「重症筋無力症」の版間の差分

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=== MuSK抗体 ===
=== MuSK抗体 ===
 MuSK抗体はHoch et al.によって発見された<ref name=Hoch2001><pubmed>11231638</pubmed></ref>[6]。MuSK抗体のサブクラスはIgG4が主体であり、[[補体]]介在性に破壊されていない運動終板の病理像が報告されている<ref name=Shiraishi2005><pubmed>15668981</pubmed></ref>[7]。MuSK-MGの発症機序は主に[[agrin]]/Lrp4/MuSKのシグナルの障害であると推測されてきたが、2012年に、[[コラーゲンQ]]とMuSKの結合が阻害されることによって神経筋接合部の構造が維持できなくなるためではないかとする報告<ref name=Kawakami2011><pubmed>22013178</pubmed></ref>[8]やシナプス前である神経終末の障害を伴う動物モデルの報告<ref name=Mori2012><pubmed>22409941</pubmed></ref>[9]があり、MuSK抗体の作用は現在でも完全には明らかになっていない。
 MuSK抗体はHoch et al.によって発見された<ref name=Hoch2001><pubmed>11231638</pubmed></ref>。MuSK抗体のサブクラスはIgG4が主体であり、[[補体]]介在性に破壊されていない運動終板の病理像が報告されている<ref name=Shiraishi2005><pubmed>15668981</pubmed></ref>。MuSK-MGの発症機序は主に[[agrin]]/Lrp4/MuSKのシグナルの障害であると推測されてきたが、2012年に、[[コラーゲンQ]]とMuSKの結合が阻害されることによって神経筋接合部の構造が維持できなくなるためではないかとする報告<ref name=Kawakami2011><pubmed>22013178</pubmed></ref>やシナプス前である神経終末の障害を伴う動物モデルの報告<ref name=Mori2012><pubmed>22409941</pubmed></ref>があり、MuSK抗体の作用は現在でも完全には明らかになっていない。


=== 抗Lrp4抗体 ===
=== 抗Lrp4抗体 ===
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=== 症状の評価 ===
=== 症状の評価 ===
 重症筋無力症症状の評価には、[[MG-ADLスケール]]<ref name=Wolfe1999><pubmed>10227640</pubmed></ref>[24]、[[QMGスコア]]<ref name=Jaretzki2000><pubmed>10891897</pubmed></ref>、[[MG composite]]<ref name=Burns2012><pubmed>23252903</pubmed></ref>[26]が用いられる。治療効果の評価には、[[MGFA Postintervention Status]]を用いる<ref name=Wolfe1999><pubmed>10227640</pubmed></ref> [25]。主観的満足度を反映する生活の質(QOL)の評価法として、[[MG-QOL15]]日本語版(MG-QOL15-J)が作成され <ref name=Matsuda2012><pubmed>22806364</pubmed></ref>、 2016年には、日米英共同で質問項目や評価尺度を改訂した[[MG-QOL15r]]が発表された<ref name=Burns2016><pubmed>27220659</pubmed></ref>。これらの評価方法は診療だけでなく臨床研究や新薬の開発でも広く利用されている。
 重症筋無力症症状の評価には、[[MG-ADLスケール]]<ref name=Wolfe1999><pubmed>10227640</pubmed></ref>、[[QMGスコア]]<ref name=Jaretzki2000><pubmed>10891897</pubmed></ref>、[[MG composite]]<ref name=Burns2012><pubmed>23252903</pubmed></ref>が用いられる。治療効果の評価には、[[MGFA Postintervention Status]]を用いる<ref name=Wolfe1999><pubmed>10227640</pubmed></ref>。主観的満足度を反映する生活の質(QOL)の評価法として、[[MG-QOL15]]日本語版(MG-QOL15-J)が作成され <ref name=Matsuda2012><pubmed>22806364</pubmed></ref>、 2016年には、日米英共同で質問項目や評価尺度を改訂した[[MG-QOL15r]]が発表された<ref name=Burns2016><pubmed>27220659</pubmed></ref>。これらの評価方法は診療だけでなく臨床研究や新薬の開発でも広く利用されている。


== 臨床検査 ==
== 臨床検査 ==
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 AChR-MGの発症機序の一つとして、胸腺過形成、特に胸腺内の[[リンパ濾胞]]が増生する[[リンパ濾胞過形成]](follicular hyperplasia)の関与が指摘されている。重症筋無力症の治療として、非胸腺腫でも胸腺摘除術が適応されるのは、この過形成胸腺が重症筋無力症の病因として感作されたAChR抗体の産生に関与しているという考えに基づいている。
 AChR-MGの発症機序の一つとして、胸腺過形成、特に胸腺内の[[リンパ濾胞]]が増生する[[リンパ濾胞過形成]](follicular hyperplasia)の関与が指摘されている。重症筋無力症の治療として、非胸腺腫でも胸腺摘除術が適応されるのは、この過形成胸腺が重症筋無力症の病因として感作されたAChR抗体の産生に関与しているという考えに基づいている。


 最近まで重症筋無力症における胸腺摘除術の有効性について十分な根拠は示されていなかったが、2016年、非胸腺腫重症筋無力症を対象として初めて行われた国際共同ランダム化比較試験 MG thymectomy (MGTX) studyの結果が公表された<ref name=Wolfe2016><pubmed>27509100</pubmed></ref>[45]。この研究では、重症筋無力症症例が胸腺摘除術+経口プレドニゾロン群(摘除群)と経口プレドニゾロン単独群(非摘除群)に割り付けられ、3年後のQMGスコアとプレドニゾロン量を主要評価項目として両群の差が検討された。摘除群の患者はQMGスコアで平均2.85ポイントの改善がみられ、経口プレドニゾロンの必要量が平均11 mg/日少なかった(摘除群16 mg/日、非摘除群27 mg/日)。胸腺摘除を行なっても治療関連の合併症が増加することはなく、これらの有効性は5年後の長期評価でも確認された<ref name=Wolfe2019><pubmed>30692052</pubmed></ref>。
 最近まで重症筋無力症における胸腺摘除術の有効性について十分な根拠は示されていなかったが、2016年、非胸腺腫重症筋無力症を対象として初めて行われた国際共同ランダム化比較試験 MG thymectomy (MGTX) studyの結果が公表された<ref name=Wolfe2016><pubmed>27509100</pubmed></ref>。この研究では、重症筋無力症症例が胸腺摘除術+経口プレドニゾロン群(摘除群)と経口プレドニゾロン単独群(非摘除群)に割り付けられ、3年後のQMGスコアとプレドニゾロン量を主要評価項目として両群の差が検討された。摘除群の患者はQMGスコアで平均2.85ポイントの改善がみられ、経口プレドニゾロンの必要量が平均11 mg/日少なかった(摘除群16 mg/日、非摘除群27 mg/日)。胸腺摘除を行なっても治療関連の合併症が増加することはなく、これらの有効性は5年後の長期評価でも確認された<ref name=Wolfe2019><pubmed>30692052</pubmed></ref>。


 しかしながら、MGTX studyの結果は胸腺摘除と経口プレドニゾロンの組み合わせだけでは容易に治療目標である5 mgMMに到達しないことを示している。さらに、この研究には 50歳以上の症例が少数例しか含まれていなかった。臨床病型の項で記載したように、胸腺摘除術の効果が期待できる胸腺過形成を有する重症筋無力症患者が若年者に偏在していることも胸腺摘除術の適応を考える上で重要であろう。新ガイドラインでもLOMGに対する胸腺摘除術の適応は慎重に判断するように推奨される見込みである。
 しかしながら、MGTX studyの結果は胸腺摘除と経口プレドニゾロンの組み合わせだけでは容易に治療目標である5 mgMMに到達しないことを示している。さらに、この研究には 50歳以上の症例が少数例しか含まれていなかった。臨床病型の項で記載したように、胸腺摘除術の効果が期待できる胸腺過形成を有する重症筋無力症患者が若年者に偏在していることも胸腺摘除術の適応を考える上で重要であろう。新ガイドラインでもLOMGに対する胸腺摘除術の適応は慎重に判断するように推奨される見込みである。

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