差分

移動先: 案内検索

大脳皮質介在ニューロンの発生

781 バイト追加, 2020年9月19日 (土)
編集の要約なし
<font size="+1">[https://researchmap.jp/Goichi.Miyoshi 三好 悟一]</font><br>''東京女子医科大学''<br>DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2020年9月14日 原稿完成日:2020年X月XX日<br>担当編集委員:[https://researchmap.jp/yamagatm 山形 方人](ハーバード大学・脳科学センター)<br>
{{box|text= 高次機能を司る哺乳類大脳皮質神経の約2割を占める介在ニューロンは、神経伝達物質GABAを放出する抑制機構により神経活動伝播の局所的な調整、修飾や同期を行い脳波生成にも重要な役割を果たす。大脳皮質の各層に存在する介在ニューロンに認められる形態、軸索投射、分子発現ならびに電気生理活性など極めて多様な性質は発生発達過程において獲得される。介在ニューロンは投射ニューロンである錐体細胞のように皮質内で生まれるのではなく、遠く離れた大脳腹側の増殖細胞から産生され、あらゆる皮質領野まで長距離を移動し、最終目的地の皮質層に到着した後は、最終分化する過程で取捨選択され回路に組み込まれるという特徴的な発生の過程をたどる。}}
==発生起源==
 哺乳類大脳皮質にある錐体細胞が皮質自身の脳室帯で生まれるのとは異なり、介在ニューロンの全ては皮質とは離れた終脳胞の腹側で産生される。このことは、1997年にマウスで示され<ref name=Anderson1997><pubmed>9334308</pubmed></ref> 、後にサルおよびヒトにおいてもほぼ同様であることが確認された<ref name=Hansen2013><pubmed>24097039</pubmed></ref><ref name=Ma2013><pubmed>24097041</pubmed></ref> 。現在では、大脳皮質にある介在ニューロンのほぼ全てが胎仔終脳胞に一過性に存在する内側基底核原基 (Medial ganglionic eminence, MGE)<ref name=Sussel1999><pubmed>10393115</pubmed></ref><ref name=Wichterle2001><pubmed>11585802</pubmed></ref> と尾側基底核原基(caudal ganglionic eminence, CGE)<ref name=Nery2002><pubmed>12411960</pubmed></ref> という構造でつくられると考えられている(図左)。胎仔の大脳腹側に位置する構造の中では、胎生13日目の外側基底核原基(lateral ganglionic eminence)<ref name=Wichterle2001><pubmed>11585802</pubmed></ref> や中隔(Septum)<ref name=Rubin2010><pubmed>20826668</pubmed></ref> は介在ニューロンの発生起源として否定されている。一方、MGEの腹側に隣接し、またMGEと同じNkx2は介在ニューロンの発生起源として否定されている。一方、内側基底核原基の腹側に隣接し、また内側基底核原基と同じNkx2-1因子<ref name=Sussel1999><pubmed>10393115</pubmed></ref> を発現するする視索前野(Preoptic area)から少量の介在ニューロンが分化すると報告されている<ref name=Gelman2009><pubmed>19625528</pubmed></ref><ref name=Gelman2011><pubmed>22090484</pubmed></ref> 。
==皮質への大移動==
 胎仔大脳腹側の増殖細胞から最終分化し産生された未分化介在ニューロンは(図左)、MGE起源のものはCGE内部 胎仔大脳腹側の増殖細胞から最終分化し産生された未分化介在ニューロンは(図左)、内側基底核原基起源のものは尾側基底核原基内部<ref name=Butt2005><pubmed>16301176</pubmed></ref> や将来に線条体となる構造の内側を通過して背側にある皮質にたどりつく<ref name=Flames2004><pubmed>15473965</pubmed></ref> 。
 一方、CGE起源のものの多くは後方へ遊走し直接皮質へと到達する 一方、尾側基底核原基起源のものの多くは後方へ遊走し直接皮質へと到達する<ref name=Kanatani2008><pubmed>19074032</pubmed></ref> 。皮質では、構築途中である皮質板(将来の皮質2-6層)の上(辺縁帯)と下(中間帯と脳室下帯)にある経路をまるで高速道路のように使って「接線方向移動(tangential migration)」により皮質全域に拡散していく(図上、胎生期)。大脳の内側外側(左右)のみならず吻尾(前後)方向へも大移動し、あらゆる皮質領野へと到達する<ref name=Tanaka2006><pubmed>16672340</pubmed></ref> 。
 皮質板へは「放射状方向移動(radial migration)」によって侵入するが、一旦皮質層全体に散らばった後に特定の層に落ち着く(図上、生後初期)<ref name=Miyoshi2011><pubmed>20732898</pubmed></ref> 。介在ニューロンの移動は生後1週には終了する<ref name=Inamura2012><pubmed>22539863</pubmed></ref><ref name=Bortone2009><pubmed>19376067</pubmed></ref> 。
==皮質層への配置と産生時期==
 大脳皮質の錐体細胞は早期に産生された細胞が深い層、後期に産生された細胞が浅い層とインサイドアウト配置されることが知られている。介在ニューロンでは、錐体細胞よりもゆるやかなインサイドアウト傾向で配置されることが知られている(古典的DNAアナログ取り込みによる誕生日ラベル法と、GABA合成酵素Gadによる標識の組み合わせ)<ref name=Miller1985><pubmed>3910166</pubmed></ref><ref name=Fairen1986><pubmed>3760259</pubmed></ref> 。より詳細には、MGE起源の介在ニューロンは錐体細胞層と同様に6層から2層にインサイドアウト配置される(図上、成熟期)。より詳細には、内側基底核原基起源の介在ニューロンは錐体細胞層と同様に6層から2層にインサイドアウト配置される(図上、成熟期)<ref name=Miyoshi2007><pubmed>17634372</pubmed></ref> 。その一方、CGE起源のものは皮質1層でも分化し、また誕生時期に関わらず常に約75。その一方、尾側基底核原基起源のものは皮質1層でも分化し、また誕生時期に関わらず常に約75%が1-3層に配置される<ref name=Miyoshi2010><pubmed>20130169</pubmed></ref> 。MGE起源の介在ニューロン発生の開始は胎生9日目でピークが13日目であるのに対して、CGE起源ではいずれもが3日遅れることで、介在ニューロン全体としては6層から1層への緩やかなインサイドアウト配置となる。。内側基底核原基起源の介在ニューロン発生の開始は胎生9日目でピークが13日目であるのに対して、尾側基底核原基起源ではいずれもが3日遅れることで、介在ニューロン全体としては6層から1層への緩やかなインサイドアウト配置となる。
==サブタイプ特異的な局所抑制シナプスの形成==
 皮質介在ニューロンの多様性を分類するには層位置、形態、軸索投射様式、分子発現、電気生理活性などの指標を統合的に理解する必要がある<ref name=Yuste2020><pubmed>32839617</pubmed></ref> 。介在ニューロンの特性と発生起源には密接な関係があり、おおまかには4種類がMGEとCGEの2箇所からつくられると考えられている。介在ニューロンの特性と発生起源には密接な関係があり、おおまかには4種類が内側基底核原基と尾側基底核原基の2箇所からつくられると考えられている<ref name=Miyoshi2010><pubmed>20130169</pubmed></ref><ref name=Fishell2020><pubmed>31299170</pubmed></ref> (図右上、抑制回路)。
 皮質介在ニューロン全体の約7割を占めるMGE起源では主に、4割のパルブアルブミン  皮質介在ニューロン全体の約7割を占める内側基底核原基起源では主に、4割のパルブアルブミン (Pvalb)陽性細胞と3割のソマトスタチン (Sst)細胞に分類される。パルブアルブミン陽性細胞は主に細胞体付近を抑制するバスケット細胞と軸索を抑制するシャンデリア細胞<ref name=Taniguchi2013><pubmed>23180771</pubmed></ref> 、ソマトスタチン陽性細胞は主に尖端樹状突起を抑制するマルチノッチ細胞である(図右上、赤と橙)。
 介在ニューロン全体の約3割であるCGE起源では、その約半分がリーリン  介在ニューロン全体の約3割である尾側基底核原基起源では、その約半分がリーリン (Reln)/Id2陽性細胞で残りは血管作動性腸管ペプチド(vasoactive intestinal peptide, Vip)陽性の2つに分類される<ref name=Miyoshi2010><pubmed>20130169</pubmed></ref><ref name=Miyoshi2015><pubmed>26377473</pubmed></ref> 。リーリン陽性細胞の多くはニューログリアフォーム形態をもつ細胞で主に1層で拡散性伝達(Volume transmission)による抑制を担い(図右上、濃青)、Vip陽性細胞の多くは双極性細胞でありまた抑制細胞を抑制する脱抑制機能を果たす(図右上、青)。
 つまり発達過程において介在ニューロンの軸索が標的細胞(錐体か介在か)、特異的部位(細胞体か、軸索か、樹状突起か、その尖端か)を認識しシナプス形成することが機能を発揮する上で必須である(図上、成熟期)。一方、生後発達期のどの時期に、どのような機構によって、特異的な抑制性シナプスが形成されるのかはほとんど理解されておらず、分子機構の一部が示されたのみである<ref name=Favuzzi2019><pubmed>30679375</pubmed></ref> 。
==海馬の介在ニューロンは皮質を通過して発生する==
 海馬にみられる多様な介在ニューロンは<ref name=Pelkey2017><pubmed>28954853</pubmed></ref><ref name=Klausberger2008><pubmed>18599766</pubmed></ref> 、胎仔の大脳腹側で産生されたのちに多くが皮質を通過して海馬へ到達するが<ref name=Pleasure2000><pubmed>11163262</pubmed></ref><ref name=Polleux2002><pubmed>12070090</pubmed></ref> 、CGEからは海馬に直接侵入するものも報告されている、尾側基底核原基からは海馬に直接侵入するものも報告されている<ref name=Yozu2005><pubmed>16079409</pubmed></ref> 。海馬介在ニューロンの発生起源は基本的には大脳皮質と同様のサブタイプがMGEとCGEに起源をもつ傾向がみられる。海馬介在ニューロンの発生起源は基本的には大脳皮質と同様のサブタイプが内側基底核原基と尾側基底核原基に起源をもつ傾向がみられる<ref name=Tricoire2010><pubmed>20147544</pubmed></ref><ref name=Tricoire2011><pubmed>21795545</pubmed></ref> 。その一方で、皮質とは異なり多くのNos1(Nitric oxide synthase)およびCcK(Cholecystokinin)陽性細胞がみられ、またMGE起源のニューログリアフォーム細胞が確認されることからsynthase)およびCcK(Cholecystokinin)陽性細胞がみられ、また内側基底核原基起源のニューログリアフォーム細胞が確認されることから<ref name=Overstreet-Wadiche2015><pubmed>26189693</pubmed></ref> 、これらの介在ニューロンは皮質を通過しないルートで供給されている可能性が示唆されている。
==細胞系譜==
 MGEからパルブアルブミンとソマトスタチン陽性、CGEからリーリンとVip陽性の介在ニューロンが個別に分化する発生機構は未だに解明されていない。MGEの腹側からはパルブアルブミン、背側からはソマトスタチンという場所仮説 内側基底核原基からパルブアルブミンとソマトスタチン陽性、尾側基底核原基からリーリンとVip陽性の介在ニューロンが個別に分化する発生機構は未だに解明されていない。内側基底核原基の腹側からはパルブアルブミン、背側からはソマトスタチンという場所仮説<ref name=Flames2007><pubmed>17804629</pubmed></ref><ref name=Wonders2008><pubmed>18155689</pubmed></ref> 、増殖細胞層の中でも脳室下帯(Subventricular zone)からはパルブアルブミン、脳室帯(Ventricular zone)からはソマトスタチンという空間仮説が提唱されているが<ref name=Glickstein2007><pubmed>17965053</pubmed></ref><ref name=Petros2015><pubmed>26526999</pubmed></ref> 、いずれも片方にバイアスがみられる程度である。CGEの各部位をエレクトロポレーション法を用いて蛍光ラベルすることで、CGEの前方からVip、後方からはリーリン陽性細胞が生まれることが示唆されている 、いずれも片方にバイアスがみられる程度である。尾側基底核原基の各部位をエレクトロポレーション法を用いて蛍光ラベルすることで、尾側基底核原基の前方からVip、後方からはリーリン陽性細胞が生まれることが示唆されている <ref name=Torigoe2016><pubmed>26865626</pubmed></ref> 。
 単一細胞の運命を追跡するクローナル解析(バーコードタグをもつウイルスを胎仔増殖細胞に感染させる手法)では、MGEに在る1つの増殖細胞からパルブアルブミンとソマトスタチン陽性の両者が確認されており、大脳腹側の増殖細胞レベルで両者の運命が別れていることは否定されている 単一細胞の運命を追跡するクローナル解析(バーコードタグをもつウイルスを胎仔増殖細胞に感染させる手法)では、内側基底核原基に在る1つの増殖細胞からパルブアルブミンとソマトスタチン陽性の両者が確認されており、大脳腹側の増殖細胞レベルで両者の運命が別れていることは否定されている<ref name=Harwell2015><pubmed>26299474</pubmed></ref><ref name=Mayer2015><pubmed>26299473</pubmed></ref> 。発生ステージごとに単一細胞RNAシークエンシング法を網羅的に実施し、得られた遺伝子発現の比較相関解析による細胞系譜の構築が盛んに行われている<ref name=Nowakowski2017><pubmed>29217575</pubmed></ref><re name=Wagner2018><pubmed>29700229</pubmed></ref> 。介在ニューロン発生においても同様の試みがなされたが<ref name=Mayer2018><pubmed>29513653</pubmed></ref><ref name=Mi2018><pubmed>29472441</pubmed></ref> 、未だにパルブアルブミンとソマトスタチン、リーリンとVip系譜の分岐点は解明されていない。より密接した発生ステージを比較解析することで、詳細な細胞系譜が解明されることが期待される。
==介在ニューロン発生の分子制御機構==
 ホメオドメイン転写因子Dlx、ArxやZeb2は未分化介在ニューロンの移動を制御する。中でもDlx1/2ダブルノックアウトマウスでは皮質に到達するGABA細胞が見られないことを利用し、介在ニューロンの起源が大脳腹側がであることが解明された<ref name=Anderson1997><pubmed>9334308</pubmed></ref> 。MGE起源の介在ニューロンの分化発生は、Nkx2。内側基底核原基起源の介在ニューロンの分化発生は、Nkx2-1>Lhx6>Sox6/SatB1という転写因子カスケードにより制御されることが示されている<ref name=Sussel1999><pubmed>10393115</pubmed></ref><ref name=Azim2009><pubmed>19657336</pubmed></ref><ref name=Batista-Brito2009><pubmed>19709629</pubmed></ref><ref name=Close2012><pubmed>23223290</pubmed></ref><ref name=Denaxa2012><pubmed>23142661</pubmed></ref><ref name=Liodis2007><pubmed>17376969</pubmed></ref><ref name=Butt2008><pubmed>18786356</pubmed></ref> 。一方、CGE起源の介在ニューロンに特異的な分子制御プログラムはProx1転写因子しか現在同定されていない。一方、尾側基底核原基起源の介在ニューロンに特異的な分子制御プログラムはProx1転写因子しか現在同定されていない<ref name=Miyoshi2015><pubmed>26377473</pubmed></ref> 。さらには、パルブアルブミンとソマトスタチン、リーリンとVip系譜の分岐を制御するような因子も現在のところ報告されていない。
==細胞移植を用いた介在ニューロン発生研究とその応用==
 細胞移植実験は発生機構を理解するための強力な手法であり、古典的にはニワトリとウズラという多種間の細胞と組織の組み合わせから、移植された細胞が移動し分化する機構が解析されてきた。介在ニューロン発生研究においてもマウス遺伝学手法を組み合わせた細胞移植実験が多用されてきた歴史があり、起源である大脳腹側(MGEやCGE)や蛍光ラベルされた移動中の介在ニューロンを単離調製し、胎児や生後の特定脳部位へ細胞移植する実験が盛んに行われてきた。介在ニューロンの発生起源、分子制御機構、細胞外環境の影響、細胞死などの多くが検証され解明されてきた 細胞移植実験は発生機構を理解するための強力な手法であり、古典的にはニワトリとウズラという多種間の細胞と組織の組み合わせから、移植された細胞が移動し分化する機構が解析されてきた。介在ニューロン発生研究においてもマウス遺伝学手法を組み合わせた細胞移植実験が多用されてきた歴史があり、起源である大脳腹側(内側基底核原基や尾側基底核原基)や蛍光ラベルされた移動中の介在ニューロンを単離調製し、胎児や生後の特定脳部位へ細胞移植する実験が盛んに行われてきた。介在ニューロンの発生起源、分子制御機構、細胞外環境の影響、細胞死などの多くが検証され解明されてきた<ref name=Miyoshi2019><pubmed>30227162</pubmed></ref> 。
 介在ニューロンは発生過程において長距離を移動し、GABA放出により細胞移動のみならず可塑性をも制御し、過剰に産生され不要なものが除去される特徴がみられる。この発生機構を応用し、胎仔大脳腹側から未分化介在ニューロンを単離調製し生後の皮質に移植すると、移植場所から周囲に拡散移動し、GABA放出により可塑性を生み出し局所回路に組み込まれ、抑制回路を形成しないものは消失することが知られている(図下)。

案内メニュー