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<font size="+1">[http://researchmap.jp/takanami/?lang=japanese | <font size="+1">[http://researchmap.jp/takanami/?lang=japanese 伊藤 南]</font><br> | ||
''東京医科歯科大学生体機能システム学分野''<br> | ''東京医科歯科大学生体機能システム学分野''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年5月24日 原稿完成日:2021年9月22日<br> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年5月24日 原稿完成日:2021年9月22日<br> | ||
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==視覚前野とは== | ==視覚前野とは== | ||
[[wj:哺乳類|哺乳類]]の[[大脳新皮質]]の一部で、[[後頭葉]]の[[視覚連合野]]([[後頭連合野]])、あるいは後頭葉から[[第一次視覚野]](V1)を除いた部分。細胞構築学的には[[ブロードマンの脳地図]]の[[18野]]、[[19野]]に相当する。18野を[[前有線皮質]]([[傍有線野]]、[[prestriate cortex]])、[[19野]]を[[周有線皮質]]([[周線条野]]、[[後頭眼野]]、[[parastriate cortex]])、視覚前野全体を[[外線条皮質]]([[有線外皮質]]、[[extrastriate cortex]]、[[circumstriate cortex]])と呼ぶ。当初、第一次視覚野(V1)に隣接する領域を広く視覚前野ないし視覚連合野と称した。1960年代以降、[[単一細胞記録]]や[[トレーサー]]の注入による研究が進み、[[ニューロン]]の応答特性、[[受容野]]の大きさや位置、解剖学的投射などを手がかりとした機能的領野区分の研究が[[ネコ]]や[[サル]]で盛んになった。また[[免疫組織化学]]による研究が進み、タンパク質や遺伝子の発現に着目した研究も進んだ。1980年代以降、[[fMRI]]や[[光計測]]等のイメージング技術の発達により[[視野地図]]の広がりを可視化する研究が盛んになり、[[ヒト]]を対象とする研究も進んだ。機能的な領野区分は[[wj:旧世界ザル|旧世界ザル]]の[[マカカ属]]サル([[アカゲザル]]、[[ニホンザル]]など)で最も進んでおり、[[V2]]、[[V3]]、[[V4]]、[[V5]]/[[MT]]、[[V6]]等の機能的な領野が同定され、それぞれが個別の領野として扱われることが多い。細部や高次領域(V3、V4、V6)については、ヒトを含む動物種により区分法や名称が異なり、研究者間でも見解の相違がある。本稿では旧世界ザルの知見を中心に概説する。 | [[wj:哺乳類|哺乳類]]の[[大脳新皮質]]の一部で、[[後頭葉]]の[[視覚連合野]]([[後頭連合野]])、あるいは後頭葉から[[第一次視覚野]](V1)を除いた部分。細胞構築学的には[[ブロードマンの脳地図]]の[[18野]]、[[19野]]に相当する。18野を[[前有線皮質]]([[傍有線野]]、[[prestriate cortex]])、[[19野]]を[[周有線皮質]]([[周線条野]]、[[後頭眼野]]、[[parastriate cortex]])、視覚前野全体を[[外線条皮質]]([[有線外皮質]]、[[extrastriate cortex]]、[[circumstriate cortex]])と呼ぶ。当初、第一次視覚野(V1)に隣接する領域を広く視覚前野ないし視覚連合野と称した。1960年代以降、[[単一細胞記録]]や[[トレーサー]]の注入による研究が進み、[[ニューロン]]の応答特性、[[受容野]]の大きさや位置、解剖学的投射などを手がかりとした機能的領野区分の研究が[[ネコ]]や[[サル]]で盛んになった。また[[免疫組織化学]]による研究が進み、タンパク質や遺伝子の発現に着目した研究も進んだ。1980年代以降、[[fMRI]]や[[光計測]]等のイメージング技術の発達により[[視野地図]]の広がりを可視化する研究が盛んになり、[[ヒト]]を対象とする研究も進んだ。機能的な領野区分は[[wj:旧世界ザル|旧世界ザル]]の[[マカカ属]]サル([[アカゲザル]]、[[ニホンザル]]など)で最も進んでおり、[[V2]]、[[V3]]、[[V4]]、[[V5]]/[[MT]]、[[V6]]等の機能的な領野が同定され、それぞれが個別の領野として扱われることが多い。細部や高次領域(V3、V4、V6)については、ヒトを含む動物種により区分法や名称が異なり、研究者間でも見解の相違がある。本稿では旧世界ザルの知見を中心に概説する。 | ||
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'''[[逆相関ステレオグラム]]'''(anti-correlated stereogram) 点が面状に分布するドットパターンから、その面の奥行きを知覚できる。点の輝度コントラストを左右の目で逆にすると、点は見えても対応付けられず、奥行きをもった面を知覚できなくなる<ref><pubmed>18484828</pubmed></ref>。V2、V4にはある奥行きを持った面に選択的に反応するニューロンがあるが、点刺激の輝度コントラストを左右の目で逆にするとこれらのニューロンの反応が減弱する<ref><pubmed>15371518</pubmed></ref>。 | '''[[逆相関ステレオグラム]]'''(anti-correlated stereogram) 点が面状に分布するドットパターンから、その面の奥行きを知覚できる。点の輝度コントラストを左右の目で逆にすると、点は見えても対応付けられず、奥行きをもった面を知覚できなくなる<ref><pubmed>18484828</pubmed></ref>。V2、V4にはある奥行きを持った面に選択的に反応するニューロンがあるが、点刺激の輝度コントラストを左右の目で逆にするとこれらのニューロンの反応が減弱する<ref><pubmed>15371518</pubmed></ref>。 | ||
'''[[色の恒常性]] | '''[[色の恒常性]]、[[明るさの恒常性]]''' 視覚刺激の波長成分は刺激物体の反射特性と照明光により決まるが、モンドリアン図形のように周囲に異なる色の刺激を同時に呈示すると、照明条件によらずに同じ色相や輝度が知覚される。V4には、受容野の中外に異なる色刺激を同時に呈示すると、照明条件によらず色相や輝度に同じ選択性を示すニューロンがある<ref><pubmed>6134287</pubmed></ref>。 | ||
'''[[窓枠問題]]'''(aperture problem) ある方向に動いている線刺激や縞模様を円形の窓を通して見ると、端点の動きが隠されて実際の運動方向が分からなくなる。この時、運動速度の最も低い、線の法線方向への運動が知覚される。一方、長方形の窓を通して動く縞模様を見ると、長辺沿いの端点の動きが運動方向として知覚される([[バーバーポール錯視]])。V5/MTのニューロンには、受容野外に長方形の枠を呈示すると、枠沿いの端点の運動方向に選択性を示すものがある<ref>'''J A Movshon, E H Adelson, M S Gizzi, W T Newsome'''<br>The analysis of moving visual patterns.<br>''Study Group on Pattern Recognition Mechanisms'' (C Chagas, R Gattas, C Gross, eds. Vatican City: Pontifica Academia Scientiarum, pp.117-151,1985.</ref><ref><pubmed>15056706</pubmed></ref>。 | '''[[窓枠問題]]'''(aperture problem) ある方向に動いている線刺激や縞模様を円形の窓を通して見ると、端点の動きが隠されて実際の運動方向が分からなくなる。この時、運動速度の最も低い、線の法線方向への運動が知覚される。一方、長方形の窓を通して動く縞模様を見ると、長辺沿いの端点の動きが運動方向として知覚される([[バーバーポール錯視]])。V5/MTのニューロンには、受容野外に長方形の枠を呈示すると、枠沿いの端点の運動方向に選択性を示すものがある<ref>'''J A Movshon, E H Adelson, M S Gizzi, W T Newsome'''<br>The analysis of moving visual patterns.<br>''Study Group on Pattern Recognition Mechanisms'' (C Chagas, R Gattas, C Gross, eds. Vatican City: Pontifica Academia Scientiarum, pp.117-151,1985.</ref><ref><pubmed>15056706</pubmed></ref>。 | ||
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===V3野=== | ===V3野=== | ||
18野の一部。V2に隣接する帯状の領域である。腹側と背側は異なる2つの領域であるとする説もある。主に[[旧世界ザル]]を対象とした研究では背側部(V3d)と腹側部(V3v)を合わせて一つのV3であるとされる<ref name=ref7><pubmed>4978525</pubmed></ref><ref><pubmed>11832231</pubmed></ref>。[[新世界ザル]]([[ヨザル]]など)では背側部([[DM]])の一部がV3に相当し[88]、腹側部は[[VP野]](腹側後部領域、ventral posterior area)と呼ばれる別の領域であるとされる<ref><pubmed>9114244</pubmed></ref><ref><pubmed>3782504</pubmed></ref><ref><pubmed>3716214</pubmed></ref><ref name=ref1 />。[[マーモセット]]では腹側部と背側をあわせて[[VLP]]と呼ぶ。 | |||
腹側部はV2(細い縞、淡い縞)から入力を受け、側頭葉(V4、VTF、VOF)に投射するので、腹側視覚路に属するとされている。反対側の上視野を表す。ニューロンは色選択性を示す。背側部はV2(太い縞)とV1(4b層)から入力を受け、V3a、V4、V5/MT、V6と後頭頂葉(DP,VIP,LIP)に出力するので、背側皮質視覚路に属するとされている。反対側の下視野を表す。ミエリン染色で濃く染まり、ニューロンは輝度や奥行きに選択性を示すが、色選択性を示さない。広域的な動きや奥行き方向の傾き、テクスチャの充填(欠損部の補完))<ref><pubmed>7477262</pubmed></ref>に関わる。 | 腹側部はV2(細い縞、淡い縞)から入力を受け、側頭葉(V4、VTF、VOF)に投射するので、腹側視覚路に属するとされている。反対側の上視野を表す。ニューロンは色選択性を示す。背側部はV2(太い縞)とV1(4b層)から入力を受け、V3a、V4、V5/MT、V6と後頭頂葉([[DP]],VIP,[[LIP]])に出力するので、背側皮質視覚路に属するとされている。反対側の下視野を表す。ミエリン染色で濃く染まり、ニューロンは輝度や奥行きに選択性を示すが、色選択性を示さない。広域的な動きや奥行き方向の傾き、テクスチャの充填(欠損部の補完))<ref><pubmed>7477262</pubmed></ref>に関わる。 | ||
V2とV4の間の領域を第3次視覚皮質複合体と総称する。ヒトでよく発達しており、サルとの違いが顕著な領域である。V3AはV3d前方に隣接し、上視野と下視野をあわせた視野地図を持つ領野である。V1、V2、V3dより入力を受け、MT、MST、LIPへ出力する。サルのV3AはV3dよりも速度や奥行きに選択性を示すニューロンが少なく、ドットパターンよりも線刺激に強く反応する。注意の効果が顕著に見られる<ref><pubmed>10938295</pubmed></ref>。視線の向きによらずに、頭部の向きを基準とする位置に選択性を示すものがある<ref name=ref41 /> | V2とV4の間の領域を第3次視覚皮質複合体と総称する。ヒトでよく発達しており、サルとの違いが顕著な領域である。V3AはV3d前方に隣接し、上視野と下視野をあわせた視野地図を持つ領野である。V1、V2、V3dより入力を受け、MT、MST、LIPへ出力する。サルのV3AはV3dよりも速度や奥行きに選択性を示すニューロンが少なく、ドットパターンよりも線刺激に強く反応する。注意の効果が顕著に見られる<ref><pubmed>10938295</pubmed></ref>。視線の向きによらずに、頭部の向きを基準とする位置に選択性を示すものがある<ref name=ref41 />。一方、ヒトのV3AはV3dよりもドットパターンで表される運動刺激によく反応し、[[経頭蓋電気刺激]](TMS)を与えると速度の知覚が障害される<ref><pubmed>18596160</pubmed></ref>。V3Bはヒトに存在する領域で<ref><pubmed>9593930</pubmed></ref><ref><pubmed>11322977</pubmed></ref>、両眼視差による奥行き表現と運動視差による奥行き表現が統合されている<ref name=ref52><pubmed>30925163</pubmed></ref>。しかし、サルではこの統合はV5/MTに生じる。V3A,V3Bとも主に周辺視野を表す<ref name=ref51><pubmed>17978030</pubmed></ref>。 | ||
===V4野=== | ===V4野=== | ||
19野の一部。V3に隣接する領域。背側部(V4d)と腹側部(V4v)を合わせて一つのV4とする。背側部は上視野の垂直子午線に近い部分を表す。腹側部は上視野の水平子午線に近い部分を含む残りの視野を表す。新世界ザルの背外側野(DL)、マーモセットのVLAに相当する。V2(細い縞、淡い縞)、V3、V3Aから強い入力を受け、側頭葉(TEO、TE)、後頭頂葉(MT、MST、[[FST]]、V4t、DP、VIP、LIP、PIP)、[[前頭葉]]([[FEF]])へ出力する。V1、V2、V3にフィードバック投射を返す。中心視領域はV1から直接投射を受け<ref><pubmed>7690064</pubmed></ref>、側頭葉(TEO、TE)と強い結合を持つ。周辺視領域はV3、V5/MTから強い入力を受け、後頭頂葉からも広く入力を受ける。 | |||
多くの領野と結合しており、多様な機能を持つ<ref><pubmed>22500626</pubmed></ref><ref><pubmed>32580663</pubmed></ref>。1970年代には、色に選択的なニューロンが多く、その一部が色恒常性を示すことから、V4が色表現の中枢であるとする説が提案された<ref name=ref7 /><ref><pubmed>4196224</pubmed></ref>。しかし、1980年代になると輪郭線の傾きに選択性を示すニューロンも多数あることが明らかにされた<ref><pubmed>418173</pubmed></ref><ref name=ref6 /><ref><pubmed>3803497</pubmed></ref>。近年、色と形のサブ領域(グロブ)に分かれることが示されている<ref><pubmed>21076422</pubmed></ref><ref><pubmed>17988638</pubmed></ref>。他にも、曲線(円弧、非カルテジアン図形(同心円、らせん、双曲線))<ref><pubmed>16785255</pubmed></ref><ref><pubmed>10561421</pubmed></ref><ref><pubmed>8418487</pubmed></ref>、曲線の曲率と傾きの組み合わせ<ref><pubmed>10561421</pubmed></ref><ref name=ref2 />、縞模様の空間周波数成分と傾きの組み合わせ、3次元方向の線の傾き<ref><pubmed>15987762</pubmed></ref>、受容野内外の相対的な奥行き(relative disparity)<ref><pubmed>3559704</pubmed></ref>、ドットパターンの印影方向<ref><pubmed>11404436</pubmed></ref>、自然画像に含まれる高次の統計量成分<ref name=ref93 /> | 多くの領野と結合しており、多様な機能を持つ<ref><pubmed>22500626</pubmed></ref><ref><pubmed>32580663</pubmed></ref>。1970年代には、色に選択的なニューロンが多く、その一部が色恒常性を示すことから、V4が色表現の中枢であるとする説が提案された<ref name=ref7 /><ref><pubmed>4196224</pubmed></ref>。しかし、1980年代になると輪郭線の傾きに選択性を示すニューロンも多数あることが明らかにされた<ref><pubmed>418173</pubmed></ref><ref name=ref6 /><ref><pubmed>3803497</pubmed></ref>。近年、色と形のサブ領域(グロブ)に分かれることが示されている<ref><pubmed>21076422</pubmed></ref><ref><pubmed>17988638</pubmed></ref>。他にも、曲線(円弧、非カルテジアン図形(同心円、らせん、双曲線))<ref><pubmed>16785255</pubmed></ref><ref><pubmed>10561421</pubmed></ref><ref><pubmed>8418487</pubmed></ref>、曲線の曲率と傾きの組み合わせ<ref><pubmed>10561421</pubmed></ref><ref name=ref2 />、縞模様の空間周波数成分と傾きの組み合わせ、3次元方向の線の傾き<ref><pubmed>15987762</pubmed></ref>、受容野内外の相対的な奥行き(relative disparity)<ref><pubmed>3559704</pubmed></ref>、ドットパターンの印影方向<ref><pubmed>11404436</pubmed></ref>、自然画像に含まれる高次の統計量成分<ref name=ref93 />などに選択性を示すニューロンがある。さらに、大局的な選択性(色恒常性、[[逆相関ステレオグラム]])を示すもの、注意により強い修飾作用を受けるもの、複雑な輪郭線の形状に選択性を示すもの<ref name=ref83 /><ref name=ref84 />、視覚刺激の位置、大きさ、刺激手がかりの変化に対して反応選択性の不変性を示すもの<ref><pubmed>27194333</pubmed></ref><ref><pubmed>16267116</pubmed></ref><ref><pubmed>8899641</pubmed></ref><ref name=ref2 />などのニューロンがある。 | ||
サルのV4を破壊すると、①大きさの変化、遮蔽、色恒常性、主観的輪郭線に対応できなくなる、②混在している複数の刺激要素を区別することができなくなる、③同一物体の持つ奥行き,明暗,色,位置などの情報を同一物体のものとして関連付けることができなくなる<ref><pubmed>8466667</pubmed></ref><ref><pubmed>8338809</pubmed></ref><ref><pubmed>8782380</pubmed></ref><ref><pubmed>10412066</pubmed></ref>などの影響が生じる。 | サルのV4を破壊すると、①大きさの変化、遮蔽、色恒常性、主観的輪郭線に対応できなくなる、②混在している複数の刺激要素を区別することができなくなる、③同一物体の持つ奥行き,明暗,色,位置などの情報を同一物体のものとして関連付けることができなくなる<ref><pubmed>8466667</pubmed></ref><ref><pubmed>8338809</pubmed></ref><ref><pubmed>8782380</pubmed></ref><ref><pubmed>10412066</pubmed></ref>などの影響が生じる。 | ||
fMRIによるヒトV4の研究では背側部に相当する領域が同定されず、以下の諸説がある<ref name=ref51 /><ref name=ref3><pubmed>12217168</pubmed></ref>。①V4には下視野をあらわす領域(背側部)が存在しない。V3dに隣接する領域(LO1,LO2) | fMRIによるヒトV4の研究では背側部に相当する領域が同定されず、以下の諸説がある<ref name=ref51 /><ref name=ref3><pubmed>12217168</pubmed></ref>。①V4には下視野をあらわす領域(背側部)が存在しない。V3dに隣接する領域([[LO1]],[[LO2]])はそれぞれ全視野を表す別の領域である。②背側部は存在しない。腹側の[[V8]]がV4の一部で下視野を表し、合わせて全視野を表す一つの領域である。③背側部は存在する。fMRIの空間分解能を上げると、腹側部よりも面積が小さく、主に下視野の中心視野部分を表す領域が同定されるので、これを背側部とする。下視野の周辺視野を含む残りの視野は腹側部で表される。ヒトのV8については、V8が損傷を受けると色覚だけが失われることからV4の一部とする説と、サルのTEOに相当する別の領域とする説がある<ref name =ref3 /><ref><pubmed>312619</pubmed></ref><ref><pubmed>10195149</pubmed></ref><ref><pubmed>11278193</pubmed></ref>。 | ||
===V5/MT野=== | ===V5/MT野=== | ||
19野の一部。視覚刺激の運動方向に選択性をもつニューロンが多数ある領域(V5)とミエリン染色で濃く染まる領域(MT、middle temporal area)として別々に同定されたが、後に同じ領域であることが明かにされた<ref><pubmed>4998922</pubmed></ref><ref name=ref5><pubmed>5002708</pubmed></ref>。チトクローム酸化酵素<ref><pubmed>7719129</pubmed></ref> | 19野の一部。視覚刺激の運動方向に選択性をもつニューロンが多数ある領域(V5)とミエリン染色で濃く染まる領域(MT、middle temporal area)として別々に同定されたが、後に同じ領域であることが明かにされた<ref><pubmed>4998922</pubmed></ref><ref name=ref5><pubmed>5002708</pubmed></ref>。チトクローム酸化酵素<ref><pubmed>7719129</pubmed></ref>や[[Cat301抗体]]<ref><pubmed>1702988</pubmed></ref>で濃く染まる。ヒトでは、隣接する領域(MST等)と合わせて、MT complex、hMT、MT+、V5/MTと呼ばれることが多い<ref><pubmed>7722658</pubmed></ref><ref><pubmed>8490322</pubmed></ref>。上視野と下視野をあわせた視野地図を持つ。背側視覚路に属し、主にV1(4b層)より、他にV2(太い縞)、V1(6層)、V3背側部、V4、V6から入力を受ける<ref name=ref4 /><ref><pubmed>3722458</pubmed></ref>。周辺視の領域は脳梁膨大後部皮質からも入力を受ける<ref><pubmed>17042793</pubmed></ref>。主に隣接するMST、FST、V4tへ、他に前頭眼野(FEF)、[[頭頂間溝]](LIP、VIP)、[[上丘]](SC)へ出力する。また、外側膝状体、視床枕から直接入力を受ける<ref><pubmed>15378066</pubmed></ref>([[盲視]]を参照)。 | ||
大部分(70-85%)のニューロンが視覚刺激の運動方向、速度、両眼視差に選択性を示し<ref name=ref8/><ref name=ref5/><ref><pubmed>6864242</pubmed></ref><ref><pubmed>6481441</pubmed></ref>、運動方向と両眼視差の機能的コラム(V1を参照)が存在する<ref><pubmed>6693933</pubmed></ref><ref><pubmed>9952417</pubmed></ref>。V5/MTのニューロンには、注視面からの絶対視差(absolute | 大部分(70-85%)のニューロンが視覚刺激の運動方向、速度、両眼視差に選択性を示し<ref name=ref8/><ref name=ref5/><ref><pubmed>6864242</pubmed></ref><ref><pubmed>6481441</pubmed></ref>、運動方向と両眼視差の機能的コラム(V1を参照)が存在する<ref><pubmed>6693933</pubmed></ref><ref><pubmed>9952417</pubmed></ref>。V5/MTのニューロンには、注視面からの絶対視差(absolute disparity)に選択性を示して奥行きの異なる面を区別するもの、運動視差(自己運動に伴う、奥行きの違いにより生じる見かけの運動速度や運動方向の変化)に選択性を示すもの、運動方向の違いだけで示される境界線に選択性を示すもの、3次元方向への運動に選択性を示すものがある<ref><pubmed>25411482</pubmed></ref><ref><pubmed>25411481</pubmed></ref>。両眼視差による奥行き表現と運動視差による奥行き表現は、サルではV5/MTで、ヒトではV3Bで統合される<ref name=ref52 />。注意により強い修飾を受ける。 | ||
サルのV5/ | サルのV5/MTが[[運動知覚]]の中枢として機能することが示されている(知覚の神経メカニズムの項を参照)。ヒトのV5/MTが損傷されると、刺激刺激の運動に追従して生じる眼球運動が障害され、運動を知覚できずに世界が静的な"フレーム"の連続に感じられる<ref><pubmed>6850272</pubmed></ref><ref><pubmed>2723744</pubmed></ref><ref><pubmed>1992012</pubmed></ref>(詳細は[[視覚失認]]、[[運動盲]]を参照)。V5/MTに経頭蓋磁気刺激を与えると視覚刺激の運動の知覚が阻害される<ref><pubmed>9569672</pubmed></ref>。 | ||
===V6野=== | ===V6野=== | ||
19野の一部。[[頭頂後頭溝]](parieto-occipital sulcus)前壁に位置し、V2、V3に隣接する、上視野と下視野をあわせた視野地図を持つ領域。[[PO野]]<ref><pubmed>8385201</pubmed></ref><ref><pubmed>8176003</pubmed></ref><ref><pubmed>15787702</pubmed></ref>とも呼ばれる。後に頭頂後頭溝前壁の腹側部分の視覚領域(V6野)と背側部分の視覚―運動領域(V6A野)に区別された<ref><pubmed>8713448</pubmed></ref><ref><pubmed>10583481</pubmed></ref><ref><pubmed>9786211</pubmed></ref>。ミエリン染色で濃く染まる<ref><pubmed>15678474</pubmed></ref>]。新世界ザルでは背内側野(DM)の一部が相当する。当初はヒトや旧世界ザル(マカカ属サル)には存在しないとされた。ヒトのV6は頭頂後頭溝の最背側部に位置する<ref name=ref101><pubmed>16870741</pubmed></ref>。後頭葉(V1、V2、V3、V3A、V5/MT)と後頭頂葉(V6A、VIP)とに双方向の結合を持つ<ref><pubmed>11328351</pubmed></ref>。V1(Ⅳb)より大細胞系の入力を直接受けている。背側皮質視覚路に属するとされる。他の領野と異なり、周辺視野に移っても領野内の占有面積の割合は変わらない。V6のニューロンにはエンドストップ抑制が弱く低空間周波数成分に反応するもの、大きなエッジの動きに方向選択的に反応するものがある。ヒトのV6は大きなドットパターンの3次元方向の運動や[[フリッカー刺激]]に反応する<ref name=ref101 /><ref><pubmed>19502476</pubmed></ref><ref><pubmed>21653717</pubmed></ref>。ヒトのV6を含む部位が損傷されると、運動方向の区別あるいは運動自体の検出が阻害される<ref><pubmed>12911768</pubmed></ref>。ヒト、サルのV6には、空間中の物体の真の動きには反応するが、目や頭部の動きにより網膜上に生じる見かけの動きに反応しないニューロンがある<ref name=ref41 /><ref name=ref42 /><ref name=ref43 />。 | |||
==関連項目== | ==関連項目== | ||