定の時間内(例えば 2時間以内)に、大部分の人が食べるより明らかに大量の食物を摂取する | ||
##その間、摂食を自制できないという感じを伴う(例えば、食べるのを途中でやめられない感じや、何をどれだけ食べるかをコントロールできない感じ) | ##その間、摂食を自制できないという感じを伴う(例えば、食べるのを途中でやめられない感じや、何をどれだけ食べるかをコントロールできない感じ) | ||
# | #体重増加を防ぐために自己誘発性嘔吐、下剤や浣腸剤、利尿薬の誤用あるいは激しい運動などを繰り返し行う | ||
#過食と体重増加を防ぐ行為が最低週2回以上、3か月間続くこと | #過食と体重増加を防ぐ行為が最低週2回以上、3か月間続くこと | ||
#自己評価は、体重や体型に過度に影響を受けている | #自己評価は、体重や体型に過度に影響を受けている | ||
313行目: | 313行目: | ||
==== 家族への対応の仕方 ==== | ==== 家族への対応の仕方 ==== | ||
過食や嘔吐は秘密裏に行われ、親がこれらの行為に気づくのは発症してかなり経過してからである。親はこれを知った時、怒りと羞恥心、「しつけ」や「育て方」が悪かったという罪の意識や後ろめたさをもつので、これらをできるだけ取り除くよう配慮する。そして、親に子供をより客観的にみさせ、冷静に対応させるようにする。過食や嘔吐について叱責しないこと、批判や指示をせず子供の話を聞くこと、さらに家族が患者の看護に疲れないために適切なアドバイスを与える<ref name="cit5"/><ref name="cit6"/>。 | |||
=== 経過と予後 === | === 経過と予後 === |