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<font size="+1">[https://researchmap.jp/7000008831 人見健文]</font><br> | <font size="+1">[https://researchmap.jp/7000008831 人見健文]</font><br> | ||
''京都大学大学院医学研究科臨床神経学 (脳神経内科)<br> | ''京都大学大学院医学研究科臨床神経学 (脳神経内科)''<br> | ||
京都大学大学院医学研究科臨床病態検査学(検査部)''<br> | ''京都大学大学院医学研究科臨床病態検査学(検査部)''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2020年12月16日 原稿完成日:2021年1月29日<br> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2020年12月16日 原稿完成日:2021年1月29日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/kojiyamanaka 山中 宏二](名古屋大学 環境医学研究所 病態神経科学) | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/kojiyamanaka 山中 宏二](名古屋大学 環境医学研究所 病態神経科学) | ||
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現在、ミオクローヌスは“[[中枢神経系]]の機能異常による突然の電撃的な、[[四肢]]・顔面・[[体幹]]などに生じる[[意識]]消失を伴わない[[不随意運動]]”と定義されている('''動画''')<ref name=Shibasaki2005><pubmed>15547927</pubmed></ref><ref name=人見健文2016>'''人見健文、寺田清人、池田昭夫 (2016).'''<br>第9章ミオクローヌス、第1部不随意運動。不随意運動の診断と治療 改訂第2版:158-182、診断と治療社、</ref>。 | 現在、ミオクローヌスは“[[中枢神経系]]の機能異常による突然の電撃的な、[[四肢]]・顔面・[[体幹]]などに生じる[[意識]]消失を伴わない[[不随意運動]]”と定義されている('''動画''')<ref name=Shibasaki2005><pubmed>15547927</pubmed></ref><ref name=人見健文2016>'''人見健文、寺田清人、池田昭夫 (2016).'''<br>第9章ミオクローヌス、第1部不随意運動。不随意運動の診断と治療 改訂第2版:158-182、診断と治療社、</ref>。 | ||
瞬間的に起こる不随意運動という点では、不随意運動の中で[[けいれん]]にもっとも近い。ただし[[全身けいれん発作]]でみられる[[ミオクロニー発作]](myoclonic seizure)もこの定義に合致するが、この場合はミオクローヌスとは呼ばない<ref name=柴﨑浩2012>'''柴﨑浩 (2012).'''<br>ミオクローヌス-概念と分類 Clinical neuroscience 30: 746-749.</ref> | 瞬間的に起こる不随意運動という点では、不随意運動の中で[[けいれん]]にもっとも近い。ただし[[全身けいれん発作]]でみられる[[ミオクロニー発作]](myoclonic seizure)もこの定義に合致するが、この場合はミオクローヌスとは呼ばない<ref name=柴﨑浩2012>'''柴﨑浩 (2012).'''<br>ミオクローヌス-概念と分類 Clinical neuroscience 30: 746-749.</ref>。ミオクロニー発作は、てんかん発作としての表現であり、通常両側あるいは全般性の1-2秒間以内の連続した四肢の筋収縮であり、1-2秒間の意識減損を伴うこともあり、単発のこともある。これが極めて断片化して出現したものが皮質性ミオクローヌスに相当し、そのために皮質性ミオクローヌスはてんかん性ミオクローヌスとも呼ばれる。ミオクローヌスは運動異常症の立場からの用語、ミオクロニー発作はてんかん学の立場からの用語ともいうことができる<ref name=平山恵造1984>'''平山恵造 (1984).'''<br>ミオクローヌス(ミオクロニー)の症候学とその混乱の歴史. 神経進歩 28: 701-713.</ref><ref name=麓直浩2009>'''麓直浩, 池田昭夫 (2009).'''<br>進行性ミオクローヌスてんかん、専門医のための精神科臨床リュミエール14、精神科領域におけるけいれん・けいれん様運動(兼本浩裕、山内俊雄編)、175-181, 中山書店</ref>)。 | ||
なお、[[ミオクローヌスてんかん]]は、不随意運動としてのミオクローヌスと[[てんかん]]発作の両者を有するてんかん症候群である。 | なお、[[ミオクローヌスてんかん]]は、不随意運動としてのミオクローヌスと[[てんかん]]発作の両者を有するてんかん症候群である。 | ||
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== 診断== | == 診断== | ||
上記の様な突然の、電撃的な、四肢・顔面・体幹などに生じる意識消失をともなわない不随意運動があればミオクローヌスを疑い検査を行うことになる。明確な診断基準はなく、現在においても臨床症候に加えて表面[[筋電図]]などの電気生理学的手法を用いて診断する<ref name=Zutt2018><pubmed>29352095</pubmed></ref> | 上記の様な突然の、電撃的な、四肢・顔面・体幹などに生じる意識消失をともなわない不随意運動があればミオクローヌスを疑い検査を行うことになる。明確な診断基準はなく、現在においても臨床症候に加えて表面[[筋電図]]などの電気生理学的手法を用いて診断する<ref name=Zutt2018><pubmed>29352095</pubmed></ref>。そのため類似する素早い動きを呈する不随意運動を除外することが診断上重要である<ref name=Zutt2015><pubmed>26553594</pubmed></ref>('''表1''')。 | ||
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しかし実臨床の場では、本邦で比較的よく認められる成人発症のミオクローヌスてんかんである[[良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん]](benign adult familial myoclonus epilepsy: BAFME)で出現する[[皮質振戦]]のように、不随意運動がミオクローヌスと振戦の両者の特徴をあわせもつ場合<ref name=Ikeda1990><pubmed>2215948</pubmed></ref> | しかし実臨床の場では、本邦で比較的よく認められる成人発症のミオクローヌスてんかんである[[良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん]](benign adult familial myoclonus epilepsy: BAFME)で出現する[[皮質振戦]]のように、不随意運動がミオクローヌスと振戦の両者の特徴をあわせもつ場合<ref name=Ikeda1990><pubmed>2215948</pubmed></ref>がある。 | ||
また、[[ミオクローヌスジストニア]]([[DYT11]])の様にミオクローヌスが運動障害の主たる原因となるが、[[ジストニア]]も有するなど複数の不随意運動が併存する疾患<ref name=Kinugawa2009><pubmed>19117361</pubmed></ref> | また、[[ミオクローヌスジストニア]]([[DYT11]])の様にミオクローヌスが運動障害の主たる原因となるが、[[ジストニア]]も有するなど複数の不随意運動が併存する疾患<ref name=Kinugawa2009><pubmed>19117361</pubmed></ref>もあることにも留意する必要がある。複数の不随意運動が混在あるいは併存していると考えられる場合には、あえて1つにまとめようとせず、観察される不随意運動を出来るだけ正確に記載することが、後々の診断において有用であると考えられる。 | ||
ミオクローヌスと診断後、その原因疾患の精査となる<ref name=Zutt2015></ref>)。ミオクローヌスはさまざまな疾患や薬剤の副作用などで認められる('''表2''')<ref name=Brown2013><pubmed>23754854</pubmed></ref>)。また原因疾患の一部では、原因遺伝子も判明している('''表3''')<ref name=Brown2013><pubmed>23754854</pubmed></ref>)。最近の知見としては、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんの原因は[[SAMD12]]などの遺伝子のイントロンにおけるTTTCA あるいは TTTTAリピートの異常伸長であることが本邦から報告された<ref name=Ishiura2018><pubmed>29507423</pubmed></ref>)。またリピートの異常伸長の程度とてんかん発作の発症年齢が逆相関すること([[表現促進現象]])も明らかとなった<ref name=Ishiura2018><pubmed>29507423</pubmed></ref>)。このことは臨床的に報告されていた知見<ref name=Hitomi2012><pubmed>22150818</pubmed></ref>)を裏付ける結果であった。 | ミオクローヌスと診断後、その原因疾患の精査となる<ref name=Zutt2015></ref>)。ミオクローヌスはさまざまな疾患や薬剤の副作用などで認められる('''表2''')<ref name=Brown2013><pubmed>23754854</pubmed></ref>)。また原因疾患の一部では、原因遺伝子も判明している('''表3''')<ref name=Brown2013><pubmed>23754854</pubmed></ref>)。最近の知見としては、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんの原因は''[[SAMD12]]''などの遺伝子のイントロンにおけるTTTCA あるいは TTTTAリピートの異常伸長であることが本邦から報告された<ref name=Ishiura2018><pubmed>29507423</pubmed></ref>)。またリピートの異常伸長の程度とてんかん発作の発症年齢が逆相関すること([[表現促進現象]])も明らかとなった<ref name=Ishiura2018><pubmed>29507423</pubmed></ref>)。このことは臨床的に報告されていた知見<ref name=Hitomi2012><pubmed>22150818</pubmed></ref>)を裏付ける結果であった。 | ||
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|+表2. ミオクローヌスの原因(文献<ref name=Brown2013><pubmed>23754854</pubmed></ref>から改変引用) | |+表2. ミオクローヌスの原因(文献<ref name=Brown2013><pubmed>23754854</pubmed></ref>から改変引用) | ||
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|+表3. ミオクローヌスの原因(文献<ref name=Brown2013><pubmed>23754854</pubmed></ref> | |+表3. ミオクローヌスの原因(文献<ref name=Brown2013><pubmed>23754854</pubmed></ref>から改変引用) | ||
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! 疾患名 !! 原因遺伝子 | ! 疾患名 !! 原因遺伝子 | ||
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| '''クロイツフェルト・ヤコブ病''' (一部) || [[プリオン]]タンパク質遺伝子 | | '''クロイツフェルト・ヤコブ病''' (一部) || [[プリオン]]タンパク質遺伝子 | ||
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| '''若年ミオクロニーてんかん''' (一部) || EFHC1 | | '''若年ミオクロニーてんかん''' (一部) || ''[[EFHC1]]'' | ||
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| '''良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん''' (一部) || SAMD12 | | '''良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん''' (一部) || SAMD12 | ||
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|} | |} | ||
=== 皮質性ミオクローヌス === | === 皮質性ミオクローヌス === | ||
[[大脳皮質]][[ | [[大脳皮質]][[一次感覚野|一次感覚]][[一次運動野|運動野]]の神経細胞の異常により生じる。非常に持続時間の短い不規則な筋収縮で、姿勢時や運動時に出現しやすく,しばしば刺激過敏性を認める。“てんかん性ミオクローヌス”と病態生理的に考えられ、てんかん発作をともなうものも多い。 | ||
皮質性ミオクローヌスはさらに3種類の亜型に分類される。刺激過敏性があり、[[体性感覚]]、[[聴覚]]、[[視覚]]刺激などで誘発される場合は[[皮質反射性ミオクローヌス]]、刺激に無関係に自発的に生じているものを[[自発性皮質性ミオクローヌス]]、自発性であっても身体の一部に限局し、持続性にミオクローヌスが生じている場合には[[持続性部分てんかん]]と分類している。皮質性ミオクローヌスをきたす疾患としては、[[進行性ミオクローヌスてんかん]]、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん、クロイツフェルト・ヤコブ病、無酸素脳症後のミオクローヌス([[Lance-Adams症候群]])、皮質基底核変性症などの各種変性疾患、各種代謝性脳症などがある('''表2''')。このうちクロイツフェルト・ヤコブ病、Lance-Adams症候群などでは皮質下性ミオクローヌスも呈する。 | 皮質性ミオクローヌスはさらに3種類の亜型に分類される。刺激過敏性があり、[[体性感覚]]、[[聴覚]]、[[視覚]]刺激などで誘発される場合は[[皮質反射性ミオクローヌス]]、刺激に無関係に自発的に生じているものを[[自発性皮質性ミオクローヌス]]、自発性であっても身体の一部に限局し、持続性にミオクローヌスが生じている場合には[[持続性部分てんかん]]と分類している。皮質性ミオクローヌスをきたす疾患としては、[[進行性ミオクローヌスてんかん]]、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん、クロイツフェルト・ヤコブ病、無酸素脳症後のミオクローヌス([[Lance-Adams症候群]])、皮質基底核変性症などの各種変性疾患、各種代謝性脳症などがある('''表2''')。このうちクロイツフェルト・ヤコブ病、Lance-Adams症候群などでは皮質下性ミオクローヌスも呈する。 | ||
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=== 皮質性ミオクローヌス === | === 皮質性ミオクローヌス === | ||
各種[[抗てんかん薬]]が有効で、多剤併用療法がより効果的である。[[クロナゼパム]]や[[バルプロ酸]]が広く使用されている。抗てんかん薬の[[プリミドン]]、[[ゾニサミド]]、新規抗てんかん薬としては[[レベチラセタム]]や抗ミオクローヌス薬である[[ピラセタム]]も皮質性ミオクローヌスに有効である。また新規抗てんかん薬である[[ペランパネル]]もてんかんおよびも皮質性ミオクローヌスに有効であることが最近報告された<ref name=Oi2019><pubmed>31401489</pubmed></ref>。なお持続性部分てんかんと考えられる場合には[[てんかん重積状態]]として治療を行う。 | |||
抗てんかん薬の[[フェニトイン]]は皮質性ミオクローヌスに有効だが、長期的には進行性ミオクローヌスてんかんの1つであるウンフェルリヒト・ルンドボルグ病において平均寿命を短縮し認知機能低下を来たすことが報告されており長期使用には慎重を要する<ref name=Eldridge1983><pubmed>6137660</pubmed></ref>。[[カルバマゼピン]]も一般に皮質性ミオクローヌスに有効だが、増悪例も報告されている。ガバペンチンも良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんの増悪例が報告されている<ref name=Striano2007><pubmed>17645541</pubmed></ref>。 | 抗てんかん薬の[[フェニトイン]]は皮質性ミオクローヌスに有効だが、長期的には進行性ミオクローヌスてんかんの1つであるウンフェルリヒト・ルンドボルグ病において平均寿命を短縮し認知機能低下を来たすことが報告されており長期使用には慎重を要する<ref name=Eldridge1983><pubmed>6137660</pubmed></ref>。[[カルバマゼピン]]も一般に皮質性ミオクローヌスに有効だが、増悪例も報告されている。ガバペンチンも良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんの増悪例が報告されている<ref name=Striano2007><pubmed>17645541</pubmed></ref>。 |