16,040
回編集
細 (→進化) |
細編集の要約なし |
||
11行目: | 11行目: | ||
{{box|text= Forkhead box protein P2タンパク質はDNA結合領域をもつ転写制御因子であり、多くの遺伝子の発現を制御する。発話障害または言語障害をもつ家系の遺伝子解析から見出され、言語機能の発達に関与する遺伝子として着目されている。FOXP2は進化的に保存され、鳴禽類でも歌学習に関わる脳領域に発現が認められる。鳴禽類の歌学習に関与する神経回路はヒトの前頭葉と線条体に相同であることから、鳴禽類FoxP2の研究によって、ヒト脳とFOXP2との機能的な関連が見出される可能性も期待されている。他の動物種には無いヒト特有のアミノ酸配列を持つFOXP2が、ヒトの言語・発話機能の進化に寄与したとする仮説が提示され、大きな注目を集めた。この仮説の基となった初期の研究では、現生人類が他のヒト族(ネアンデルタール人など)と進化的に分かれた後に現生人類特有のFOXP2アミノ酸配列が決定した、と結論づけた。しかし、この結論は近年の研究結果から覆され、現在では、''FOXP2''だけによって言語・発話機能の進化がもたらされたとは考えられていないが、この発見を契機に、主に言語学と心理学が対象としていたヒト言語に対して、神経科学の側面からのアプローチが可能となった。}} | {{box|text= Forkhead box protein P2タンパク質はDNA結合領域をもつ転写制御因子であり、多くの遺伝子の発現を制御する。発話障害または言語障害をもつ家系の遺伝子解析から見出され、言語機能の発達に関与する遺伝子として着目されている。FOXP2は進化的に保存され、鳴禽類でも歌学習に関わる脳領域に発現が認められる。鳴禽類の歌学習に関与する神経回路はヒトの前頭葉と線条体に相同であることから、鳴禽類FoxP2の研究によって、ヒト脳とFOXP2との機能的な関連が見出される可能性も期待されている。他の動物種には無いヒト特有のアミノ酸配列を持つFOXP2が、ヒトの言語・発話機能の進化に寄与したとする仮説が提示され、大きな注目を集めた。この仮説の基となった初期の研究では、現生人類が他のヒト族(ネアンデルタール人など)と進化的に分かれた後に現生人類特有のFOXP2アミノ酸配列が決定した、と結論づけた。しかし、この結論は近年の研究結果から覆され、現在では、''FOXP2''だけによって言語・発話機能の進化がもたらされたとは考えられていないが、この発見を契機に、主に言語学と心理学が対象としていたヒト言語に対して、神経科学の側面からのアプローチが可能となった。}} | ||
{{PBB/93986}} | |||
==FOXP2とは== | ==FOXP2とは== | ||
1900年に、重篤な[[発話障害]]または[[言語障害]]がある家系(KE家)が報告された<ref><pubmed> 2332125 </pubmed></ref>。3世代にわたって総計37名中15名で言語障害が認められたが[Watkin et al., Brain, 2002] <ref><pubmed> 11872605</pubmed></ref>、[[聾]]や[[精神遅滞]]などの非言語的障害はなく、言語獲得にのみ障害が認められた。多くの例において、発語において文法的な誤りがあり、さまざまな段階での言語理解が難しいという特徴があった。また運動面においても症状があり、四肢などに運動障害は認められないが、口周囲や顔面の[[運動失調]]が報告されている[Watkins, Dronkers & Vargha-Khadem, Brain, 2002] <ref><pubmed> 11872604</pubmed></ref>。[[MRI]]を用いた研究から、言語機能と関連する脳領域における異常がある可能性が示された[Liegeois et al., Nature Neurosci, 2003] <ref><pubmed>14555953</pubmed></ref>。 | 1900年に、重篤な[[発話障害]]または[[言語障害]]がある家系(KE家)が報告された<ref><pubmed> 2332125 </pubmed></ref>。3世代にわたって総計37名中15名で言語障害が認められたが[Watkin et al., Brain, 2002] <ref><pubmed> 11872605</pubmed></ref>、[[聾]]や[[精神遅滞]]などの非言語的障害はなく、言語獲得にのみ障害が認められた。多くの例において、発語において文法的な誤りがあり、さまざまな段階での言語理解が難しいという特徴があった。また運動面においても症状があり、四肢などに運動障害は認められないが、口周囲や顔面の[[運動失調]]が報告されている[Watkins, Dronkers & Vargha-Khadem, Brain, 2002] <ref><pubmed> 11872604</pubmed></ref>。[[MRI]]を用いた研究から、言語機能と関連する脳領域における異常がある可能性が示された[Liegeois et al., Nature Neurosci, 2003] <ref><pubmed>14555953</pubmed></ref>。 |