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細 (→病態生理) |
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<font size="+1">目崎 高広</font><br> | |||
''榊原白鳳病院 脳神経内科''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2020年8月24日 原稿完成日:2020年8月27日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446/ 漆谷 真](滋賀医科大学 神経内科)<br> | |||
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英:dystonia 独:Dystonie 仏:dystonie | |||
同義語:ジストニー | |||
{{box|text= ジストニアは、随意運動を企図した際に(またしばしば安静時にも)骨格筋の不随意収縮を生じ、目的とする運動が妨げられる状態を指すが、異常姿勢のみを指すのか不随意運動を含むのか、あるいは運動制御障害として理解すべきか、今なお意見の一致をみていない。特有の臨床特徴を観察して総合的に診断する。精神疾患ではない。原因疾患や罹患範囲などにより治療法は異なるが、脳内機序が明らかでないため、ほとんどの病型では対症療法である。}} | {{box|text= ジストニアは、随意運動を企図した際に(またしばしば安静時にも)骨格筋の不随意収縮を生じ、目的とする運動が妨げられる状態を指すが、異常姿勢のみを指すのか不随意運動を含むのか、あるいは運動制御障害として理解すべきか、今なお意見の一致をみていない。特有の臨床特徴を観察して総合的に診断する。精神疾患ではない。原因疾患や罹患範囲などにより治療法は異なるが、脳内機序が明らかでないため、ほとんどの病型では対症療法である。}} | ||
== ジストニアとは== | == ジストニアとは== | ||
ジストニアは運動異常症の一病型であり、随意運動を企図した際に(またしばしば安静時にも)骨格筋の不随意収縮を生じ、異常姿勢を呈したり不随意運動を呈したりして、目的とする運動が妨げられる状態を指す。疾患名、症候群名、症状名、徴候名のいずれとしても用いられる。また日本語表記をジストニアとするかジストニーとするかについても意見が一致しておらず、日本神経学会では両者を認めている。 | |||
1911年にドイツの神経学者Hermann Oppenheimが、病的な「筋緊張の亢進と低下との併存」に対して命名した<ref name=Oppenheim1911>'''Oppenheim H. (1911).'''<br>Über eine eigenartige Krampfkrankheit des kindlichen und jugendlichen Alters (''Dysbasia lordotica progressiva'', ''Dystonia musculorum deformans''). Neurol Centrabl 30: 1090–1107.</ref>1)。対象となった患者は全身の不随意な筋緊張亢進による異常姿勢を呈し、''dysbasia lordotica progressiva''または''dystonia musculorum deformans''と命名された。しかし用語の妥当性や定義について当時から批判があった。現在、筋緊張低下の側面は一様に定義から外されているが、固定した異常姿勢のみを指すのか不随意運動の要素も含むのかなど、専門家間で見解の不一致がみられる。なお長らく精神疾患と誤解されてきた。不安・うつなどの有症率が比較的高く、また一部の患者で心身症としての側面を持つものの、ジストニアは精神疾患ではない。 | 1911年にドイツの神経学者Hermann Oppenheimが、病的な「筋緊張の亢進と低下との併存」に対して命名した<ref name=Oppenheim1911>'''Oppenheim H. (1911).'''<br>Über eine eigenartige Krampfkrankheit des kindlichen und jugendlichen Alters (''Dysbasia lordotica progressiva'', ''Dystonia musculorum deformans''). Neurol Centrabl 30: 1090–1107.</ref>1)。対象となった患者は全身の不随意な筋緊張亢進による異常姿勢を呈し、''dysbasia lordotica progressiva''または''dystonia musculorum deformans''と命名された。しかし用語の妥当性や定義について当時から批判があった。現在、筋緊張低下の側面は一様に定義から外されているが、固定した異常姿勢のみを指すのか不随意運動の要素も含むのかなど、専門家間で見解の不一致がみられる。なお長らく精神疾患と誤解されてきた。不安・うつなどの有症率が比較的高く、また一部の患者で心身症としての側面を持つものの、ジストニアは精神疾患ではない。 | ||
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上記のように概念が確定しないためコンセンサスとしての診断基準はないが、以下に挙げるジストニアの諸特徴<ref name=目崎高広2011>'''目崎高広 (2011)<br>'''ジストニアの病態と治療. 臨床神経 51:465-470.</ref> 4)のうち感覚トリックをもっとも重視して診断のアルゴリズムを作成した報告がある<ref name=Defazio2019><pubmed>30269178</pubmed></ref>5)。アテトーシス、舞踏症、振戦、ミオクローヌスなどと鑑別するが、しばしば複数の運動異常を合併する。なお診断に際しては、眼前の運動異常症がジストニアであるか否かに留まらず、背景となる病態または疾患の有無を検討する。とりわけジストニア以外の病的所見(神経症候に限らない)を認める場合には、症候性(後天性)ジストニアの鑑別診断が必須である。 | 上記のように概念が確定しないためコンセンサスとしての診断基準はないが、以下に挙げるジストニアの諸特徴<ref name=目崎高広2011>'''目崎高広 (2011)<br>'''ジストニアの病態と治療. 臨床神経 51:465-470.</ref> 4)のうち感覚トリックをもっとも重視して診断のアルゴリズムを作成した報告がある<ref name=Defazio2019><pubmed>30269178</pubmed></ref>5)。アテトーシス、舞踏症、振戦、ミオクローヌスなどと鑑別するが、しばしば複数の運動異常を合併する。なお診断に際しては、眼前の運動異常症がジストニアであるか否かに留まらず、背景となる病態または疾患の有無を検討する。とりわけジストニア以外の病的所見(神経症候に限らない)を認める場合には、症候性(後天性)ジストニアの鑑別診断が必須である。 | ||
* 定型性 (fixed pattern): 異常姿勢または不随意運動パターンが、程度の差はあっても患者毎に一定であり変転しないという特徴 | |||
課題特異性 (task specificity): 特定の動作や環境に依存してジストニアの症候が出現または増悪する現象 | * 課題特異性 (task specificity): 特定の動作や環境に依存してジストニアの症候が出現または増悪する現象 | ||
感覚トリック (sensory trick): 特定の感覚刺激によってジストニアが軽快(または増悪)するとき、その行為または現象 | * 感覚トリック (sensory trick): 特定の感覚刺激によってジストニアが軽快(または増悪)するとき、その行為または現象 | ||
オーバーフロー現象 (overflow phenomenon): ある動作の際に、その動作に不必要な筋が不随意に収縮してジストニアを呈する現象 | * オーバーフロー現象 (overflow phenomenon): ある動作の際に、その動作に不必要な筋が不随意に収縮してジストニアを呈する現象 | ||
早朝効果 (morning benefit): 起床時に症状が軽いという現象 | * 早朝効果 (morning benefit): 起床時に症状が軽いという現象 | ||
フリップフロップ現象 (flip-flop phenomenon):何らかのきっかけで(あるいは一見誘因なく)症候が急に増悪あるいは軽快する現象 | * フリップフロップ現象 (flip-flop phenomenon):何らかのきっかけで(あるいは一見誘因なく)症候が急に増悪あるいは軽快する現象 | ||
感覚トリックはジストニアと診断するための有力な現象であるが、必須ではなく、特異性も100%ではない。筆者はジストニアを、「骨格筋収縮の定型的なオーバーフロー現象(“patterned motor overflow”)」の表現形であると考えた<ref name=Mezaki2017><pubmed>28735649</pubmed></ref>6)。 | 感覚トリックはジストニアと診断するための有力な現象であるが、必須ではなく、特異性も100%ではない。筆者はジストニアを、「骨格筋収縮の定型的なオーバーフロー現象(“patterned motor overflow”)」の表現形であると考えた<ref name=Mezaki2017><pubmed>28735649</pubmed></ref>6)。 |