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Masahitoyamagata (トーク | 投稿記録) 細 (分化を分裂にしました。) |
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英:development of cortical interneurons | |||
{{box|text= 高次機能を司る哺乳類大脳皮質神経の約2割を占める介在ニューロンは、神経伝達物質GABAを放出する抑制機構により神経活動伝播の局所的な調整、修飾や同期を行い脳波生成にも重要な役割を果たす。大脳皮質の各層に存在する介在ニューロンに認められる形態、軸索投射、分子発現ならびに電気生理活性など極めて多様な性質は発生発達過程において獲得される。介在ニューロンは投射ニューロンである錐体細胞のように皮質内で生まれるのではなく、遠く離れた大脳腹側の増殖細胞から産生され、あらゆる皮質領野まで長距離を移動し、最終目的地の皮質層に到着した後は、最終分化する過程で取捨選択され回路に組み込まれるという特徴的な発生の過程をたどる。}} | {{box|text= 高次機能を司る哺乳類大脳皮質神経の約2割を占める介在ニューロンは、神経伝達物質GABAを放出する抑制機構により神経活動伝播の局所的な調整、修飾や同期を行い脳波生成にも重要な役割を果たす。大脳皮質の各層に存在する介在ニューロンに認められる形態、軸索投射、分子発現ならびに電気生理活性など極めて多様な性質は発生発達過程において獲得される。介在ニューロンは投射ニューロンである錐体細胞のように皮質内で生まれるのではなく、遠く離れた大脳腹側の増殖細胞から産生され、あらゆる皮質領野まで長距離を移動し、最終目的地の皮質層に到着した後は、最終分化する過程で取捨選択され回路に組み込まれるという特徴的な発生の過程をたどる。}} | ||
[[ファイル:Miyoshi Interneuron.png|サムネイル| | [[ファイル:Miyoshi Interneuron.png|サムネイル|500px|'''図. 大脳皮質介在ニューロン発生の模式図'''<br><ref name=Miyoshi2013>'''Miyoshi, G., Machold, R.P., Fishell, G. (2013).'''<br>Specification of GABAergic Neocortical Interneurons. In: Cortical Development (Kageyama R, Yamamori T, eds), pp 89-126: Springer Japan.</ref> より改変]] | ||
==発生起源== | ==発生起源== | ||
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==皮質への大移動== | ==皮質への大移動== | ||
胎仔大脳腹側の増殖細胞から最終分裂し産生された未分化介在ニューロンは('''図左''')、内側基底核原基起源のものは尾側基底核原基内部<ref name=Butt2005><pubmed>16301176</pubmed></ref> や将来に[[線条体]]となる構造の内側を通過して背側にある皮質にたどりつく<ref name=Flames2004><pubmed>15473965</pubmed></ref> 。一方、尾側基底核原基起源のものの多くは後方へ遊走し直接皮質へと到達する<ref name=Kanatani2008><pubmed>19074032</pubmed></ref> 。 | 胎仔大脳腹側の増殖細胞から最終分裂し産生された未分化介在ニューロンは('''図左''')、内側基底核原基起源のものは尾側基底核原基内部<ref name=Butt2005><pubmed>16301176</pubmed></ref> や将来に[[線条体]]となる構造の内側を通過して背側にある皮質にたどりつく<ref name=Flames2004><pubmed>15473965</pubmed></ref> 。一方、尾側基底核原基起源のものの多くは後方へ遊走し直接皮質へと到達する<ref name=Kanatani2008><pubmed>19074032</pubmed></ref><ref name=Yozu2005><pubmed>16079409</pubmed></ref><ref><pubmed> 22639844</pubmed></ref>。 | ||
皮質では、構築途中である[[皮質板]](将来の皮質2-6層)の上([[辺縁帯]])と下([[中間帯]]と[[脳室下帯]])にある経路をまるで高速道路のように使って「[[接線方向移動]](tangential migration)」により皮質全域に拡散していく('''図上'''、胎生期)。大脳の内側外側(左右)のみならず吻尾(前後)方向へも大移動し、あらゆる皮質領野へと到達する<ref name=Tanaka2006><pubmed>16672340</pubmed></ref> 。 | 皮質では、構築途中である[[皮質板]](将来の皮質2-6層)の上([[辺縁帯]])と下([[中間帯]]と[[脳室下帯]])にある経路をまるで高速道路のように使って「[[接線方向移動]](tangential migration)」により皮質全域に拡散していく('''図上'''、胎生期)。大脳の内側外側(左右)のみならず吻尾(前後)方向へも大移動し、あらゆる皮質領野へと到達する<ref name=Tanaka2006><pubmed>16672340</pubmed></ref> 。 | ||
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皮質介在ニューロンの多様性を分類するには層位置、形態、[[軸索投射]]様式、分子発現、電気生理活性などの指標を統合的に理解する必要がある<ref name=Yuste2020><pubmed>32839617</pubmed></ref> 。介在ニューロンの特性と発生起源には密接な関係があり、おおまかには4種類が内側基底核原基と尾側基底核原基の2箇所からつくられると考えられている<ref name=Miyoshi2010><pubmed>20130169</pubmed></ref><ref name=Fishell2020><pubmed>31299170</pubmed></ref> ('''図右上'''、抑制回路)。 | 皮質介在ニューロンの多様性を分類するには層位置、形態、[[軸索投射]]様式、分子発現、電気生理活性などの指標を統合的に理解する必要がある<ref name=Yuste2020><pubmed>32839617</pubmed></ref> 。介在ニューロンの特性と発生起源には密接な関係があり、おおまかには4種類が内側基底核原基と尾側基底核原基の2箇所からつくられると考えられている<ref name=Miyoshi2010><pubmed>20130169</pubmed></ref><ref name=Fishell2020><pubmed>31299170</pubmed></ref> ('''図右上'''、抑制回路)。 | ||
皮質介在ニューロン全体の約7割を占める内側基底核原基起源では主に、4割の[[パルブアルブミン]] (Pvalb)陽性細胞と3割の[[ソマトスタチン]] (Sst)細胞に分類される。パルブアルブミン陽性細胞は主に細胞体付近を抑制する[[バスケット細胞]] | 皮質介在ニューロン全体の約7割を占める内側基底核原基起源では主に、4割の[[パルブアルブミン]] (Pvalb)陽性細胞と3割の[[ソマトスタチン]] (Sst)細胞に分類される。パルブアルブミン陽性細胞は主に細胞体付近を抑制する[[バスケット細胞]]('''図右上'''、赤)と[[軸索]]を抑制する[[シャンデリア細胞]]('''図右上'''、濃赤)<ref name=Taniguchi2013><pubmed>23180771</pubmed></ref> 、ソマトスタチン陽性細胞は主に[[尖端樹状突起]]を抑制する[[マルチノッチ細胞]]である('''図右上'''、橙)。 | ||
介在ニューロン全体の約3割である尾側基底核原基起源では、その約半分が[[リーリン]] ([[リーリン|Reln]])/[[Id2]]陽性細胞で残りは[[血管作動性腸管ペプチド]] ([[vasoactive intestinal peptide]], [[Vip]])陽性の2つに分類される<ref name=Miyoshi2010><pubmed>20130169</pubmed></ref><ref name=Miyoshi2015><pubmed>26377473</pubmed></ref> 。リーリン陽性細胞の多くは[[ニューログリアフォーム]]形態をもつ細胞で主に1層で[[拡散性伝達]](Volume transmission)による抑制を担い('''図右上'''、濃青)、Vip陽性細胞の多くは[[双極性細胞]]でありまた抑制細胞を抑制する脱抑制機能を果たす('''図右上'''、青)。 | 介在ニューロン全体の約3割である尾側基底核原基起源では、その約半分が[[リーリン]] ([[リーリン|Reln]])/[[Id2]]陽性細胞で残りは[[血管作動性腸管ペプチド]] ([[vasoactive intestinal peptide]], [[Vip]])陽性の2つに分類される<ref name=Miyoshi2010><pubmed>20130169</pubmed></ref><ref name=Miyoshi2015><pubmed>26377473</pubmed></ref> 。リーリン陽性細胞の多くは[[ニューログリアフォーム]]形態をもつ細胞で主に1層で[[拡散性伝達]](Volume transmission)による抑制を担い('''図右上'''、濃青)、Vip陽性細胞の多くは[[双極性細胞]]でありまた抑制細胞を抑制する脱抑制機能を果たす('''図右上'''、青)。 | ||
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単一細胞の運命を追跡するクローナル解析(バーコードタグをもつウイルスを胎仔増殖細胞に感染させる手法)では、内側基底核原基に在る1つの増殖細胞からパルブアルブミンとソマトスタチン陽性の両者が確認されており、大脳腹側の増殖細胞レベルで両者の運命が別れていることは否定されている<ref name=Harwell2015><pubmed>26299474</pubmed></ref><ref name=Mayer2015><pubmed>26299473</pubmed></ref> 。発生ステージごとに[[単一細胞RNAシークエンシング法]]を網羅的に実施し、得られた遺伝子発現の比較相関解析による[[細胞系譜]]の構築が盛んに行われている<ref name=Nowakowski2017><pubmed>29217575</pubmed></ref><ref name=Wagner2018><pubmed>29700229</pubmed></ref> 。介在ニューロン発生においても同様の試みがなされたが<ref name=Mayer2018><pubmed>29513653</pubmed></ref><ref name=Mi2018><pubmed>29472441</pubmed></ref> 、未だにパルブアルブミンとソマトスタチン、リーリンとVip系譜の分岐点は解明されていない。より密接した発生ステージを比較解析することで、詳細な細胞系譜が解明されることが期待される。 | 単一細胞の運命を追跡するクローナル解析(バーコードタグをもつウイルスを胎仔増殖細胞に感染させる手法)では、内側基底核原基に在る1つの増殖細胞からパルブアルブミンとソマトスタチン陽性の両者が確認されており、大脳腹側の増殖細胞レベルで両者の運命が別れていることは否定されている<ref name=Harwell2015><pubmed>26299474</pubmed></ref><ref name=Mayer2015><pubmed>26299473</pubmed></ref> 。発生ステージごとに[[単一細胞RNAシークエンシング法]]を網羅的に実施し、得られた遺伝子発現の比較相関解析による[[細胞系譜]]の構築が盛んに行われている<ref name=Nowakowski2017><pubmed>29217575</pubmed></ref><ref name=Wagner2018><pubmed>29700229</pubmed></ref> 。介在ニューロン発生においても同様の試みがなされたが<ref name=Mayer2018><pubmed>29513653</pubmed></ref><ref name=Mi2018><pubmed>29472441</pubmed></ref> 、未だにパルブアルブミンとソマトスタチン、リーリンとVip系譜の分岐点は解明されていない。より密接した発生ステージを比較解析することで、詳細な細胞系譜が解明されることが期待される。 | ||
== | ==皮質介在ニューロン発生の分子制御機構== | ||
[[ホメオドメイン]][[転写因子]][[Dlx]]、[[Arx]]や[[Zeb2]]は未分化介在ニューロンの移動を制御する。中でも[[Dlx1]]/[[Dlx2|2]]ダブル[[ノックアウトマウス]]では皮質に到達するGABA細胞が見られないことを利用し、介在ニューロンの起源が大脳腹側がであることが解明された<ref name=Anderson1997><pubmed>9334308</pubmed></ref> 。内側基底核原基起源の介在ニューロンの分化発生は、Nkx2-1>[[Lhx6]]>[[Sox6]]/[[Satb1]]という転写因子カスケードにより制御されることが示されている<ref name=Sussel1999><pubmed>10393115</pubmed></ref><ref name=Azim2009><pubmed>19657336</pubmed></ref><ref name=Batista-Brito2009><pubmed>19709629</pubmed></ref><ref name=Close2012><pubmed>23223290</pubmed></ref><ref name=Denaxa2012><pubmed>23142661</pubmed></ref><ref name=Liodis2007><pubmed>17376969</pubmed></ref><ref name=Butt2008><pubmed>18786356</pubmed></ref> 。一方、尾側基底核原基起源の介在ニューロンに特異的な分子制御プログラムは[[Prox1]]転写因子しか現在同定されていない<ref name=Miyoshi2015><pubmed>26377473</pubmed></ref> 。さらには、パルブアルブミンとソマトスタチン、リーリンとVip系譜の分岐を制御するような因子も現在のところ報告されていない。 | [[ホメオドメイン]][[転写因子]][[Dlx]]、[[Arx]]や[[Zeb2]]は未分化介在ニューロンの移動を制御する。中でも[[Dlx1]]/[[Dlx2|2]]ダブル[[ノックアウトマウス]]では皮質に到達するGABA細胞が見られないことを利用し、介在ニューロンの起源が大脳腹側がであることが解明された<ref name=Anderson1997><pubmed>9334308</pubmed></ref> 。内側基底核原基起源の介在ニューロンの分化発生は、Nkx2-1>[[Lhx6]]>[[Sox6]]/[[Satb1]]という転写因子カスケードにより制御されることが示されている<ref name=Sussel1999><pubmed>10393115</pubmed></ref><ref name=Azim2009><pubmed>19657336</pubmed></ref><ref name=Batista-Brito2009><pubmed>19709629</pubmed></ref><ref name=Close2012><pubmed>23223290</pubmed></ref><ref name=Denaxa2012><pubmed>23142661</pubmed></ref><ref name=Liodis2007><pubmed>17376969</pubmed></ref><ref name=Butt2008><pubmed>18786356</pubmed></ref> 。一方、尾側基底核原基起源の介在ニューロンに特異的な分子制御プログラムは[[Prox1]]転写因子しか現在同定されていない<ref name=Miyoshi2015><pubmed>26377473</pubmed></ref> 。さらには、パルブアルブミンとソマトスタチン、リーリンとVip系譜の分岐を制御するような因子も現在のところ報告されていない。 | ||
==細胞移植を用いた介在ニューロン発生研究とその応用== | ==細胞移植を用いた介在ニューロン発生研究とその応用== | ||
細胞移植実験は発生機構を理解するための強力な手法であり、古典的には[[ニワトリ]]と[[ウズラ]] | 細胞移植実験は発生機構を理解するための強力な手法であり、古典的には[[ニワトリ]]と[[ウズラ]]という他種間の細胞と組織の組み合わせから、移植された細胞が移動し分化する機構が解析されてきた。皮質介在ニューロン発生研究においてもマウス遺伝学手法を組み合わせた細胞移植実験が多用されてきた歴史があり、起源である大脳腹側(内側基底核原基や尾側基底核原基)や蛍光ラベルされた移動中の皮質介在ニューロンを単離調製し、胎児や生後の特定脳部位へ細胞移植する実験が盛んに行われてきた。皮質介在ニューロンの発生起源、分子制御機構、細胞外環境の影響、細胞死などの多くが検証され解明されてきた<ref name=Miyoshi2019><pubmed>30227162</pubmed></ref> 。 | ||
皮質介在ニューロンは発生過程において長距離を移動し、GABA放出により細胞移動のみならず可塑性をも制御し、過剰に産生され不要なものが除去される特徴がみられる。この発生機構を応用し、胎仔大脳腹側から未分化介在ニューロンを単離調製し生後の皮質に移植すると、移植場所から周囲に拡散移動し、GABA放出により可塑性を生み出し局所回路に組み込まれ、抑制回路を形成しないものは消失することが知られている('''図下''')。 | |||
胎仔や[[胚性幹細胞]]([[ES細胞]])などから調製した未分化介在ニューロン移植による治療効果が多数報告されており、[[てんかん]]、[[パーキンソン病]]、[[慢性痛]]などの疾患モデルマウスにおいてその有用性が示されている<ref name=Southwell2014><pubmed>24723614</pubmed></ref> | 胎仔や[[胚性幹細胞]]([[ES細胞]])などから調製した未分化介在ニューロン移植による治療効果が多数報告されており、[[てんかん]]、[[パーキンソン病]]、[[慢性痛]]などの疾患モデルマウスにおいてその有用性が示されている<ref name=Southwell2014><pubmed>24723614</pubmed></ref> 。今後も皮質介在ニューロン発生研究が進展することによって治療法開発に繋がる新たな知見が得られることが期待される。 | ||
==参考文献== | ==参考文献== |