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===筋=== | ===筋=== | ||
おもな嚥下関連筋としては以下のものがある(''' | おもな嚥下関連筋としては以下のものがある('''表1''')。 | ||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
|+ | |+表1. 主な嚥下関連筋とその神経支配 | ||
|- | |- | ||
|'''表情筋群(顔面神経支配)''' | |'''表情筋群(顔面神経支配)''' | ||
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むせる、痰の増加、痰に食物が混じる、声の変化(湿性嗄声)、咽頭違和感の訴え、食欲低下、食事中の疲労、食事時間の延長、食事内容の変化(水分は避けるなど)、食べ方の変化(上を向いてのみ込むなど)、体重減少の症状がある場合には、摂食嚥下障害を疑う。 | むせる、痰の増加、痰に食物が混じる、声の変化(湿性嗄声)、咽頭違和感の訴え、食欲低下、食事中の疲労、食事時間の延長、食事内容の変化(水分は避けるなど)、食べ方の変化(上を向いてのみ込むなど)、体重減少の症状がある場合には、摂食嚥下障害を疑う。 | ||
その上で、ベッドサイドテストや理学診断を行い、さらに嚥下機能検査により確定診断する<ref name=ref1>'''日本摂食嚥下リハビリテーション学会 医療検討委員会 (2019).'''<br>摂食嚥下障害の評価 2019 [https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/assessment2019-announce.pdf PDF]</ref>。 (文献1) | |||
=== 反復唾液飲みテスト=== | === 反復唾液飲みテスト=== | ||
Repetitive saliva swallowing test:RSST | Repetitive saliva swallowing test:RSST | ||
唾液嚥下を喉頭挙上の触診で評価する。患者の喉頭隆起および舌骨に人差し指と中指の指腹を軽くあて、30 秒間に何回空嚥下ができるかを数える。30 秒間に 3 回未満の場合にテスト陽性、すなわち問題ありとする。診断精度は摂食嚥下障害者において、VF で確認された誤嚥を反復唾液飲みテストが同定する感度は 0.98、特異度は 0.66 と報告されている (文献2)。 | 唾液嚥下を喉頭挙上の触診で評価する。患者の喉頭隆起および舌骨に人差し指と中指の指腹を軽くあて、30 秒間に何回空嚥下ができるかを数える。30 秒間に 3 回未満の場合にテスト陽性、すなわち問題ありとする。診断精度は摂食嚥下障害者において、VF で確認された誤嚥を反復唾液飲みテストが同定する感度は 0.98、特異度は 0.66 と報告されている<ref>'''小口和代、才藤栄一、馬場 尊、楠戸正子、田中ともみ、小野木啓子 (2000).'''<br>機能的嚥下障害スクリーニングテスト「反復唾液嚥下テスト」(the Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)の検討(2) 妥当性の検討 リハ医学37:383-388 [https://ci.nii.ac.jp/naid/110001864933 CiNii]</ref> (文献2)。 | ||
=== 改訂水のみテスト=== | === 改訂水のみテスト=== | ||
Modified water swallowing test :MWST | Modified water swallowing test :MWST | ||
冷水3 mlを口腔底に注ぎ、嚥下を指示する。咽頭に直接水が流れこむのを防ぐため、舌背ではなく口腔底に水を注ぐ。以下の'''表2'''により評価点が4点以上であれば(表では、最高点が4点なので4点以上ということはないと思います。原報を見ますと、食物を用いたテストの時にのみ5点を定義してあるので「4点であれば」でよろしいのではないかと思います)さらにテストを2回繰り返し、最も悪い場合を評価点とする。カットオフ値を3とすると、誤嚥有無別の感度は0.70、特異度は0.88と報告されている(文献3)。 | 冷水3 mlを口腔底に注ぎ、嚥下を指示する。咽頭に直接水が流れこむのを防ぐため、舌背ではなく口腔底に水を注ぐ。以下の'''表2'''により評価点が4点以上であれば(表では、最高点が4点なので4点以上ということはないと思います。原報を見ますと、食物を用いたテストの時にのみ5点を定義してあるので「4点であれば」でよろしいのではないかと思います)さらにテストを2回繰り返し、最も悪い場合を評価点とする。カットオフ値を3とすると、誤嚥有無別の感度は0.70、特異度は0.88と報告されている<ref>'''戸原 玄、才藤 栄一、馬場 尊、小野木 啓子、植松 宏 (2002).'''<br>Videofluorographyを用いない摂食・嚥下障害評価フローチャート 摂食. 嚥下リハ学会誌 6:196-206 [https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdr/6/2/6_196/_pdf/-char/ja PDF]</ref>(文献3)。 | ||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
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=== 標準的嚥下機能検査 === | === 標準的嚥下機能検査 === | ||
以下が、嚥下機能の評価のために標準的に用いられる検査である。その他、3D-CT、超音波エコー検査、食道内圧測定 (manometory) | 以下が、嚥下機能の評価のために標準的に用いられる検査である。その他、3D-CT、超音波エコー検査、食道内圧測定 (manometory)、筋電図、シンチグラフィーどを用いた検査も行われる。詳細は<ref name=ref1 />(文献1)参照。 | ||
====嚥下造影==== | ====嚥下造影==== | ||
嚥下造影は、造影剤を含む食物を嚥下させて、食材の動きや嚥下関連器官の状態と運動をX線透視下に観察する。口腔期における食塊形成や咽頭への送り込みの状態、咽頭期における喉頭挙上のタイミングや程度、食道入口部の食塊の通過状態、誤嚥の有無や程度を確認する<ref>'''日本摂食・嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会 (2004).'''<br>嚥下造影の標準的検査法(詳細版)日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 医療検討委員会案 作成に当たって 日摂食嚥下リハ会誌 8:71-86 [https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/VF8-1-p71-86.pdf PDF]</ref>。<ビデオ3>(文献4)食形態・体位・摂食方法などの調節をする事で、安全に嚥下し誤嚥や咽頭残留を減少させる方法を見出すという治療方針を決める検査でもある。患者家族に解剖学的にイメージしやすく、理解が深まる検査であるが、放射線検査室でしか実施できない、被爆を伴うことなどは頻回に実施ができない要因となる。 | |||
==== 嚥下内視鏡==== | ==== 嚥下内視鏡==== | ||
鼻腔から細いファイバースコープを挿入し、咽頭部の形や動きの状態を直視下で観察する。食物を嚥下し、咽頭を食物が通過していく状況を観察、咽頭における食物の残留や痰・唾液などの貯留状態を観察する<図2>。被爆を伴わず、ベッドサイドで繰り返し実施できるメリットがある。(文献5)<ビデオ4> | 鼻腔から細いファイバースコープを挿入し、咽頭部の形や動きの状態を直視下で観察する。食物を嚥下し、咽頭を食物が通過していく状況を観察、咽頭における食物の残留や痰・唾液などの貯留状態を観察する<図2>。被爆を伴わず、ベッドサイドで繰り返し実施できるメリットがある。<ref>'''日本摂食・嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会 (2013).<br>'''嚥下内視鏡検査の手順 2012 改訂(修正版)日摂食嚥下リハ会誌 17:87–99 [https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/endoscope-revision2012.pdf PDF]</ref>(文献5)<ビデオ4> | ||
==合併症== | ==合併症== | ||
111行目: | 111行目: | ||
評価については前述したが、リハビリテーション治療の過程で、定期的な再評価によるプランの見直しが必要である | 評価については前述したが、リハビリテーション治療の過程で、定期的な再評価によるプランの見直しが必要である | ||
==== 嚥下調整食 ==== | ==== 嚥下調整食 ==== | ||
その時点での嚥下能力に見合った食事(嚥下調整食)を食べることは、誤嚥などの合併症予防に必要かつ重要である。病病連携・病診連携・介護施設などとの連携において、標準化することが求められるため、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013が示された( | その時点での嚥下能力に見合った食事(嚥下調整食)を食べることは、誤嚥などの合併症予防に必要かつ重要である。病病連携・病診連携・介護施設などとの連携において、標準化することが求められるため、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013が示された<ref>'''日本摂食・嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会 (2013).<br>'''日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013, 日摂食嚥下リハ会誌 17:255–267 [https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf PDF]</ref>(文献6)。 | ||
==== 姿勢・食具・環境の調整 ==== | ==== 姿勢・食具・環境の調整 ==== | ||
脳神経内科疾患では、原疾患による姿勢異常も少なくなく、安楽で安全な摂食姿勢の調整がもとめられる。患者の身体能力・認知能力に見合った環境整備は、安全な摂食嚥下の第一歩である。 | 脳神経内科疾患では、原疾患による姿勢異常も少なくなく、安楽で安全な摂食姿勢の調整がもとめられる。患者の身体能力・認知能力に見合った環境整備は、安全な摂食嚥下の第一歩である。 | ||
==== 嚥下訓練 ==== | ==== 嚥下訓練 ==== | ||
食物を用いない基礎訓練(間接訓練)と摂食訓練(直接訓練)がある。表3に訓練を列記する。具体的な方法については<ref>'''日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会 (2014).'''<br>訓練法のまとめ(2014 版). 日摂食嚥下リハ会誌 18:55–89 [https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/18-1-p55-89.pdf PDF]</ref> (文献7)を参照されたい。摂食嚥下能力を評価して、それぞれの患者に見合った訓練法を選択する。 | |||
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|+表3. 各種の嚥下訓練 | |+表3. 各種の嚥下訓練 | ||
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栄養管理は摂食嚥下リハビリテーション治療の基礎である。ALSでは、エビデンスとして初期の栄養不良が独立した予後決定因子であることが示されている。 | 栄養管理は摂食嚥下リハビリテーション治療の基礎である。ALSでは、エビデンスとして初期の栄養不良が独立した予後決定因子であることが示されている。 | ||
==== 誤嚥予防 ==== | ==== 誤嚥予防 ==== | ||
脳卒中後における誤嚥性肺炎の予防としては、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、シロスタゾール、アマンタジン(いずれも保険適用外)について、限定的ながらエビデンスがある<ref>'''日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会 (2015).'''<br>脳卒中治療ガイドライン 2015 pp124</ref>。(文献8:脳卒中ガイドライン2015) | |||
一般的には姿勢調整・嚥下調整食・嚥下訓練により、誤嚥を予防できることも少なくないが、重度の嚥下障害でリハビリテーション治療効果が乏しい場合は、外科的に誤嚥防止術を提案する。発声機能を失うことが多く、十分な説明で理解を求めることが必要である。喉頭温存法と喉頭非温存法(喉頭全摘出術)がある | 一般的には姿勢調整・嚥下調整食・嚥下訓練により、誤嚥を予防できることも少なくないが、重度の嚥下障害でリハビリテーション治療効果が乏しい場合は、外科的に誤嚥防止術を提案する。発声機能を失うことが多く、十分な説明で理解を求めることが必要である。喉頭温存法と喉頭非温存法(喉頭全摘出術)がある | ||
慢性疾患において、嚥下改善が乏しい場合には嚥下機能改善術を選択肢として提示する。誤嚥予防につなげることもできる。咽頭内圧上昇・食道入口部開大・喉頭挙上・喉頭閉鎖の強化の目的で行われる。球麻痺ではボツリヌス毒素注入療法を考慮する場合もある<ref>'''日本耳鼻咽喉科学会編集 (2018).'''<br>嚥下障害の外科的治療 嚥下障害診療ガイドライン 2018年版 ''金原出版'' p29-31 [http://www.jibika.or.jp/members/guidelines/enge_shougai_2018.pdf PDF]</ref>。(文献9) | |||
==== 患者の理解・受容へのサポート ==== | ==== 患者の理解・受容へのサポート ==== |