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細 (→脳梁とは) |
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<font size="+1">[http://researchmap.jp/yukatsuyama 勝山 裕]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/yukatsuyama 勝山 裕]</font><br> | ||
'' | ''滋賀医科大学 解剖学講座''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年1月9日 原稿完成日:2014年11月9日<br> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年1月9日 原稿完成日:2014年11月9日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br> | ||
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英:development of corpus callosum 独:Entwicklung des Corpus Callosum 仏:développement du corps calleux | 英:development of corpus callosum 独:Entwicklung des Corpus Callosum 仏:développement du corps calleux | ||
{{box|text= | {{box|text= 脳梁は大脳の両半球をつなぐ交連繊維からなる構造である。この繊維は大脳皮質のII/III層を形成するニューロン(交連ニューロン)の軸索である。脳梁の発生はこれらニューロンの分化から始まる。大脳皮質において浅層(脳表面に近い層)のニューロンは深層(脳室、白質に近いニューロン)に較べて遅く分化する。交連ニューロンの軸索は大脳半球では白質に向かった後、正中において交差し脳梁を形成する。この軸索伸張を制御する様々なシグナル分子が報告されている。脳梁発生異常とヒト精神疾患との関連が指摘されている。}}[[Image:Corpus callosum.gif|thumb|right|300px|<b>図 脳梁(赤)</b><br />Wikipediaより]] | ||
脳梁は大脳の両半球をつなぐ交連繊維からなる構造である。この繊維は大脳皮質のII/III層を形成するニューロン(交連ニューロン)の軸索である。脳梁の発生はこれらニューロンの分化から始まる。大脳皮質において浅層(脳表面に近い層)のニューロンは深層(脳室、白質に近いニューロン)に較べて遅く分化する。交連ニューロンの軸索は大脳半球では白質に向かった後、正中において交差し脳梁を形成する。この軸索伸張を制御する様々なシグナル分子が報告されている。脳梁発生異常とヒト精神疾患との関連が指摘されている。 [[Image:Corpus callosum.gif|thumb|right|300px|<b>図 脳梁(赤)</b><br />Wikipediaより]] | |||
== 脳梁とは == | == 脳梁とは == | ||
[[ | [[wj:哺乳類|哺乳類]]([[wj:単孔類|単孔類]]や[[wj:有袋類|有袋類]]では脳梁を欠く)において左右の[[大脳半球]]をつなぐ[[交連線維]]の束であり、両大脳半球間の情報連絡を行う。脳を頭頂から観察すると大脳縦列の底に存在する。矢状方向の断面でみると[[大脳皮質]][[帯状回]]と[[側脳室]]もしくは正中では[[透明中隔]]に挟まれた位置にあり、各領域は前方から[[脳梁吻]]、[[脳梁膝]]、[[脳梁幹]]、[[脳梁膨大]]と呼ばれている。[[wj:ヒト|ヒト]]の脳では約2億本の神経線維([[軸索]])からなる。[[自閉症スペクトラム障害]]において再現性よく交連ニューロンの低形成による脳梁形成不全が観察される<ref><pubmed> 17620483</pubmed></ref><ref><pubmed> 19409535</pubmed></ref><ref><pubmed> 16460701 </pubmed></ref><ref><pubmed> 7639631 </pubmed></ref><ref><pubmed>19356262</pubmed></ref>。脳梁の形成不全や外科的な脳梁切断によって[[認知障害]]、[[高次脳機能障害]]が生じる<ref><pubmed> 17375041 </pubmed></ref>。主に脳梁は左右の大脳皮質[[灰白質]]に含まれる交連ニューロンの軸索とそれをとりまく[[髄鞘]]からなる。 | ||
== 交連ニューロンの分化 == | == 交連ニューロンの分化 == | ||
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大脳皮質を構成する興奮性投射ニューロンは初期には[[脳室帯]](ventricular zone)から、大脳皮質の発生が進むにつれ[[脳室下帯]](subventricular zone)から産生され、これらニューロン産生帯における[[神経前駆細胞]]はそれぞれ[[Apical progenitor]], [[Basal progenitor]]と呼ばれる。大脳皮質の興奮性ニューロンは放射方向に6層の細胞層をなすが、室帯側の[[神経幹細胞]]から産生されるニューロンはより早く分化したニューロンがより脳室側(深層)に、より遅く分化したニューロンは軟膜側(浅層)に配置されるinside-outパターンを取る。交連ニューロンはより遅く産まれるニューロン群であり、そのほとんどが大脳皮質II/III層に位置し、一部はV層、VI層にも見られる<ref><pubmed> 12700818 </pubmed></ref>。よって交連ニューロンは皮質形成期を通じて産生される。VI層に位置する交連ニューロンはマウスではE (embryonic day)12.5に、V層に位置する交連ニューロンはE13.5に産まれる。しかしほとんどの交連ニューロンは浅層に位置し、これらはE15.5-E17.5に産生される<ref><pubmed>17533671</pubmed></ref>。この様に交連ニューロンの産生が大脳皮質発生過程のほとんどの時期にわたることは交連ニューロンが広汎な神経前駆細胞から生み出されることを意味するのみでなく、進化過程で大脳皮質の増大と交連ニューロンの産生量が増えることが関連していることを示唆している。 | 大脳皮質を構成する興奮性投射ニューロンは初期には[[脳室帯]](ventricular zone)から、大脳皮質の発生が進むにつれ[[脳室下帯]](subventricular zone)から産生され、これらニューロン産生帯における[[神経前駆細胞]]はそれぞれ[[Apical progenitor]], [[Basal progenitor]]と呼ばれる。大脳皮質の興奮性ニューロンは放射方向に6層の細胞層をなすが、室帯側の[[神経幹細胞]]から産生されるニューロンはより早く分化したニューロンがより脳室側(深層)に、より遅く分化したニューロンは軟膜側(浅層)に配置されるinside-outパターンを取る。交連ニューロンはより遅く産まれるニューロン群であり、そのほとんどが大脳皮質II/III層に位置し、一部はV層、VI層にも見られる<ref><pubmed> 12700818 </pubmed></ref>。よって交連ニューロンは皮質形成期を通じて産生される。VI層に位置する交連ニューロンはマウスではE (embryonic day)12.5に、V層に位置する交連ニューロンはE13.5に産まれる。しかしほとんどの交連ニューロンは浅層に位置し、これらはE15.5-E17.5に産生される<ref><pubmed>17533671</pubmed></ref>。この様に交連ニューロンの産生が大脳皮質発生過程のほとんどの時期にわたることは交連ニューロンが広汎な神経前駆細胞から生み出されることを意味するのみでなく、進化過程で大脳皮質の増大と交連ニューロンの産生量が増えることが関連していることを示唆している。 | ||
哺乳類の浅層ニューロンは基本的に脳室下帯から産生され、[[ | 哺乳類の浅層ニューロンは基本的に脳室下帯から産生され、[[wj:霊長類|霊長類]]では内側脳室下帯と外側脳室下帯とに分けることができる<ref><pubmed>13181005</pubmed></ref><ref><pubmed> 11734531 </pubmed></ref>。ヒトではとくにSVZが著しく拡張されて外側脳室下帯となり、交連ニューロンの数を更に増大させることで、皮質全体のサイズ、神経回路やニューロン種の複雑さを作り、脳機能の発達の進化発生学的原因となっている可能性がある<ref><pubmed> 20154730 </pubmed></ref>。 | ||
== 交連線維の形成 == | == 交連線維の形成 == | ||
交連ニューロンの軸索は前脳正中部にむかった後、反対側の大脳皮質へ投射する。この線維の束が脳梁となる。発生初期([[ | 交連ニューロンの軸索は前脳正中部にむかった後、反対側の大脳皮質へ投射する。この線維の束が脳梁となる。発生初期([[wj:マウス|マウス]]の場合、胎生期E14-E15)における正中部での左右半球の融合が起きない場合は脳梁形成が障害される<ref><pubmed> 17275286 </pubmed></ref>。この融合には正中部の[[グリア細胞]]が必要であると考えられている<ref><pubmed> 8087547 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11306627 </pubmed></ref>。マウスではE15頃になると帯状皮質領域深層に位置する早生まれ交連ユーロンの軸索が正中部に到達する。この軸索は後に続く交連軸索の投射のための[[パイオニア線維]]として働くと考えられている<ref><pubmed> 7130467 </pubmed></ref>。E16頃には交連ニューロンの軸索は正中域を通過し反対側大脳皮質に侵入する。[[Fgfr1]]変異マウスでみられるような[[灰白層グリア]](indusium griseum glia)とglial wedgeと言ったグリア性の構造の欠損によって交連線維は正中を超える事ができなくなる<ref><pubmed> 16715082 </pubmed></ref>。 | ||
== 脳梁形成に関わる分子 == | == 脳梁形成に関わる分子 == |