「脊髄小脳変性症」の版間の差分

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== 治療 ==
== 治療 ==
 脊髄小脳変性症の根本的治療法は、いまだ確立されていない。本邦で小脳失調症状の改善を目的として、TRH (thyrotropin releasing hormone) 誘導体が使用されている。TRH誘導体使用の経緯は、1970年代初頭に開発された失調症モデルマウスであるrolling mouse Nagoyaの解析に由来する<ref name=織田鉄一1973>織田鉄一. (1973) <br>歩行異常マウスの発見と維持. 実験動物. 22, 281-288</ref> 。このマウスは、のちにP/Q-type Ca2+ channelsに変異を有していることが明かとなっている<ref name=Mori2000><pubmed>10908603</pubmed></ref> 。このrolling mouse Nagoyaでは、小脳脳幹部のTRH含有量が減少していること<ref name=祖父江逸郎1977>祖父江逸郎. (1977)<br> 視床下部ホルモンと中枢神経機能との新しい接点TRHと運動失調との関連をめぐって. 臨床神経学. 17, 791-799</ref> 、小脳ではノルアドレナリン神経終末に異常があることが報告され<ref name=Adachi1975><pubmed></pubmed></ref> 、TRHはノルアドレナリンのturnoverに関与することなどから、TRH投与が失調症状改善につながると可能性が期待された。実際にrolling mouse Nagoya にTRHを投与により失調症状に有効であることが示され<ref name=小長谷正明1980>小長谷正明, 高柳哲也, 室賀辰夫, 他. (1980) RollingmouseNagoyaの脳内ノルアドレナリン代謝とthyrotropinreleasinghormoneの影響. 臨床神経学. 20, 181-188</ref> 、その後本邦の多施設での治験を経て1985年に点滴用TRH製剤であるプロチレリン酒石酸が脊髄小脳変性症の運動失調症状の改善として保険適応となり<ref name=祖父江1982>祖父江逸郎, 高柳哲也, 中西孝. (1982)<br> 脊髄小脳変性症に対するThyrotropin Releasing Hormone Tartrateの治療研究 二重盲検比較対照臨床試験による検討. 神経研究の進歩. 26, 1190-1214</ref> 、2000年以降は内服のTRH製剤であるタルチレリン水和物が脊髄小脳変性症の運動失調の改善を目的として使用されている<ref name=金澤一郎1997>金澤一郎, 里吉栄二郎, 平山惠造他. (1997) <br>Taltirelin hydrate(TA-0910)の脊髄小脳変性症に対する臨床評価 プラセボを対照とした臨床第III相二重盲検比較試験. 臨床医薬. 13, 4169-4224</ref> 。タルチレリン水和物の失調症状の改善効果は極めて限定的であり、現在より効果の強いTRH製剤の開発が行われている<ref name=Nishizawa2020><pubmed>31937586</pubmed></ref> 。
 脊髄小脳変性症の根本的治療法は、いまだ確立されていない。本邦で小脳失調症状の改善を目的として、TRH (thyrotropin releasing hormone) 誘導体が使用されている。TRH誘導体使用の経緯は、1970年代初頭に開発された失調症モデルマウスであるrolling mouse Nagoyaの解析に由来する<ref name=織田鉄一1973>'''織田鉄一 (1973)'''<br>歩行異常マウスの発見と維持. 実験動物. 22, 281-288</ref> 。このマウスは、のちにP/Q-type Ca2+ channelsに変異を有していることが明かとなっている<ref name=Mori2000><pubmed>10908603</pubmed></ref> 。このrolling mouse Nagoyaでは、小脳脳幹部のTRH含有量が減少していること<ref name=祖父江逸郎1977>'''祖父江逸郎 (1977)'''<br> 視床下部ホルモンと中枢神経機能との新しい接点TRHと運動失調との関連をめぐって. 臨床神経学. 17, 791-799</ref> 、小脳ではノルアドレナリン神経終末に異常があることが報告され<ref name=Adachi1975>'''Adachi, K. (1975).'''<br>Changes in the cerebellar noradrenaline nerve terminals of the neurological murine mutant rolling mouse Nagoya : A histofluorescence analysis. Neurobiol and Neurophys. 3, 329-330 [https://ci.nii.ac.jp/naid/10030205506/ PDF]</ref> 、TRHはノルアドレナリンのturnoverに関与することなどから、TRH投与が失調症状改善につながると可能性が期待された。実際にrolling mouse Nagoya にTRHを投与により失調症状に有効であることが示され<ref name=小長谷正明1980>'''小長谷正明, 高柳哲也, 室賀辰夫他 (1980)'''<br>RollingmouseNagoyaの脳内ノルアドレナリン代謝とthyrotropinreleasinghormoneの影響. 臨床神経学. 20, 181-188</ref> 、その後本邦の多施設での治験を経て1985年に点滴用TRH製剤であるプロチレリン酒石酸が脊髄小脳変性症の運動失調症状の改善として保険適応となり<ref name=祖父江1982>'''祖父江逸郎, 高柳哲也, 中西孝 (1982).'''<br> 脊髄小脳変性症に対するThyrotropin Releasing Hormone Tartrateの治療研究 二重盲検比較対照臨床試験による検討. 神経研究の進歩. 26, 1190-1214</ref> 、2000年以降は内服のTRH製剤であるタルチレリン水和物が脊髄小脳変性症の運動失調の改善を目的として使用されている<ref name=金澤一郎1997>'''金澤一郎, 里吉栄二郎, 平山惠造他 (1997).'''<br>Taltirelin hydrate(TA-0910)の脊髄小脳変性症に対する臨床評価 プラセボを対照とした臨床第III相二重盲検比較試験. 臨床医薬. 13, 4169-4224</ref> 。タルチレリン水和物の失調症状の改善効果は極めて限定的であり、現在より効果の強いTRH製剤の開発が行われている<ref name=Nishizawa2020><pubmed>31937586</pubmed></ref> 。


 脊髄小脳変性症などの神経変性疾患では、運動機能の維持、合併症の予防目的にリハビリテーションが実施されている。脊髄小脳変性症において、短期集中リハビリテーションが有効であることを日本の「運動失調症の病態解明と治療法開発に関する研究」を中心とする研究班での研究により示されている。このリハビリテーションの研究 (Trial for Cerebellar Ataxia Rehabilitation, CAR trial) では、小脳症状が主体であるSCA6、SCA31、皮質性小脳萎縮症患者に対して、1日1~2時間、週3~7回、4週間のバランスや歩行を中心とした短期集中リハビリテーションにより、運動失調や歩行の改善を認め、かつその効果が半年~1年継続することが示されている<ref name=Miyai2012><pubmed>22140200</pubmed></ref> 。
 脊髄小脳変性症などの神経変性疾患では、運動機能の維持、合併症の予防目的にリハビリテーションが実施されている。脊髄小脳変性症において、短期集中リハビリテーションが有効であることを日本の「運動失調症の病態解明と治療法開発に関する研究」を中心とする研究班での研究により示されている。このリハビリテーションの研究 (Trial for Cerebellar Ataxia Rehabilitation, CAR trial) では、小脳症状が主体であるSCA6、SCA31、皮質性小脳萎縮症患者に対して、1日1~2時間、週3~7回、4週間のバランスや歩行を中心とした短期集中リハビリテーションにより、運動失調や歩行の改善を認め、かつその効果が半年~1年継続することが示されている<ref name=Miyai2012><pubmed>22140200</pubmed></ref> 。
また現在まで、非常に種々の薬物等で治験が実施されており、現在も治験が進行中である (表4) 。一部は部分的に効果を認めているが、多くは効果を示すことができていない。今後は、遺伝性脊髄小脳変性症に対する核酸医療の開発も期待されている。
 
 また現在まで、非常に種々の薬物等で治験が実施されており、現在も治験が進行中である ('''表4''') 。一部は部分的に効果を認めているが、多くは効果を示すことができていない。今後は、遺伝性脊髄小脳変性症に対する核酸医療の開発も期待されている。


== 疫学 ==
== 疫学 ==

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