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広い視野の両眼視差によって誘発される短潜時の輻輳開散運動の発現に高次視覚野MST野が関与している<ref><pubmed> 11353039 </pubmed></ref>。視差によって輻輳開散運動を誘発したときにサルの後頭・頭頂連合野の一部であるMST野でニューロン活動を記録すると、約20%のニューロンが視差に感受性をもち、その多くが輻輳開散運動に先行して発火した。一個体で記録されたすべてのニューロン活動の時間パターンを単に[[wj:加算平均|加算平均]]しただけで、その個体の輻輳開散運動の眼球速度を近似することができた。また、これらMST野の視差感受性ニューロンについてさまざまな大きさの視差を与えたときのチューニングカーブを描くと、交差視差により興奮する近位細胞、非交差視差により興奮する遠位細胞、両眼視差がゼロのとき最小の応答を示す抑制型同調細胞があった。与えた視差(入力)と誘発される輻輳開散運動(出力)の間には個体ごとに極めて特徴的な関係があるが、MST野の視差感受性ニューロンのチューニングカーブを足し合わせると、視差に対する眼球運動の特徴的なカーブとほぼ一致したカーブがそれぞれの個体で得られた。これらの2つの結果は、そのとき誘発された輻輳開散運動が、MST野の1つ1つのニューロン活動では説明できないが、MST野で記録されたすべてのニューロン活動を統合することで眼球運動情報をコードできたことを示している。 | 広い視野の両眼視差によって誘発される短潜時の輻輳開散運動の発現に高次視覚野MST野が関与している<ref><pubmed> 11353039 </pubmed></ref>。視差によって輻輳開散運動を誘発したときにサルの後頭・頭頂連合野の一部であるMST野でニューロン活動を記録すると、約20%のニューロンが視差に感受性をもち、その多くが輻輳開散運動に先行して発火した。一個体で記録されたすべてのニューロン活動の時間パターンを単に[[wj:加算平均|加算平均]]しただけで、その個体の輻輳開散運動の眼球速度を近似することができた。また、これらMST野の視差感受性ニューロンについてさまざまな大きさの視差を与えたときのチューニングカーブを描くと、交差視差により興奮する近位細胞、非交差視差により興奮する遠位細胞、両眼視差がゼロのとき最小の応答を示す抑制型同調細胞があった。与えた視差(入力)と誘発される輻輳開散運動(出力)の間には個体ごとに極めて特徴的な関係があるが、MST野の視差感受性ニューロンのチューニングカーブを足し合わせると、視差に対する眼球運動の特徴的なカーブとほぼ一致したカーブがそれぞれの個体で得られた。これらの2つの結果は、そのとき誘発された輻輳開散運動が、MST野の1つ1つのニューロン活動では説明できないが、MST野で記録されたすべてのニューロン活動を統合することで眼球運動情報をコードできたことを示している。 | ||
これまでにも、サル大脳皮質の[[V1]]、[[V2]]、[[V3/V3A]], [[MT]](Middle Temporal)野, MST野を含む上側頭溝(STS: Superior Temporal Sulcus)壁, [[IT]](Inferior Temporal)野, [[CIP]](Caudal Intra Parietal)野, [[AIP]](Anterior Intra Parietal)野から、視差感受性ニューロンは記録されているが<ref><pubmed> 3199191 </pubmed></ref><ref><pubmed> 6864243 </pubmed></ref><ref><pubmed> 1613542 </pubmed></ref>、この研究によって眼球運動制御の観点から、MST野が領域全体として視差性輻輳開散運動を誘発するのに必要な運動情報をコードしており、輻輳開散運動の制御にはMST野の情報全体が使われる(population coding)と考えられている。さらにMST野では、放射状パターンに対しても感受性を持ち、誘発される輻輳開散運動の開始に先行して発火を増加させるニューロンが存在した。このようにMST野のニューロン活動と輻輳開散運動の相関関係を明らかにした後、両側のMST野に[[神経毒]]である[[イボテン酸]]を注入して因果関係について考察した。イボテン酸によってMST野のニューロンを破壊したところ、視差によって生じる輻輳開散運動にも、オプティック・フローによって誘発される輻輳開散運動にも、障害が生じた<ref><pubmed> 17234585 </pubmed></ref>。このことから、短潜時の輻輳開散運動の発現には、「両眼視差」、「放射状のオプティック・フロー」のいずれの場合にも、MST野が重要であると考えられる。 | これまでにも、サル大脳皮質の[[V1]]、[[V2]]、[[V3]]/[[V3A]], [[MT]](Middle Temporal)野, MST野を含む上側頭溝(STS: Superior Temporal Sulcus)壁, [[IT]](Inferior Temporal)野, [[CIP]](Caudal Intra Parietal)野, [[AIP]](Anterior Intra Parietal)野から、視差感受性ニューロンは記録されているが<ref><pubmed> 3199191 </pubmed></ref><ref><pubmed> 6864243 </pubmed></ref><ref><pubmed> 1613542 </pubmed></ref>、この研究によって眼球運動制御の観点から、MST野が領域全体として視差性輻輳開散運動を誘発するのに必要な運動情報をコードしており、輻輳開散運動の制御にはMST野の情報全体が使われる(population coding)と考えられている。さらにMST野では、放射状パターンに対しても感受性を持ち、誘発される輻輳開散運動の開始に先行して発火を増加させるニューロンが存在した。このようにMST野のニューロン活動と輻輳開散運動の相関関係を明らかにした後、両側のMST野に[[神経毒]]である[[イボテン酸]]を注入して因果関係について考察した。イボテン酸によってMST野のニューロンを破壊したところ、視差によって生じる輻輳開散運動にも、オプティック・フローによって誘発される輻輳開散運動にも、障害が生じた<ref><pubmed> 17234585 </pubmed></ref>。このことから、短潜時の輻輳開散運動の発現には、「両眼視差」、「放射状のオプティック・フロー」のいずれの場合にも、MST野が重要であると考えられる。 | ||
視覚刺激として小さなスポットを用いて輻輳開散運動を誘発する実験では、[[前頭葉]]の[[前頭眼野]](Frontal Eye Field:FEF)や[[脳幹]]の[[中脳]]に、輻輳開散運動関連ニューロンが存在することが報告されている<ref><pubmed> 12226663 </pubmed></ref><ref><pubmed> 3783225 </pubmed></ref>。しかし、MST野からの詳細な神経活動の記録実験やMST野の破壊による影響などは調べられていない。また、皮質から皮質下への経路の詳細はわかっていない。<br> ここまで記述してきたのは、輻輳開散運動のみ、あるいは追跡眼球運動と共に生じる輻輳開散運動で、比較的ゆっくりとした60°/秒未満の眼球速度で生じる眼球運動である。一方、奥行きの違う物体間で視線を移動させるには、[[サッケード]](saccade:急速眼球運動)と輻輳開散運動を組み合わせて眼を動かさなければならない(disconjugate saccade:非共役性サッケード)。このときの[[サッケード]]には非常に速い輻輳開散運動(200°/秒以上の眼球速度)が含まれる。この発現経路については、これまで輻輳開散運動系と全く別の系統と考えられてきたサッケードシステム(バーストニューロン)が関与していることが示唆されている<ref><pubmed> 21645108 </pubmed></ref>。 | 視覚刺激として小さなスポットを用いて輻輳開散運動を誘発する実験では、[[前頭葉]]の[[前頭眼野]](Frontal Eye Field:FEF)や[[脳幹]]の[[中脳]]に、輻輳開散運動関連ニューロンが存在することが報告されている<ref><pubmed> 12226663 </pubmed></ref><ref><pubmed> 3783225 </pubmed></ref>。しかし、MST野からの詳細な神経活動の記録実験やMST野の破壊による影響などは調べられていない。また、皮質から皮質下への経路の詳細はわかっていない。<br> ここまで記述してきたのは、輻輳開散運動のみ、あるいは追跡眼球運動と共に生じる輻輳開散運動で、比較的ゆっくりとした60°/秒未満の眼球速度で生じる眼球運動である。一方、奥行きの違う物体間で視線を移動させるには、[[サッケード]](saccade:急速眼球運動)と輻輳開散運動を組み合わせて眼を動かさなければならない(disconjugate saccade:非共役性サッケード)。このときの[[サッケード]]には非常に速い輻輳開散運動(200°/秒以上の眼球速度)が含まれる。この発現経路については、これまで輻輳開散運動系と全く別の系統と考えられてきたサッケードシステム(バーストニューロン)が関与していることが示唆されている<ref><pubmed> 21645108 </pubmed></ref>。 |