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==  '''ステロイドの構造 '''  ==
==  '''ステロイドの構造 '''  ==


[[Image:Steroid structure.png|thumb|right|200px|ステロイド核の構造]]
[[Image:Steroid structure.png|thumb|right|200px|'''図1.ステロイド核の構造''']]


 ステロイド核とは、シクロペンタノペルヒドロフェナントレン核のことを指し、3つのイス型六員環と1つの五員環がつながった構造を持つ<ref>{{cite journal | journal = [[Pure & Appl. Chem.]] | volume = 61 | issue = 10 | pages = 1783–1822 | year = 1989 | title = Nomenclature of Steroids (Recommendations 1989) | author = G. P. Moss }}</ref>。右図のように構造式を書いた場合、それぞれの環を左下から順にA環、B環、C環、D環と呼ぶ。一部あるいはすべての炭素が水素化され、通常はC-10とC-13にメチル基を、また多くの場合C-17にアルキル基を有する。生体物質としてのステロイドはC-3位がヒドロキシル化もしくはカルボニル化されたステロール類である。  
 ステロイド核とは、シクロペンタノペルヒドロフェナントレン核のことを指し、3つのイス型六員環と1つの五員環がつながった構造を持つ<ref>{{cite journal | journal = [[Pure & Appl. Chem.]] | volume = 61 | issue = 10 | pages = 1783–1822 | year = 1989 | title = Nomenclature of Steroids (Recommendations 1989) | author = G. P. Moss }}</ref>。図1のように構造式を書いた場合、それぞれの環を左下から順にA環、B環、C環、D環と呼ぶ。一部あるいはすべての炭素が水素化され、通常はC-10とC-13にメチル基を、また多くの場合C-17にアルキル基を有する。生体物質としてのステロイドはC-3位がヒドロキシル化もしくはカルボニル化されたステロール類である。  


== &nbsp;'''生体内ステロイド '''&nbsp;  ==
== &nbsp;'''生体内ステロイド '''&nbsp;  ==
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=== コレステロール  ===
=== コレステロール  ===


[[Image:Cholesterol.png|thumb|right|200px|コレステロールの構造]]
[[Image:Cholesterol.png|thumb|right|200px|[[図2.コレステロールの構造]]]]


 コレステロールの分子式はC27H46Oで表わされ、ステロイド核の3位の炭素にOH基がついたステロールを基礎骨格とし、17位の炭素はアルキル化されている。動物では、コレステールの一部は食事から摂取されるが、主に肝臓と小腸でアセチルCoAより合成され、血液を介して全身に運ばれ、ホルモンや胆汁酸、ビタミンDの原料となる。また、コレステロールは、リン脂質と共に代表的な細胞膜の成分であり、コレステロールに富む膜領域は膜の流動性が低いことが知られる。細胞膜マイクロドメインとして知られるカベオラや脂質ラフトは、コレステロールやスフィンゴミエリンに富んでおり、受容体タンパク質の集積やシグナル伝達が行われる場として研究が行われている。
 コレステロールの分子式はC27H46Oで表わされ、ステロイド核の3位の炭素にOH基がついたステロールを基礎骨格とし、17位の炭素はアルキル化されている。動物では、コレステールの一部は食事から摂取されるが、主に肝臓と小腸でアセチルCoAより合成され、血液を介して全身に運ばれ、ホルモンや胆汁酸、ビタミンDの原料となる。また、コレステロールは、リン脂質と共に代表的な細胞膜の成分であり、コレステロールに富む膜領域は膜の流動性が低いことが知られる。細胞膜マイクロドメインとして知られるカベオラや脂質ラフトは、コレステロールやスフィンゴミエリンに富んでおり、受容体タンパク質の集積やシグナル伝達が行われる場として研究が行われている。
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=== 胆汁酸  ===
=== 胆汁酸  ===


[[Image:Cholic and deoxycholic.png|thumb|right|200px|コール酸とデオキシコール酸の構造]]
[[Image:Cholic and deoxycholic.png|thumb|right|200px|'''図3.コール酸とデオキシコール酸の構造''']]


 胆汁酸(bile acid)は、胆汁に含まれるステロイド誘導体の総称であり、ヒトではコール酸やデオキシコール酸がその代表である。胆汁酸は、肝臓にて[[シトクロムP450]]の作用によるコレステロールの酸化により合成される。胆汁酸は通常、グリシンやタウリンと結合して、グリココール酸(C26H43NO6)、やタウロコール酸(C26H45NO7S)等の抱合体として胆嚢に蓄積され、ビリルビンと共に胆汁として十二指腸に排出される。胆汁酸の主な役割は、脂質の乳化を促進し、食物脂肪の吸収を助けることである。&nbsp;
 胆汁酸(bile acid)は、胆汁に含まれるステロイド誘導体の総称であり、ヒトではコール酸やデオキシコール酸がその代表である。胆汁酸は、肝臓にて[[シトクロムP450]]の作用によるコレステロールの酸化により合成される。胆汁酸は通常、グリシンやタウリンと結合して、グリココール酸(C26H43NO6)、やタウロコール酸(C26H45NO7S)等の抱合体として胆嚢に蓄積され、ビリルビンと共に胆汁として十二指腸に排出される。胆汁酸の主な役割は、脂質の乳化を促進し、食物脂肪の吸収を助けることである。&nbsp;
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=== ビタミンD  ===
=== ビタミンD  ===


[[Image:Provitamin to vitamin.png|thumb|right|200px|プロビタミンからビタミンDへの変換]]  
[[Image:Provitamin to vitamin.png|thumb|right|200px|'''図4.プロビタミンからビタミンDへの変換''']]  


 ビタミンDは、ステロイド核のB環が9-10位の間で開環した構造を持つ。ビタミンDは側鎖構造の違いから、D2(エルゴカルシフェロール)とD3(コレカルシフェロール)に分けられ、D2は植物に、D3は動物に多く含まれる。ビタミンDは、コレステロールが代謝を受けてプロビタミンD3(7-デヒドロコレステロール)となった後、皮膚上で紫外線によりステロイド核のB環が開きプレビタミンD3((6Z)-タカルシオール)となる(右図)。プレビタミンD3は更に、ビタミンD3(コレカルシフェロール)へと異性化する。ビタミンD自体は生理活性を持たないが、肝臓と腎臓にて3つのP450(ビタミンD25-水酸化酵素、ビタミンD1α-水酸化酵素、ビタミンD24-水酸化酵素)の働きにより活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール)へと変換され、ビタミンD受容体を介して核内の標的遺伝子の転写活性を制御することによって作用を発揮する<ref name="takemori">武森重樹<br>ステロイドホルモン<br>共立出版1998 </ref>。標的遺伝子の1つとしてカルシウム結合タンパク質であるカルビンディンが挙げられる。ビタミンD受容体は小腸、腎臓、骨組織に存在しておりカルシウム代謝と密接な関わりを持ち、腸管におけるカルシウムの吸収や腎尿細管におけるカルシウムの再吸収を促進する。活性型ビタミンDの不足は小児ではくる病、成人では骨軟化症となる。
 ビタミンDは、ステロイド核のB環が9-10位の間で開環した構造を持つ。ビタミンDは側鎖構造の違いから、D2(エルゴカルシフェロール)とD3(コレカルシフェロール)に分けられ、D2は植物に、D3は動物に多く含まれる。ビタミンDは、コレステロールが代謝を受けてプロビタミンD3(7-デヒドロコレステロール)となった後、皮膚上で紫外線によりステロイド核のB環が開きプレビタミンD3((6Z)-タカルシオール)となる(図4)。プレビタミンD3は更に、ビタミンD3(コレカルシフェロール)へと異性化する。ビタミンD自体は生理活性を持たないが、肝臓と腎臓にて3つのP450(ビタミンD25-水酸化酵素、ビタミンD1α-水酸化酵素、ビタミンD24-水酸化酵素)の働きにより活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール)へと変換され、ビタミンD受容体を介して核内の標的遺伝子の転写活性を制御することによって作用を発揮する<ref name="takemori">武森重樹<br>ステロイドホルモン<br>共立出版1998 </ref>。標的遺伝子の1つとしてカルシウム結合タンパク質であるカルビンディンが挙げられる。ビタミンD受容体は小腸、腎臓、骨組織に存在しておりカルシウム代謝と密接な関わりを持ち、腸管におけるカルシウムの吸収や腎尿細管におけるカルシウムの再吸収を促進する。活性型ビタミンDの不足は小児ではくる病、成人では骨軟化症となる。


=== ステロイドホルモン  ===
=== ステロイドホルモン  ===
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==== ステロイドホルモンの生合成  ====
==== ステロイドホルモンの生合成  ====


[[Image:Steroid synthesis.png|thumb|right|200px|ステロイドホルモンの生合成]]
[[Image:Steroid synthesis.png|thumb|right|200px|'''図5.ステロイドホルモンの生合成''']]


 全てのステロイドホルモンはコレステロールより合成される(右図)<ref name="takemori" />。炭素数27のコレステロールは、コレステロール側鎖切断酵素(P450 scc)の作用により、側鎖(炭素数6)が切断されてプレグネノロン(炭素数21)となる。この過程はすべてのステロイドホルモン分泌器官で共通したプロセスである。最終的に、副腎では炭素数は21の[[糖質コルチコイド]]と[[鉱質コルチコイド]]が、また精巣では炭素数がさらに2個減少した[[アンドロゲン]](炭素数19)が、卵巣では炭素数が1個減少した[[エストロゲン]](炭素数18)が生成される。 以下に挙げるものがステロイドホルモン合成酵素であり、これらのうち、3β-HSDと17β-HSD以外はシトクロムP450である。どの酵素も小胞体膜かミトコンドリア内膜のどちらかに局在する。  
 全てのステロイドホルモンはコレステロールより合成される(図5)<ref name="takemori" />。炭素数27のコレステロールは、コレステロール側鎖切断酵素(P450 scc)の作用により、側鎖(炭素数6)が切断されてプレグネノロン(炭素数21)となる。この過程はすべてのステロイドホルモン分泌器官で共通したプロセスである。最終的に、副腎では炭素数は21の[[糖質コルチコイド]]と[[鉱質コルチコイド]]が、また精巣では炭素数がさらに2個減少した[[アンドロゲン]](炭素数19)が、卵巣では炭素数が1個減少した[[エストロゲン]](炭素数18)が生成される。 以下に挙げるものがステロイドホルモン合成酵素であり、これらのうち、3β-HSDと17β-HSD以外はシトクロムP450である。どの酵素も小胞体膜かミトコンドリア内膜のどちらかに局在する。  


* コレステロール側鎖切断酵素(cholesterole side chain cleavage, P450 scc)
* コレステロール側鎖切断酵素(cholesterole side chain cleavage, P450 scc)
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=== ニューロステロイド   ===
=== ニューロステロイド   ===


 脳で合成されるステロイドをニューロステロイドと呼ぶ。ニューロステロイドの研究は、フランスの内分泌学者Baulieuが1981年にラットの脳にプレグネノロンとデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)を見出したことより始まり、現在では、脊椎動物のほとんどがニューロステロイドを合成していることが知られる<ref><pubmed>19505496 </pubmed></ref>。ニューロステロイドは、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトのすべての細胞種で合成されるが、発現するステロイド合成酵素の種類は細胞間で違いが見られる<ref><pubmed>10433246</pubmed></ref>。アストロサイトでは、P450scc, P450c17, 3βHSD, 17βHSD, P450aromを発現し、プレグネノロン、プロゲステロン、デヒドロエピアンドロステンジオン、アンドロゲン、エスロロゲンを合成している。ニューロンもほぼアストロサイトと同様の合成酵素発現を示すが、17βHSDを持たずテストステロン合成を行わない点でアストロサイトと異なる。オリゴデンドロサイトはP450sccと3βHSDを発現し、プレグネノロンとプロゲステロンを合成する。<br>&nbsp;小脳プルキンエ細胞は、P450sccや3βHSD、ステロイド硫酸基転移酵素(HST)を発現しており、プレグネノロン、プレグネノロン硫酸エステル、プロゲステロン、プロゲステロン代謝ステロイド(3α,5α-テトラハイドロプロゲステロン)を合成する<ref><pubmed> 10771104</pubmed></ref><ref><pubmed> 10373637</pubmed></ref>。 プロゲステロンは、新生児期の小脳において合成が活発となり、プルキンエ細胞の樹状突起伸長やスパイン形成を促進する<ref><pubmed>11487645</pubmed></ref> <ref><pubmed>11958856</pubmed></ref>。またプレグネノロン硫酸エステルは傍分泌により、プルキンエ細胞に投射するGABAニューロンに作用し、GABAの放出頻度を増加させることが報告されている<ref><pubmed>10373637</pubmed></ref>。  
 脳で合成されるステロイドをニューロステロイドと呼ぶ。ニューロステロイドの研究は、フランスの内分泌学者Baulieuが1981年にラットの脳にプレグネノロンとデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)を見出したことより始まり、現在では、脊椎動物のほとんどがニューロステロイドを合成していることが知られる<ref><pubmed>19505496 </pubmed></ref>。ニューロステロイドは、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトのすべての細胞種で合成されるが、発現するステロイド合成酵素の種類は細胞間で違いが見られる<ref><pubmed>10433246</pubmed></ref>。アストロサイトでは、P450scc, P450c17, 3βHSD, 17βHSD, P450aromを発現し、プレグネノロン、プロゲステロン、デヒドロエピアンドロステンジオン、アンドロゲン、エスロロゲンを合成している。ニューロンもほぼアストロサイトと同様の合成酵素発現を示すが、17βHSDを持たずテストステロン合成を行わない点でアストロサイトと異なる。オリゴデンドロサイトはP450sccと3βHSDを発現し、プレグネノロンとプロゲステロンを合成する。
 
 小脳プルキンエ細胞は、P450sccや3βHSD、ステロイド硫酸基転移酵素(HST)を発現しており、プレグネノロン、プレグネノロン硫酸エステル、プロゲステロン、プロゲステロン代謝ステロイド(3α,5α-テトラハイドロプロゲステロン)を合成する<ref><pubmed> 10771104</pubmed></ref><ref><pubmed> 10373637</pubmed></ref>。 プロゲステロンは、新生児期の小脳において合成が活発となり、プルキンエ細胞の樹状突起伸長やスパイン形成を促進する<ref><pubmed>11487645</pubmed></ref> <ref><pubmed>11958856</pubmed></ref>。またプレグネノロン硫酸エステルは傍分泌により、プルキンエ細胞に投射するGABAニューロンに作用し、GABAの放出頻度を増加させることが報告されている<ref><pubmed>10373637</pubmed></ref>。  


 この用語にリダイレクトする関連語:ステロイドホルモン、コレステロール、胆汁酸、ビタミンD、副腎皮質ホルモン、グルココルチコイド、ミネラルコルチコイド、性ホルモン、女性ホルモン、卵巣ホルモン、男性ホルモン、精巣ホルモン、エストロゲン、アンドロゲン、テストステロン、プロゲステロン、ニューロステロイド  
 この用語にリダイレクトする関連語:ステロイドホルモン、コレステロール、胆汁酸、ビタミンD、副腎皮質ホルモン、グルココルチコイド、ミネラルコルチコイド、性ホルモン、女性ホルモン、卵巣ホルモン、男性ホルモン、精巣ホルモン、エストロゲン、アンドロゲン、テストステロン、プロゲステロン、ニューロステロイド  

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