「銅・亜鉛-スーパーオキシドディスムターゼ」の版間の差分

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== 機能 ==
== 機能 ==
=== 酵素活性 ===
=== 酵素活性 ===
 好気性生物の細胞内呼吸であるミトコンドリアの電子伝達系からは、酸素が不完全に還元されたスーパーオキシドアニオンラジカル(以下スーパーオキシド)が漏れ出ている。SODは最初のラジカル消去に働く最も重要な抗酸化酵素である。SODはスーパーオキシドを過酸化水素と酸素に変換する不均化反応 2O2・- + 2H+ → O2 + H2O2 を触媒する。不均化反応とは、同一種の基質が2種類以上の異なる種類の生成物を与える化学反応のことである。SOD1の場合は、2価の銅イオンがO2・-をO2に酸化して銅イオンは1価になり、その1価の銅イオンがO2・-をH2O2に還元して銅イオンは2価に戻ることを繰り返している。活性中心がFe (3価 ⇔ 2価)やMn (3価 ⇔ 2価)でも同様の触媒機構が働いている(図3A)。銅イオンや鉄イオンが存在すると過酸化水素と反応してより毒性の高いヒドロキシラジカル(・OH)ができてしまうので、生成した過酸化水素はカタラーゼやグルタチオンペルオキシダーゼなどによって水にまで還元される(図3B)。電子伝達系以外にキサンチンオキシダーゼやNADPHオキシダーゼによってもスーパーオキシドは産生される。
 [[好気性生物]]の細胞内呼吸であるミトコンドリアの[[電子伝達系]]からは、酸素が不完全に還元された[[スーパーオキシドアニオンラジカル]](以下[[スーパーオキシド]])が漏れ出ている。SODは最初の[[ラジカル]]消去に働く最も重要な抗酸化酵素である。
 
 SODはスーパーオキシドを[[過酸化水素]]と[[酸素]]に変換する不均化反応 2O<sub>2</sub><sup>・-</sup> + 2H<sup>+</sup> O<sub>2</sub> + H<sub>2</sub>O<sub>2</sub> を触媒する。不均化反応とは、同一種の基質が2種類以上の異なる種類の生成物を与える化学反応のことである。SOD1の場合は、2価の銅イオンがO<sub>2</sub><sup>・-</sup>をO<sub>2</sub>に酸化して銅イオンは1価になり、その1価の銅イオンがO<sub>2</sub><sup>・-</sup>をH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>に還元して銅イオンは2価に戻ることを繰り返している。活性中心がFe (3価 ⇔ 2価)やMn (3価 ⇔ 2価)でも同様の触媒機構が働いている(図3A)。
 
 銅イオンや鉄イオンが存在すると過酸化水素と反応してより毒性の高い[[ヒドロキシラジカル]](・OH)ができてしまうので、生成した過酸化水素は[[カタラーゼ]]や[[グルタチオンペルオキシダーゼ]]などによって水にまで還元される(図3B)。
 
 電子伝達系以外に[[キサンチンオキシダーゼ]]や[[NADPHオキシダーゼ]]によってもスーパーオキシドは産生される。


=== ミトコンドリア呼吸抑制能 ===
=== ミトコンドリア呼吸抑制能 ===
 SOD1はミトコンドリアから漏出するスーパーオキシドの消去以外に、ミトコンドリアの酸素呼吸そのものを低下させる役割を持つことが明らかになってきた<ref name=Sehati2011><pubmed>21397007</pubmed></ref><ref name=Reddi2013><pubmed>23332757</pubmed></ref>[77,78]。Lys122残基(図5, ALS変異未定)のアセチル化がSOD1の酵素活性には影響せずにSOD1がもつミトコンドリア呼吸抑制能を低下させることも報告されている<ref name=Banks2017><pubmed>28739857</pubmed></ref>[79]。多くの代謝酵素や転写因子のリシン残基のアセチル化やスクシニル化がミトコンドリア呼吸をはじめとする細胞内代謝を制御することがわかってきており [80]、SOD1のアセチル化もその一つだと考えられている。
 SOD1はミトコンドリアから漏出するスーパーオキシドの消去以外に、ミトコンドリアの酸素呼吸そのものを低下させる役割を持つことが明らかになってきた<ref name=Sehati2011><pubmed>21397007</pubmed></ref><ref name=Reddi2013><pubmed>23332757</pubmed></ref>[77,78]。Lys122残基(図5, ALS変異未定)の[[アセチル化]]がSOD1の酵素活性には影響せずにSOD1がもつミトコンドリア呼吸抑制能を低下させることも報告されている<ref name=Banks2017><pubmed>28739857</pubmed></ref>[79]。多くの代謝酵素や[[転写因子]]のリシン残基のアセチル化や[[スクシニル化]]がミトコンドリア呼吸をはじめとする細胞内代謝を制御することがわかってきており [80]、SOD1のアセチル化もその一つだと考えられている。


=== 転写制御因子としての作用 ===
=== 転写制御因子としての作用 ===
 SOD1が酸化ストレス刺激で核内に入り、DNAに結合し、DNA修復遺伝子、ALSに関係する遺伝子、がん遺伝子やCu/Fe恒常遺伝子などの発現を制御する機能が報告されている<ref name=Tsang2014><pubmed>24647101</pubmed></ref><ref name=Li2019><pubmed>31162603</pubmed></ref>[81, 82]。
 SOD1が酸化ストレス刺激で核内に入り、[[DNA]]に結合し、DNA修復遺伝子、ALSに関係する遺伝子、[[がん遺伝子]]やCu/Fe恒常遺伝子などの発現を制御する機能が報告されている<ref name=Tsang2014><pubmed>24647101</pubmed></ref><ref name=Li2019><pubmed>31162603</pubmed></ref>[81, 82]。


=== 分泌SOD1のパラクライン作用 ===
=== 分泌SOD1のパラクライン作用 ===
 細胞質に存在するSOD1が小胞体(ER)-ゴルジ経路で細胞外に輸送され<ref name=Urushitani2008><pubmed>18337461</pubmed></ref>[83]、特に変異SOD1はクロモグラニンBと結合して分泌され細胞毒性に関与していることが報告された<ref name=Urushitani2006><pubmed>16369483</pubmed></ref>[84]。さらに、細胞外のカリウムイオンによって誘導された脱分極によってSOD1が細胞外に分泌されること<ref name=Cruz-Garcia2017><pubmed>28794127</pubmed></ref>[85]や神経細胞においてSOD1がムスカリン性アセチルコリン受容体を介してERK1/2とAKTを活性化すること<ref name=Damiano2013><pubmed>23147108</pubmed></ref>[86]が報告されている。また細胞外に放出されたミスフォールドSOD1が隣接する細胞に取り込まれ、その細胞内のSOD1をミスフォールディングさせるプリオン伝播作用を示すことが提唱された><<ref name=Grad2014><pubmed>25551548</pubmed></ref>[87, 88]。さらに、ALS患者脳脊髄液中に存在する可溶性ミスフォールド野生型SOD1が運動ニューロン様細胞に対して細胞毒性を示す<ref name=Tokuda2019><pubmed>31744522</pubmed></ref>[27]。そこで、細胞外(脳脊髄液)のミスフォールドSOD1をターゲットにした新たなALS治療法が開発されるようになってきた。マウスを用いた実験段階であるが、ミスフォールドSOD1に特異的な抗体を髄腔内投与する療法やSOD1を投与して生体内で抗体を作らせるワクチン療法の効果が報告されている<ref name=Urushitani2007><pubmed>17277077</pubmed></ref><ref name=Takeuchi2010><pubmed>20838241</pubmed></ref>[89, 90]。さらにはSOD1の翻訳を阻害する核酸医薬の開発競争も始まっている<ref name=Ralph2005><pubmed>15768029</pubmed></ref><ref name=Stoica2016><pubmed>26891182</pubmed></ref><ref name=Mueller2020><pubmed>32640133</pubmed></ref>[91, 92, 93]。既にSOD1変異を持つ患者に対して、SOD1 mRNAを分解するアンチセンス薬tofersenの髄腔内投与の効果・安全性を検討する第1/第2相試験が行われており、第3相試験への期待が高まっている<ref name=Miller2020><pubmed>32640130</pubmed></ref>[94]。
 細胞質に存在するSOD1が[[小胞体]](ER)-[[ゴルジ体]]経路で細胞外に輸送され<ref name=Urushitani2008><pubmed>18337461</pubmed></ref>[83]、特に変異SOD1は[[クロモグラニンB]]と結合して分泌され細胞毒性に関与していることが報告された<ref name=Urushitani2006><pubmed>16369483</pubmed></ref>[84]。さらに、細胞外のカリウムイオンによって誘導された[[脱分極]]によってSOD1が細胞外に分泌されること<ref name=Cruz-Garcia2017><pubmed>28794127</pubmed></ref>[85]や神経細胞においてSOD1が[[ムスカリン性アセチルコリン受容体]]を介して[[ERK1]]/[[ERK2|2]]と[[AKT]]を活性化すること<ref name=Damiano2013><pubmed>23147108</pubmed></ref>[86]が報告されている。
 
 また細胞外に放出されたミスフォールドSOD1が隣接する細胞に取り込まれ、その細胞内のSOD1をミスフォールディングさせる[[プリオン]]伝播作用を示すことが提唱された><<ref name=Grad2014><pubmed>25551548</pubmed></ref>[87, 88]。さらに、ALS患者脳脊髄液中に存在する可溶性ミスフォールド野生型SOD1が運動ニューロン様細胞に対して細胞毒性を示す<ref name=Tokuda2019><pubmed>31744522</pubmed></ref>[27]。そこで、細胞外([[脳脊髄液]])のミスフォールドSOD1をターゲットにした新たなALS治療法が開発されるようになってきた。マウスを用いた実験段階であるが、ミスフォールドSOD1に特異的な抗体を髄腔内投与する療法やSOD1を投与して生体内で抗体を作らせる[[ワクチン療法]]の効果が報告されている<ref name=Urushitani2007><pubmed>17277077</pubmed></ref><ref name=Takeuchi2010><pubmed>20838241</pubmed></ref>[89, 90]。


 さらにはSOD1の翻訳を阻害する[[核酸医薬]]の開発競争も始まっている<ref name=Ralph2005><pubmed>15768029</pubmed></ref><ref name=Stoica2016><pubmed>26891182</pubmed></ref><ref name=Mueller2020><pubmed>32640133</pubmed></ref>[91, 92, 93]。既にSOD1変異を持つ患者に対して、SOD1 mRNAを分解する[[アンチセンス薬]][[tofersen]]の髄腔内投与の効果・安全性を検討する第1/第2相試験が行われており、第3相試験への期待が高まっている<ref name=Miller2020><pubmed>32640130</pubmed></ref>[94]。


== 構造 ==
== 構造 ==

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