「レビー小体型認知症」の版間の差分

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Dementia with Lewy bodies
<div align="right"> 
<font size="+1">長濱康弘</font><br>
''医療法人花咲会かわさき記念病院''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2020年11月10日 原稿完成日:2020年XX月X日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446/ 漆谷 真](滋賀医科大学 脳神経内科)<br>
</div>


 
英語名:Dementia with Lewy bodies 独:Lewy-Körperchen-Demenz 仏:démence à corps de Lewy
医療法人花咲会かわさき記念病院 副院長
長濱康弘


{{box|text= レビー小体型認知症は初老期・老年期に発症する認知症疾患で、主要な臨床症状は認知機能低下、覚醒度変動、パーキンソニズム、精神症状(幻覚、誤認、妄想)、抑うつ、自律神経症状、REM睡眠行動異常症などである。病理学的にはα‐シヌクレインで構成されるレビー小体の出現を特徴とする。初期症状、前駆症状としてREM睡眠行動異常症、抑うつ、精神症状などが記憶障害の発症に先行する場合がある。認知障害、精神症状、身体症状に対する薬物治療は有効であるが、レビー小体型認知症では薬剤に対する過敏性があり副作用を生じやすい。予後はアルツハイマー病に比べると短い傾向がある。}}
{{box|text= レビー小体型認知症は初老期・老年期に発症する認知症疾患で、主要な臨床症状は認知機能低下、覚醒度変動、パーキンソニズム、精神症状(幻覚、誤認、妄想)、抑うつ、自律神経症状、REM睡眠行動異常症などである。病理学的にはα‐シヌクレインで構成されるレビー小体の出現を特徴とする。初期症状、前駆症状としてREM睡眠行動異常症、抑うつ、精神症状などが記憶障害の発症に先行する場合がある。認知障害、精神症状、身体症状に対する薬物治療は有効であるが、レビー小体型認知症では薬剤に対する過敏性があり副作用を生じやすい。予後はアルツハイマー病に比べると短い傾向がある。}}
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 レビー小体型認知症をLewy関連病理の出現部位によって分類すると、脳幹型、辺縁型(移行型)、びまん性新皮質型に分けられる<ref name=McKeith2005><pubmed>16237129</pubmed></ref> 2)。またレビー小体型認知症では多くの症例で様々な程度のアルツハイマー病病理を伴う。ただし典型的な老人班と神経原線維変化がみられるとは限らず、新皮質にアミロイド沈着は認めるが神経原線維変化を欠く症例もみられる。
 レビー小体型認知症をLewy関連病理の出現部位によって分類すると、脳幹型、辺縁型(移行型)、びまん性新皮質型に分けられる<ref name=McKeith2005><pubmed>16237129</pubmed></ref> 2)。またレビー小体型認知症では多くの症例で様々な程度のアルツハイマー病病理を伴う。ただし典型的な老人班と神経原線維変化がみられるとは限らず、新皮質にアミロイド沈着は認めるが神経原線維変化を欠く症例もみられる。


図1。レビー小体 (Wikipediaより引用)
[[ファイル:Lewy Koerperchen.JPG|サムネイル|'''図1. レビー小体'''<br>[https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Lewy_Koerperchen.JPG Wikipedia]より引用。]]


== 臨床診断基準 ==
== 臨床診断基準 ==
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== 鑑別診断 ==
== 鑑別診断 ==
 アルツハイマー病との鑑別では、幻視、パーキンソニズム、RBD、認知機能の変動のうち1つが明らかな場合、指標的バイオマーカーの検査を計画すると良い。特に認知症が軽症の時期から幻視が明らか、あるいはRBDがみられればレビー小体型認知症である可能性は高い。幻視の類縁症状である実体意識性、通過幻視などは本人に質問して初めて判明することも多い。幻視がなくても認知症が軽症のうちから人物誤認などの誤認症状がみられる場合、レビー小体型認知症を疑う根拠になるのでバイオマーカーによる鑑別を検討する。ただし中等度以上に認知症が進行するとアルツハイマー病でも誤認症状はみられるようになるので慎重な鑑別が必要になる。一方で妄想、興奮、意欲低下はアルツハイマー病, レビー小体型認知症いずれでも初期からみられ、非特異的な症状である。また幻聴は幻視に比べるとレビー小体型認知症への特異性は低く、初期アルツハイマー病でも高齢女性では幻聴、特に幻音楽は時々経験する。
 アルツハイマー病との鑑別では、幻視、パーキンソニズム、REM睡眠行動異常症、認知機能の変動のうち1つが明らかな場合、指標的バイオマーカーの検査を計画すると良い。特に認知症が軽症の時期から幻視が明らか、あるいはREM睡眠行動異常症がみられればレビー小体型認知症である可能性は高い。幻視の類縁症状である実体意識性、通過幻視などは本人に質問して初めて判明することも多い。幻視がなくても認知症が軽症のうちから人物誤認などの誤認症状がみられる場合、レビー小体型認知症を疑う根拠になるのでバイオマーカーによる鑑別を検討する。ただし中等度以上に認知症が進行するとアルツハイマー病でも誤認症状はみられるようになるので慎重な鑑別が必要になる。一方で妄想、興奮、意欲低下はアルツハイマー病, レビー小体型認知症いずれでも初期からみられ、非特異的な症状である。また幻聴は幻視に比べるとレビー小体型認知症への特異性は低く、初期アルツハイマー病でも高齢女性では幻聴、特に幻音楽は時々経験する。


 幻視はないが筋強剛、寡動が主体の非定型パーキンソニズムと認知症がみられる場合、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核症候群、多系統萎縮症などの鑑別が必要である。これらの疾患との鑑別にはMIBG心筋シンチグラフィーが有用である。筋強剛はないがすり足歩行、小股歩行がみられ認知症を呈する場合には正常圧水頭症、皮質下型血管性認知症が鑑別に挙がる。これらの疾患との鑑別には頭部MRI、脳血流SPECTが有用である。
 幻視はないが筋強剛、寡動が主体の非定型パーキンソニズムと認知症がみられる場合、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核症候群、多系統萎縮症などの鑑別が必要である。これらの疾患との鑑別にはMIBG心筋シンチグラフィーが有用である。筋強剛はないがすり足歩行、小股歩行がみられ認知症を呈する場合には正常圧水頭症、皮質下型血管性認知症が鑑別に挙がる。これらの疾患との鑑別には頭部MRI、脳血流SPECTが有用である。
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 レビー小体型認知症で最も多い精神症状は有形幻視である。人物幻視が最も多く、次いで小動物や虫の幻視が多い。非生物の幻視は火や水に関連した幻視が多くみられる。
 レビー小体型認知症で最も多い精神症状は有形幻視である。人物幻視が最も多く、次いで小動物や虫の幻視が多い。非生物の幻視は火や水に関連した幻視が多くみられる。
==== REM睡眠行動異常症 ====
==== REM睡眠行動異常症 ====
 REM睡眠行動異常症(Rapid Eye Movement sleep behavior disorder)は、骨格筋緊張の抑制を欠く異常なREM睡眠(REM sleep without atonia, RWA)を生じるため夢の精神活動が行動に表出され、大声での寝言、叫び、手足の激しい動きなどの異常行動がみられる<ref name=Chan2018><pubmed>30018672</pubmed></ref> 5)。認知症症状や運動障害に年単位で先行することも多く、時には10数年も先行することがある。
 REM睡眠行動異常症(Rapid Eye Movement sleep behavior disorder, RBD)は、骨格筋緊張の抑制を欠く異常なREM睡眠(REM sleep without atonia, RWA)を生じるため夢の精神活動が行動に表出され、大声での寝言、叫び、手足の激しい動きなどの異常行動がみられる<ref name=Chan2018><pubmed>30018672</pubmed></ref> 5)。認知症症状や運動障害に年単位で先行することも多く、時には10数年も先行することがある。
==== 特発性パーキンソニズム ====
==== 特発性パーキンソニズム ====
 パーキンソニズムはレビー小体型認知症に必須ではなく、ほとんどみられない場合もある。レビー小体型認知症のパーキンソニズムはパーキンソン病に比べると固縮と寡動、歩行障害が主体で振戦は少なく、左右差も少ない。またアルツハイマー病に比べるとレビー小体型認知症患者は有意に転倒し易い。レビー小体型認知症の易転倒性は診断の一助としての有用性のみならず、大腿骨骨折や脊椎圧迫骨折を生じて寝たきりになり易い、という危険があるため家族指導及びケア・マネジメントにおいても極めて重要な特徴である。
 パーキンソニズムはレビー小体型認知症に必須ではなく、ほとんどみられない場合もある。レビー小体型認知症のパーキンソニズムはパーキンソン病に比べると固縮と寡動、歩行障害が主体で振戦は少なく、左右差も少ない。またアルツハイマー病に比べるとレビー小体型認知症患者は有意に転倒し易い。レビー小体型認知症の易転倒性は診断の一助としての有用性のみならず、大腿骨骨折や脊椎圧迫骨折を生じて寝たきりになり易い、という危険があるため家族指導及びケア・マネジメントにおいても極めて重要な特徴である。
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 <sup>123</sup>I-meta-iodobenzylguanidine (MIBG)心筋シンチグラフィーは心臓交感神経機能評価の指標であるが、レビー小体型認知症およびパーキンソン病で高率に取り込み低下がみられるので、アルツハイマー病や他のパーキンソン関連疾患との鑑別を目的に用いられる(図2)。ただし全例で低下するわけではなく、アルツハイマー病との鑑別能は感度69%、特異度87%である<ref name=Yoshita2015><pubmed>25793585</pubmed></ref> 6)。MIBGの心筋への取り込みは虚血性心疾患や慢性心不全の合併、糖尿病、薬剤(三環系抗うつ薬など)の影響などでも低下するので注意を要する。
 <sup>123</sup>I-meta-iodobenzylguanidine (MIBG)心筋シンチグラフィーは心臓交感神経機能評価の指標であるが、レビー小体型認知症およびパーキンソン病で高率に取り込み低下がみられるので、アルツハイマー病や他のパーキンソン関連疾患との鑑別を目的に用いられる(図2)。ただし全例で低下するわけではなく、アルツハイマー病との鑑別能は感度69%、特異度87%である<ref name=Yoshita2015><pubmed>25793585</pubmed></ref> 6)。MIBGの心筋への取り込みは虚血性心疾患や慢性心不全の合併、糖尿病、薬剤(三環系抗うつ薬など)の影響などでも低下するので注意を要する。


図2。レビー小体型認知症でみられるMIBG心筋シンチグラフィー取り込み低下
[[ファイル:Nagahama Dementia with Lewie Bodies Fig2.jpg|サムネイル|'''図2. レビー小体型認知症でみられるMIBG心筋シンチグラフィー取り込み低下''']]


==== 睡眠ポリグラフ ====
==== 睡眠ポリグラフ ====
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 抑うつ症状については選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)の使用が推奨されているがレビー小体型認知症における有効性については証明されていない。不眠を伴う場合少量のミルタザピンの眠前投与が有効な場合がある。
 抑うつ症状については選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)の使用が推奨されているがレビー小体型認知症における有効性については証明されていない。不眠を伴う場合少量のミルタザピンの眠前投与が有効な場合がある。
RBDについてはクロナゼパムの眠前使用が有効な場合があるが、ふらつき、転倒のリスクが高まるため、ごく少量から慎重に使用する。その他、ラメルテオンやメマンチンがRBDや夜間せん妄に有効な場合がある。
REM睡眠行動異常症についてはクロナゼパムの眠前使用が有効な場合があるが、ふらつき、転倒のリスクが高まるため、ごく少量から慎重に使用する。その他、ラメルテオンやメマンチンがREM睡眠行動異常症や夜間せん妄に有効な場合がある。


=== 身体症状に対する治療 ===
=== 身体症状に対する治療 ===
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== 経過・予後 ==
== 経過・予後 ==
 レビー小体型認知症の初発症状は記憶障害、幻覚、妄想、抑うつ、パーキンソニズム、RBDなどさまざまである。中でもRBDは他の症状に数年~10数年先行することがあり、前駆症状として注目されている。難治性うつ病患者の中にレビー小体型認知症の前駆状態が含まれていることが指摘されており、臨床診断・治療をする上で注意を要する。
 レビー小体型認知症の初発症状は記憶障害、幻覚、妄想、抑うつ、パーキンソニズム、REM睡眠行動異常症などさまざまである。中でもREM睡眠行動異常症は他の症状に数年~10数年先行することがあり、前駆症状として注目されている。難治性うつ病患者の中にレビー小体型認知症の前駆状態が含まれていることが指摘されており、臨床診断・治療をする上で注意を要する。
 アルツハイマー病に比べるとレビー小体型認知症の進行は速い傾向があり、診断から死亡までの期間もアルツハイマー病より短い<ref name=Mueller2019><pubmed>30625375</pubmed></ref> 16)。発症から1、2年で急速に症状が悪化する症例もある。
 アルツハイマー病に比べるとレビー小体型認知症の進行は速い傾向があり、診断から死亡までの期間もアルツハイマー病より短い<ref name=Mueller2019><pubmed>30625375</pubmed></ref> 16)。発症から1、2年で急速に症状が悪化する症例もある。


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