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==ステロイドホルモン== | ==ステロイドホルモン== | ||
ステロイド核をもつホルモンをステロイドホルモンと呼ぶ。[[ | ステロイド核をもつホルモンをステロイドホルモンと呼ぶ。[[wj:副腎|副腎]]、[[wj:精巣|精巣]]、[[wj:卵巣|卵巣]]等の[[wj:内分泌|内分泌]]器官より分泌される。特に脳で合成されるステロイドはニューロステロイドと呼ばれる。ステロイドホルモンの特徴は、脂溶性かつ分子量が低いために[[細胞膜]]や[[血液脳関門]]を容易に通過できること、また細胞質に存在する[[wj:ステロイドホルモン受容体|ステロイドホルモン受容体]]に結合し、核内にて標的遺伝子の[[wj:転写|転写]]活性を調節することである。近年、このような核受容体による遺伝子発現を介したステロイドホルモンのゲノミック作用に加え、膜受容体を介した遺伝子発現を伴わないノンゲノミック作用が注目されている<ref><pubmed>21357682</pubmed></ref>。 | ||
===生合成=== | ===生合成=== | ||
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| '''略称''' | | '''略称''' | ||
|- | |- | ||
| [[ | | [[wj:コレステロールモノオキシゲナーゼ (側鎖開裂)| コレステロール側鎖切断酵素]](cholesterole side chain cleavage) | ||
| P450 scc | | P450 scc | ||
|- | |- | ||
| [[ | | [[wj:3β-ヒドロキシ-Δ5-ステロイドデヒドロゲナーゼ|3β-ヒドキシステロイド脱水素酵素・異性化酵素]] (3β-hydroxysteroid dehydrogenase) | ||
| 3β-HSD | | 3β-HSD | ||
|- | |- | ||
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| P450c17 | | P450c17 | ||
|- | |- | ||
| [[ | | [[wj:ステロイド-21-モノオキシゲナーゼ|21‐水酸化酵素]] (C21-hydroxylase) | ||
| P450c21 | | P450c21 | ||
|- | |- | ||
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| P450arom | | P450arom | ||
|- | |- | ||
| [[ | | [[wj:3(or17)β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ|17β-ヒドキシステロイド脱水素酵素]] | ||
| 17β-HSD | | 17β-HSD | ||
|} | |} | ||
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=====鉱質コルチコイド===== | =====鉱質コルチコイド===== | ||
アルドステロンは[[ | アルドステロンは[[wj:副腎皮質球状帯|副腎皮質球状帯]]で合成され、腎臓の[[wj:集合管|集合管]]に作用してナトリウムイオンの再吸収とカリウムイオンの排泄を促進する。ナトリウムイオンの再吸収によって[[wj:間質液|間質液]]の[[wj:浸透圧|浸透圧]]が上昇し水の再吸収も増加するため、体液量の調節にも重要な役割を果たす<ref name="ref1">坂井建雄、岡田隆夫<br>解剖生理学-人体の構造と機能-第7版3刷<br>医学書院:2007 </ref>。<br> | ||
=====糖質コルチコイド===== | =====糖質コルチコイド===== | ||
[[コルチゾール]]([[コルチコステロン]])は[[ | [[コルチゾール]]([[コルチコステロン]])は[[wj:副腎皮質束状帯|副腎皮質束状帯]]と[[wj:副腎皮質網状帯|副腎皮質網状帯]]にて合成され、その作用は[[wj:糖代謝|糖代謝]]の調節、抗[[wj:炎症|炎症]]作用、[[中枢神経系]]を介した[[情動]]や[[認知機能]]に対する作用、抗[[ストレス]]作用など多岐にわたる。糖代謝に関しては、[[wj:糖新生|糖新生]]を促進して[[wj:血糖|血糖]]値を上昇させる。抗炎症作用においては3つの作用機序が考えられている。まずは、[[リソソーム]]膜の安定化によりタンパク質分解酵素の遊出を防ぐことによる炎症部位拡大の防御、次に[[wj:肥満細胞|肥満細胞]]による[[wj:ヒスタミン|ヒスタミン]]の放出を防ぎ、[[wj:毛細血管|毛細血管]]の透過性上昇を抑えることによる[[wj:浮腫|浮腫]]の軽減、最後に[[プロスタグランジン]]の合成を抑制することによる抗[[体温調節の神経機構|発熱]]・[[鎮痛]]作用である<ref name="ref1" />。 | ||
====精巣ホルモン==== | ====精巣ホルモン==== | ||
精巣の[[ | 精巣の[[wj:ライディッヒ細胞|ライディッヒ細胞]]から分泌されるアンドロゲンは[[男性ホルモン]]とも呼ばれ、雄性化作用を持つホルモンの総称であり、また女性ホルモンのひとつ、[[エストロゲン]]の前駆体でもある。生体内の主たるアンドロゲンは[[テストステロン]]である。テストステロン以外にも[[アンドロステンジオン]]や[[ジヒドロテストステロン]]もアンドロゲン作用を持つ。 | ||
アンドロゲンはタンパク質同化作用を持ち、男性の[[ | アンドロゲンはタンパク質同化作用を持ち、男性の[[wj:二次性徴|二次性徴]]を促進するホルモンである。[[wj:骨格筋|骨格筋]]の発達促進に加え、体毛の発育促進、頭髪の減少、[[wj:皮脂腺|皮脂腺]]の発達、[[wj:精子|精子]]形成促進、[[wj:輸精管|輸精管]]・[[wj:前立腺|前立腺]]・[[wj:精嚢|精嚢]]・[[wj:カウパー腺|カウパー腺]]の維持等を担い、また、交尾等の[[生殖行動の神経回路|性行動]]もアンドロゲンによって促進される<ref name="ref1" />。 | ||
アンドロゲンは脳の[[性分化]]にも重要なホルモンである。「アンドロゲンシャワー」と呼ばれる、周生期動物の[[ | アンドロゲンは脳の[[性分化]]にも重要なホルモンである。「アンドロゲンシャワー」と呼ばれる、周生期動物の[[wj:精巣|精巣]]から分泌される高濃度のアンドロゲン作用によって脳の雄性化と脱雌性化が起こり、脳の性分化の方向が決められる<ref name="kondo">近藤保彦、小川園子、菊水健史、山田一夫、富原一哉<br>脳とホルモンの行動学<br>西村書店:2010 </ref>。例えば、雄ラットの精巣を生後直後に摘出すると成熟後に雌特有の性行動を引き起こし、また出生一週間頃までの雌ラットにアンドロゲンを投与すると性成熟後も性周期は回帰せず無排卵となる。脳がアンドロゲンに対して高い感受性を示す時期は「脳の性分化の臨界期」と呼ばれる<ref name="kondo" />。 | ||
テストステロンは、攻撃行動に深く関わるホルモンである。多くの動物種では、雌に比べて雄の攻撃性が高いことが知られ、また、精巣を除去するとテストステロンの減少と共に攻撃行動は低下するが、テストステロンの投与により攻撃行動の回復が見られる。 | テストステロンは、攻撃行動に深く関わるホルモンである。多くの動物種では、雌に比べて雄の攻撃性が高いことが知られ、また、精巣を除去するとテストステロンの減少と共に攻撃行動は低下するが、テストステロンの投与により攻撃行動の回復が見られる。 | ||
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卵巣から分泌される女性ホルモンは、エストロゲン(卵胞ホルモン)と[[プロゲステロン]](黄体ホルモン)である。エストロゲンには、[[エストラジオール]]、[[エストロン]]、[[エストリオール]]の3種類が存在し、最も活性が高いのはエストラジオールである。<br> | 卵巣から分泌される女性ホルモンは、エストロゲン(卵胞ホルモン)と[[プロゲステロン]](黄体ホルモン)である。エストロゲンには、[[エストラジオール]]、[[エストロン]]、[[エストリオール]]の3種類が存在し、最も活性が高いのはエストラジオールである。<br> | ||
エストロゲンとプロゲステロンは、共同して[[ | エストロゲンとプロゲステロンは、共同して[[wj:子宮|子宮]]に[[wj:月経周期|月経周期]]をもたらすと共に、[[wj:思春期|思春期]]における二次性徴の発現に関与する。エストロゲンは、[[wj:卵胞期|卵胞期]]の[[wj:子宮内膜|子宮内膜]]を増殖や卵胞の成長を促進する。妊娠中は子宮筋を肥大させ、子宮筋の興奮性を高める。思春期には[[wj:乳腺|乳腺]]の[[wj:乳管|乳管]]の成長を促進して乳房を大きくするとともに、[[wj:皮下脂肪|皮下脂肪]]の蓄積・[[wj:生殖器|生殖器]]の発育など、一次性徴と二次性徴を発現させて女性らしい体型にする。さらに[[wj:骨端|骨端]]の閉鎖をおこさせ、思春期以後の身長の伸びを抑制する。また、女性の性欲を亢進させ、[[生殖行動の神経回路|発情行動]]を引き起こす。プロゲステロンは、[[wj:排卵|排卵]]後に形成される[[wj:黄体|黄体]]から分泌される。妊娠中は[[wj:胎盤|胎盤]]からも分泌される。プロゲステロンの効果はエストロゲンがあらかいじめ作用している状態で発揮されることが多く、子宮では、子宮内膜を分泌期にして受精卵が着床しやすい状態にする。妊娠中は子宮筋の興奮性を抑え、妊娠を継続させるように作用する。乳房に対しては、乳腺の腺房の発達を刺激する。体温上昇作用があり、排卵後の基礎体温を上昇させる<ref name="ref1" />。 | ||
エストロゲンは雌の性行動にも深く関与する。多くのげっ歯類では、[[生殖行動の神経回路|ロードーシス]]の発現は卵巣から分泌されるエストロゲンにより制御され、通常の性周期では、ロードーシス反射はエストロゲン分泌の高まる排卵前後でのみ起こる。また卵巣を摘出しても、通常のホルモン分泌パターンと類似させ、エストロゲンとプロゲステロンを連続的に投与すると雌はロードーシスを示す。エストロゲン受容体には[[ | エストロゲンは雌の性行動にも深く関与する。多くのげっ歯類では、[[生殖行動の神経回路|ロードーシス]]の発現は卵巣から分泌されるエストロゲンにより制御され、通常の性周期では、ロードーシス反射はエストロゲン分泌の高まる排卵前後でのみ起こる。また卵巣を摘出しても、通常のホルモン分泌パターンと類似させ、エストロゲンとプロゲステロンを連続的に投与すると雌はロードーシスを示す。エストロゲン受容体には[[wj:エストロゲン受容体#.E6.A0.B8.E5.86.85.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|ERα]]と[[wj:エストロゲン受容体#.E6.A0.B8.E5.86.85.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|ERβ]]の2種類が存在するが、ロードーシス反射に関与しているのは主にERαだと考えられている。ERα遺伝子を損傷したαERKOマウスの雌は、エストロゲンとプロゲステロンを投与しても全くロードーシスを示さない。一方ERβ遺伝子を欠損したERβKOマウスの雌は通常の性周期を示し、発情期には野生型の雌とほぼ同等のロードーシス反応を示す<ref><pubmed>10536018</pubmed></ref><ref><pubmed>9832446</pubmed></ref> 。<br> | ||
====ニューロステロイド==== | ====ニューロステロイド==== | ||
脳で合成されるステロイドをニューロステロイドと呼ぶ。ニューロステロイドの研究は、フランスの内分泌学者Baulieuが1981年にラットの脳にプレグネノロンと[[デヒドロエピアンドロステロン]](DHEA)を見出したことより始まり、現在では、[[ | 脳で合成されるステロイドをニューロステロイドと呼ぶ。ニューロステロイドの研究は、フランスの内分泌学者Baulieuが1981年にラットの脳にプレグネノロンと[[デヒドロエピアンドロステロン]](DHEA)を見出したことより始まり、現在では、[[wj:脊椎動物|脊椎動物]]のほとんどがニューロステロイドを合成していることが知られる<ref><pubmed>19505496 </pubmed></ref>。 | ||
ニューロステロイドは、[[ニューロン]]、[[アストロサイト]]、[[オリゴデンドロサイト]]のすべての細胞種で合成されるが、発現するステロイド合成酵素の種類は細胞間で違いが見られる<ref><pubmed>10433246</pubmed></ref>。アストロサイトでは、P450scc, P450c17, 3βHSD, 17βHSD, P450aromを発現し、プレグネノロン、プロゲステロン、デヒドロエピアンドロステンジオン、アンドロゲン、エストロゲンを合成している。ニューロンもほぼアストロサイトと同様の合成酵素発現を示すが、17βHSDを持たずテストステロン合成を行わない点でアストロサイトと異なる。オリゴデンドロサイトはP450sccと3βHSDを発現し、プレグネノロンとプロゲステロンを合成する。 | ニューロステロイドは、[[ニューロン]]、[[アストロサイト]]、[[オリゴデンドロサイト]]のすべての細胞種で合成されるが、発現するステロイド合成酵素の種類は細胞間で違いが見られる<ref><pubmed>10433246</pubmed></ref>。アストロサイトでは、P450scc, P450c17, 3βHSD, 17βHSD, P450aromを発現し、プレグネノロン、プロゲステロン、デヒドロエピアンドロステンジオン、アンドロゲン、エストロゲンを合成している。ニューロンもほぼアストロサイトと同様の合成酵素発現を示すが、17βHSDを持たずテストステロン合成を行わない点でアストロサイトと異なる。オリゴデンドロサイトはP450sccと3βHSDを発現し、プレグネノロンとプロゲステロンを合成する。 | ||
小脳プルキンエ細胞は、P450sccや3βHSD、[[ | 小脳プルキンエ細胞は、P450sccや3βHSD、[[wj:Steroid sulfotransferase|ステロイド硫酸基転移酵素]](HST)を発現しており、プレグネノロン、プレグネノロン硫酸エステル、プロゲステロン、[[プロゲステロン代謝ステロイド]](3α,5α-テトラハイドロプロゲステロン)を合成する<ref><pubmed> 10771104</pubmed></ref><ref><pubmed> 10373637</pubmed></ref>。 プロゲステロンは、新生児期の小脳において合成が活発となり、[[プルキンエ細胞]]の[[樹状突起]]伸長や[[スパイン]]形成を促進する<ref><pubmed>11487645</pubmed></ref> <ref><pubmed>11958856</pubmed></ref>。またプレグネノロン硫酸エステルは傍分泌により、プルキンエ細胞に投射する[[GABA]]ニューロンに作用し、GABAの[[放出頻度]]を増加させることが報告されている<ref><pubmed>10373637</pubmed></ref>。 | ||
===受容体と標的遺伝子=== | ===受容体と標的遺伝子=== | ||
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====アンドロゲン受容体==== | ====アンドロゲン受容体==== | ||
アンドロゲン受容体(AR)はGRなどと同様にリガンド非存在下では細胞質に存在し、リガンドと結合すると核へ移行し標的遺伝子の転写を調節する。ARの標的遺伝子には[[前立腺特異抗原]]([[prostate specific antigen]], [[PSA]])、[[線維芽細胞成長因子8]] ([[fibroblast growth factor 8]], [[FGF8]])、[[サイクリン依存性キナーゼ1]] (cyclin-dependent kinase 1. Cdk1), Cdk2, PMDPA1, [[transmembrane protease, serine 2]] (TMPRSS2)、[[D-dopachrome tautomerase]] (DDT)、[[グルタチオン-S-転位酵素θ2]] ([[glutathione S-transferase θ2]] ([[GSTT2]])、[[Ca2+/リン脂質依存性タンパク質リン酸化酵素|Ca<sup>2+</sup>/リン脂質依存性タンパク質リン酸化酵素]] (protein kinase Cδ, PRKCD)、[[ピロリン-5-カルボン酸レダクターゼI]] ([[pyrroline-5-carboxylate reductase I]], [[PYXRI]])等が知られる。[[ | アンドロゲン受容体(AR)はGRなどと同様にリガンド非存在下では細胞質に存在し、リガンドと結合すると核へ移行し標的遺伝子の転写を調節する。ARの標的遺伝子には[[前立腺特異抗原]]([[prostate specific antigen]], [[PSA]])、[[線維芽細胞成長因子8]] ([[fibroblast growth factor 8]], [[FGF8]])、[[サイクリン依存性キナーゼ1]] (cyclin-dependent kinase 1. Cdk1), Cdk2, PMDPA1, [[transmembrane protease, serine 2]] (TMPRSS2)、[[D-dopachrome tautomerase]] (DDT)、[[グルタチオン-S-転位酵素θ2]] ([[glutathione S-transferase θ2]] ([[GSTT2]])、[[Ca2+/リン脂質依存性タンパク質リン酸化酵素|Ca<sup>2+</sup>/リン脂質依存性タンパク質リン酸化酵素]] (protein kinase Cδ, PRKCD)、[[ピロリン-5-カルボン酸レダクターゼI]] ([[pyrroline-5-carboxylate reductase I]], [[PYXRI]])等が知られる。[[wj:哺乳動物|哺乳動物]]の[[中枢神経]]においては、これまでにアンドロゲンのノンゲノミック作用に直接関与するような膜型受容体は見つかっていない。 | ||
====プロゲステロン受容体==== | ====プロゲステロン受容体==== |