「意味性認知症」の版間の差分

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== 臨床症状 ==
== 臨床症状 ==
=== 意味記憶障害 ===
=== 意味記憶障害 ===
 意味性認知症で最も重要な症状である。意味記憶は、エピソード記憶、手続き記憶などと共にヒトの記憶システムを構成する<ref name=Tulving1972>'''Tulving, E. and Donaldson W. (1972).'''<br>Episodic and semantic memory. In E. Tulving & W. Donaldson (Eds.). Organization of memory. New York: Academic Press.</ref><ref name=Tulving1991>'''Tulving, E.(太田信夫 訳)(1991).'''<br>人間の複数記憶システム. 科学; 61: 263-270。</ref><ref name=小森憲治郎2014>'''小森憲治郎、谷向 知、数井裕光、上野修一 (2014).'''<br>意味性認知症の臨床像から. 基礎心理学研究 33: 55-63 [https://doi.org/10.1365/s35127-014-0479-y [DOI]]</ref><ref name=小森憲治郎2019>'''小森憲治郎 (2019).'''<br>神経心理学的症候のとらえ方. 学術の動向 5: 25-31</ref>[13][14][15][16]。意味性認知症においては一般物品と人物の意味記憶障害が含まれ、前者は後述の失語の側面から、後者は広く視覚対象の認知障害としても理解できる。
 意味性認知症で最も重要な症状である。意味記憶は、エピソード記憶、手続き記憶などと共にヒトの記憶システムを構成する<ref name=Tulving1972>'''Tulving, E. and Donaldson W. (1972).'''<br>Episodic and semantic memory. In E. Tulving & W. Donaldson (Eds.). Organization of memory. New York: Academic Press.</ref><ref name=Tulving1991>'''Tulving, E.(太田信夫 訳)(1991).'''<br>人間の複数記憶システム. 科学; 61: 263-270。</ref><ref name=小森憲治郎2014>'''小森憲治郎、谷向 知、数井裕光、上野修一 (2014).'''<br>意味性認知症の臨床像から. 基礎心理学研究 33: 55-63]</ref><ref name=小森憲治郎2019>'''小森憲治郎 (2019).'''<br>神経心理学的症候のとらえ方. 学術の動向 5: 25-31</ref>[13][14][15][16]。意味性認知症においては一般物品と人物の意味記憶障害が含まれ、前者は後述の失語の側面から、後者は広く視覚対象の認知障害としても理解できる。


 一般物品とは、蜜柑、犬、コップ、鉛筆など目に見える様々な物体であり、例えば「ジャガイモ」に関する意味記憶を構成するのは、名称、形、色、硬さ、匂い、それらのバリエーション、カテゴリー(食べ物、野菜など)、それを使ってできた物(料理、菓子)、といった情報である。ある物品について完全にその意味記憶が失われている場合、それを見て呼称ができず、既視感すらないため「見た事がない」と述べ、その名前を聞いても「聞いたことがない」と述べ、実物を触っても、匂いを嗅いでも、食べられる物なら食べてみても、それが何であるかが分からず、「知らない」と述べる。健常者の物の認識は、それを見ただけで可能であるが(つまり視覚モダリティだけで同定できる)、更に、見ずに触る、においだけを感じる、味だけ確かめるといった、一つの感覚モダリティを用いるだけでも通常は可能である。例えばポテトサラダを食べると、ジャガイモの形がなくともジャガイモが使われていると分かり、昆布だしの汁は昆布の形がみえない液体でも味で昆布が使われていると分かる。しかし意味記憶障害では、どの知覚を用いてもその物を知っている感覚が得られない。その意味で意味記憶障害は、一つの感覚モダリティに限局した障害である通常の失認とは異なる。
 一般物品とは、蜜柑、犬、コップ、鉛筆など目に見える様々な物体であり、例えば「ジャガイモ」に関する意味記憶を構成するのは、名称、形、色、硬さ、匂い、それらのバリエーション、カテゴリー(食べ物、野菜など)、それを使ってできた物(料理、菓子)、といった情報である。ある物品について完全にその意味記憶が失われている場合、それを見て呼称ができず、既視感すらないため「見た事がない」と述べ、その名前を聞いても「聞いたことがない」と述べ、実物を触っても、匂いを嗅いでも、食べられる物なら食べてみても、それが何であるかが分からず、「知らない」と述べる。健常者の物の認識は、それを見ただけで可能であるが(つまり視覚モダリティだけで同定できる)、更に、見ずに触る、においだけを感じる、味だけ確かめるといった、一つの感覚モダリティを用いるだけでも通常は可能である。例えばポテトサラダを食べると、ジャガイモの形がなくともジャガイモが使われていると分かり、昆布だしの汁は昆布の形がみえない液体でも味で昆布が使われていると分かる。しかし意味記憶障害では、どの知覚を用いてもその物を知っている感覚が得られない。その意味で意味記憶障害は、一つの感覚モダリティに限局した障害である通常の失認とは異なる。

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