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αシヌクレインはシナプス前末端に多く局在することや、[[キンカチョウ]](錦花鳥、''Taeniopygia guttata'')がさえずりを学習する時期に神経系で発現が上昇することから、当初からシナプス機能や[[神経可塑性]]に関与すると推察されてきた<ref name=Maroteaux1988><pubmed>3411354</pubmed></ref><ref name=George1995><pubmed>7646890</pubmed></ref><ref name=Quilty2003><pubmed>12821390</pubmed></ref> 。一方、その生理的機能については未だ十分には解明されていない。 | αシヌクレインはシナプス前末端に多く局在することや、[[キンカチョウ]](錦花鳥、''Taeniopygia guttata'')がさえずりを学習する時期に神経系で発現が上昇することから、当初からシナプス機能や[[神経可塑性]]に関与すると推察されてきた<ref name=Maroteaux1988><pubmed>3411354</pubmed></ref><ref name=George1995><pubmed>7646890</pubmed></ref><ref name=Quilty2003><pubmed>12821390</pubmed></ref> 。一方、その生理的機能については未だ十分には解明されていない。 | ||
意外にもαシヌクレインの[[ノックアウトマウス]]は目立った表現型を示さず神経変性も生じない<ref name=Abeliovich2000><pubmed>10707987</pubmed></ref> 。一方、同マウスは[[線条体]][[ドパミン]]放出量の増加を示し、[[アンフェタミン]]に対するドパミン依存性の運動反応が減弱していた。また、α、β、γ全てのシヌクレインを欠失したマウスは寿命がやや短縮しシナプスサイズや密度が縮小していた<ref name=Greten-Harrison2010><pubmed>20974939</pubmed></ref> 。シヌクレインのトリプルノックアウトマウスは若年ではシナプス伝達の促進を示したが、加齢に伴いその機能は低下していた。複数の研究から、αシヌクレインはシナプス小胞の[[リサイクリング]]や[[癒合]]に重要な[[SNARE]]([[soluble N-ethylmaleimide-sensitive fusion attachment protein receptor]])蛋白質の会合に関与することが示されている<ref name=Hasegawa2017><pubmed>28539529</pubmed></ref><ref name=Huang2019><pubmed>30745863</pubmed></ref> 。一例としてαシヌクレインはSNAREシャペロンの一種である[[cysteine string protein]]([[CSPα]])欠失を補助する能力を有し、同分子がCSPαと同様に[[シャペロン]]として機能することが示唆されている<ref name=Gundersen2020><pubmed>32044380</pubmed></ref><ref name=Hasegawa> | 意外にもαシヌクレインの[[ノックアウトマウス]]は目立った表現型を示さず神経変性も生じない<ref name=Abeliovich2000><pubmed>10707987</pubmed></ref> 。一方、同マウスは[[線条体]][[ドパミン]]放出量の増加を示し、[[アンフェタミン]]に対するドパミン依存性の運動反応が減弱していた。また、α、β、γ全てのシヌクレインを欠失したマウスは寿命がやや短縮しシナプスサイズや密度が縮小していた<ref name=Greten-Harrison2010><pubmed>20974939</pubmed></ref> 。シヌクレインのトリプルノックアウトマウスは若年ではシナプス伝達の促進を示したが、加齢に伴いその機能は低下していた。複数の研究から、αシヌクレインはシナプス小胞の[[リサイクリング]]や[[癒合]]に重要な[[SNARE]]([[soluble N-ethylmaleimide-sensitive fusion attachment protein receptor]])蛋白質の会合に関与することが示されている<ref name=Hasegawa2017><pubmed>28539529</pubmed></ref><ref name=Huang2019><pubmed>30745863</pubmed></ref> 。一例としてαシヌクレインはSNAREシャペロンの一種である[[cysteine string protein]]([[CSPα]])欠失を補助する能力を有し、同分子がCSPαと同様に[[シャペロン]]として機能することが示唆されている<ref name=Gundersen2020><pubmed>32044380</pubmed></ref><ref name=Hasegawa><pubmed>29367843 </pubmed></ref> 。 | ||
なお、αシヌクレインは赤血球にも多く含まれるが、赤芽球の成熟時にその発現が増加し脱核直前に減少することから、赤芽球系細胞の分化成熟に関与すると推定されている<ref name=Araki2016><pubmed>27469540</pubmed></ref> 。 | なお、αシヌクレインは赤血球にも多く含まれるが、赤芽球の成熟時にその発現が増加し脱核直前に減少することから、赤芽球系細胞の分化成熟に関与すると推定されている<ref name=Araki2016><pubmed>27469540</pubmed></ref> 。 | ||
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==== プリオン様伝播 ==== | ==== プリオン様伝播 ==== | ||
2003年ドイツの神経病理学者[[w:Heiko Braak|Braak]]は、パーキンソン病患者脳内においてαシヌクレイン/Lewy病理は病初期に[[延髄]][[迷走神経]][[背側核]]に出現し、その後[[中脳]]から[[大脳辺縁系]]・[[新皮質]]へ拡大するという病変進展モデル([[Braak仮説]])を発表した<ref name=Braak2003><pubmed>12498954</pubmed></ref> 。さらに、胎児黒質組織片移植後を受けたパーキンソン病剖検脳において、ドナーである胎児由来の神経細胞内にαシヌクレイン陽性のLewy小体様封入体が確認されたという事実が報告され<ref name=Kordower2008><pubmed>18391962</pubmed></ref> 、αシヌクレインが細胞間を伝播して病変を拡大させる可能性が示された。伝播現象は感染性タンパク粒子である[[プリオン]]と類似性があることからプリオン様伝播とも表現される<ref name=Hasegawa2017><pubmed>28539529</pubmed></ref> 。疫学および病理学的検討から、αシヌクレイン病理は消化管粘膜や心臓交感神経など末梢神経系に出現し、一定の年月を経て中枢神経系に移行する可能性が指摘されている<ref name= | 2003年ドイツの神経病理学者[[w:Heiko Braak|Braak]]は、パーキンソン病患者脳内においてαシヌクレイン/Lewy病理は病初期に[[延髄]][[迷走神経]][[背側核]]に出現し、その後[[中脳]]から[[大脳辺縁系]]・[[新皮質]]へ拡大するという病変進展モデル([[Braak仮説]])を発表した<ref name=Braak2003><pubmed>12498954</pubmed></ref> 。さらに、胎児黒質組織片移植後を受けたパーキンソン病剖検脳において、ドナーである胎児由来の神経細胞内にαシヌクレイン陽性のLewy小体様封入体が確認されたという事実が報告され<ref name=Kordower2008><pubmed>18391962</pubmed></ref> 、αシヌクレインが細胞間を伝播して病変を拡大させる可能性が示された。伝播現象は感染性タンパク粒子である[[プリオン]]と類似性があることからプリオン様伝播とも表現される<ref name=Hasegawa2017><pubmed>28539529</pubmed></ref> 。疫学および病理学的検討から、αシヌクレイン病理は消化管粘膜や心臓交感神経など末梢神経系に出現し、一定の年月を経て中枢神経系に移行する可能性が指摘されている<ref name=VanDenBerge2019><pubmed>31254094</pubmed></ref><ref name=Borghammer2019><pubmed>31498132</pubmed></ref> 。細胞間を伝播するαシヌクレインは、[[ワクチン]]・[[抗体療法]]などの治療標的としても注目されている<ref name=Castonguay2020><pubmed>33104039</pubmed></ref> 。 | ||
== 関連語 == | == 関連語 == | ||