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==一貫性理論== | ==一貫性理論== | ||
常に変化し、しかも豊富な情報を含む情景に対して、我々は注意を向けることが可能な部分情報にしか、詳細な知覚情報処理ができないが、大まかな印象情報であるジストや、オブジェクトの配置情報であるレイアウトなどの概略情報は、注意を向けなくても、抽出可能である<ref name=Li2002><pubmed>12077298</pubmed></ref>。すなわち、外界を一貫性のある世界として情景理解することを可能にしているのは、ジストやレイアウトという外界の概略情報と、[[長期記憶]] | 常に変化し、しかも豊富な情報を含む情景に対して、我々は注意を向けることが可能な部分情報にしか、詳細な知覚情報処理ができないが、大まかな印象情報であるジストや、オブジェクトの配置情報であるレイアウトなどの概略情報は、注意を向けなくても、抽出可能である<ref name=Li2002><pubmed>12077298</pubmed></ref>。すなわち、外界を一貫性のある世界として情景理解することを可能にしているのは、ジストやレイアウトという外界の概略情報と、[[長期記憶]]された情景スキーマとの連携からなる[[ネクサス]]と呼ぶ表象が瞬時に生成され、ネクサスに対して集中的注意を向けることで、特定のオブジェクトの詳細な高次認知処理が可能であることに基づくと仮定するのが、一貫性理論である<ref name=Rensink2000>'''Rensink, R. A. (2000).'''<br>The Dynamic Representation of Scenes. Visual Cognition, 7, 17-42. [https://doi.org/10.1080/135062800394667 PDF]</ref>。 | ||
一貫性理論は三つのシステムからなる3極構造のモデルを仮定する。'''図6''' | 一貫性理論は三つのシステムからなる3極構造のモデルを仮定する。'''図6'''下部の灰色で塗られた矩形領域において、[[感覚器官]]を通じて得られた小円形がそれぞれ外界に存在する事物であり、システム1において、それらすべてを含む、プロトオブジェクトと呼ぶ脆弱な表象が形成され、左経路によって、システム3において、ジストやレイアウトといった概略情報を得ることで、過去の経験の積み重ねによって形成された外界に関する知識などと照合することができる。さらに、右経路に示すように、システム2において、ネクサスと呼ぶ、次の行動に必要な一部の情報だけが集中的注意によって選ばれ、長期記憶と照合され、さらに高次の情報処理を続けることが可能になる。このようなシステム1とシステム2の処理を仮定することは、[[特徴統合理論]]<ref name=Treisman1980><pubmed>7351125</pubmed></ref>とも整合的であると共に、神経科学的現象とも整合性の高いモデルの提案にもつながっている<ref name=Walther2006><pubmed>17098563</pubmed></ref>。 | ||
一方、集中的注意を向けたオブジェクト以外は、詳細な高次認知処理が行われていなくても、システム3における、ジストやレイアウトといった概略情報によって、目の前の情景のほとんどが[[脳内表象]]として存在していると錯覚していることになる。このような状況を顕在させるような実験環境を作れば、にわかには信じがたい現象を体験できる。その代表が、情景の中に変化部分があっても見落としてしまう、[[変化の見落とし現象]]である<ref name=Rensink1997>'''Rensink, R. A., O'Regan, J. K., & Clark, J. J. (1997).'''<br>To see or not to see: The need for attention to perceive changes in scenes. Psychological Science, 8, 368-373. [https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.1997.tb00427.x PDF]</ref> | 一方、集中的注意を向けたオブジェクト以外は、詳細な高次認知処理が行われていなくても、システム3における、ジストやレイアウトといった概略情報によって、目の前の情景のほとんどが[[脳内表象]]として存在していると錯覚していることになる。このような状況を顕在させるような実験環境を作れば、にわかには信じがたい現象を体験できる。その代表が、情景の中に変化部分があっても見落としてしまう、[[変化の見落とし現象]]である<ref name=Rensink1997>'''Rensink, R. A., O'Regan, J. K., & Clark, J. J. (1997).'''<br>To see or not to see: The need for attention to perceive changes in scenes. Psychological Science, 8, 368-373. [https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.1997.tb00427.x PDF]</ref>。例えば、2つの動画内容に連続性があるとき、1つの情景スキーマに基づいて表象が作られているために、変化の見落とし現象が生じると考えられる。一方、情景全体に対しては、瞬時に表象が作成され、情景すべての脳内表象が存在すると[[錯覚]]してしまうので、簡単に変化を検出できるのではないかと予想してしまうのである。 | ||
我々には外界の情報を、ネクサスという限られた容量で逐次的にしか脳に伝えることができない視覚情報処理の限界、注意容量の限界があるので、変化の見落としは起こりうるものである。我々は目に映った情景におけるすべてのオブジェクトが同時に認識されていると誤解しがちであるが、実は情景の大まかな情報をもとに、情景の詳細を見ているような錯覚しているのに過ぎないと一貫性理論では説明する。 | 我々には外界の情報を、ネクサスという限られた容量で逐次的にしか脳に伝えることができない視覚情報処理の限界、注意容量の限界があるので、変化の見落としは起こりうるものである。我々は目に映った情景におけるすべてのオブジェクトが同時に認識されていると誤解しがちであるが、実は情景の大まかな情報をもとに、情景の詳細を見ているような錯覚しているのに過ぎないと一貫性理論では説明する。 | ||
==参考文献== | ==参考文献== |