「内側視索前野」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
19行目: 19行目:


== 構造 ==
== 構造 ==
 内側視索前野は吻側で対角帯核と側坐核に接し、尾側は形態学上明確な境界を持たず、視交叉の高さで視床下部前野に移行する。背側は前交連をはさんで、機能的に関連の深い分界条床核や中隔septumにつながる。なお、ラット、マウスの中隔は、ヒトの25野、嗅傍領と相同で、透明中隔とは異なる。腹側は脳底で視交叉に接する。視交叉の後縁が視床下部前野と灰白隆起の境界となる。前額断面では内側視索前野は第三脳室に接する最内側の傍室部periventricular zoneとその外側で脳弓により境される内側部に区分される。傍室部の細胞群を前腹側傍室核と呼ぶことがある。脳弓より外側を外側視索前野と呼ぶ。外側視索前野は局所のニューロンに加え、傍室部や内側視索前野に発する下行線維が内側前脳束として通過する<ref name=SIMERLY>SIMERLY, R. B. 2004. Anatomical substrates of hypothalamic integration. In: PAXINOS, G. (ed.) The Rat Nervous System. San Diego: Academic Press. </ref>。
 内側視索前野は吻側で対角帯核と側坐核に接し、尾側は形態学上明確な境界を持たず、視交叉の高さで視床下部前野に移行する。背側は前交連をはさんで、機能的に関連の深い分界条床核や中隔につながる。なお、ラット、マウスの中隔は、ヒトの25野、嗅傍領と相同で、透明中隔とは異なる。腹側は脳底で視交叉に接しており、視交叉の後縁が視床下部前野との境界となる。前額断面では内側視索前野は第三脳室に接する最内側の傍室部とその外側で脳弓により境される内側部に区分される。傍室部最吻側の細胞群を前腹側傍室核と呼ぶことがある。脳弓より外側は外側視索前野である。外側視索前野は局所のニューロンに加え、傍室部や内側視索前野に発する下行線維が内側前脳束として通過する<ref name=SIMERLY>SIMERLY, R. B. 2004. Anatomical substrates of hypothalamic integration. In: PAXINOS, G. (ed.) The Rat Nervous System. San Diego: Academic Press. </ref>。


 内側視索前野には複数の細胞集積が認められるが、視床下部の「核」と異なり、必ずしも境界は鮮明ではない。中央部に位置する性的二型核 (sexually dimorphic nucleus of the preoptic area, SDN-POA, <ref name=Gorski1978><pubmed>656937</pubmed></ref>)はニッスル染色で比較的鮮明に描出され、ラット雄が雌より多数のニューロンを擁する<ref name=Orikasa2002><pubmed>11854469</pubmed></ref>。この核はハムスター、フェレット、テンジクネズミ、ヒツジ、サル、ヒトで認められ<ref name=Orikasa2010><pubmed>20593361</pubmed></ref>、長年にわたりマウスではこの核が存在しないとする主張<ref name=Young1982><pubmed>7093678</pubmed></ref>は、カルビンディン28k を標識タンパクとして用いて2010年に複数の系統で反駁・立証された<ref name=Orikasa2010></ref>。
 内側視索前野には複数の細胞集積が認められるが、視床下部の「核」と異なり、必ずしも境界は鮮明ではない。中央部に位置する性的二型核 (Gorskiの命名<ref name=Gorski1978><pubmed>656937</pubmed></ref>によるsexually dimorphic nucleus of the preoptic area, SDN-POA)はニッスル染色で比較的鮮明に描出され、ラットでは雄が雌より多数のニューロンを擁する<ref name=Orikasa2002><pubmed>11854469</pubmed></ref>。この核はハムスター、フェレット、テンジクネズミ、ヒツジ、サル、ヒトで認められ<ref name=Orikasa2010><pubmed>20593361</pubmed></ref>、長年にわたりマウスではこの核が存在しないとする主張<ref name=Young1982><pubmed>7093678</pubmed></ref>は、カルビンディン28k を標識タンパクとして用いて2010年に複数の系統で反駁・立証された<ref name=Orikasa2010></ref>。


 その他の細胞集積には、第3脳室に接する傍室部で吻側から終板器官、前腹側傍室核、腹内側視索前野核、正中視索前核、傍室視索前核などが同定されている。内側部では内側視索前核が中心部に大きな体積を占め、そのほかに傍分界条核、後背側視索前核、腹外側視索前核、中隔視床下部核といった細胞集積がある。マウス内側視索前野前額断の概要は[http://connectivity.brain-map.org/static/referencedata Allen Brain Atlas (2004)]に見ることができる。
 その他の細胞集積には、第3脳室に接する傍室部で吻側から終板器官、前腹側傍室核、腹内側視索前野核、正中視索前核、傍室視索前核などが同定されている。内側部では内側視索前核が中心部に大きな体積を占め、そのほかに傍分界条核、後背側視索前核、腹外側視索前核、中隔視床下部核といった細胞集積がある。マウス内側視索前野前額断の概要は[http://connectivity.brain-map.org/static/referencedata Allen Brain Atlas (2004)]に見ることができる。


投射
 
入力
[入力]
視索上核、視交叉上核、乳頭体核を除く視床下部諸核から内側視索前野への投射があり、視床下部の第三脳室周辺部は内側視索前野の内側、視床下部前野と腹内側核を除く外側の諸核は内側視索前野の外側に至る。視床下部前野と腹内側核は内側視索前野全体に投射する。扁桃体中心核と強い結合を持つ分界条床核の背外側部は内側視索前野の中央部を支配し、扁桃核、海馬台、外側中隔腹側部からは内側視索前野の外側部に投射がある。下辺縁皮質と島皮質、側坐核、無名質からの入力はまばらである。縫線核からのセロトニン作動性線維は内側視索前野の外側部に、ノルアドレナリン作動性終末は内側視索前野の中心部と内側部に終わる。腹側被蓋野、中脳中心灰白質、橋被蓋核、脚周核からの投射は軽度である。これらの投射のうち内側に終わるものは室周囲を、外側に終わるものは内側前脳束を上行する(Simerly and Swanson, 1986) 。
視索上核、視交叉上核、乳頭体核を除く視床下部諸核から内側視索前野への投射があり、視床下部の第三脳室周辺部は内側視索前野の内側、視床下部前野と腹内側核を除く外側の諸核は内側視索前野の外側に至る。視床下部前野と腹内側核は内側視索前野全体に投射する。扁桃体中心核と強い結合を持つ分界条床核の背外側部は内側視索前野の中央部を支配し、扁桃核、海馬台、外側中隔腹側部からは内側視索前野の外側部に投射がある。下辺縁皮質と島皮質、側坐核、無名質からの入力はまばらである。縫線核からのセロトニン作動性線維は内側視索前野の外側部に、ノルアドレナリン作動性終末は内側視索前野の中心部と内側部に終わる。腹側被蓋野、中脳中心灰白質、橋被蓋核、脚周核からの投射は軽度である。これらの投射のうち内側に終わるものは室周囲を、外側に終わるものは内側前脳束を上行する(Simerly and Swanson, 1986) 。
出力
[出力]
内側視索前野に電気泳動により投与したPHA-Lにより前脳・脳幹の構造が順行性に標識された。多くは内側視索前野への投射が知られている部位で、相互の支配が明らかである。視床下部の第三脳室周辺部には特に多くの投射があり、前腹側室周囲核(anteroventral periventricular nucleus, AVPV)、室傍核の小細胞領域、弓状核など神経内分泌調節に関わる部位、あるいは外側結合腕傍核・孤束核といった自律神経調節に関わる部位、腹内側核・背内側核など生殖・摂食といった行動調節に関わる部位が含まれる。
内側視索前野に電気泳動により投与したPHA-Lにより前脳・脳幹の構造が順行性に標識された。多くは内側視索前野への投射が知られている部位で、相互の支配が明らかである。視床下部の第三脳室周辺部には特に多くの投射があり、前腹側室周囲核(anteroventral periventricular nucleus, AVPV)、室傍核の小細胞領域、弓状核など神経内分泌調節に関わる部位、あるいは外側結合腕傍核・孤束核といった自律神経調節に関わる部位、腹内側核・背内側核など生殖・摂食といった行動調節に関わる部位が含まれる。
相互支配
相互支配
逆行性・順行性双方に輸送されるHorseradish peroxidase(西洋ワサビ過酸化酵素, HRP)とwheat-germ agglutinin (小麦胚芽凝集素, WGA)の結合体であるWGA-HRPにより内側視索前野と外側中隔、分界条床核、扁桃核内側核、外側視床下部、室傍核、腹内側核、弓状核、乳頭上核、中脳中心灰白質、縫線核、結合腕傍核のそれぞれとの相互支配が示されている。大脳基底核(腹側線条体、側坐核、マイネルト基底核、視床下核を含む)、外側手綱、視床の内側諸核、正中隆起、乳頭体内側核、黒質、動眼神経核、赤核、背外側被蓋核、脳幹網様体、青斑核、迷走神経背側核へは投射が存在する。  
逆行性・順行性双方に輸送されるHorseradish peroxidase(西洋ワサビ過酸化酵素, HRP)とwheat-germ agglutinin (小麦胚芽凝集素, WGA)の結合体であるWGA-HRPにより内側視索前野と外側中隔、分界条床核、扁桃核内側核、外側視床下部、室傍核、腹内側核、弓状核、乳頭上核、中脳中心灰白質、縫線核、結合腕傍核のそれぞれとの相互支配が示されている。大脳基底核(腹側線条体、側坐核、マイネルト基底核、視床下核を含む)、外側手綱、視床の内側諸核、正中隆起、乳頭体内側核、黒質、動眼神経核、赤核、背外側被蓋核、脳幹網様体、青斑核、迷走神経背側核へは投射が存在する。


==機能 ==
==機能 ==
133

回編集

案内メニュー