「シナプス形成」の版間の差分

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===ステップ2:シナプス分化===
===ステップ2:シナプス分化===
次に、標的細胞と接触する軸索の一部分はシナプス小胞やアクティブゾーンを伴う[[シナプス前終末]]へと分化し(presynaptic differentiation)、軸索と接触した標的細胞では局所的に[[神経伝達物質受容体]]や細胞内足場が集積しシナプス後部へと分化する(postsynaptic differentiation)。シナプス前部とシナプス後部の特殊化は、軸索と標的細胞の間の相互作用で制御される。この細胞間相互作用についての多くの原理的知見は、運動神経細胞からの軸索が骨格筋線維上で作る巨大で単純なシナプスである[[神経筋接合部]](neuromuscular junction, NMJ)についての20世紀に行われた研究から得られてきた<ref><pubmed>10202544</pubmed></ref>。21世紀になって、小さく多様な中枢神経系でのシナプス形成や無脊椎動物モデル動物のシナプス形成についての分子的な理解が進んでいる<ref><pubmed>30359597</pubmed></ref>。本項目では、特にこのステップについて、原理的な観点から概観する。
次に、標的細胞と接触する軸索の一部分は[[シナプス小胞]]や[[アクティブゾーン]]を伴う[[シナプス前終末]]へと分化し(presynaptic differentiation)、軸索と接触した標的細胞では局所的に[[神経伝達物質受容体]]や細胞内足場が集積しシナプス後部へと分化する(postsynaptic differentiation)。シナプス前部とシナプス後部の特殊化は、軸索と標的細胞の間の相互作用で制御される。この細胞間相互作用についての多くの原理的知見は、運動神経細胞からの軸索が骨格筋線維上で作る巨大で単純なシナプスである[[神経筋接合部]](neuromuscular junction, NMJ)についての20世紀に行われた研究から得られてきた<ref><pubmed>10202544</pubmed></ref>。21世紀になって、小さく多様な中枢神経系でのシナプス形成や無脊椎動物モデル動物のシナプス形成についての分子的な理解が進んでいる<ref><pubmed>30359597</pubmed></ref>。本項目では、特にこのステップについて、原理的な観点から概説する。


===ステップ3:シナプス再編成===
===ステップ3:シナプス再編成===
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==神経筋接合部におけるシナプス形成==
==神経筋接合部におけるシナプス形成==
脊髄動物の神経筋接合部は、脊髄にある運動神経細胞から伸長した軸索終末、筋線維、[[シュワン細胞]]の3つの細胞要素からなり、それぞれ神経筋接合部で特徴的に分化している(図1A)。シナプス形成は、運動神経の軸索が、軸索ガイダンスを経て、発生中の筋線維に接近して開始される。[[成長円錐]]が神経終末に変化し始めると、神経終末と反対側の筋表面の一部が特殊化し始める。発生が進むと、[[シナプス間隙]](synaptic cleft)を介したシナプス前部とシナプス後部の構造的な特徴が明確になり、最終的に筋線維表面の1000分の1の面積を占める成熟した神経筋接合部となる(図1A)。このように、シナプス前部は、シナプス後部と同じ場所で配向し、シナプス前部では、シナプス小胞、アクティブゾーンなど神経伝達物質(アセチルコリン)の分泌装置や電位依存性カルシウムチャネルなどが集積する。一方、シナプス後部では、効率的なシナプス伝達のために、神経伝達物質受容体(アセチルコリンレセプター)とシグナル伝達装置や足場構造が集合する<ref><pubmed>10202544</pubmed></ref><ref><pubmed>25493308</pubmed></ref><ref><pubmed>29415504</pubmed></ref><ref><pubmed>29195055</pubmed></ref>。
脊髄動物の神経筋接合部は、脊髄にある運動神経細胞から伸長した軸索終末(シナプス前終末)、筋線維、[[シュワン細胞]]の3つの細胞要素からなり、それぞれ神経筋接合部で特徴的に分化している(図1A)。シナプス形成は、運動神経の軸索が、軸索ガイダンスを経て、発生中の筋線維に接近して開始される。[[成長円錐]]が神経終末に変化し始めると、神経終末と反対側の筋表面の一部が特殊化し始める。発生が進むと、[[シナプス間隙]](synaptic cleft)を介したシナプス前部とシナプス後部の構造的な特徴が明確になり、最終的に筋線維表面のわずか1000分の1の面積を占める成熟した神経筋接合部となる(図1A)。このように、シナプス前部は、シナプス後部と同じ場所で配向し、シナプス前部では、シナプス小胞、アクティブゾーンなど神経伝達物質(アセチルコリン)の分泌装置や[[電位依存性カルシウムチャネル]]などが集積する。一方、シナプス後部では、効率的なシナプス伝達のために、神経伝達物質受容体(アセチルコリンレセプター)とシグナル伝達装置や足場構造が集合する<ref><pubmed>10202544</pubmed></ref><ref><pubmed>25493308</pubmed></ref><ref><pubmed>29415504</pubmed></ref><ref><pubmed>29195055</pubmed></ref>。
[[ファイル:Fig1-SF.jpg|サムネイル|250px|'''図1 神経筋接合部と中枢シナプスのシナプス形成
[[ファイル:Fig1-SF.jpg|サムネイル|250px|'''図1 神経筋接合部と中枢シナプスのシナプス形成
A. 脊椎動物の神経筋接合部。運動神経細胞から伸長した軸索末端が多核の筋線維に接触することで、情報交換が始まる。シナプス前部ではシナプス小胞が集積し、シナプス後部では神経伝達物質受容体であるニコチン性アセチルコリンレセプターが集まり始める。成熟した神経筋接合部ではシナプス前部にはシナプス小胞、アクティブゾーンが形成される。シナプス間隙には、シナプス領域で特化したシナプス基底膜が存在し、そこには、アセチルコリンエステラーゼに加え、アグリンやβ2ラミニンなどのシナプスオーガナイザー活性を持つ分子も局在する。シナプス後部には、アセチルコリンレセプターが集積し、Rapsynなどの足場分子やMuSK, Lrp4などのシグナル分子も集まる。シナプス直下では、核も特殊化しており、アセチルコリンレセプター遺伝子を強く発現している(本文参考)。Sanes & Lichtman (1999) <ref><pubmed>10202544</pubmed></ref>などを参考にした。
A. 脊椎動物の神経筋接合部。運動神経細胞から伸長した軸索末端が多核の筋線維に接触することで、情報交換が始まる。シナプス前部ではシナプス小胞が集積し、シナプス後部では神経伝達物質受容体であるニコチン性アセチルコリンレセプターが集まり始める。成熟した神経筋接合部ではシナプス前部にはシナプス小胞、アクティブゾーンが形成される。シナプス間隙には、シナプス領域で特化したシナプス基底膜が存在し、そこには、アセチルコリンエステラーゼに加え、アグリンやβ2ラミニンなどのシナプスオーガナイザー活性を持つ分子も局在する。シナプス後部には、アセチルコリンレセプターが集積し、Rapsynなどの足場分子やMuSK, Lrp4などのシグナル分子も集まる。シナプスの直下では、核も特殊化しており、アセチルコリンレセプター遺伝子を強く発現している(本文参考)。Sanes & Lichtman (1999) <ref><pubmed>10202544</pubmed></ref>などを参考にした。
B. 中枢シナプス形成。Vaughn (1989) <ref><pubmed>2655146</pubmed></ref>の形態学的モデルをもとに、神経筋接合部のシナプス形成と対比させた。ここでも、シナプス前部と後部の情報交換により、シナプス分化が開始される。中枢シナプスのシナプス間隙には神経筋接合部とは異なり、基底膜は存在せず、前部と後部の直接的な接着が相互作用の中心であり、シナプス小胞や神経伝達物質受容体が、前部と後部にそれぞれ集積する。興奮性シナプスでは顕著なシナプス後肥厚が形成される。
B. 中枢シナプス形成。Vaughn (1989) <ref><pubmed>2655146</pubmed></ref>の形態学的モデルをもとに、神経筋接合部のシナプス形成と対比させた。ここでも、シナプス前部と後部の情報交換により、シナプス分化が開始される。中枢シナプスのシナプス間隙には神経筋接合部とは異なり、基底膜は存在せず、前部と後部の直接的な接着が相互作用の中心であり、シナプス小胞や神経伝達物質受容体が、前部と後部にそれぞれ集積する。興奮性シナプスでは顕著なシナプス後肥厚が形成される。]]
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===シナプスオーガナイザー===
===シナプスオーガナイザー===
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===シナプス前部の分化===
===シナプス前部の分化===
シナプス前部の分化に関わる分子として同定されたものには、神経筋接合部特異的ラミニンのアイソフォームがある。再生神経の軸索が筋線維に到達すると、基底膜に最初に接触する。この際、筋線維を死滅させ、基底膜をカラのように残したままでも、再生神経は正確に元の神経筋接合部の基底膜上でシナプス前部の分化を起こした<ref><pubmed>307554</pubmed></ref>。つまり、神経筋接合部のシナプス基底膜には、シナプス前部の分化を指示する因子があると想定され、その後、そのような分子が同定されている。最もよく研究されているのは、細胞外マトリックス分子ラミニンのアイソフォームである。ラミニンはすべての基底膜の構成分子であり、ラミニンは、α鎖、β鎖、γ鎖のヘテロ3量体であり、少なくとも5本のα鎖、4本のβ鎖、3本のγ鎖のファミリーからなっている。筋線維は複数のラミニンアイソフォームを合成し基底膜に取り込む。シナプス外の通常の筋基底膜にはβ1鎖を含むラミニンが存在するが、神経筋接合部のシナプス間隙の基底膜にはβ2鎖を持つアイソフォームが見られる<ref><pubmed>2922051</pubmed></ref>。in vitroでは、β2ラミニンに運動神経の軸索が接触すると伸長を停止し、シナプス小胞を蓄積し、神経伝達物質を放出するようになる。β2ラミニンを欠く変異マウスでは、シナプス前終末およびシュワン細胞の発達に異常が生じる<ref><pubmed>7885444</pubmed></ref>。
シナプス前部の分化に関わる分子として同定されたものには、神経筋接合部特異的ラミニンのアイソフォームがある。再生神経の軸索が筋線維に到達すると、基底膜に最初に接触する。この際、筋線維を死滅させ、基底膜を抜け殻のように残したままでも、再生神経は正確に元の神経筋接合部の基底膜上でシナプス前部の分化を起こした<ref><pubmed>307554</pubmed></ref>。つまり、神経筋接合部のシナプス基底膜には、シナプス前部の分化を指示する因子があると想定され、その後、そのような分子が同定されている。最もよく研究されているのは、細胞外マトリックス分子ラミニンのアイソフォームである。ラミニンはすべての基底膜の構成分子であり、ラミニンは、α鎖、β鎖、γ鎖のヘテロ3量体であり、少なくとも5本のα鎖、4本のβ鎖、3本のγ鎖のファミリーからなっている。筋線維は複数のラミニンアイソフォームを合成し基底膜に取り込む。シナプス外の通常の筋基底膜にはβ1鎖を含むラミニンが存在するが、神経筋接合部のシナプス間隙の基底膜にはβ2鎖を持つアイソフォームが見られる<ref><pubmed>2922051</pubmed></ref>。in vitroでは、β2ラミニンに運動神経の軸索が接触すると伸長を停止し、シナプス小胞を蓄積し、神経伝達物質を放出するようになる。β2ラミニンを欠く変異マウスでは、シナプス前終末およびシュワン細胞の発達に異常が生じる<ref><pubmed>7885444</pubmed></ref>。
 
===シナプス核===
===シナプス核===
中枢シナプスと違う神経筋接合部の際立った特徴は、筋線維は多数の細胞が融合した[[多核細胞]](syncytial muscle; multinucleated muscle)となっており、神経筋接合部の直下にはシナプス核(synaptic nucleus)と呼ばれる特化した細胞核が存在することである<ref><pubmed>11498047</pubmed></ref>(図1A)。シナプス核ではアセチルコリンレセプター遺伝子の転写が強く、シナプスから離れた核では転写が低く、アセチルコリンレセプターmRNAを局在化させ、神経筋接合部の近辺でアセチルコリンレセプターが集まる要因にもなっている。これは、神経が、アセチルコリンを使って、アセチルコリンレセプター遺伝子のシナプス外での発現を抑制すると同時に、軸索から放出されるニューレギュリン(neuregulin, ARIA = Acetylcholine Receptor Inducing Activityとも呼ばれた)が、アセチルコリンレセプター遺伝子の転写活性化につながるシグナリング分子となっている<ref><pubmed>9056721</pubmed></ref>。また、発生途中では、アセチルコリンレセプターの組成も変化する。幼若期に特有なδサブユニット遺伝子からε遺伝子への発現の変換がおこる<ref><pubmed>2423878</pubmed></ref>。生体で見られる発生初期のアセチルコリンレセプターのクラスターは単純なプラーク型であるが、最終的には複雑なプレッツェル型になり、神経筋接合部のひだも形成され、シナプス前終末もそれに対応して成熟する<ref><pubmed>15034266</pubmed></ref>。
中枢シナプスと違う神経筋接合部の際立った特徴は、筋線維は多数の細胞が融合した[[多核細胞]](syncytial muscle; multinucleated muscle)となっており、神経筋接合部の直下にはシナプス核(synaptic nucleus)と呼ばれる特化した細胞核が存在することである<ref><pubmed>11498047</pubmed></ref>(図1A)。シナプス核ではアセチルコリンレセプター遺伝子の転写が強く、シナプスから離れた核では転写が低く、アセチルコリンレセプターmRNAを局在化させ、神経筋接合部の近辺でアセチルコリンレセプターが集まる要因にもなっている。これは、神経が、アセチルコリンを使って、アセチルコリンレセプター遺伝子のシナプス外での発現を抑制すると同時に、軸索から放出されるニューレギュリン(neuregulin, ARIA = Acetylcholine Receptor Inducing Activityとも呼ばれた)が、アセチルコリンレセプター遺伝子の転写活性化につながるシグナリング分子となっている<ref><pubmed>9056721</pubmed></ref>。また、発生途中では、アセチルコリンレセプターの組成も変化する。幼若期に特有なδサブユニット遺伝子からε遺伝子への発現の変換がおこる<ref><pubmed>2423878</pubmed></ref>。生体で見られる発生初期のアセチルコリンレセプターのクラスターは単純なプラーク型であるが、最終的には複雑なプレッツェル型になり、神経筋接合部のひだも形成され、シナプス前終末もそれに対応して成熟する<ref><pubmed>15034266</pubmed></ref>。
==中枢神経系のシナプス形成==
==中枢神経系のシナプス形成==
中枢神経系のシナプスの形成も神経筋接合部のシナプス形成と類似した点が多い。シナプス前部とシナプス後部の間の相互作用は、予め合成されたシナプス構成要素の位置を制御し合うことで、お互いの分化を制御しシナプスを形成する<ref><pubmed>2655146</pubmed></ref><ref><pubmed>14556707</pubmed></ref><ref><pubmed>17417940</pubmed></ref><ref><pubmed>27462810</pubmed></ref><ref><pubmed>29096080</pubmed></ref><ref><pubmed>30359597</pubmed></ref>。中枢シナプスでも、神経筋接合部と同じように、神経伝達物質の受容体がシナプス後膜に集中しているし<ref><pubmed>22046028</pubmed></ref>、シナプス前部におけるシナプス小胞の分子的な成り立ちや蓄積も基本的に同じであるように見える<ref><pubmed>22794257</pubmed></ref>(図1B)。しかし、中枢シナプスの後部は、神経伝達物質受容体の分子種も異なり、その足場となる分子種も神経筋接合部とは大きく異なっている。特に、神経筋接合部では基底膜という細胞外マトリックスであったシナプス間隙(約50nm)の様相は中枢シナプスでは全く異なり、典型的な細胞外マトリックスは存在しない。中枢シナプスでは、約20nmのシナプス間隙で直接接触するシナプス前膜とシナプス後膜の間に存在する細胞間接着がその相互作用の中心であると考えられている<ref><pubmed>14519398</pubmed></ref><ref><pubmed>22278667</pubmed></ref><ref><pubmed>20832286</pubmed></ref><ref><pubmed>30359597</pubmed></ref><ref><pubmed>32359437</pubmed></ref>(図1B)。
中枢神経系のシナプスの形成も神経筋接合部のシナプス形成と類似した点が多い。シナプス前部とシナプス後部の間の相互作用は、予め合成されたシナプス構成要素の位置を制御し合うことで、お互いの分化を制御しシナプスを形成する<ref><pubmed>2655146</pubmed></ref><ref><pubmed>14556707</pubmed></ref><ref><pubmed>17417940</pubmed></ref><ref><pubmed>27462810</pubmed></ref><ref><pubmed>29096080</pubmed></ref><ref><pubmed>30359597</pubmed></ref>。中枢シナプスでも、神経筋接合部と同じように、神経伝達物質の受容体がシナプス後膜に集中しているし<ref><pubmed>22046028</pubmed></ref>、シナプス前部におけるシナプス小胞の分子的な成り立ちや蓄積も基本的に同じであるように見える<ref><pubmed>22794257</pubmed></ref>(図1B)。しかし、中枢シナプスの後部は、神経伝達物質受容体の分子種も異なり、その足場となる分子種も神経筋接合部とは大きく異なっている。特に、神経筋接合部では基底膜という細胞外マトリックスであったシナプス間隙(約50nm)の様相は中枢シナプスでは全く異なり、典型的な細胞外マトリックスは存在しない。中枢シナプスでは、約20nmのシナプス間隙で直接接触するシナプス前膜とシナプス後膜の間に存在する細胞間接着がその相互作用の中心であると考えられている<ref><pubmed>14519398</pubmed></ref><ref><pubmed>22278667</pubmed></ref><ref><pubmed>20832286</pubmed></ref><ref><pubmed>30359597</pubmed></ref><ref><pubmed>32359437</pubmed></ref>(図1B)。
===中枢シナプス形成のオーガナイザー===
===中枢シナプス形成のオーガナイザー===
シナプス前部とシナプス後部をつなぐ細胞接着分子は多数ある([[シナプス接着因子]]の項参考)。それらを代表するものの1つは、シナプス後部の膜に存在するタンパク質であるニューロリギン(neuroligin)である。それに対応するシナプス前膜上の主要なリガンドはニューレキシン(neurexin)である。細胞表面のニューロリギンが、軸索上にシナプス小胞を集積させる能力は、ニューロリギンを強制発現する非神経細胞の上で、神経細胞を培養するin vitroアッセイ系を用いることによって初めて明らかになった<ref><pubmed>10892652</pubmed></ref>(図2B)。しかし、in vitroアッセイ系で見られるニューロリギンなどのシナプス接着分子の作用には、非神経細胞上にデフォールトで発現しているカドヘリンのような別の接着分子の存在が前提になるようである<ref><pubmed>29760652</pubmed></ref>。また、RIM、RIM-BP、liprin、Munc13、ELKSを含むいくつかのタンパク質ファミリーが、シナプス前部の重要な足場分子として同定されており<ref><pubmed>22794257</pubmed></ref>、シナプス前部表面のLAR-RPTPs(受容体型膜貫通チロシンホスファターゼ)を通じてアクティブゾーンを形成に預かる<ref><pubmed>23916315</pubmed></ref>。
シナプス前部とシナプス後部をつなぐ細胞接着分子は多数ある([[シナプス接着因子]]の項参考)。それらを代表するものの1つは、シナプス後部の膜に存在するタンパク質であるニューロリギン(neuroligin)である。それに対応するシナプス前膜上の主要なリガンドはニューレキシン(neurexin)である。細胞表面のニューロリギンが、軸索上にシナプス小胞を集積させる能力は、ニューロリギンを強制発現する非神経細胞の上で、神経細胞を培養するin vitroアッセイ系を用いることによって初めて明らかになった<ref><pubmed>10892652</pubmed></ref>(図2B)。しかし、in vitroアッセイ系で見られるニューロリギンなどのシナプス接着分子の作用には、非神経細胞上にデフォールトで発現しているカドヘリンのような別の接着分子の存在が前提になるようである<ref><pubmed>29760652</pubmed></ref>。また、RIM、RIM-BP、liprin、Munc13、ELKSを含むいくつかのタンパク質ファミリーが、シナプス前部の重要な足場分子として同定されており<ref><pubmed>22794257</pubmed></ref>、シナプス前部表面のLAR-RPTPs(受容体型膜貫通チロシンホスファターゼ)を通じてアクティブゾーンを形成に預かる<ref><pubmed>23916315</pubmed></ref>。
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中枢神経系の神経細胞の周りには、シナプス部位を囲むようにペリニューロナルネット(perineuronal nets)と呼ばれるプロテオグリカンやヒアルロナンなどを構成要素とする細胞外マトリックスが存在しており、臨界期などでのシナプス形成の制御にも関わっていると考えられている<ref><pubmed>27911749</pubmed></ref><ref><pubmed>31263252</pubmed></ref>。
中枢神経系の神経細胞の周りには、シナプス部位を囲むようにペリニューロナルネット(perineuronal nets)と呼ばれるプロテオグリカンやヒアルロナンなどを構成要素とする細胞外マトリックスが存在しており、臨界期などでのシナプス形成の制御にも関わっていると考えられている<ref><pubmed>27911749</pubmed></ref><ref><pubmed>31263252</pubmed></ref>。


==シナプス形成におけるグリア細胞の役割==
==シナプス形成におけるグリア細胞の役割==
これまでシナプス前部とシナプス後部の接点のみに焦点を当ててきたが、シナプス形成には第3の細胞要素であるグリア細胞も関与している<ref><pubmed>30309945</pubmed></ref><ref><pubmed>30347385</pubmed></ref>。シュワン細胞は神経筋接合部のグリア細胞であり、[[アストロサイト]]は中枢シナプスのグリア細胞である。シュワン細胞がシナプス形成や維持に与える影響については、シュワン細胞を除去した動物での神経筋接合部の異常から考察されている<ref><pubmed>27656017</pubmed></ref>。
これまでシナプス前部とシナプス後部の接点のみに焦点を当ててきたが、シナプス形成には第3の細胞要素であるグリア細胞も関与している<ref><pubmed>30309945</pubmed></ref><ref><pubmed>30347385</pubmed></ref>。シュワン細胞は神経筋接合部のグリア細胞であり、[[アストロサイト]]は中枢シナプスのグリア細胞である。シュワン細胞がシナプス形成や維持に与える影響については、シュワン細胞を除去した動物での神経筋接合部の異常から考察されている<ref><pubmed>27656017</pubmed></ref>。


グリア細胞の細胞表面にある分子と外部に分泌される分子の両方がシナプス形成に必要である。巨大な細胞外マトリックス分子であるトロンボスポンジン(thrombospondin) <ref><pubmed>15707899</pubmed></ref>、脂質であるコレステロール<ref><pubmed>12648780</pubmed></ref>、ヘビン(hevin) <ref><pubmed>21788491</pubmed></ref>などである。アストロサイトから分泌されるヘビンは、通常は相互作用しない細胞接着分子であるニューレキシンとニューロリギンの一部のアイソフォームを架橋することにより、シナプス形成を促進する<ref><pubmed>26771491</pubmed></ref>。アストロサイト上のグリピカン(glypican)は、シナプス前終末からAMPAレセプタークラスタリング因子ペントラキシン1(pentraxin1)の放出を誘発する<ref><pubmed>29024665</pubmed></ref><ref><pubmed>27986928</pubmed></ref>。また、シナプス形成に拮抗するSPARCなどのシナプスの負の調節因子も知られている<ref><pubmed>21788491</pubmed></ref>。またミクログリアは、シナプス刈り込みに関与することで、神経回路の再編に関与する<ref><pubmed>31283900</pubmed></ref>。  
グリア細胞の細胞表面にある分子と外部に分泌される分子の両方がシナプス形成に必要である。巨大な細胞外マトリックス分子であるトロンボスポンジン(thrombospondin) <ref><pubmed>15707899</pubmed></ref>、脂質であるコレステロール<ref><pubmed>12648780</pubmed></ref>、ヘビン(hevin) <ref><pubmed>21788491</pubmed></ref>などである。アストロサイトから分泌されるヘビンは、通常は相互作用しない細胞接着分子であるニューレキシンとニューロリギンの一部のアイソフォームを架橋することにより、シナプス形成を促進する<ref><pubmed>26771491</pubmed></ref>。アストロサイト上のグリピカン(glypican)は、シナプス前終末からAMPAレセプタークラスタリング因子ペントラキシン1(pentraxin1)の放出を誘発する<ref><pubmed>29024665</pubmed></ref><ref><pubmed>27986928</pubmed></ref>。また、シナプス形成に拮抗するSPARCなどのシナプスの負の調節因子も知られている<ref><pubmed>21788491</pubmed></ref>。また[[ミクログリア]]は、シナプス刈り込みに関与することで、神経回路の再編に関与する<ref><pubmed>31283900</pubmed></ref>。  
 
== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
*[[標的認識]]
*[[標的認識]]

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