「意識障害」の版間の差分

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 [[通過症候群]](transit syndrome)とは、大脳の器質的障害をうけた意識障害患者において、意識清明に回復する過程で呈する症候群であり、[[自発性喪失]]、[[感情]]不安定、[[健忘]]などが認められる可逆的な状態である。特定の病態を指すものでなく、混乱をきたしやすい概念のため近年あまり使用されなくなっている。
 [[通過症候群]](transit syndrome)とは、大脳の器質的障害をうけた意識障害患者において、意識清明に回復する過程で呈する症候群であり、[[自発性喪失]]、[[感情]]不安定、[[健忘]]などが認められる可逆的な状態である。特定の病態を指すものでなく、混乱をきたしやすい概念のため近年あまり使用されなくなっている。
== 複雑な意識障害 ==
 救急医学、脳神経外科学を初めとする臨床医学一般においては、意識障害と言えば、これまで述べたような意識の清明度が障害される単純な意識障害のことを示すことが多い。
 一方、主に精神医学領域で問題になるのが、複雑な意識障害である。単純な意識障害が意識の[[清明度]]の障害とすれば、複雑な意識障害は、意識の広がりや方向性の障害とも言うことができる。複雑な意識障害の用語については、歴史的経緯、学派による考え方の違いなどにより、様々な用語が用いられ、各概念間の関係や英語と日本語の対応は複雑であり、互いに重なり合う面もある。また、実際の臨床像がどの複雑な意識障害に該当するかの判断にも難しい面があり、意識障害の状態そのものに加え、経過などの情報を総合して下された診断が、その意識障害をどのように記述するかに影響するという面もある。
=== 意識狭窄 ===
 [[催眠]]などによって、意識野が狭くなった状態を、[[意識狭窄]]という。催眠によって[[トランス状態]]となった場合には、催眠の施術者の指示は意識に上るが、その他の事象は意識にのぼらない状態となるために、施術者の指示に従ってしまうと考えられる。類似の状態は、[[解離性障害]]などでも生じうる。
=== せん妄 ===
 意識の清明度が動揺する[[意識混濁]]に加え、[[幻覚]]・[[錯覚]]、[[精神運動興奮]]・[[不安]]が現れた状態である。[[せん妄]]時の記憶は、追想できない場合が多い。せん妄は、手術後やさまざまな身体疾患(感染症など)、脳疾患、薬物中毒など、さまざまな状況・疾患を背景として現れることが多く、[[リエゾン精神医学]]において最大の課題の一つとなっている。
 特殊なせん妄として、[[アルコール]]離脱時に、[[小動物幻視]]や[[振戦]]を伴って見られる[[振戦せん妄]]、行い慣れた動作を行う[[作業せん妄]]などがある。
=== もうろう状態 ===
 単純な意識障害で見られる意識の清明度の障害と、意識狭窄で見られる意識野の狭窄、そしてせん妄で見られる意識の方向性の変化が混在した、複雑な意識障害、あるいは意識変容状態を、[[もうろう状態]]という。
 [[てんかん]]によるもうろう状態、解離性障害によるもうろう状態などがある。
=== その他の用語 ===
 意識混濁(意識の清明度の障害)に、周囲の状況を理解しようとしてもよくわからないことによる「[[困惑]]」、思考にまとまりがなくなる「[[思考散乱]]」が加わり、行動にまとまりがなくなった状態を[[アメンチア]]という。
 [[幻視]]が全景に出て、意識混濁または[[意識変容]]を伴った[[精神運動興奮]]が見られる状態を、[[夢幻状態]]と言うことがあるが、その定義は明確ではない。
 意識混濁からの回復期に、意識の混濁がほとんどないにもかかわらず、幻覚妄想などを呈する状態を[[通過症候群]]と呼ぶことがある。
 思考のまとまりのなさ、[[見当識障害|見当識の障害]]が全景に出た複雑な意識障害が[[錯乱]]と呼ばれることがある。[[躁状態]]の極期や、[[急性精神病]]において、こうした状態が現れる場合があり、「[[錯乱性躁病]]」「[[急性錯乱]]」などと言われるが、こうした脳の器質的変化が明らかでない意識の障害を意識障害と呼ぶべきかどうかは一定した見解に至っていない。
 なお、関連の状態として、[[精神運動興奮]]、[[昏迷]]、[[カタレプシー]]、[[反響動作]]・[[反響言語]]、[[常同症]]などを伴う「[[緊張病状態]]」があるが、これは意志の障害とみなされ、意識障害には含めないことが多い。


== 脳死 ==
== 脳死 ==


 [[中枢神経系]]が不可逆的損傷を受け、大脳半球機能、脳幹機能のすべてが失われている状態を指す<ref><pubmed>12512174</pubmed></ref>(Schlotzhauer and Liang, 2002)。多くの国で「[[ヒト]]の死」とされているが、近年の[[wikipedia:ja:人工呼吸|人工呼吸]]器や[[wikipedia:ja:昇圧剤|昇圧剤]]などによる全身管理により[[心臓]]の拍動が維持されうるため、本邦では、「ヒトの死」の解釈を巡り社会的問題となっている。
 [[中枢神経系]]が不可逆的損傷を受け、大脳半球機能、脳幹機能のすべてが失われている状態を指す<ref><pubmed>12512174</pubmed></ref>(Schlotzhauer and Liang, 2002)。多くの国で「[[ヒト]]の死」とされているが、近年の[[wj:人工呼吸|人工呼吸]]器や[[wj:昇圧剤|昇圧剤]]などによる全身管理により[[心臓]]の拍動が維持されうるため、本邦では、「ヒトの死」の解釈を巡り社会的問題となっている。


 脳死(brain death)の判定は、竹内基準に基づいて6つの項目によって脳死判定が行われ、
 脳死(brain death)の判定は、竹内基準に基づいて6つの項目によって脳死判定が行われ、
#深昏睡(JCS-300,GCS-3)
#深昏睡(JCS-300,GCS-3)
#[[自発呼吸]]消失
#[[自発呼吸]]消失
#[[wikipedia:ja:瞳孔|瞳孔]]固定(瞳孔径は左右とも4mm以上)
#[[wj:瞳孔|瞳孔]]固定(瞳孔径は左右とも4mm以上)
#[[脳幹反射]]の消失([[対光]]・[[角膜]]・[[網様体脊髄]]・[[眼球頭]]・[[前庭]]・[[咽頭]]・[[咳反射]])
#[[脳幹反射]]の消失([[対光]]・[[角膜]]・[[網様体脊髄]]・[[眼球頭]]・[[前庭]]・[[咽頭]]・[[咳反射]])
#平坦[[脳波]](最低4導出で30分間)
#平坦[[脳波]](最低4導出で30分間)
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 除外例、慎重適応例として、
 除外例、慎重適応例として、
#小児(6歳未満)
#小児(6歳未満)
#脳死と類似した状態になりうる症例(急性薬物中毒、低体温、代謝・[[wikipedia:ja:内分泌|内分泌]]障害など)
#脳死と類似した状態になりうる症例(急性薬物中毒、低体温、代謝・[[wj:内分泌|内分泌]]障害など)


があげられる。
があげられる。


 判定上の留意点として、
 判定上の留意点として、
#中枢神経抑制剤、[[wikipedia:ja:筋弛緩剤|筋弛緩剤]]などの影響を除外すること
#中枢神経抑制剤、[[wj:筋弛緩剤|筋弛緩剤]]などの影響を除外すること
#[[深部反射]]・[[皮膚表在反射]]、[[脊髄反射]]はあってもよい
#[[深部反射]]・[[皮膚表在反射]]、[[脊髄反射]]はあってもよい
#補助検査、たとえば[[脳幹誘発反応]]、[[CT]]、[[脳血管撮影]]、[[脳血流測定]]などは絶対必要なものでない
#補助検査、たとえば[[脳幹誘発反応]]、[[CT]]、[[脳血管撮影]]、[[脳血流測定]]などは絶対必要なものでない
ことなどがあげられている。
ことなどがあげられている。


 脳死が社会的問題となる理由のひとつに、脳死患者からの[[wikipedia:ja:臓器移植|臓器移植]]がある。本邦においては、1997年10月16日に[[wikipedia:ja:臓器移植法|臓器移植法]]が施行され、[[wj:心臓|心臓]]停止後の[[wikipedia:ja:腎臓|腎臓]]と[[wikipedia:ja:角膜|角膜]]の移植に加え、脳死からの心臓、[[wikipedia:ja:肺|肺]]、[[wikipedia:ja:肝臓|肝臓]]、腎臓、[[wikipedia:ja:膵臓|膵臓]]、[[wikipedia:ja:小腸|小腸]]などの移植が法律上可能になったが、脳死での臓器提供には、本人の書面による生前の意思表示と家族の承諾が必要であった。しかし、2010年7月17日に改正臓器移植法が全面施行され、本人の意思が不明な場合も、家族の承諾があれば臓器提供できるようになり、15歳未満の方からの脳死下での臓器提供ができるようになった。生後12週未満の幼児については、法的脳死判定の対象から除外され、生後12週~6歳未満の小児については脳死判定の間隔を24時間以上としている。2012年6月には、本邦で最初の6歳未満の脳死患者からの臓器提供が行われた。
 脳死が社会的問題となる理由のひとつに、脳死患者からの[[wj:臓器移植|臓器移植]]がある。本邦においては、1997年10月16日に[[wj:臓器移植法|臓器移植法]]が施行され、[[wj:心臓|心臓]]停止後の[[wj:腎臓|腎臓]]と[[wj:角膜|角膜]]の移植に加え、脳死からの心臓、[[wj:肺|肺]]、[[wj:肝臓|肝臓]]、腎臓、[[wj:膵臓|膵臓]]、[[wj:小腸|小腸]]などの移植が法律上可能になったが、脳死での臓器提供には、本人の書面による生前の意思表示と家族の承諾が必要であった。しかし、2010年7月17日に改正臓器移植法が全面施行され、本人の意思が不明な場合も、家族の承諾があれば臓器提供できるようになり、15歳未満の方からの脳死下での臓器提供ができるようになった。生後12週未満の幼児については、法的脳死判定の対象から除外され、生後12週~6歳未満の小児については脳死判定の間隔を24時間以上としている。2012年6月には、本邦で最初の6歳未満の脳死患者からの臓器提供が行われた。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==

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