「高親和性ニューロトロフィン受容体」の版間の差分

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TrkA,B,Cとも末梢神経系の神経細胞に広く発現している。脳内ではTrkB, Cは幅広く分布し、ほとんどの神経細胞に発現している。一方、TrkAの発現はほぼ前脳基底野のアセチルコリン作働性神経細胞に限られておりNGFの作用も限定されている。細胞内局在では末梢系では主に前シナプスに発現し、ニューロトロフィンの標的由来/逆行性作用を受けている。TrkAは中枢でも逆行性作用が主と考えられており前シナプスに発現しているのに対し、TrkBは主に後シナプスに発現して、前シナプスから活動依存的に放出されるBDNFを受容して機能している<ref name=Nawa2001><pubmed>11718853</pubmed></ref>  (6)。
TrkA,B,Cとも末梢神経系の神経細胞に広く発現している。脳内ではTrkB, Cは幅広く分布し、ほとんどの神経細胞に発現している。一方、TrkAの発現はほぼ前脳基底野のアセチルコリン作働性神経細胞に限られておりNGFの作用も限定されている。細胞内局在では末梢系では主に前シナプスに発現し、ニューロトロフィンの標的由来/逆行性作用を受けている。TrkAは中枢でも逆行性作用が主と考えられており前シナプスに発現しているのに対し、TrkBは主に後シナプスに発現して、前シナプスから活動依存的に放出されるBDNFを受容して機能している<ref name=Nawa2001><pubmed>11718853</pubmed></ref>  (6)。


[[ファイル:Takei Trk Fig2.png|サムネイル|'''図2. Trk受容体による細胞内情報伝達'''<br>リン酸化したチロシン残基にアダプタータンパク質(Shc, FRS2)や酵素(PLC&gamma;)のSH2ドメインが結合し、シグナルが伝わる。]]
== 生化学的機能 ==
== 生化学的機能 ==
受容体型チロシンキナーゼに共通の仕組みとして、リガンドの結合によって受容体分子が2量体化し、キナーゼドメインによって相手側のチロシン残基がリン酸化される。リン酸化チロシンにアダプター分子が結合し、リン酸化カスケードが駆動され、様々なシグナルが細胞内に伝わる(図2)<ref name=Chao2003><pubmed>12671646</pubmed></ref><ref name=Huang2003><pubmed>12676795</pubmed></ref>  (7,8)。Trkの特徴として、下流シグナルも含めて、活性化の時間経過がEGF受容体などに比べて長く持続することが知られている。
 受容体型チロシンキナーゼに共通の仕組みとして、リガンドの結合によって受容体分子が2量体化し、キナーゼドメインによって相手側のチロシン残基がリン酸化される。リン酸化チロシンにアダプター分子が結合し、リン酸化カスケードが駆動され、様々なシグナルが細胞内に伝わる('''図2''')<ref name=Chao2003><pubmed>12671646</pubmed></ref><ref name=Huang2003><pubmed>12676795</pubmed></ref>  (7,8)。Trkの特徴として、下流シグナルも含めて、活性化の時間経過がEGF受容体などに比べて長く持続することが知られている。'''図2'''に示すようにTrkAではリン酸化したY496 (TrkBはY532, TrkCはY516)にShcあるいはFRS2が結合し、Ras-MAPK系とPI3K-Akt系が活性化される。


図2に示すようにTrkAではリン酸化したY496 (TrkBはY532, TrkCはY516)にShcあるいはFRS2が結合し、Ras-MAPK系とPI3K-Akt系が活性化される。
 ShcあるいはFRS2を介してGrb2-Sosから、癌遺伝子rasの産物で、低分子GTP結合蛋白質であるRasを活性化する。さらにRaf, MEK(MAPKK:MAPキナーゼキナーゼとも呼ばれる)を介しErk1,2(Extracellular regulated kinase) (MAPK(mitogen activated protein kinase)とも呼ばれる)を活性化する経路であり、転写調節などメインとして多くの細胞応答を引き起こす。


ShcあるいはFRS2を介してGrb2-Sosから、癌遺伝子rasの産物で、低分子GTP結合蛋白質であるRasを活性化する。さらにRaf, MEK(MAPKK:MAPキナーゼキナーゼとも呼ばれる)を介しErk1,2(Extracellular regulated kinase) (MAPK(mitogen activated protein kinase)とも呼ばれる)を活性化する経路であり、転写調節などメインとして多くの細胞応答を引き起こす。
 Grb2からGab1を介して、脂質キナーゼであるPI3キナーゼ(phosphatidilyinositol 3-OH kinase)を活性化する。PI3Kはホスファチジルイノシトール4,5-ビスホスフェート(PIP2)からPIP3を産生し、PDK1-Aktを活性化するシグナルを伝える。アポトーシスの抑制に作用しているとともに、mTORを活性化し翻訳調節などの細胞内代謝を制御している。


Grb2からGab1を介して、脂質キナーゼであるPI3キナーゼ(phosphatidilyinositol 3-OH kinase)を活性化する。PI3Kはホスファチジルイノシトール4,5-ビスホスフェート(PIP2)からPIP3を産生し、PDK1-Aktを活性化するシグナルを伝える。アポトーシスの抑制に作用しているとともに、mTORを活性化し翻訳調節などの細胞内代謝を制御している。
 もう一つの経路はPLC&gamma;の系で、TrkAではリン酸化したY791(TrkBではY833,TrkCではY834)にPLC&gamma; (phospholipase C)が自身のSH2ドメインを介して結合し活性化され、PIP2からIP3イノシトール3リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DG)を産生する。IP3は細胞内カルシウム貯蔵部位からカルシウムを放出させることによってカルシウムシグナルを駆動させ、ジアシルグリセロールはprotein kinase C (PKC)を活性化させる。どちらも細胞内情報系として様々な重要な働きをしている。
 
もう一つの経路はPLCの系で、TrkAではリン酸化したY791(TrkBではY833,TrkCではY834)にPLC(phospholipase C)が自身のSH2ドメインを介して結合し活性化され、PIP2からIP3イノシトール3リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DG)を産生する。IP3は細胞内カルシウム貯蔵部位からカルシウムを放出させることによってカルシウムシグナルを駆動させ、DGはPKC(protein kinase C)を活性化させる。どちらも細胞内情報系として様々な重要な働きをしている。


==生理的機能==
==生理的機能==

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