「Αシヌクレイン」の版間の差分

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== 構造 ==
== 構造 ==
=== ドメイン構造 ===
=== ドメイン構造 ===
 ほ乳動物の3種類のシヌクレインパラログは何れもアミノ末端側に高い相同性を示し、それぞれKT(A)KE(Q)G(Q)Vの不完全なアミノ酸繰り返し配列を有している<ref name=Goedert2001><pubmed>11433374</pubmed></ref><ref name=Dev2003><pubmed>12814657</pubmed></ref> 。構造上、ヒトαシヌクレインは3つのドメイン、すなわち両親和性を有し生体膜リン脂質との結合性を示すアミノ末端領域(1-60アミノ酸)、中央部の疎水性に富み線維化に関与する領域(61-95アミノ酸、前述のNon-amyloid β protein componentに相当)、およびプロリンに富み陰性荷電し各種リガンドや金属イオンと結合性を示すカルボキシル末端領域(96-140アミノ酸)から構成される<ref name=Wang2016><pubmed>27378848</pubmed></ref> ('''図1A''')。
 ほ乳動物の3種類のシヌクレインパラログは何れもアミノ末端側に高い相同性を示し、それぞれKT(A)KE(Q)G(Q)Vの不完全なアミノ酸繰り返し配列を有している<ref name=Goedert2001><pubmed>11433374</pubmed></ref><ref name=Dev2003><pubmed>12814657</pubmed></ref> 。構造上、ヒトαシヌクレインは3つのドメイン、すなわち両親和性を有し生体膜リン脂質との結合性を示すアミノ末端領域(1-60アミノ酸)、中央部の疎水性に富み線維化に関与する領域(61-95アミノ酸、前述のNon-amyloid β protein componentに相当)、およびプロリンに富み陰性荷電し各種リガンドや金属イオンと結合性を示すカルボキシル末端領域(96-140アミノ酸)から構成される<ref name=Wang2016a><pubmed>27378848</pubmed></ref> ('''図1A''')。


=== 翻訳後修飾 ===
=== 翻訳後修飾 ===
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 正常脳においてαシヌクレインの殆どはリン酸化を受けないが、パーキンソン病患者のLewy小体に含まれる異常凝集したαシヌクレインは90%以上が129番目のSerがリン酸化されており、病的意義があると推定されている<ref name=Saito2003><pubmed>12834109</pubmed></ref><ref name=Okochi2000><pubmed>10617630</pubmed></ref><ref name=Fujiwara2002><pubmed>11813001</pubmed></ref> 。S129リン酸化を触媒するキナーゼとしては、カゼインキナーゼII (CKII)、G共役型受容体キナーゼ(GRKs)、ポロ様キナーゼ (polo-like kinases, PLKs) などが知られている<ref name=Arawaka2006><pubmed>16957079</pubmed></ref><ref name=Inglis2009><pubmed>19004816</pubmed></ref><ref name=Ishii2007><pubmed>17868672</pubmed></ref> 。
 正常脳においてαシヌクレインの殆どはリン酸化を受けないが、パーキンソン病患者のLewy小体に含まれる異常凝集したαシヌクレインは90%以上が129番目のSerがリン酸化されており、病的意義があると推定されている<ref name=Saito2003><pubmed>12834109</pubmed></ref><ref name=Okochi2000><pubmed>10617630</pubmed></ref><ref name=Fujiwara2002><pubmed>11813001</pubmed></ref> 。S129リン酸化を触媒するキナーゼとしては、カゼインキナーゼII (CKII)、G共役型受容体キナーゼ(GRKs)、ポロ様キナーゼ (polo-like kinases, PLKs) などが知られている<ref name=Arawaka2006><pubmed>16957079</pubmed></ref><ref name=Inglis2009><pubmed>19004816</pubmed></ref><ref name=Ishii2007><pubmed>17868672</pubmed></ref> 。


 Lewy小体中には完全長のαシヌクレインに加え複数のtruncated formが確認される。C末端でのαシヌクレイン切断に関与する酵素として20Sプロテアソーム、カルパインI、アスパラギンエンドペプチダーゼ (AEP)、カスパーゼI、ニューロシン、プラスミン、カテプシンB/D/L、およびマトリックスメタロプロテアーゼ1/3 (MMP1/3) などが報告されている<ref name=Sung2005><pubmed>15863497</pubmed></ref><ref name=Sevlever2008><pubmed>18702517</pubmed></ref><ref name=Zhang2017><pubmed>28671665</pubmed></ref><ref name=Dufty2007><pubmed>17456777</pubmed></ref><ref name=Wang2016><pubmed>27482083</pubmed></ref><ref name=Kasai2008><pubmed>18358605</pubmed></ref><ref name=Sorrentino2020><pubmed>32424039</pubmed></ref> 。
 Lewy小体中には完全長のαシヌクレインに加え複数のtruncated formが確認される。C末端でのαシヌクレイン切断に関与する酵素として20Sプロテアソーム、カルパインI、アスパラギンエンドペプチダーゼ (AEP)、カスパーゼI、ニューロシン、プラスミン、カテプシンB/D/L、およびマトリックスメタロプロテアーゼ1/3 (MMP1/3) などが報告されている<ref name=Sung2005><pubmed>15863497</pubmed></ref><ref name=Sevlever2008><pubmed>18702517</pubmed></ref><ref name=Zhang2017><pubmed>28671665</pubmed></ref><ref name=Dufty2007><pubmed>17456777</pubmed></ref><ref name=Wang2016b><pubmed>27482083</pubmed></ref><ref name=Kasai2008><pubmed>18358605</pubmed></ref><ref name=Sorrentino2020><pubmed>32424039</pubmed></ref> 。
[[ファイル:Hasegawa alpha synuclein Fig2.png|サムネイル|'''図2. シヌクレインファミリーの分子系統樹'''<br>
[[ファイル:Hasegawa alpha synuclein Fig2.png|サムネイル|'''図2. シヌクレインファミリーの分子系統樹'''<br>
各枝の数字はブートストラップ値を示す。スケールバーはサイト毎のアミノ酸置換を示す。(文献41から一部改変し引用)]]
各枝の数字はブートストラップ値を示す。スケールバーはサイト毎のアミノ酸置換を示す。(文献41から一部改変し引用)]]
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 Nativeな状態におけるαシヌクレインは、特定の2次構造をとらない可溶性のモノマーとして存在するか、あるいは一部にαヘリックス構造をもって生体膜に結合して存在すると推定されている<ref name=Weinreb1996><pubmed>8901511</pubmed></ref><ref name=Pirc2015><pubmed>26119565</pubmed></ref> 。一方、2011年に米国のSelkoeらがヒト生体内におけるαシヌクレインが4量体として存在する可能性を報告し、激しい議論が巻き起こった<ref name=Bartels2011><pubmed>21841800</pubmed></ref> 。ヒト赤血球から抽出したαシヌクレインについては、X線小角散乱法による解析から従来説通り特定の構造をもたないモノマーとして存在する可能性が示されている<ref name=Araki2016><pubmed>27469540</pubmed></ref> 。
 Nativeな状態におけるαシヌクレインは、特定の2次構造をとらない可溶性のモノマーとして存在するか、あるいは一部にαヘリックス構造をもって生体膜に結合して存在すると推定されている<ref name=Weinreb1996><pubmed>8901511</pubmed></ref><ref name=Pirc2015><pubmed>26119565</pubmed></ref> 。一方、2011年に米国のSelkoeらがヒト生体内におけるαシヌクレインが4量体として存在する可能性を報告し、激しい議論が巻き起こった<ref name=Bartels2011><pubmed>21841800</pubmed></ref> 。ヒト赤血球から抽出したαシヌクレインについては、X線小角散乱法による解析から従来説通り特定の構造をもたないモノマーとして存在する可能性が示されている<ref name=Araki2016><pubmed>27469540</pubmed></ref> 。


 αシヌクレインは点変異やC末配列の欠損、酸化的ストレスあるいはオートファジー・リソソーム系やユビキチン・プロテアソームといったタンパク品質管理機構の破綻などによる病的代謝下では凝集性を増し、オリゴマーとよばれる中間体を経てβ-pleated sheetsからなるアミロイド様線維を形成する<ref name=Wang2016><pubmed>27378848</pubmed></ref><ref name=Hasegawa2006><pubmed>16567160</pubmed></ref><ref name=Oshima2016><pubmed>27112194</pubmed></ref><ref name=Ma2018><pubmed>30290273</pubmed></ref><ref name=Li2001><pubmed>11560511</pubmed></ref><ref name=McNaught2002><pubmed>12064477</pubmed></ref><ref name=Matsuzaki2004><pubmed>15033422</pubmed></ref> ('''図1B''')。線維化の過程においては、前述のNACコア領域の12アミノ酸配列(71-82aa)が特に重要であると推定されている<ref name=Bédard2014><pubmed>25255476</pubmed></ref> 。なお、ヒトと95%の相同性をもつマウスαシヌクレインの53番目アミノ酸はヒト家族性パーキンソン病のA53T変異と同じ配列となっており、より高い凝集性を示すことが判っている<ref name=Rochet2000><pubmed>10978144</pubmed></ref> 。
 αシヌクレインは点変異やC末配列の欠損、酸化的ストレスあるいはオートファジー・リソソーム系やユビキチン・プロテアソームといったタンパク品質管理機構の破綻などによる病的代謝下では凝集性を増し、オリゴマーとよばれる中間体を経てβ-pleated sheetsからなるアミロイド様線維を形成する<ref name=Wang2016a><pubmed>27378848</pubmed></ref><ref name=Hasegawa2006><pubmed>16567160</pubmed></ref><ref name=Oshima2016><pubmed>27112194</pubmed></ref><ref name=Ma2018><pubmed>30290273</pubmed></ref><ref name=Li2001><pubmed>11560511</pubmed></ref><ref name=McNaught2002><pubmed>12064477</pubmed></ref><ref name=Matsuzaki2004><pubmed>15033422</pubmed></ref> ('''図1B''')。線維化の過程においては、前述のNACコア領域の12アミノ酸配列(71-82aa)が特に重要であると推定されている<ref name=Bédard2014><pubmed>25255476</pubmed></ref> 。なお、ヒトと95%の相同性をもつマウスαシヌクレインの53番目アミノ酸はヒト家族性パーキンソン病のA53T変異と同じ配列となっており、より高い凝集性を示すことが判っている<ref name=Rochet2000><pubmed>10978144</pubmed></ref> 。


==サブファミリー ==
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