「依存症」の版間の差分

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4.3. 各依存性物質の脳神経画像研究<br>ポジトロンCT(positron emission tomography: PET)を用いた脳画像研究の発展に伴い、ヒト脳内の受容体、トランスポーターなどを定量評価することが可能になり、依存症の病態が解明されつつある<ref>'''橋本謙二(著)、福居顯二(編)'''<br>III章 物質依存の神経生物学的基盤 物質依存の神経画像(脳とこころのプライマリケア(8)依存)<br>''株式会社シナジー''、2011</ref>。近年の依存症の脳神経画像研究の成果を以下に示す。  
4.3. 各依存性物質の脳神経画像研究<br>ポジトロンCT(positron emission tomography: PET)を用いた脳画像研究の発展に伴い、ヒト脳内の受容体、トランスポーターなどを定量評価することが可能になり、依存症の病態が解明されつつある<ref>'''橋本謙二(著)、福居顯二(編)'''<br>III章 物質依存の神経生物学的基盤 物質依存の神経画像(脳とこころのプライマリケア(8)依存)<br>''株式会社シナジー''、2011</ref>。近年の依存症の脳神経画像研究の成果を以下に示す。  


4.3.1. アルコール<br>オピオイド受容体のμサブタイプは、アルコールによる報酬、耐性、離脱に関連している。近年のPET研究によると、アルコール依存症患者の脳内腹側線条体におけるμオピオイド受容体が増加しており、その増加はアルコールの渇望感と関連することが報告されている<ref><pubmed></pubmed>15630073</ref>。また断酒中のアルコール依存症患者における前帯状皮質のオピオイド受容体と渇望感との相関も認められている<ref><pubmed>19595579</pubmed></ref>。断酒中のアルコール依存症患者の線条体におけるドーパミン合成能やドーパミンD<sub>2</sub>・D<sub>3</sub>受容体結合能とアルコールに対する渇望が相関している<ref><pubmed>16055774</pubmed></ref>。断酒中のアルコール依存患者において腹側線条体のセロトニン受容体1B受容体の結合能が上昇していることも報告されている<ref><pubmed>20172504</pubmed></ref>。  
4.3.1. アルコール<br>オピオイド受容体のμサブタイプは、アルコールによる報酬、耐性、離脱に関連している。近年のPET研究によると、アルコール依存症患者の脳内腹側線条体におけるμオピオイド受容体が増加しており、その増加はアルコールの渇望感と関連することが報告されている<ref><pubmed>15630073</pubmed></ref>。また断酒中のアルコール依存症患者における前帯状皮質のオピオイド受容体と渇望感との相関も認められている<ref><pubmed>19595579</pubmed></ref>。断酒中のアルコール依存症患者の線条体におけるドーパミン合成能やドーパミンD<sub>2</sub>・D<sub>3</sub>受容体結合能とアルコールに対する渇望が相関している<ref><pubmed>16055774</pubmed></ref>。断酒中のアルコール依存患者において腹側線条体のセロトニン受容体1B受容体の結合能が上昇していることも報告されている<ref><pubmed>20172504</pubmed></ref>。  


4.3.2. 覚せい剤<br> 覚せい剤は主に脳内ドーパミン神経終末に作用し、シナプス間隙におけるドーパミン量を増加させることによって薬理作用を出現させる。覚せい剤の使用は長期にわたり脳内ドーパミン神経終末に障害を及ぼすことが脳神経画像研究から明らかになっている。たとえば、覚せい剤乱用者では、大脳基底核におけるドーパミンD<sub>2</sub>受容体が減少しており、ドーパミンD<sub>2</sub>受容体と眼窩前頭皮質における局所糖代謝率が関連して<ref><pubmed>11729018</pubmed></ref>、薬物依存症患者の線条体におけるドーパミンD<sub>2</sub>・D<sub>3</sub>受容体利用率が健常者より低下しており、この低下が患者の衝動性と負の相関関係にあることが報告されている<ref><pubmed>19940168</pubmed></ref><br> また、覚せい剤はセロトニン神経系にも作用する。PET研究により、覚せい剤使用経験者の脳内セロトニントランスポーター(5-hydroxytryptamine transporter: 5-HTT)の密度が健常者よりも低下していること、その低下が彼らの攻撃性の強さと相関していることが報告されている<ref><pubmed>16389202</pubmed></ref>。<br> また断薬後も数年の間は脳内活性型ミクログリアの密度が健常者よりも上昇しており、このことが神経障害の継続に関連している可能性も示されている<ref><pubmed>18509037</pubmed></ref>。  
4.3.2. 覚せい剤<br> 覚せい剤は主に脳内ドーパミン神経終末に作用し、シナプス間隙におけるドーパミン量を増加させることによって薬理作用を出現させる。覚せい剤の使用は長期にわたり脳内ドーパミン神経終末に障害を及ぼすことが脳神経画像研究から明らかになっている。たとえば、覚せい剤乱用者では、大脳基底核におけるドーパミンD<sub>2</sub>受容体が減少しており、ドーパミンD<sub>2</sub>受容体と眼窩前頭皮質における局所糖代謝率が関連して<ref><pubmed>11729018</pubmed></ref>、薬物依存症患者の線条体におけるドーパミンD<sub>2</sub>・D<sub>3</sub>受容体利用率が健常者より低下しており、この低下が患者の衝動性と負の相関関係にあることが報告されている<ref><pubmed>19940168</pubmed></ref><br> また、覚せい剤はセロトニン神経系にも作用する。PET研究により、覚せい剤使用経験者の脳内セロトニントランスポーター(5-hydroxytryptamine transporter: 5-HTT)の密度が健常者よりも低下していること、その低下が彼らの攻撃性の強さと相関していることが報告されている<ref><pubmed>16389202</pubmed></ref>。<br> また断薬後も数年の間は脳内活性型ミクログリアの密度が健常者よりも上昇しており、このことが神経障害の継続に関連している可能性も示されている<ref><pubmed>18509037</pubmed></ref>。  
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