「神経符号化」の版間の差分

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 しかし、この考え方には大きな欠点がある。複数の神経細胞の活動の平均値を刺激の推定量とすることに意味があるのは、それら複数の神経細胞が刺激に対して全く同じように応答している場合のみである。すなわち、刺激と神経細胞の平均発火頻度との関係を表すチューニング関数(応答関数・活性化関数)が同じ神経細胞集団に対してのみ、発火頻度の平均値を推定量とすることに意味がある。しかし、一般には刺激の推定精度を議論するのに平均発火率の揺らぎを使用する妥当性はない。次に示すように、集団活動による刺激の推定精度は神経細胞間の相関だけで決められるわけではなく、個々の神経細胞のチューニング関数と相関構造の関係が重要な役割を担うことが明らかになっている<ref name=Averbeck2006><pubmed>16760916</pubmed></ref>[Averbeck 2006]。
 しかし、この考え方には大きな欠点がある。複数の神経細胞の活動の平均値を刺激の推定量とすることに意味があるのは、それら複数の神経細胞が刺激に対して全く同じように応答している場合のみである。すなわち、刺激と神経細胞の平均発火頻度との関係を表すチューニング関数(応答関数・活性化関数)が同じ神経細胞集団に対してのみ、発火頻度の平均値を推定量とすることに意味がある。しかし、一般には刺激の推定精度を議論するのに平均発火率の揺らぎを使用する妥当性はない。次に示すように、集団活動による刺激の推定精度は神経細胞間の相関だけで決められるわけではなく、個々の神経細胞のチューニング関数と相関構造の関係が重要な役割を担うことが明らかになっている<ref name=Averbeck2006><pubmed>16760916</pubmed></ref>[Averbeck 2006]。


'''図2. 2つの神経細胞の場合のシグナル相関とノイズ相関の関係'''<br>'''(A)''' チューニング関数が正のシグナル相関を持つ場合、正の2次相関により刺激の弁別が難しくなる。<br>'''(B)''' チューニング関数が負のシグナル相関を持つ場合、正の2次相関は刺激の弁別に影響しない。
[[ファイル:Shimazaki Neural Coding Fig2.png|サムネイル|'''図2. 2つの神経細胞の場合のシグナル相関とノイズ相関の関係'''<br>'''(A)''' チューニング関数が正のシグナル相関を持つ場合、正の2次相関により刺激の弁別が難しくなる。<br>'''(B)''' チューニング関数が負のシグナル相関を持つ場合、正の2次相関は刺激の弁別に影響しない。]]


 '''図2A、B'''の左のパネルは2つの神経細胞が類似したチューニング関数を持つ場合と性質の大きく異なるチューニング関数を持つ場合を示している。一方では、刺激が強くなると2つの神経細胞の発火頻度がともに大きくなる。他方では、2つのうち1つの神経細胞は刺激が強くなると発火頻度が小さくなる性質を持つ。2つの神経細胞の応答を各神経細胞の発火頻度を軸とする2次元の平面に描いたものが図2A、Bの右パネルにある点線である。同様のチューニング関数の場合、2次元上の応答曲線は正の傾きを持つ。一方、反対のチューニング関数を持つ場合、応答曲線は負の傾きを持つ。このチューニング関数の相関をシグナル相関という。弱い刺激に対する応答の代表としてS1、強い刺激に対する応答としてS2の2点が描ける。
 '''図2A、B'''の左のパネルは2つの神経細胞が類似したチューニング関数を持つ場合と性質の大きく異なるチューニング関数を持つ場合を示している。一方では、刺激が強くなると2つの神経細胞の発火頻度がともに大きくなる。他方では、2つのうち1つの神経細胞は刺激が強くなると発火頻度が小さくなる性質を持つ。2つの神経細胞の応答を各神経細胞の発火頻度を軸とする2次元の平面に描いたものが図2A、Bの右パネルにある点線である。同様のチューニング関数の場合、2次元上の応答曲線は正の傾きを持つ。一方、反対のチューニング関数を持つ場合、応答曲線は負の傾きを持つ。このチューニング関数の相関をシグナル相関という。弱い刺激に対する応答の代表としてS1、強い刺激に対する応答としてS2の2点が描ける。