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高橋 正紀 | 高橋 正紀 | ||
英:myotonic dystrophy 独:Myotone Dystrophie 仏:dystrophie myotonique | 英:myotonic dystrophy 独:Myotone Dystrophie 仏:dystrophie myotonique<br> | ||
英略称:DM | 英略称:DM | ||
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! 2001 | ! 2001 | ||
|| 筋強直性ジストロフィー2型の原因が、''ZNF9''(''CNBP'')遺伝子のCCTGリピート異常伸長によることが明らかにされる(<ref name=Liquori2001><pubmed>11486088</pubmed></ref>[7]) | || 筋強直性ジストロフィー2型の原因が、''ZNF9''(''CNBP'')遺伝子のCCTGリピート異常伸長によることが明らかにされる(<ref name=Liquori2001><pubmed>11486088</pubmed></ref>[7]) | ||
|} | |||
==病態== | |||
筋強直性ジストロフィーは常染色体顕性(優性)遺伝を示す遺伝性疾患であり。原因遺伝子により1型と2型がある。ともに、非翻訳領域における繰り返し配列の異常伸長が原因である('''表2''')。 | |||
=== 筋強直性ジストロフィー1型=== | |||
1型の原因は19番目の染色体(19q13.2-q13.3)にある''DMPK''遺伝子の非翻訳領域に存在するCTGという3塩基の繰り返し配列が異常伸長することによる<ref name=Fu1992><pubmed>1546326</pubmed></ref><ref name=Mahadevan1992><pubmed>1546325</pubmed></ref><ref name=Brook1992><pubmed>1568252</pubmed></ref>[4][5][6]。通常、このCTG繰り返しの回数は5~34回であるのに対して、患者では50~3000回前後に増加している。35~49回である場合は、「前変異」とされる。前変異を持つ人自身は発症しないが、子どもはより伸長した遺伝子を受け継ぎ発症する可能性がある。繰り返し配列の長さは重症度に相関し、長いほど重症で発症が早くなる傾向がある。 | |||
多くのリピート病で認められるように、繰り返し配列の長さは一定でなく、世代を重ねると繰り返し配列数が伸び、症状が強くなる、いわゆる表現促進現象がみられる。特に、1000回以上に著明に繰り返し配列が伸長した、先天型筋強直性ジストロフィーが発症することが特徴である。90%以上は母親が罹患者であり、機序は不明であるものの卵子形成過程における繰り返し配列不安定性が想定されている。 | |||
=== 筋強直性ジストロフィー2型=== | |||
2001年に2型の遺伝的原因が、''ZNF9''遺伝子のイントロン領域におけるCCTGの4塩基繰り返し配列の伸長であることが明らかにされた<ref name=Liquori2001><pubmed>11486088</pubmed></ref>[7]。通常、このCCTG繰り返しの回数は30以下であるが、患者では75から11000回に増加している。なお、2型では1型に見られる、表現促進現象や先天型の出生はないとされている。わが国では数家系しか同定されていない<ref name=Matsuura2012><pubmed>22258159</pubmed></ref><ref name=Nakayama2014><pubmed>24430576</pubmed></ref>[17,18]。 | |||
{| class="wikitable" | |||
|+表2 筋強直性ジストロフィー1型と2型 | |||
! !! !! 1型 !! 2型 | |||
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!rowspan=4| 遺伝的原因 | |||
| 原因遺伝子 || ''DMPK'' || ''CNBP'' (''ZNF9'') | |||
|- | |||
| 繰り返し塩基 || CTG || CCTG | |||
|- | |||
| リピート存在部位 || 3’非翻訳領域 || イントロン1 | |||
|- | |||
| リピート回数 || 50 - 5,000 || 75 - 11,000 | |||
|- | |||
! rowspan=3|臨床症状 | |||
| 筋萎縮の分布 || 遠位優位 || 近位優位 | |||
|- | |||
| 強いミオトニー || なし || あり | |||
|- | |||
| 先天型 || あり || なし | |||
|} | |} | ||
== 臨床症状 == | == 臨床症状 == | ||
筋ジストロフィーのひとつとされ、疾患名の如く進行性の筋萎縮・筋力低下に加え筋強直現象を特徴とするが、むしろ全身疾患である。日本では99.9%以上が1型のため、以下の記述は1型を中心とする。疾患管理上重要な症状として、呼吸障害・嚥下障害、不整脈・心臓伝導障害、高次機能低下や先天型の精神発達遅滞といった中枢神経症状などがある。'''表3'''に様々な症状を示したが、すべてが一人の患者に現れるわけではない。 | |||
=== 骨格筋 === | |||
'''筋強直''':収縮した筋の弛緩が遅くなる現象である。強く握った指がすぐに開けない、把握ミオトニーや、診察用のハンマーで叩くと収縮が持続する叩打ミオトニーが特徴的である(ビデオ [http://plaza.umin.ac.jp/~DM-CTG/video.html 専門家が提供する筋強直性ジストロフィーの臨床情報])。針筋電図を行うと、興奮性が増大しており、急降下爆撃音やバイクのカラふかし音とよばれる、特徴的な筋線維の発火が認められる。筋強直は、本症以外に先天性ミオトニーや先天性パラミオトニーなどでもみられる。 | '''筋強直''':収縮した筋の弛緩が遅くなる現象である。強く握った指がすぐに開けない、把握ミオトニーや、診察用のハンマーで叩くと収縮が持続する叩打ミオトニーが特徴的である(ビデオ [http://plaza.umin.ac.jp/~DM-CTG/video.html 専門家が提供する筋強直性ジストロフィーの臨床情報])。針筋電図を行うと、興奮性が増大しており、急降下爆撃音やバイクのカラふかし音とよばれる、特徴的な筋線維の発火が認められる。筋強直は、本症以外に先天性ミオトニーや先天性パラミオトニーなどでもみられる。 | ||
'''筋萎縮''' | '''筋萎縮''':筋疾患では体幹に近くのいわゆる近位筋から障害されることが多いが、1型(2型については[[筋強直性ジストロフィー#筋強直性ジストロフィー2型の症状|下記]]参照)ではそうではなく、咬筋・側頭筋 (斧様顔貌) 、眼輪筋・口輪筋(兎眼、口笛困難)、胸鎖乳突筋(頭部挙上困難)、腹筋(臥床からの起き上がり困難)、手指筋(ピンチ力低下)、前脛骨筋 (下垂足)などの障害がよく認められる。 | ||
=== 心臓 === | |||
デュシェンヌ型筋ジストロフィーなど多くの筋ジストロフィーでは、心筋の収縮力低下による心不全を呈することが多いが、筋強直性ジストロフィーでは伝導障害や不整脈のほうが生じやすい。本症に多い突然死の原因の一部と考えられている。 | |||
=== 呼吸器 === | |||
筋力低下による肺胞低換気(拘束性障害)に加え、睡眠時無呼吸をはじめとする中枢性の呼吸調節障害を伴うことが特徴である。また、嚥下障害が多く、しかも自覚に乏しいことから誤嚥性肺炎がしばしば問題となる。 | 筋力低下による肺胞低換気(拘束性障害)に加え、睡眠時無呼吸をはじめとする中枢性の呼吸調節障害を伴うことが特徴である。また、嚥下障害が多く、しかも自覚に乏しいことから誤嚥性肺炎がしばしば問題となる。 | ||
=== 中枢神経系 === | |||
先天型では精神発達遅滞、小児型では学習障害、注意欠如/多動性障害(ADHD) | 先天型では精神発達遅滞、小児型では学習障害、注意欠如/多動性障害(ADHD)などが見られる。成人型では、認知機能障害や、無頓着、無気力に見える独特の性格的特徴や、日中の眠気なども合併する。これらは就学・就労に関与し、患者生活の質(QOL)に大きく影響することが示されており、本症を中枢神経疾患としても捉えられるようになってきている。 | ||
=== 内分泌代謝 === | |||
インスリン抵抗性による糖尿病が良く知られている。脂質異常や肝機能障害、脂肪肝なども多い。 | インスリン抵抗性による糖尿病が良く知られている。脂質異常や肝機能障害、脂肪肝なども多い。 | ||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
|+ | |+表3. 筋強直性ジストロフィー1型の多臓器障害 日本神経学会診療ガイドラインより一部改変<ref name=筋強直性ジストロフィー診療ガイドライン編集委員会2020></ref>[14] | ||
! 臓器 !! 症状 | ! 臓器 !! 症状 | ||
|- | |- | ||
103行目: | 134行目: | ||
|} | |} | ||
=== | === 発症年齢による分類 === | ||
筋強直性ジストロフィー1型では先天型から白内障のみを示すような軽症の成人型まで、発症年齢・重症度・症状が様々である。発症時期に基づき、先天型、小児型、古典型(成人型)、軽症型の4つの臨床病型に分類されることが多い。病型により主だった症状が異なることに注意が必要である。 | |||
例えば、先天型では乳幼児期には筋強直現象は認めず、精神発達遅滞や知的障害が前景に立つ。小児型でも、年少期には筋強直は目立たず学習障害などが中心症状であることが多い。これらでは、家族歴の情報なしに本症を診断するのは難しい。 | 例えば、先天型では乳幼児期には筋強直現象は認めず、精神発達遅滞や知的障害が前景に立つ。小児型でも、年少期には筋強直は目立たず学習障害などが中心症状であることが多い。これらでは、家族歴の情報なしに本症を診断するのは難しい。 | ||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
|+ | |+表4. 筋強直性ジストロフィー1型の発症年代別病型分類 | ||
|- | |- | ||
! !! 発症年齢 !! リピート数 !! 特徴的症状 | ! !! 発症年齢 !! リピート数 !! 特徴的症状 | ||
125行目: | 156行目: | ||
|| 20~70歳 || 50-100 || 白内障・ごく軽度の筋強直 | || 20~70歳 || 50-100 || 白内障・ごく軽度の筋強直 | ||
|} | |} | ||
=== 筋強直性ジストロフィー2型の症状 === | |||
=== | |||
2型は1型と類似しているが相違点もある('''表4''')。とくに、筋力低下・筋萎縮の分布は 1型では遠位優位であるのに対し、2型では比較的近位優位である。また、先天型もないとされている。 | 2型は1型と類似しているが相違点もある('''表4''')。とくに、筋力低下・筋萎縮の分布は 1型では遠位優位であるのに対し、2型では比較的近位優位である。また、先天型もないとされている。 | ||
== 診断 == | == 診断 == | ||
多くの症状を示すことから、様々な医療現場で遭遇される。多くの医療関係者が疾患を知り、まずは筋強直性ジストロフィーを疑うことが患者の診断につながる。古典型では、特徴的な顔貌や筋強直現象などに気づけば比較的容易に臨床診断できるが、先天型・小児型では容易でないこともある。家族歴は、表現促進現象のため、はっきりしないことも多いが、白内障、耐糖能異常、突然死、流・死産などの聴取が重要である。 | |||
筋強直性ジストロフィー2型の診断はしばしば困難とされている。筋強直が強く痛みを呈し線維筋痛症や関節リウマチが疑われた例から、筋強直がほとんど目立たず肢帯型筋ジストロフィーと診断された例までさまざまである。厚生労働省の政策研究班が、2型も念頭に置いた[https://neurology-jp.org/guidelinem/pdf/syounin_15.pdf 筋ジストロフィー病型診断のフロー]を作成している。 | |||
診断目的に筋生検は通常施行されず、遺伝学的検査で診断確定される。[https://www.nanbyou.or.jp/entry/4523 診断基準]としては、厚生労働省の指定難病である筋ジストロフィーの一つに含まれ、その基準が一般に用いられている。 | 診断目的に筋生検は通常施行されず、遺伝学的検査で診断確定される。[https://www.nanbyou.or.jp/entry/4523 診断基準]としては、厚生労働省の指定難病である筋ジストロフィーの一つに含まれ、その基準が一般に用いられている。 | ||
== 疫学 == | == 疫学 == | ||
1型と2型を合わせた筋強直性ジストロフィー全体の世界的な有病率は、各国のデータを集めた最近のメタ解析によれば、10万人当たり8~10人とされている<ref name=Deenen2015><pubmed>28198707</pubmed></ref><ref name=Mah2016><pubmed>26786644</pubmed></ref>[19][20]。疾患認識の向上、遺伝子診断の普及、平均寿命の延長などから、診断される症例が増加し、以前より有病率は上昇している。わが国のデータでは、秋田県での調査が最も新しく、10万人当たり9.7人と報告されている<ref name=小林道雄2019><pubmed>'''小林道雄, 畠山知之, 小原講二, 阿部エリカ, 和田千鶴, 石原傳幸, 豊島至 (2019).'''<br>秋田県における筋疾患の患者数調査~10年前と比較して~. 臨床神経学</pubmed></ref>[21]。 | |||
1型は、欧米・日本であまり頻度に差はないとされているが、サハラ以南のアフリカ人には稀である。また、カナダのケベック州Saguenay-Lac-Saint-Jean地域やスペインのバスク地方などの集積地が知られている。 | 1型は、欧米・日本であまり頻度に差はないとされているが、サハラ以南のアフリカ人には稀である。また、カナダのケベック州Saguenay-Lac-Saint-Jean地域やスペインのバスク地方などの集積地が知られている。 | ||
2型については地域差が知られている。ドイツなどでは筋強直性ジストロフィーの数十%がDM2である一方、同じ欧州でも英国ではかなり少ない。なお、わが国では極めて稀で数家系しか見出されていない<ref name=Matsuura2012><pubmed>22258159</pubmed></ref><ref name=Nakayama2014><pubmed>24430576</pubmed></ref>[17,18]。 | |||
[[ファイル:Takahashi myotonic distrophy Fig1.png|サムネイル|'''図1. 筋強直性ジストロフィーの分子病態''']] | [[ファイル:Takahashi myotonic distrophy Fig1.png|サムネイル|'''図1. 筋強直性ジストロフィーの分子病態''']] | ||
== 病態生理 == | == 病態生理 == | ||
=== RNA異常症(RNA gain of function)としての病態 === | === RNA異常症(RNA gain of function)としての病態 === | ||
筋強直性ジストロフィーの伸長した繰り返し配列はいずれも非翻訳領域に存在するうえ、''DMPK''と''CNBP''ではタンパク質機能にも関連はないことから、いわゆるセントラルドグマで本症を説明することは困難であった。また、Thorntonらのグループによりヒトアクチン遺伝子の非翻訳領域にCTG繰り返し配列を挿入したトランスジェニックマウス(HSA-LR)が作出され、筋強直を示すことが明らかにされた<ref name=Mankodi2000><pubmed>10976074</pubmed></ref>[8]。これらのことから異常伸長したリピートをもつ遺伝子から転写された異常RNAが病態の主因であることが明らかになった。 | |||
転写された異常mRNAは、相補的なC-Gで結合しヘアピン構造をとり、核内に蓄積しRNA凝集体(ribonuclear foci)を形成する('''図1''')。核内に蓄積した異常mRNAが、CUGあるいはCCUGに結合能のあるMBNLやCELF(CUG-BP)といったRNA結合タンパク質の量的・質的変化を生じさせる<ref name=Miller2000><pubmed>10970838</pubmed></ref>[22]。その結果、RNA結合タンパク質の本来の機能のひとつである様々なpre-mRNAの選択的スプライシングに異常が生じ、全身の様々な臓器で多彩な症状を呈することがわかってきた<ref name=Kanadia2003><pubmed>14671308</pubmed></ref>[23]。 | 転写された異常mRNAは、相補的なC-Gで結合しヘアピン構造をとり、核内に蓄積しRNA凝集体(ribonuclear foci)を形成する('''図1''')。核内に蓄積した異常mRNAが、CUGあるいはCCUGに結合能のあるMBNLやCELF(CUG-BP)といったRNA結合タンパク質の量的・質的変化を生じさせる<ref name=Miller2000><pubmed>10970838</pubmed></ref>[22]。その結果、RNA結合タンパク質の本来の機能のひとつである様々なpre-mRNAの選択的スプライシングに異常が生じ、全身の様々な臓器で多彩な症状を呈することがわかってきた<ref name=Kanadia2003><pubmed>14671308</pubmed></ref>[23]。 | ||
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=== 新たな病態機序 === | === 新たな病態機序 === | ||
リピート周辺では開始コドンから始まらないタンパク翻訳(RAN translation)が行われることがフロリダ大のRanumらにより報告された<ref name=Zu2011><pubmed>21173221</pubmed></ref>[38]。なお、C9orf72-ALSではRAN translationの産物(RAN protein) | リピート周辺では開始コドンから始まらないタンパク翻訳(RAN translation)が行われることがフロリダ大のRanumらにより報告された<ref name=Zu2011><pubmed>21173221</pubmed></ref>[38]。なお、C9orf72-ALSではRAN translationの産物(RAN protein)が神経毒性を示す可能性が複数報告されているが、筋強直性ジストロフィーにおける病態への関与の程度はまだまだ不明である<ref name=Cleary2014><pubmed>24852074</pubmed></ref>[39]。 | ||
また、逆方向の短いCAGリピートを含むRNAは、いわばRNAiのように働き順方向のCTGリピートを含むmRNAの量を抑制する可能性がある。先天型筋強直性ジストロフィーでは伸長したCTGリピートの上流を中心とした異常なメチル化が生じていることから、順方向性の転写が増大し、逆方向の転写が低下し、リピートRNAの蓄積がさらに増大し、病態を増悪する方向に働くことが近年示された<ref name=Nakamori2017><pubmed>29091763</pubmed></ref>[40]。 | |||
== 治療 == | == 治療 == | ||
219行目: | 207行目: | ||
上述のRNA異常症という病態機序に基づいた核酸治療が、治験段階まで進んだ。DMPKのmRNAの低下を目指したもので、米国のIONIS社により2014年から第I/IIa相治験が行われたが、骨格筋への薬剤の移行が不十分なため、治験をさらに進めることが断念された。現在、複数の企業が、組織移行性を高めた核酸医薬の検討を進めている。また、低分子化合物による、MBNLの共凝集抑制をめざした薬剤の開発研究も進んでいる。 | 上述のRNA異常症という病態機序に基づいた核酸治療が、治験段階まで進んだ。DMPKのmRNAの低下を目指したもので、米国のIONIS社により2014年から第I/IIa相治験が行われたが、骨格筋への薬剤の移行が不十分なため、治験をさらに進めることが断念された。現在、複数の企業が、組織移行性を高めた核酸医薬の検討を進めている。また、低分子化合物による、MBNLの共凝集抑制をめざした薬剤の開発研究も進んでいる。 | ||
いっぽう、先天型・小児型筋強直性ジストロフィーを対象とした、glycogen synthase kinase 3 (GSK3)阻害剤(tideglusib)の第3相治験を、英国のAMO pharmaが行っている。これはもともと認知症や注意欠如多動性障害治療薬として開発が進められていた薬剤であり、筋強直性ジストロフィーの病態にGSK3が関与することが示されたことから本症に対しても治験が開始された。 | |||
== そのほか == | == そのほか == | ||
=== 妊娠・出産 === | |||
自然流産、分娩遷延、胎盤遺残、分娩後出血などの合併症を起こしやすい。リスクを理解し、十分な準備と体制を整えて臨むことが大切である。 | |||
また、胎児が先天型である場合には、羊水過多や切迫早産などを認めることがある。出生時より全身性の筋緊張低下(フロッピーインファント)、呼吸障害、哺乳障害などの症状が見られ、人工呼吸や経管栄養が必要となることがある。新生児期を乗り越えた後は遅れながらも運動発達し、多くの例で歩行獲得に至る。 | |||
=== 遺伝カウンセリング === | |||
顕性(優性)遺伝性疾患であり、親・子が患者である確率は1/2である。1名の患者が遺伝学的検査で同定されると、血縁者に与える影響は大きく、その範囲も広い。出生前診断・発症前診断はもちろんのこと、罹患者の遺伝学的検査にあたってもその施行前、施行後に遺伝カウンセリングを十分行うことが望まれる。 | |||
=== 患者登録 === | === 患者登録 === | ||
希少疾患の患者登録は、薬剤開発や治験、臨床研究、医療の標準化などへの活用が期待されている。本症の患者登録について、2009年にTREAT-NMDとMarigold財団(患者団体)が、国際ワークショップをオランダのNaardenで開催し、登録項目の共通化などが議論された<ref name=Thompson2009><pubmed>19846307</pubmed></ref>[46]。 | 希少疾患の患者登録は、薬剤開発や治験、臨床研究、医療の標準化などへの活用が期待されている。本症の患者登録について、2009年にTREAT-NMDとMarigold財団(患者団体)が、国際ワークショップをオランダのNaardenで開催し、登録項目の共通化などが議論された<ref name=Thompson2009><pubmed>19846307</pubmed></ref>[46]。 |