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===動物種 === | ===動物種 === | ||
マウスにおけるiPS細胞の樹立が報告された翌年、ヒトiPS細胞の樹立が報告された<ref name="ref2"><pubmed> 18035408 </pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed> 18029452 </pubmed></ref>。その後、ラット、ウサギ、[[wikipedia:JA:ブタ|ブタ]]、[[wikipedia:JA:ウマ|ウマ]]、[[wikipedia:JA:ウシ|ウシ]]、[[wikipedia:JA:ヒツジ|ヒツジ]]、[[wikipedia:JA:イヌ|イヌ]]のほか、非ヒト霊長類である[[wikipedia:JA:マーモセット|マーモセット]]、[[wikipedia:JA:アカゲザル|アカゲザル]]、[[wikipedia:JA:カニクイザル|カニクイザル]]においてもiPS細胞が樹立されている。また、[[wikipedia:JA:絶滅危惧種|絶滅危惧種]]である[[wikipedia:JA:シロサイ|シロサイ]]や[[wikipedia:JA:マンドリル|マンドリル]]のiPS細胞樹立の報告もあり、希少な[[wikipedia:JA: | マウスにおけるiPS細胞の樹立が報告された翌年、ヒトiPS細胞の樹立が報告された<ref name="ref2"><pubmed> 18035408 </pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed> 18029452 </pubmed></ref>。その後、ラット、ウサギ、[[wikipedia:JA:ブタ|ブタ]]、[[wikipedia:JA:ウマ|ウマ]]、[[wikipedia:JA:ウシ|ウシ]]、[[wikipedia:JA:ヒツジ|ヒツジ]]、[[wikipedia:JA:イヌ|イヌ]]のほか、非ヒト霊長類である[[wikipedia:JA:マーモセット|マーモセット]]、[[wikipedia:JA:アカゲザル|アカゲザル]]、[[wikipedia:JA:カニクイザル|カニクイザル]]においてもiPS細胞が樹立されている。また、[[wikipedia:JA:絶滅危惧種|絶滅危惧種]]である[[wikipedia:JA:シロサイ|シロサイ]]や[[wikipedia:JA:マンドリル|マンドリル]]のiPS細胞樹立の報告もあり、希少な[[wikipedia:JA:遺伝資源|遺伝子資源]]の保存といった観点からも注目されている。 | ||
=== 細胞種 === | === 細胞種 === | ||
最初のマウスiPS細胞の樹立には胎仔の[[wikipedia:JA:線維芽細胞|線維芽細胞]]および成体の尾線維芽細胞が、最初のヒトiPS細胞の樹立には胎児、新生児、成人の線維芽細胞が用いられた。その後、[[wikipedia:JA:胃|胃]]上皮細胞、[[wikipedia:JA: | 最初のマウスiPS細胞の樹立には胎仔の[[wikipedia:JA:線維芽細胞|線維芽細胞]]および成体の尾線維芽細胞が、最初のヒトiPS細胞の樹立には胎児、新生児、成人の線維芽細胞が用いられた。その後、[[wikipedia:JA:胃|胃]]上皮細胞、[[wikipedia:JA:肝細胞|肝実質細胞]]、[[wikipedia:Keratinocyte|ケラチノサイト]]、[[wikipedia:Hair_follicle#Papilla|毛乳頭]]細胞、[[wikipedia:JA:色素細胞|色素細胞]]、[[wikipedia:JA:血管内皮|血管内皮]]細胞、血液細胞、[[wikipedia:JA:羊膜|羊膜]]細胞、[[神経幹細胞]]、[[wikipedia:JA:歯髄|歯髄]]幹細胞、[[wikipedia:JA:脂肪幹細胞移植|脂肪幹細胞]]、[[wikipedia:JA:間葉系幹細胞|間葉系幹細胞]]等、多様な細胞種からの樹立が相次いで報告されている。 | ||
=== 遺伝子導入方法 === | === 遺伝子導入方法 === | ||
当初、遺伝子導入の[[wikipedia:JA:ベクター|ベクター]]として[[wikipedia:JA:レトロウイルス|レトロウイルス]]や[[wikipedia:JA:レンチウイルス|レンチウイルス]]が利用された。しかし、どちらのウイルスも導入細胞の[[wikipedia:JA:ゲノム|ゲノム]]DNAに組み込まれることから、挿入変異や近傍の遺伝子の発現に及ぼす影響等、予期しない異常が生じる危険性を包含している。また、レトロウイルスベクターは通常、多能性幹細胞において強力な発現抑制(サイレンシング)を受けるが、初期化レベルが低いiPS細胞では発現が持続していることや分化後も導入遺伝子の活性化が起こりうることから、細胞移植への応用には腫瘍形成といったリスクが伴う。そこで、iPS細胞樹立後に導入遺伝子を除去する手法として、[[wikipedia:Cre- | 当初、遺伝子導入の[[wikipedia:JA:ベクター|ベクター]]として[[wikipedia:JA:レトロウイルス|レトロウイルス]]や[[wikipedia:JA:レンチウイルス|レンチウイルス]]が利用された。しかし、どちらのウイルスも導入細胞の[[wikipedia:JA:ゲノム|ゲノム]]DNAに組み込まれることから、挿入変異や近傍の遺伝子の発現に及ぼす影響等、予期しない異常が生じる危険性を包含している。また、レトロウイルスベクターは通常、多能性幹細胞において強力な発現抑制(サイレンシング)を受けるが、初期化レベルが低いiPS細胞では発現が持続していることや分化後も導入遺伝子の活性化が起こりうることから、細胞移植への応用には腫瘍形成といったリスクが伴う。そこで、iPS細胞樹立後に導入遺伝子を除去する手法として、[[wikipedia:Cre-loxP部位特異的組換え|Cre-loxP]]システムの利用や[[wikipedia:JA:トランスポゾン|トランスポゾン]]の特性を利用したピギーバック(piggyBac)が開発された。一方、そもそもゲノムに組み込まれないベクターとして、[[wikipedia:JA:アデノウイルス|アデノウイルス]]や[[wikipedia:JA:センダイウイルス|センダイウイルス]]、[[wikipedia:JA:プラスミド|プラスミド]]DNAを用いた誘導法も利用されている。さらに、ベクターを介さずに直接、組換えタンパク質や合成RNA、[[wikipedia:miRNA|miRNA]]を導入するiPS細胞の作成についても報告がなされている。 | ||
=== 誘導因子 === | === 誘導因子 === | ||
前述の通り、最初のiPS細胞はOct4、Sox2、Klf4、c-Mycの4種類の遺伝子(山中4因子)を導入することによって作成されたが、間もなく、誘導効率は低下するもののc-Mycを除いたOct4、Sox2、Klf4のみ(山中3因子)によってもiPS細胞が樹立できることが示された。ヒトの場合もマウスと同じ遺伝子セットでiPS細胞の誘導が可能であるが<ref name="ref2" />、山中博士らとほぼ同時にヒトiPS細胞について報告したJames Thomson博士らはOCT4、SOX2、NANOG、[[wikipedia:LIN28|LIN28]]の組合せを用いている<ref name="ref3" />。最も広く用いられている遺伝子セットはプロトタイプである山中4因子であるが、神経幹細胞の場合はOct4単独の導入によってもiPS細胞が誘導しうるように、細胞種によっては少ない因子・異なる組合せでのiPS細胞誘導も可能である。また、iPS細胞の誘導効率や初期化レベルを向上させる要素として、[[wikipedia: | 前述の通り、最初のiPS細胞はOct4、Sox2、Klf4、c-Mycの4種類の遺伝子(山中4因子)を導入することによって作成されたが、間もなく、誘導効率は低下するもののc-Mycを除いたOct4、Sox2、Klf4のみ(山中3因子)によってもiPS細胞が樹立できることが示された。ヒトの場合もマウスと同じ遺伝子セットでiPS細胞の誘導が可能であるが<ref name="ref2" />、山中博士らとほぼ同時にヒトiPS細胞について報告したJames Thomson博士らはOCT4、SOX2、NANOG、[[wikipedia:LIN28|LIN28]]の組合せを用いている<ref name="ref3" />。最も広く用いられている遺伝子セットはプロトタイプである山中4因子であるが、神経幹細胞の場合はOct4単独の導入によってもiPS細胞が誘導しうるように、細胞種によっては少ない因子・異なる組合せでのiPS細胞誘導も可能である。また、iPS細胞の誘導効率や初期化レベルを向上させる要素として、[[wikipedia:Estrogen-related receptor beta|Esrrb]]、[[wikipedia:Liver receptor homolog-1|Nr5a2]]、[[wikipedia:Tbx3|Tbx3]]、[[wikipedia:MYCL1|L-Myc]]、[[wikipedia:GLIS family zinc finger 1|Glis1]]や[[wikipedia:miRNA|miRNA]]-290クラスター等の導入、および[[wikipedia:Ink4|Ink4]]/Arf、[[wikipedia:p53|p53]]、[[wikipedia:p21|p21]]、[[wikipedia:Bax|Bax]]の抑制等が報告されている。 | ||
一方、低分子化合物を併用したiPS細胞誘導についても多数の報告がある。ES細胞の自己複製を亢進・維持する化合物として[[wikipedia:Fibroblast growth factor receptor|FGF受容体]][[阻害剤]](SU5402)、[[wikipedia:MEK|MEK]]阻害剤(PD1843352またはPD0325901)、[[wikipedia:GSK3|GSK3]]阻害剤(CHIR99021)が知られており、3種の混合は「3i」、後者2種の混合は「2i」と俗称される。これらの阻害剤や[[wikipedia:TGF_beta_receptors|TGFβ受容体]]阻害剤(SB431542やA83-01)を添加することによって、iPS細胞の誘導効率の向上や選択が容易になるという報告例が示されている。また、エピジェネティック変化を促す化合物である[[wikipedia:JA:ヒストン脱アセチル化酵素|ヒストン脱アセチル化酵素]]阻害剤([[wikipedia:JA:バルプロ酸|バルプロ酸]]や[[wikipedia:JA:酪酸|酪酸]])、[[wikipedia:EHMT2|ヒストンリシン''N''-メチル転移酵素G9a]]阻害剤(BIX01294)、[[wikipedia:JA:DNAメチル化|DNAメチル化]]阻害剤([[wikipedia:Azacitidine|5-アザシチジン]]やRG108)等がiPS細胞誘導を促進することも報告されている。 | |||
== 特定の細胞系譜への分化誘導 == | == 特定の細胞系譜への分化誘導 == | ||
これまでにマウスおよびヒトiPS細胞から分化誘導が試みられた細胞系譜は多岐に亘る。例えば、神経系([[神経幹細胞]]、[[運動ニューロン]]等の各種ニューロン、[[アストロサイト]]、[[オリゴデンドロサイト]])、眼・耳([[網膜色素上皮細胞]]、[[視細胞]]、[[網膜神経節細胞]]、[[感覚有毛細胞]])、[[wikipedia:JA:表皮|表皮]](ケラチノサイト、[[wikipedia:JA:メラノサイト|メラノサイト]])、[[wikipedia:JA:血球系|血球系]]([[wikipedia:JA:造血幹細胞|造血幹細胞]]、[[wikipedia:JA:マクロファージ|マクロファージ]]、[[wikipedia:JA:樹状細胞|樹状細胞]]、[[wikipedia:JA:T細胞|T細胞]]、[[wikipedia:JA:ナチュラルキラーT細胞|ナチュラルキラーT細胞]]、[[wikipedia:JA:好中球|好中球]]、[[wikipedia:JA:巨核球|巨核球]]、[[wikipedia:JA:血小板|血小板]]、[[wikipedia:JA:赤血球|赤血球]])、心血管系([[wikipedia:JA:心筋細胞|心筋細胞]]、[[wikipedia:JA:心血|心血管]]、[[wikipedia:JA:血管内皮|血管内皮]]、[[wikipedia:JA:壁細胞|壁細胞]])、筋([[wikipedia:JA:骨格筋|骨格筋]]、[[wikipedia:JA:平滑筋|平滑筋]])、[[wikipedia:JA:骨|骨]]・[[wikipedia:JA:間葉系|間葉系]]([[wikipedia:JA:間葉系幹細胞|間葉系幹細胞]]、[[wikipedia:JA:造骨細胞|造骨細胞]]、[[wikipedia:JA:破骨細胞|破骨細胞]]、[[wikipedia:JA:軟骨|軟骨]]、[[wikipedia:JA:白色|白色]]・[[wikipedia:JA:褐色脂肪細胞|褐色脂肪細胞]])、歯([[wikipedia:JA:エナメル芽細胞|エナメル芽細胞]])、消化器系([[wikipedia:JA:肝芽細胞|肝芽細胞]]、[[wikipedia:JA:肝細胞|肝細胞]]、[[wikipedia:JA:後腎間充織|後腎間充織]]、[[wikipedia:JA:尿細管細胞|尿細管細胞]]、[[wikipedia:JA:腸管組織|腸管組織]]、[[wikipedia:JA:膵島細胞|膵島細胞]])、[[wikipedia:JA:生殖細胞|生殖細胞]]等が挙げられる。 | |||
== 医療応用の可能性 == | == 医療応用の可能性 == |